相模原市に本社を置く光学ガラスメーカーのオハラは2026年9月30日、同社のガラスがNASAの「ナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡」に採用されたと発表しました。
使われたのは、恒星の光を遮って惑星を直接撮る装置と、広い範囲の空を一度に撮る装置の2つです。
この望遠鏡は2026年8月30日にすでに打ち上げられています。
3行で分かるポイント
- オハラのガラスが、NASAの新しい宇宙望遠鏡の観測装置2つに使われていると同社が発表しました。
- 片方は放射線を浴びても光の通しやすさがほとんど変わらない特殊なガラスで、恒星のそばの暗い惑星を撮る装置に使われています。
- 望遠鏡は2026年8月30日に打ち上げられ、観測を行う場所へ向かっています。
まず押さえたい背景
オハラは、神奈川県相模原市中央区に本社を置くガラス素材メーカーで、1935年に設立されました。
事業内容は「光及びエレクトロニクス事業機器向けガラス素材の製造・販売」です(出典:株式会社オハラ「会社情報」)。
カメラなどのレンズに加工する光学ガラスのほか、耐放射線光学ガラスやガラスセラミックスも製品として扱っています。
光学ガラスは、レンズやプリズムの材料になるガラスです。
光をどれだけ曲げるか、どれだけ通すかといった性質を細かく決めて作られるため、ガラスの品種ごとに用途が変わります。
今回のキーワードの「透過率」は、ガラスに入った光のうち反対側まで通り抜ける割合のことです。
宇宙望遠鏡はとても暗い天体の光を集めるので、途中のガラスで光が失われると、その分だけ見えるものが減ります。
ローマン宇宙望遠鏡はNASAの宇宙望遠鏡で、主鏡の直径はハッブル宇宙望遠鏡と同じ2.4mです。
NASAは、ダークエネルギー(宇宙の膨張を加速させているとされる正体不明の働き)や太陽系外惑星などの分野の問いに答えることを目的に挙げています。
何が発表されたか
オハラの発表によると、同社のガラスはローマン宇宙望遠鏡の2つの装置に使われています(出典:株式会社オハラ「オハラの光学ガラス、『ナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡』に採用」)。
ひとつ目は、コロナグラフ装置(CGI)の光学系です。
コロナグラフは、恒星の強い光を遮って、そのそばにある暗い惑星や、惑星が生まれる途中のガスと塵の円盤を直接写すための装置です。
恒星は周りの惑星よりはるかに明るいため、そのままでは惑星の光が恒星の光に埋もれてしまいます。
ここにオハラの耐放射線光学ガラスが使われています。
同社は、このガラスが放射線にさらされる宇宙環境でも透過率がほとんど変化せず、安定した性能を保つと説明しています。
NASAはこのコロナグラフを技術実証装置と位置づけ、ミッション最初の18か月で新しい技術を試すとしています(出典:NASA「Roman Coronagraph Instrument」)。
NASAは、これまで宇宙望遠鏡に載ったコロナグラフと比べて100〜1,000倍の能力を見込んでいます。
2つ目は、広視野観測装置(WFI)のプリズムです。
WFIは、可視光から近赤外線までを捉える3億画素の赤外線カメラと、分光システムで構成されています。
分光とは、光を波長(色)ごとに分けて調べることで、天体の成分や遠さを知る手がかりになります。
プリズムはその光を分ける役割を担います。
NASAのローマン計画の技術資料によると、WFIの視野はハッブル宇宙望遠鏡の赤外線カメラ(WFC3-IR)の約200倍で、プリズムは波長0.75〜1.93μmの光を扱います(出典:NASA Goddard「Roman Space Telescope Wide Field Instrument technical」)。
納入の経路や数量、金額は、オハラの発表には含まれていません。
宇宙業界にとっての意味
宇宙望遠鏡の部品は、打ち上げたあとに交換できません。
材料には、打ち上げ前だけでなく、宇宙で放射線を浴び続けても性能が変わらないことが求められます。
今回の発表は、その条件で使われる材料を日本のメーカーが供給した事例です。
オハラは、これまでの宇宙・天文分野での採用例として、アポロ11号(1969年)やスカイラブ(1973年)、すばる望遠鏡(1999年・2012年)、火星探査車パーシビアランス(2021年)などを挙げています。
宇宙機や望遠鏡は、ロケットや衛星を作る大手企業だけでなく、このような素材や部品を納めるメーカーがあって成り立っています。
今回の件は、完成品を作る会社ではない日本の素材メーカーが、NASAの大型ミッションの観測装置にかかわる実例です。
今後の注目点
NASAによると、ローマン宇宙望遠鏡は打ち上げ後にロケットから分離し、太陽電池パネル兼日よけを展開して、太陽と地球の引力がつり合う点のひとつ「第2ラグランジュ点(L2)」へ向かっています。
オハラの発表では、この場所は地球から約150万km離れています。
L2に着いたあと、科学観測が始まる予定です。
注目点は、コロナグラフが技術実証の18か月で狙いどおりの性能を出せるかどうかです。
NASAは、実証が成功すればこの装置を科学者が広く使えるようになる可能性があるとしています。
ほしまる恒星の光を遮っても、その先のガラスが曇ったら暗い惑星は見えなくなるよね。18か月の実証で、そこがどう確かめられるのか気になるよ。