イリジウムとドイツテレコムがトヨタ車から衛星へ音声メッセージを送信

アメリカの衛星通信会社イリジウム・コミュニケーションズと、ドイツテレコムのIoT部門であるドイツテレコムIoTは2026年9月10日、トヨタの車両から低軌道の衛星を経由して音声メッセージを送る実証に成功したと発表しました。
携帯電話の基地局を一度も通さず、イリジウムの衛星網だけで音声を運んでいます。
両社は、機器を衛星に直接つないで通信するサービス「Iridium NTN Direct」を2026年第4四半期に商用化する予定を示しています(出典: イリジウム・コミュニケーションズ「Iridium, Deutsche Telekom IoT, and Toyota Demonstrate Voice Messaging over Satellite via Iridium NTN Direct」。以下、デモの内容は同リリースによります)。

3行で分かるポイント

  • トヨタの車両に載せた通信機器から、地上の携帯電話網を使わずイリジウムの衛星だけを経由して音声メッセージが届いた
  • 音声はドイツの研究機関フラウンホーファーIISのAI技術で圧縮し、毎秒1キロビット以下という少ないデータ量で送った
  • 対応サービスは2026年第4四半期の商用開始予定で、地上の携帯電話網と衛星の間を行き来する使い方を想定している
目次

まず押さえたい背景

イリジウム・コミュニケーションズは、アメリカ・バージニア州マクリーンに本社を置く衛星通信会社です。
音声通信やデータ通信、航空機の位置監視、測位・航法・時刻の情報提供を世界向けに手がけています。
同社の年次報告書(Form 10-K)では、低軌道で運用中の衛星が66機あり、ほかに軌道上の予備機を持つと説明しています。

衛星同士を電波で直接つないで通信を中継する構成のため、地上局が置かれた地域に通信範囲が縛られません。
使う電波はL帯と呼ばれる周波数帯で、同社は競合が使うK帯より天候の影響を受けにくいとしています(出典: イリジウム・コミュニケーションズ「Form 10-K(2023年12月期)」)。

ドイツテレコムIoTは、ドイツの通信会社ドイツテレコムのIoT部門です。
IoTはインターネットにつながる機器の総称で、センサーや車載機器のように人が直接操作しない機械が主な対象になります。
同部門は、機器に組み込むSIMカードや通信プラン、回線をまとめて管理するプラットフォームを企業向けに提供しています。

今回のデモで使われたNB-IoT(ナローバンドIoT)は、少ないデータ量を省電力で運ぶことを狙った携帯電話網の規格です。
ドイツテレコムIoTの説明では、電波の届きやすさを示すリンクバジェットがGSM方式より20dB高く、建物の奥からでも信号が通りやすいとしています(出典: ドイツテレコムIoT「NarrowBand IoT / LTE-M」)。

なお、サービス名にあるNTNは非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)の略で、衛星などを使って携帯電話と同じ規格の通信を届ける仕組みを指します。

何が発表されたか

デモは、ドイツテレコムが開いたイベント「Telekom Satellite Day 2026」で実施されました。
車両にはノルディックセミコンダクターの開発ボード「nRF9151」とドイツテレコムIoTのSIMカードを積み、そこから「testing, testing, one, two, freeway」(テスト、テスト、ワン、ツー、フリーウェイ)という音声メッセージを送っています。
通信は最初から最後までイリジウムの低軌道衛星網を通り、規格に準拠したNB-IoTの音声メッセージング技術が使われました。

ノルディックセミコンダクターはノルウェーのトロンハイムに本社を置く半導体メーカーで、省電力の無線通信チップを手がけています。
nRF9151は、LTE-M・NB-IoT・NB-NTNとDECT NR+の通信機能に衛星測位を組み合わせ、1つの部品にまとめた製品です(出典: ノルディックセミコンダクター「nRF9151」)。
車両を出したトヨタは、自動車の生産と販売を主な事業とする日本のメーカーです。

音声の圧縮を担ったのは、ドイツのエルランゲンにあるフラウンホーファーIIS(フラウンホーファー集積回路研究所)です。
音声・映像の符号化技術で知られ、mp3形式の開発で国際的に名前が広まった研究機関です。

同研究所のAIを使った音声コーデック「NESC」は、毎秒1キロビット以下で音声を符号化します。
同研究所の説明では、現在の音声コーデックはよい音質を得るのに毎秒13キロビット以上を必要とします(出典: フラウンホーファーIIS「NESC – Ultra Efficient AI-based Voice Codec」)。
NESCが使うデータ量は、その10分の1以下にあたります。

イリジウムとドイツテレコムIoTは、技術統合とグローバルローミング契約を完了させています。
これにより、規格に準拠した対応機器を使うドイツテレコムIoTの顧客は、地上の携帯電話網とイリジウムの衛星の間でローミングできるようになります。
ローミングは、契約先以外の回線に切り替えて通信を続ける仕組みです。
Iridium NTN Directの商用提供は2026年第4四半期の予定で、ヨーロッパの一部の顧客はすでにドイツテレコムのグローバルSIMを使い、イリジウムの回線上でアプリケーションの開発を進めています。

宇宙業界にとっての意味

衛星から機器へ直接つなぐサービスには、地域ごとに提供範囲が限られるものや、携帯電話向けの周波数に頼るものがあります。
イリジウムは、Iridium NTN Directをそうした方式とは違い、自社が世界規模で持つL帯の低軌道衛星網でカバー範囲を広げる設計だと説明しています。

今回の実証で示されたのは、運べるデータ量が小さい回線でも音声メッセージが通ることです。
イリジウムのマット・デシュCEOは、従来の通信圏外で動く人や資産に向けた消費者向け・業務向けの用途が広がると述べています。
ドイツテレコムIoTのクリスティアン・シュヴァルベCEOは、移動通信と衛星をつないで世界規模のIoT基盤を作ると説明しています。

発表では、想定する分野として自動車、物流、遠隔地の公共設備、スマート農業、緊急対応が挙げられています。
車載機器の場合、地上の電波が届く区間では携帯電話網を使い、圏外に入ったら衛星に引き継ぐ形が想定されています。

今後の注目点

近い節目は、2026年第4四半期に予定されるIridium NTN Directの商用開始です。
実際の提供地域や対応機器、利用条件は、サービスの詳細が示される段階で固まります。
今回発表されたのは音声メッセージの送信で、通話のように双方向でやりとりする使い方がどこまで対象になるかも、商用サービスの仕様で確認できる点です。

トヨタは今回、実証の車両を提供した立場です。
この通信が車の装備として載るかどうかは、今後の発表を待つ段階です。

ヨーロッパで開発が進んでいるアプリケーションが、どの分野の製品として最初に出てくるかも見どころになります。

ほしまる

声を運ぶには太い回線が要ると思っていたけれど、圧縮の工夫でIoT向けの細い衛星回線にも乗るんだね。その細さでどこまでの用途が商用サービスに入るのか、最初の製品を見てみたいな。

出典

ほしまる
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