米国の宇宙用カメラメーカーTRL11が、NASAの火星ミッション「SR-1 Freedom」へ撮像システムを供給する契約を得たと、宇宙業界メディアのPayloadが2026年9月22日に報じました。
SR-1 Freedomは、機体に積んだ原子炉で発電した電力を使って進む宇宙機で、2028年後半の打ち上げが計画されています。
TRL11は、火星へ運ばれる小型ヘリコプター「SkyFall」が切り離される場面を含め、飛行中の映像を撮影して機上で処理する機器を担当します。
3行で分かるポイント
- 宇宙用カメラを手がけるTRL11が、NASAの火星ミッション向けにカメラと機上コンピュータを供給する契約を受注した
- 対象は原子炉の電力で進む宇宙機SR-1 Freedomで、2028年後半の打ち上げが計画されている
- 同社にとって、自社が作ったカメラが地球以外の惑星を撮影する初めての機会になる
まず押さえたい背景
TRL11は、米国カリフォルニア州アーバインに拠点を置く企業です。
宇宙で使えるカメラと、撮った映像をその場で処理する機上コンピュータを開発しており、自社を「宇宙のための視覚情報プラットフォーム」と説明しています。
1万機を超える衛星が軌道上にありながら映像がほとんど無い状況を、事業の出発点に挙げています(出典:TRL11「About」)。
SR-1 Freedomは、NASAが「地球周回軌道の外で推進に核分裂炉を使う初めての宇宙機」と位置づけるミッションです(出典:NASA「Space Reactor-1 Freedom」。以下、機体の諸元は同ページの記載によります)。
原子炉は高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)を燃料とし、閉サイクルブレイトン方式で20kWの電力を作ります。
この電力で動かすのが12kWのホールスラスタで、電気の力で推進剤をイオンにして噴き出し、少ない燃料で長時間じわじわと加速する方式です。
機体の重量は約12,000kg、打ち上げは2028年後半、火星到着は2029年が目標とされています。
火星では、3機の小型ヘリコプター「SkyFall」を投入します。
SkyFallは火星で飛行した「インジェニュイティ」の設計を発展させた機体で、地中レーダーを使って地下の氷の分布を細かい空間分解能で調べ、水がどこにあるかをより正確に評価することを狙います。
この3機は、米国バージニア州アーリントンに本社を置く防衛技術企業AeroVironmentが、NASAのジェット推進研究所(JPL)と共同で設計・製造します(出典:AeroVironment「AV Awarded Contract for Three Autonomous Helicopters in Support of NASA’s SkyFall Mission to Mars」)。
何が発表されたか
TRL11がSR-1 Freedom向けに供給するのは、宇宙用カメラと、エッジコンピューティングを担う機上のコンピュータです。
エッジコンピューティングとは、撮ったデータを地上へ全部送ってから処理するのではなく、その場の機器で処理してしまう考え方をいいます。
火星までの距離では地球へ送れるデータ量が限られるため、高解像度の映像をそのまま流し続けることはできません。
機上で記録・処理・保存までこなし、価値のある場面を選んで送る設計が要になります。
TRL11はこの機器で、ミッション中の高解像度映像を取得・処理・保存できるようにします。
撮影対象にはSkyFallが火星へ向けて放出される瞬間も含まれます。
同社CEOのNicolaas Verheem氏は、自社が作ったカメラが他の惑星まで行き、その惑星を撮影するのは初めてになると述べています(出典:Payload「TRL11 Will Build Imaging Tech for SR-1 Freedom」。以下、金額は同記事の表記によります)。
Payloadの報道では、SR-1 Freedomのミッション規模は20億ドルです。
機器の調達は複数社に分かれており、火星に降りる際に機体を包む殻(エアロシェル)については、米国テキサス州リアンダーに本社を置くFirefly Aerospaceが1,300万ドルで担当します。
Firefly Aerospaceは小型ロケット「Alpha」や月着陸機「ブルーゴースト」を手がける企業です(出典:Firefly Aerospace「About」)。
宇宙業界にとっての意味
深宇宙探査の機器市場に、地球周回軌道で実績を積んできた企業が入る動きとして読めます。
TRL11がこれまで扱ってきたのは地球を回る衛星向けの映像機器で、今回は同じ系統の製品が惑星間の航行へ持ち込まれる形になります。
映像が果たす役割も、広報用の絵にとどまりません。
SkyFallの放出のように一度きりで、やり直しの効かない動作では、映像が「設計どおりに動いたか」を確かめる技術的な証拠になります。
さらに、核分裂炉を推進に使う初めての機体という性格上、飛行中の各部の挙動を実際に見て記録できることは、次の機体を設計するための材料になります。
通信量の制約が厳しいほど、撮る性能と同じくらい、機上で選び出す仕組みが効いてきます。
今後の注目点
まず確認したいのは、2028年後半とされる打ち上げ時期が維持されるかどうかです。
NASAはSkyFallの打ち上げ時期を2028年11月と計画しており、ヘリコプター側の開発の進み方も打ち上げ計画に関わります。
TRL11が最終的にどの製品構成を納めるのか、通信や映像管理のソフトウェアまで含む形になるのかも、今後の発表を待つ段階です。
契約金額の条件など、公表されていない点も残っています。
ほしまるぼくが深宇宙から送れたのは、点をならべたような画像だけだったんだ。火星の空から撮られた映像が届く日を、いまから待っているよ。