NASAは2026年9月23日(米国時間)、遠赤外線で宇宙を観測する宇宙望遠鏡「PRIMA」の開発を次の段階へ進めると発表しました。
PRIMAは、NASAが新しく設けた中型ミッションの区分「プローブ・エクスプローラー」の最初の1機です。
打ち上げ目標は2033年で、確定すればプロジェクト費用の上限は12億ドル(打ち上げ費用などを除く)です。
3行で分かるポイント
- NASAは、目に見えない遠赤外線で宇宙を観測する望遠鏡PRIMAを選び、詳しい設計の段階へ進めました
- 2033年の打ち上げを目標に、5年間観測する計画で、JAXAを含む7つの海外の宇宙機関も参加します
- 本格的な製造に進むかどうかは今後の審査で決まり、進んだ場合の費用の上限は12億ドルです
まず押さえたい背景
PRIMAはPRobe far-Infrared Mission for Astrophysicsの略です。
開発をまとめるのは、NASAのジェット推進研究所(JPL)です。
JPLはカリフォルニア州パサデナ近郊にあり、火星探査車や太陽系の遠くへ向かう探査機、地球観測衛星をつくって運用してきた研究所です。
運営はカリフォルニア工科大学(Caltech)が担っており、NASAの研究開発センターのなかで唯一、連邦政府の資金で運営される研究開発センター(FFRDC)という位置づけです。
メリーランド州のNASAゴダード宇宙飛行センターと、アラバマ州のNASAマーシャル宇宙飛行センターも開発に加わります。
遠赤外線は、赤外線のなかでも波長が長い光で、人の目には見えません。
NASAは、遠赤外線でしか捉えられない光を調べることで、宇宙の塵や重い元素がどのように増えてきたかを探れると説明しています。
PRIMAが観測する波長は24〜235マイクロメートルで、可視光のおよそ数十倍から数百倍にあたります(出典:Caltech「NASA Selects PRIMA Mission; Key Roles for Caltech, JPL, and IPAC」)。
遠赤外線の観測では、望遠鏡そのものが出す熱が邪魔になります。
温かい物体は、それ自体が赤外線を出すためです。
そこでPRIMAは直径1.8mの望遠鏡を零下数百度まで冷やし、この熱による雑音を大きく減らします。
設計を説明した論文では、望遠鏡を4.5K(約マイナス269℃)まで冷やし、地球から見て太陽の反対側にある「ラグランジュ点L2」の周りを回る軌道に置く構想が示されています(出典:Bradford et al., arXiv:2509.02518)。
L2は、太陽と地球の重力のつり合いによって、探査機が地球と一緒に太陽の周りを回り続けられる場所です。
何が発表されたか
NASAの発表によると、PRIMAは「フェーズB」に進みました(出典:NASA「NASA Selects Far-Infrared Telescope as First in New Mission Class」)。
フェーズBは、基本となる設計を固め、必要な技術の開発を進める段階です。
NASAは、プローブ・エクスプローラー向けに候補の構想を検討し、そのなかからPRIMAを選びました。
選定では、科学的な価値と、費用とスケジュールの面で開発計画が実現できるかを評価したとしています。
新しい区分のプローブ・エクスプローラーは、NASAが長年続けてきた宇宙科学ミッションの枠組み「エクスプローラー計画」のなかに設けられました。
設立を勧めたのは、全米アカデミーズの2020年の「ディケイダル・サーベイ」です。
ディケイダル・サーベイは、米国の研究者コミュニティが今後10年ほどで優先すべき観測計画をまとめる提言です。
科学面の目標は3つあります。
惑星ができる過程を化学的な痕跡からたどること、銀河とその中心にある超大質量ブラックホールがどのように一緒に成長してきたかを調べること、最初の銀河から現在までに銀河・重い元素・星間の塵がどう積み上がってきたかを測ることです。
NASAはPRIMAを、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)と電波望遠鏡のあいだの波長を埋める観測装置と位置づけています。
搭載する観測装置は、偏光も測れる撮像装置「PRIMAger」と、高分解能の分光器「FIRESS」の2つです。
国際協力には、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、イタリア宇宙機関(ASI)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、カナダ宇宙庁(CSA)、韓国の宇宙機関、JAXA、英国宇宙庁が参加します。
観測データの処理や保管、観測計画の作成は、CaltechのIPACが担当します。
IPACは赤外線天文学のデータセンターで、20以上のNASAのミッションのデータを保管する赤外線科学アーカイブ(IRSA)を運営しています。
宇宙業界にとっての意味
PRIMAは、新しい区分の最初のミッションです。
この計画が費用の上限とスケジュールを守れるかどうかは、プローブ・エクスプローラーという枠組みそのものが機能するかを確かめる最初の例になります。
NASAが選定で費用とスケジュールの実現性を評価項目に挙げていることからも、費用を管理できるかどうかが問われる計画です。
12億ドルの上限は打ち上げ費用などを含まない、プロジェクト本体の費用です。
今後、フェーズBで設計が固まり、製造段階へ進めば、望遠鏡や冷却装置、検出器などの開発・製造が本格的に始まります。
開発にはJPL・ゴダード・マーシャルの3つのNASAの拠点、Caltech、7つの海外機関が関わるため、各国の機関がどの部分を担当するかも、今後の開発体制を左右します。
日本からはJAXAが参加機関に名を連ねています。
今後の注目点
次の節目は「確認審査」です。
NASAはこの審査で、PRIMAが実際の製造・組み立てにあたるフェーズCへ進む準備ができているかを判断します。
12億ドルの費用上限は、この審査で確定した場合に適用されます。
確認したい点は3つあります。
- 確認審査がいつ行われ、フェーズCへ進めるか
- JAXAを含む海外機関がどの装置や部品を担当するか
- 2033年の打ち上げ目標と費用の上限を守ったまま開発を進められるか
NASAは、打ち上げ後に5年間観測する計画を示しています。
出典
- NASA「NASA Selects Far-Infrared Telescope as First in New Mission Class」
- NASA Jet Propulsion Laboratory「NASA Selects Far-Infrared Telescope as First in New Mission Class」
- NASA Jet Propulsion Laboratory「Who We Are」
- Caltech「NASA Selects PRIMA Mission; Key Roles for Caltech, JPL, and IPAC」
- IPAC「Probe Far-Infrared Mission for Astrophysics」
- C.M. Bradford et al.「The Far-Infrared Enhanced Survey Spectrometer (FIRESS) for PRIMA: Approach and Estimated Performance」arXiv:2509.02518
- Spaceflight Now「NASA announces new space telescope ‘PRIMA’ to launch in 2033」