オーストラリアのHEOは2026年9月21日、2,500万ドルの資金調達を完了したと発表しました。
HEOは、軌道上の人工衛星や宇宙ごみをカメラで撮影し、その状態を顧客に届けることを事業にしている会社です。
今回の資金は、地上から約3万6,000km離れた静止軌道にカメラを送り込み、そこで働く衛星を撮影できる態勢づくりに充てられます。
3行で分かるポイント
- HEOは他社の衛星にカメラを相乗りさせる方式で、現在50基を超えるセンサーを使って軌道上の衛星や宇宙ごみを撮影しています。
- 調達した2,500万ドルは、高度約3万6,000kmの静止軌道にカメラを置く計画などに充てられ、最初の2回の打ち上げは2026年後半に予定されています。
- HEOは、オーストラリアと同盟国の防衛・情報機関が関心を持つ宇宙物体の90%を監視できる状態を目標に掲げています。
まず押さえたい背景
HEOはシドニーに本社を置き、フランス、日本、イギリス、アメリカにも拠点を持つ企業です。
手がけているのは、地球ではなく宇宙にある物を撮る「非地球撮像(non-Earth imaging)」と呼ばれる分野です。
やり方に特徴があります。
自前の衛星群をまるごと打ち上げるのではなく、すでに軌道を回っている他社の地球観測衛星のカメラを使わせてもらったり、自社製のカメラを他社の衛星に間借りさせて載せたりします(ホステッドペイロードと呼ばれる方式です)。
そして、その衛星が目標の近くを通り過ぎる瞬間に横を向いて撮影します。
接近するために燃料を使ってわざわざ軌道を変える必要がないため、多くの対象を繰り返し撮れるのが利点だとHEOは説明しています。
なぜ写真が必要なのでしょうか。
地上のレーダーや望遠鏡でも、宇宙物体が「どこにあるか」は追跡できます。
しかし、アンテナがきちんと開いたか、太陽電池パネルが壊れていないかといった「どんな状態か」は、位置情報だけでは分かりません(出典:HEO「What Is Non-Earth Imaging (NEI)? A Complete Guide」)。
HEOの顧客には、アメリカの情報収集衛星を設計・製造・打ち上げ・運用する政府機関である国家偵察局(NRO)のほか、オーストラリア国防省、日本の防衛省、英国宇宙庁などが並んでいます。
何が発表されたか
今回の出資を主導したのは、ブリスベンを拠点に、オーストラリアの防衛・宇宙分野の初期段階の企業へ投資するベンチャーキャピタル、Beaten Zone Venture Partnersです。
これに、オーストラリア政府の国家再建基金公社(NRFC)、Dcode Capital、Wunala Capital、既存投資家のAirtreeとSalus Venturesが加わりました。
調達額はオーストラリアドル建てでは3,700万豪ドルにあたり、このうち1,000万豪ドルをNRFCが出しています(出典:Startup Daily「Space monitoring startup scores NRF backing in $37 million Series B」)。
資金の使い道としてHEOが挙げているのは、新しいセンサーの配備、衛星運用会社との提携の拡大、ソフトウェアとAIモデルの開発です。
静止軌道については、最初の2回の打ち上げを2026年後半に予定し、繰り返し安定して撮影できるサービスは2027年から始めるとしています。
静止軌道向けに用意しているのが、第2世代のカメラ「Adler Mk2」です。
口径194mm、質量8.5kgで、100km離れた対象を1画素あたり22cmの細かさで写せるとHEOは公表しています。
静止軌道は放射線が強く温度変化も激しい環境のため、この軌道で5年もつように設計されています。
なおHEOは、2023年のシリーズA以降に自社設計のセンサー8基を軌道上に配備し、売上は前年比で3倍になったとしています。
宇宙業界にとっての意味
静止軌道は、赤道上空を地球の自転と同じ周期で回るため、地上からは空の一点に止まって見える軌道です。
通信や放送、気象観測の衛星が集まる場所ですが、低軌道よりはるかに遠いため、地上の望遠鏡からは小さな光の点にしか見えません。
HEOのウィリアム・クロウCEOは、重要なインフラの一部が地上から数万km上空で動いているのに、そこで何が起きているかを見て理解する力は限られたままだ、と述べています。
つまり今回の投資は、宇宙状況把握(どの物体がどこにあり、どう振る舞っているかを把握する取り組み)の空白地帯を埋めにいく動きにあたります。
Beaten Zone Venture Partnersのスティーブ・バクスター氏は、宇宙物体の数が急増するなかでHEOは宇宙状況把握のための新しい種類のデータを作り出した、とコメントしています。
政府系の顧客が並び、政府系ファンドが出資に加わっている点からは、この分野の需要が防衛・安全保障と強く結びついていることが読み取れます。
今後の注目点
まず、2026年後半に予定されている静止軌道向けの2回の打ち上げが計画どおり進むかどうかです。
次に、2027年に掲げる「繰り返し撮れる」状態に到達できるかが、サービスとしての価値を左右します。
目標として示された90%という監視範囲は、提携する衛星運用会社をどれだけ増やせるかに関わります。
HEOは長期的には複数の軌道にわたって1,000基を超えるカメラを持つ構想を示しており、その実現度も含め、今後の発表を追う価値があります。
ほしまる静止軌道の衛星は、地上から見ると空にはりついた小さな光の点にしか見えないんだ。そこへカメラのほうを送り込んで近くから撮る、というのが今回の話だよ。
出典
- HEO「HEO Raises US$25 Million to Expand the World’s Largest Commercial Non-Earth Imaging Network into GEO」
- HEO「What Is Non-Earth Imaging (NEI)? A Complete Guide」
- HEO「HEO Unveils Latest Non-Earth Imaging Camera Bringing Commercial Satellite Inspection to GEO」
- HEO「HEO | Non-Earth Imaging」
- Beaten Zone Venture Partners「Home」
- Startup Daily「Space monitoring startup scores NRF backing in $37 million Series B」
- Payload「HEO Raises $25M Series B to Fuel GEO Expansion」
- Space & Defense「HEO raises US$25 million to extend non-Earth imaging network into geostationary orbit」
- IntelligenceCareers.gov「About the National Reconnaissance Office」