ESAがVastと合意しギリシャ初の宇宙飛行士をISSへ送る計画

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は2026年9月9日、アメリカの宇宙ステーション開発企業Vast(バスト)と、国際宇宙ステーション(ISS)へ民間主導で宇宙飛行士を送るミッションの合意に署名しました。
フランス・パリで開かれた国際宇宙サミットで、ギリシャのミツォタキス首相とフランスのマクロン大統領が登壇して発表されました。

ESAはギリシャを代表して署名しており、搭乗が予定されるアドリアノス・ゴレミス氏は、承認されればギリシャ人として初めて軌道へ向かう宇宙飛行士になります。

3行で分かるポイント

  • ESAがギリシャに代わって、アメリカの企業Vastと国際宇宙ステーションへ宇宙飛行士を送る合意に署名した
  • 搭乗が予定されるのは、ESAで宇宙飛行士の健康管理を担ってきたギリシャ人の医師で、ISSを運用する5つの機関による承認が条件になる
  • 打ち上げは2027年の予定で、SpaceXのFalcon 9ロケットとDragon宇宙船を使う
目次

まず押さえたい背景

Vastは、アメリカ・カリフォルニア州ロングビーチに本社を置き、次世代の宇宙ステーションと宇宙インフラを開発する企業です。
従業員は1,000人を超え、10億ドルを超える民間資金を集めていると同社は説明しています(出典: Vast「European Space Agency Signs Agreement with Vast for Historic First Greek Astronaut Mission」)。
2025年には軌道上の実証機Haven Demoの運用に成功し、2027年には世界初の商業宇宙ステーションを目指すHaven-1を打ち上げる計画です。

ESAは、23の加盟国が共同で宇宙開発を進める機関で、本部はパリにあります(出典: ESA「ESA facts」)。
ギリシャは2005年に加盟しました(出典: ESA「Member States & Cooperating States」)。

今回のミッションは、NASAが「民間宇宙飛行士ミッション(PAM)」と呼ぶ枠組みで行われます。
これは、民間企業が自ら乗員を集めてISSへ送り、滞在に必要な消耗品や補給、保管といったサービスをNASAから購入する仕組みです(出典: NASA「NASA Selects Vast for Sixth Private Mission to Space Station」)。
NASAはこれを、地球低軌道に商業的な経済を育てる戦略の一部と位置づけています(出典: NASA「Private Astronaut Missions」)。

PAMはこれまでに4回実施され、いずれも、ISSへの有人ミッションの提供とISS後継ステーション・船外活動用宇宙服の開発を手がけるAxiom Spaceによるものでした。
2022年4月のAx-1から2025年6月のAx-4まで、ISSでの滞在期間は8〜18日間です。

何が発表されたか

署名されたのは「Vast-PAM-1」と名付けられたミッションの合意です。
乗員は4人の予定で、コマンダー(船長)はフランスのトマ・ペスケ氏、パイロットはチェコのアレシュ・スボボダ氏が務めます。
ゴレミス氏は、操縦とは別に船内での作業や実験を担当するミッションスペシャリストに就く予定です。
4人目は近く発表されるとしています。

搭乗には、ISSを運用する5つの機関——NASA、ESA、ロシアのロスコスモス、JAXA、カナダ宇宙庁——の代表で構成する多国間クルー運用パネル(MCOP)の審査と承認が必要です。
このパネルは5機関の代表の合意によって結論を出します。
承認されれば、ゴレミス氏はISSでミッションを行う初のギリシャ人宇宙飛行士になります。

ゴレミス氏はテッサロニキのアリストテレス大学で医学を学び、ストラスブールの国際宇宙大学で宇宙科学の修士課程を修了しました。
2014年には南極で1年間、完全な隔離状態に置かれた人間の生理と心理を調べる欧州の実験に携わり、2018年からはESAの宇宙飛行士の医療支援を担うフライトサージャン(宇宙飛行士の健康管理を担当する医師)を務めてきました。

訓練は今後数か月かけてヨーロッパとアメリカで行われ、最初の段階として2026年9月に渡米します。
アメリカではVast、SpaceX、NASAのチームによるプログラムに参加し、SpaceXからはFalcon 9とDragonに関する訓練のほか、緊急時対応、宇宙服の着用と宇宙船への出入り、部分的および全体のシミュレーションの訓練を受けます。

打ち上げは2027年の予定です。
NASAは2026年2月12日にVastへ6回目のPAMを発注しており、フロリダから2027年夏以降に打ち上げ、ISSでの滞在は最長14日間としています。

宇宙業界にとっての意味

ひとつは、民間宇宙飛行士ミッションの担い手が広がったことです。
これまでの4回はすべてAxiom Spaceが実施してきました。
Vastにとって今回が初の選定で、NASAの発注ではAxiom Spaceの5回目(2027年1月以降が目標)に続く6回目にあたります。

もうひとつは、自国で有人宇宙飛行の手段を持たない国が、宇宙機関を通じて商業ミッションの席を確保する形が実際に使われたことです。
ギリシャのデジタル統治・人工知能担当大臣は、この飛行を国家宇宙戦略と宇宙計画への投資、ギリシャの産業と研究の動員を重ねた成果だと述べ、医学、人間の生理、農業食品、材料、センサーの分野でギリシャの科学実験や技術実証の機会をつくるとしています。

欧州では同種の動きが続いています。
2026年6月のChoose Franceサミットでは、マクロン大統領が、フランスによるISSへの民間宇宙飛行士ミッションの合意と、ESA宇宙飛行士アルノー・プロスト氏がHaven-1の初の有人ミッションに飛行試験技術者として参加することを発表しました。

今後の注目点

次の節目は4人目の乗員の発表で、Vastはその後に訓練を始めるとしています。
そのうえで、搭乗の前提になるのはMCOPの審査と承認です。

打ち上げ時期は、Vastが2027年、NASAが2027年夏以降としており、この幅がどこに定まるかが日程面の焦点になります。
Vastは同じ2027年にHaven-1の打ち上げも計画しています。

ギリシャ側が挙げている医学や材料などの分野から、どの実験が実際に搭載されるかも確認したい点です。

ほしまる

ISSでの滞在は最長14日間だけど、そこへ向けた訓練はヨーロッパとアメリカで何か月も続くんだ。宇宙にいる時間より、備える時間のほうがずっと長いんだよ。

出典

ほしまる
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