- 「宇宙工学に進んでも、就職先なんてないんじゃないか」
- 「航空宇宙学科に行きたいけれど、親に『それで食えるのか』と聞かれて何も返せなかった」
- 「宇宙の仕事は一握りの天才だけのもので、自分は入り口にも立てない気がする」
進路を決める場面で、このような不安を抱える方は少なくありません。
結論から書くと、争点は就職先の有無ではなく、求人の見え方にあります。
大学が公表している卒業生の進路データを開くと、行き先は大学院進学と製造業、そして情報通信へ広く分かれています。
この記事は、宇宙の科学と宇宙産業の情報を一次情報と整合させて発信するASTROWORKS編集部がまとめています。
東京大学・大阪公立大学・東北大学・日本大学が公表する卒業生の進路ページ、そしてJAXA・三菱重工業・IHIエアロスペース・Synspectiveの公式採用情報を実際に取得しました。
記載はひとつずつ突き合わせたうえで整理しています。
この記事で扱うのは、次の内容です。
- 「就職がない」という印象がどこから生まれているのか
- 大学が公表する進路データが示す、実際の行き先
- 在学中と社会人から、それぞれ選択肢を広げる進め方
読み終える頃には、不安の中身が「就職先の有無」から「探し方」へ置き換わるように整理しました。
ほしまるぼくは40年ずっと宇宙で働いてきたけど、宇宙に関わる仕事の入り口は思っているよりずっと広いんだ。いっしょに地図を広げてみようよ。
※記事の要点は、以下のスライドでもサッと確認できます。


「宇宙工学は就職がない」と言われる理由は求人の見え方に原因がある
この言葉は求人の実数から生まれたものではありません。
探し方と情報の届き方に、いくつかのずれが重なっています。
大学の専攻名と企業の募集職種名が一致せず求人が検索に出てこない
「宇宙工学」という語で求人を探しても、ほとんど何も出てきません。
企業側が募集をその名前で出していないからです。
実際の求人票に並ぶのは、担当する機能の名前です。
三菱重工業の宇宙事業のキャリア採用では、募集が「開発試験」「設計」「生産技術・管理」「品質保証」「製造(技能職)」の5区分に分かれています(出典: 三菱重工業「宇宙事業 キャリア採用」)。
このうち「設計」の業務内容は、ロケット飛行解析、ロケット射点設備開発設計、宇宙機設計・開発と説明されています。
IHIエアロスペースの採用ページも同じ作りです。
掲載されている職種は「開発・設計」「生産技術」「品質保証」「情報システム」「営業」「調達」「財務」「企画・管理」で、ここにも「宇宙工学」という区分はありません(出典: IHIエアロスペース「採用情報」)。
JAXAのキャリア採用でも、募集は「宇宙輸送システム」「人工衛星」「宇宙科学・探査」「航空科学技術」といった事業領域の単位で立っています(出典: JAXA「キャリア採用」)。
つまり、学生が使う語彙と企業が使う語彙が、そもそも噛み合っていません。
検索窓に入れる言葉を変えないかぎり、求人は存在していても画面に現れない状態が続きます。
宇宙を主事業とする企業の採用枠は他の製造分野に比べて母数が小さい
ここは正直に認めるべき部分です。
ロケットや人工衛星を主事業とする企業は数が限られており、大手の自動車メーカーや電機メーカーと比べると、採用の規模は小さいままです。
ただ、この窮屈さの一部は条件の重ね方から生まれたもの。
「宇宙を主事業とする企業に」「宇宙の職種で」「新卒で」と三つ重ねると、候補はごく少数まで絞り込まれます。
条件をひとつ外すだけで、見える範囲は大きく広がるのです。
宇宙事業を持つ企業でも、新卒の入口は全社共通であることが珍しくありません。
三菱重工業の新卒採用では、技術系の職種として「研究開発、設計、生産技術・管理、現地建設、品質保証、システム開発、知的財産、サービスエンジニアなど」が挙げられています(出典: 三菱重工業「募集要項・選考フローについて」)。
宇宙開発は、同社が展開する事業領域のひとつという位置づけです。
編集部としては、母数の小ささを否定してみせるのは誠実ではないと考えています。
狭いのは事実。
ただし狭いのは「絞り込んだあとの一点」であって、宇宙に関わる仕事の全体ではありません。
検索で目に入る情報が個人の体験談と海外の事情に偏っている
進路を調べ始めた人が最初に触れるのは、たいていQ&Aサイトの回答やSNSの短い書き込みです。
そこには「宇宙は狭き門」「専攻を活かせなかった」という個別の実感が並びます。
体験そのものは本物でも、何人分の話なのか、いつの話なのかが分からない形で流れてきます。
海外の掲示板や記事が混ざると、話はさらにややこしくなります。
国が違えば、産業の構成も、公的機関の採用制度も、企業の求人慣行も違います。
海外の宇宙業界の就職事情を、日本の大学に通う学生の進路判断へそのまま持ち込むと、判断材料としては歪みます。
日本の各大学は、卒業生の進路を公表しています。
企業や機関の公式ページにも、募集職種と応募資格が載っています。
印象と一次資料は、まったく別の情報です。
この記事では、大学の進路公表ページと、企業・機関の公式採用情報だけを根拠にしています。
個人ブログやSNSの体験談は、情報の流通傾向を説明する材料としては触れますが、事実の出典としては使いません。
判断の土台を替えると、見える景色が変わります。


宇宙工学を学んだ人の進路は大学が公表するデータで確認できる
印象を事実に置き換えていきましょう。
ここからは、大学自身が出している数字だけを見ていきます。
学部卒業後は大学院進学が進路の中心になっている
東京大学の航空宇宙工学科は、2020年から2024年の卒業生データとして学部卒業生の進路を公表しています。
その内訳は、修士進学が97%、就職が2%、その他が1%です(出典: 東京大学 大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻/工学部 航空宇宙工学科「卒業生進路」)。
進学先は同大学の工学系研究科航空宇宙工学専攻のほか、新領域創成科学研究科、情報理工学系研究科、他大学の大学院にも広がっています。
大阪公立大学の航空宇宙工学科も、卒業生の約80%が大学院に進学すると公表しています(出典: 大阪公立大学 工学部 航空宇宙工学科「卒業後の進路」)。
対象は平成26年度から令和2年度、西暦では2014年度から2020年度の実績で、学部卒業生70名、大学院修士課程修了生151名、博士課程修了生3名。
就職率については「学域,大学院ともに100%です」と記載されています。
修士修了生の主な就職先には、川崎重工業17名、トヨタ自動車11名、クボタ11名、本田技研工業9名、三菱重工業7名という社名と人数が並びます。
同じ傾向は、別の大学の公表資料でも確認できます。
東北大学工学部の機械知能・航空工学科は、卒業生の約90%が学部卒業後に大学院へ進学すると公表しています(出典: 東北大学工学部 機械知能・航空工学科「進路・就職情報」)。
学部卒業生の活躍分野として挙げられているのは、従来の製造業に加えて情報通信、運輸、社会インフラ、サービス、教育、行政など。
どちらのページも複数年度をまとめた実績で、年ごとの変動までは読み取れません。
ただし、学部卒業の時点で就職しないのが多数派という構造は、2校に共通しています。
この構造は、就職の話を考えるうえで見落とせません。
学部卒業の時点で就職していない学生が多いのは、行き先がないからではなく、まだ就職する段階に来ていないからです。
学部の進路表だけを見て「宇宙工学は就職しない専攻だ」と読むと、事実と逆の結論になります。
進学が中心ということは、実際の就職の姿は修士修了時に現れるという意味でもあります。
次の節で、その内訳を見ていきます。
就職先は重工業と自動車と電機と情報通信へ広く分散している
東京大学の同じページには、修士課程修了者の進路内訳も掲載されています。
公表されている割合を業種グループごとに並べると、次のようになります。
| 進路の区分 | 修士課程修了者に占める割合(2020〜2024年の卒業生データ) | どのような分野か |
|---|---|---|
| 機械・精密 | 28% | 重工業・輸送機器・精密機械の設計や開発 |
| IT・コンサル・金融・商社 | 23% | ソフトウェア開発、コンサルティング、金融、商社 |
| 博士進学 | 22% | 大学院博士課程での研究継続 |
| 運輸・情報通信 | 13% | 航空・鉄道などの運輸、通信サービス |
| 大学・研究所・官公庁 | 7% | 大学の研究職、公的研究機関、行政 |
| 電機 | 6% | 電機メーカーの機器開発 |
| その他専門・その他 | 5% | 上記に分類されない専門職など |
ここでIT・コンサル・金融・商社が23%を占めている点は、読み流さないでください。
修士課程修了者の4分の1近くが、IT・コンサル・金融・商社のいずれかを進路に選んでいるという意味になります。
具体的な社名も公表されています。
日本大学理工学部の航空宇宙工学科が公表する過去3年間(産業分類別実績は令和6年度)の就職先には、川崎重工業、三菱重工業、SUBARU、IHI、IHIエアロスペース、本田技研工業、トヨタ自動車、日産自動車といった名前が並びます(出典: 日本大学理工学部 航空宇宙工学科「就職」)。
同ページには日本航空、全日本空輸などの航空会社、JR東海、JR東日本などの鉄道会社も掲載されています。
IT業界や自動車業界で働いている方なら、この一覧に自分の勤務先や取引先を見つけるかもしれません。
宇宙工学の卒業生は、すでにあなたの隣の席にいます。



ぼくの仲間の設計者たちも、いまは車や電車をつくっていたりするんだ。学んだことが消えるわけじゃないんだよ。
JAXAや研究機関は進路の一部であり全体ではない
「宇宙工学を学ぶ=JAXAに入る」という等式は、進路を必要以上に狭く見せます。
先ほどの東京大学のデータでは、大学・研究所・官公庁を合わせた区分が7%です。
この7%にはJAXA以外の研究機関や行政も含まれており、公的機関は進路の一部にとどまっています。
JAXA自身の採用情報を見ると、入口が複数あることも分かります。
公式ページに並ぶ区分は、新卒/既卒採用、キャリア採用、教育職採用、障がい者採用、宇宙航空プロジェクト研究員、招聘職員採用、事務支援職員採用、宇宙飛行士候補者、カムバック採用などです(出典: JAXA「採用情報」)。
新卒で一度きりの勝負をする場所、という理解は正確ではありません。
区分ごとに求めるものも違います。
宇宙航空プロジェクト研究員の応募資格は「博士号取得者(採用時点で博士号取得から5年以内。)又はこれと同等の研究能力を有する者」と明記されています(出典: JAXA「宇宙航空プロジェクト研究員採用」)。
対してキャリア採用は、学歴要件が「短大・高専・専門学校 卒業以上」です。
なお、JAXAの採用倍率は公式には公表されていません。
数字を見かけることはありますが、出所を確認できないものは、この記事では扱いません。
確からしい根拠がないまま「何百倍」という話を前提に進路をあきらめるのは、判断としてもったいない選択です。


宇宙工学の基礎は航空と自動車と電機の設計職でそのまま評価される
ここからは視点を変えます。
専攻名ではなく、学んだ技術要素の側から進路を見ていきます。
流体と構造と制御と熱の基礎は輸送機器の設計で共通して使う
航空宇宙工学で扱う分野は、宇宙機だけに閉じたものではありません。
大阪公立大学の航空宇宙工学科が紹介する研究分野には、超音速流体、数値流体解析、薄膜構造、電気推進、ジェットエンジン、測位、衛星制御、最適設計といったテーマが並びます(出典: 大阪公立大学 工学部 航空宇宙工学科)。
これらを設計現場での使われ方に翻訳すると、対応関係が見えてきます。
- 流体の解析は、機体まわりの流れだけでなく、自動車の空力設計やエンジン内部の流れの検討でも使う土台です。
- 構造の設計は、必要な強度を保ちながら重量を削る作業であり、輸送機器の設計では分野を問わず要求されます。
- 制御の理論は、衛星の姿勢を保つ場面にも、車両やロボットの動きを安定させる場面にも同じ形で現れます。
- 熱の設計は、機器が想定した温度範囲から外れないようにする仕事で、電子機器の設計でも中心的な課題です。
宇宙機がこれらを厳しい条件で要求するため、学ぶ内容も厳しめに組まれています。
その基礎があること自体が、隣接分野の設計職から見れば分かりやすい強みになります。
解析とシミュレーションの実務経験は設計職の選考で直接見られる
選考で見られるのは、専攻名ではなく手を動かした経験です。
実際の募集要項を読むと、その様子がはっきり分かります。
小型SAR(合成開口レーダー。電波を出してその反射から地表の画像をつくる観測装置)衛星を開発・運用するSynspectiveの例を見てみます。
Satellite Systems Engineer(衛星システム全体の要求を管理し、サブシステム間の整合を取る職種)の募集で必須条件に挙がっているのは、「Bachelor degree in technical field」「Experience working with MATLAB and Simulink」「Minimum of 5 years work experience required in designing, implementing and realizing physical, cross-functional products」の3点です(出典: Synspective「Satellite Systems Engineer」)。
日本語にすると、必須は技術分野の学士号と、MATLABおよびSimulinkを使った経験。
加えて、設計・実装・実現を一貫して担った5年以上の実務経験が求められ、対象は物理的かつ機能横断的な製品とされています。
専攻を航空宇宙に限定する記載はありません。
注目したいのは、歓迎条件の側です。
同じ募集では「Work experience in Space Industry(宇宙業界での実務経験)」と「Work experience in System Engineering field(システムエンジニアリング分野での実務経験)」が歓迎(Preferred qualifications)に置かれています。
宇宙業界での実務経験は、あれば有利な要素であって、応募の前提条件ではないという整理になります。
業務内容の記載も具体的です。
システムレベルの解析とシステムバジェットの管理、検証と妥当性確認の計画立案と実行、サブシステム間のインターフェース管理などが並びます。
つまりシステムエンジニアリングとは、個別の部品ではなく製品全体の要求と整合を引き受ける仕事の呼び名です。
モデルを立てて数値で検証し、要求を管理するという作業は、自動車の制御開発や機械設計の現場で日常的に行われているものと重なります。
数値解析(CAE。コンピューターで構造や流体のふるまいを計算する手法)や試験データの取り扱いの経験は、専攻名より雄弁に働きます。
研究室で回した解析と、その結果をどう検証したかは、選考で語れる材料です。
組込みとデータ処理のスキルは衛星側と地上側の両方で必要になる
衛星の仕事は、衛星本体をつくる工程だけで完結しません。
軌道上の機体に指示を出し、届いたデータを処理し、利用者へ渡す仕組みまで含めて、はじめてサービスになります。
Synspectiveの募集職種一覧を見ると、この構造がそのまま部門名として現れています。
地上システムとデータ処理を担うのがData Production Department。
ここには、レーダーセンサーが取ったデータを画像に変換するSAR Image Processing Engineerのほか、BackEnd Engineer、システムエンジニア(ミッションコントロール)、システムエンジニア(SAR画像パイプライン)、アーキテクト(地上システム横断)といった職種が掲載されることがあります(出典: Synspective 募集職種一覧)。
ソフトウェアを扱うSolution Development Departmentには、Full-Stack Engineer、SARデータ分析エンジニア、アプリケーション開発エンジニアが掲載されています。
企業の採用ページは随時更新されるため、実際の掲載状況は公式ページで確かめてください。
求めるスキルの書かれ方も、ソフト寄りの読者にとって現実的です。
同社の新卒(院卒)のデータプロダクション部エンジニアの募集では、必須スキルが「プログラミングを用いて、ソフトウェアやシステムを開発した経験」とされ、言語や分野、規模は問わないと明記されています(出典: Synspective「27年度新卒(院卒)データプロダクション部 エンジニア」)。
歓迎スキルに並ぶのは、機械学習、深層学習、画像解析、信号処理などの研究・開発経験です。
宇宙機の設計に関わらなければ宇宙の仕事ではない、という思い込みは、この時点で崩れます。
軌道上のセンサーが取ったデータを扱う仕事も、地上でそれを流す基盤をつくる仕事も、宇宙の仕事です。


宇宙関連の募集は衛星利用と民間宇宙企業の側にも広がっている
宇宙の仕事をロケットと衛星の製造だけで捉えると、職域を見落とします。
国の資料と企業の公開情報から、広がりを確認します。
国の宇宙政策の方向性は公表資料で確認できる
進路の判断材料として、国が何を決めているかは確認できます。
内閣府が公表している宇宙基本計画は、令和5年6月13日に閣議決定された版が最新です(出典: 内閣府 宇宙政策「宇宙基本計画」)。
計画の実施内容を示す宇宙基本計画工程表は、令和7年12月23日の宇宙開発戦略本部決定として更新されています。
産業振興の枠組みも、実体を伴う形で置かれています。
JAXAが運営する宇宙戦略基金は、公式ページで「総額一兆円規模の基金」と説明されています(出典: JAXA宇宙戦略基金「宇宙戦略基金について」)。
対象は「輸送」「衛星等」「探査等」の3分野で、「市場の拡大」「社会課題解決」「フロンティア開拓」の3つの出口に向けた技術開発を支援する仕組みです。
支援の対象と期間の書かれ方にも、進路の観点から意味があります。
同ページには、スタートアップをはじめとする民間企業や大学等が複数年度(最大10年)にわたって技術開発に取り組めるよう支援する、と記載されています。
支援先には、技術成熟度が高く民間企業が主体となる事業実証から、大学や国立研究開発法人が主体となる革新的技術開発までが含まれます。
なお、宇宙産業の市場規模については、金額の数値を一次資料の原文で確認できませんでした。
確認できていない数字は、この記事には載せません。
ここでいえるのは、民間企業と大学の長期の技術開発を支える制度が実際に動いている、という事実までです。



宇宙の仕事は時間の単位が長いんだ。ぼくも設計寿命10年のはずが40年働いたからね。腰を据えて取り組める場所が用意されているのは、大きいことだよ。
衛星データ利用や地上システムなどメーカー以外の職域がある
衛星を「つくる」以外の職域は、公開されている募集職種の一覧から具体的に読み取れます。
Synspectiveの部門構成を例にすると、次のような領域が並びます(出典: Synspective 募集職種一覧)。
- 地上システムとデータ処理を担う部門には、レーダー画像の処理や地上システム横断のアーキテクトといった職種が掲載されることがあります。
- ソフトウェア側の部門には、フルスタックエンジニアやアプリケーション開発エンジニアが置かれています。
- 事業側の部門には、データプリセールス、テクニカルカスタマーサクセス、カスタマーエンジニアなど、顧客と技術をつなぐ職種があります。
- 管理部門にも、セキュリティエンジニアや社内弁護士など、専門性を持った職種が並びます。
JAXAのキャリア採用でも、職種区分に「情報・サイバーセキュリティ、情報システム基盤」や「安全・信頼性・品質管理」「事業推進・管理系」が含まれています(出典: JAXA「キャリア採用」)。
機体を設計する道だけが宇宙への入口ではありません。
データを扱う仕事、システムを支える仕事、顧客に技術を届ける仕事のいずれからも、宇宙分野に関わる形があります。
求人は宇宙という語ではなく職種名で探すと見つかりやすい
冒頭で触れた「求人が見えない」問題には、実務的な解き方があります。
検索語を、企業が求人票で使っている語彙へ置き換えることです。
- 設計、開発試験、生産技術、品質保証といった機能名で探す(三菱重工業やIHIエアロスペースの職種区分がこの形です)
- Systems Engineer、システムズエンジニアという語で探す(Synspectiveの衛星開発部門やプログラム管理部門の職種名がこの形です)
- 画像処理、データ解析、バックエンド、ミッションコントロールなど、扱う対象や工程の名前で探す
- 情報システム、情報セキュリティ、品質管理といった、宇宙機関の職種区分の言葉で探す
これらの語で見つかった募集要項を開き、業務内容の記載を読んでください。
そこにロケットや人工衛星の名前が出てくれば、それが宇宙の求人です。
特定の転職サービスを使わなくても、各社の公式採用ページを直接読むだけで、この確認は進められます。
在学中に選択肢を広げるなら研究の説明と学外の実務接点を作る
在学中にできることは、気持ちの持ち方ではなく行動の設計です。
選考の場で効く形に落として考えます。
研究テーマを専攻名ではなく技術要素の言葉で説明できるようにする
同じ研究でも、説明の仕方で応募できる範囲が変わります。
「宇宙機の姿勢制御をやっています」と伝えると、聞き手は宇宙の話として受け取ります。
「多入力系の制御設計と、実機を使った検証をしています」と伝えると、制御開発を行う企業すべてが聞き手になります。
内容を変えろという話ではありません。
技術要素の言葉に翻訳するだけです。
先に見たSynspectiveの募集要項が、必須条件として求めていたのはMATLABとSimulinkの使用経験でした。
研究室でモデルを組み、パラメータを振り、実機のデータと突き合わせた経験があるなら、それはそのまま条件に対応する内容です。
「宇宙をやっていました」という説明では、この対応関係が相手に伝わりません。
翻訳の作法は、次の3点を言葉にする作業です。
何を対象にモデルを立てたのか、どのような手法で解いたのか、結果をどう検証したのか。
この3点がいえると、業種を横断して同じ説明が使えます。
研究テーマを選ぶ段階で身構える必要もありません。
テーマが宇宙寄りでも、使っている道具と考え方は他の分野と共通しています。
超小型衛星や学生ロケットなど学外プロジェクトで実物に触れる
実物を触った経験は、選考の場で語れる材料になります。
学生が参加できる取り組みには、公式に運営されているものもあります。
大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)は、高等専門学校生・大学生の実践的な教育活動を支援する組織です(出典: UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム))。
掲げているキャッチフレーズは「宇宙を、見る人から、作る人へ」。
関連する活動として、CubeSat(1辺10cmの立方体を1単位として組み合わせる標準規格の超小型衛星。出典: NASA「What are SmallSats and CubeSats?」)、缶サット、ハイブリッドロケット、ARLISS(ロケットを用いた国際学生衛星打上プログラム)、能代宇宙イベント、CLTP(CubeSatトレーニングプログラム)などが紹介されています。
こうした活動が選考で効くのは、宇宙に関わったからではありません。
限られた予算と期限のなかで要求を決め、設計し、つくり、試験して、うまくいかない箇所を直すという一連の流れを経験できるからです。
チームで役割を分けて開発する経験も含まれます。
不具合が出たときにどう切り分けたか、という話は、面接で最も具体的に語れる部分です。
うまくいった話より、うまくいかなかった箇所をどう追い込んだかのほうが、技術者の仕事の中身をよく表します。
参加できる活動は大学や地域によって差があります。
自分の在籍先で何ができるかは、所属大学の研究室や学生団体の公式ページで確認してください。
学部卒と修士卒で応募できる職種の範囲が変わる点を早めに知る
進学するかどうかの判断には、募集要項の記載が使えます。
求める学位が、企業や職種によってはっきり違うからです。
三菱重工業の新卒採用の応募資格は「2027年3月に大学卒業もしくは大学院修了見込みの方」で、学部卒も対象に含まれます(出典: 三菱重工業「募集要項・選考フローについて」)。
同ページに載っている初任給は、大学卒が月給28万5,000円、修士卒が月給30万5,000円(いずれも2026年4月初任給)。
一方、Synspectiveの新卒募集の一部は、応募資格を「理系の大学院を卒業予定の方」に限定しています(出典: Synspective「27年度新卒(院卒)データプロダクション部 エンジニア」)。
学位が絞られている募集も、現実にあるわけです。
さらに専門性の高い区分では、要件が上がります。
JAXAの宇宙航空プロジェクト研究員は、応募資格が博士号取得者(採用時点で博士号取得から5年以内)または同等の研究能力を有する者とされています。
推測で一般化すると、判断を誤ります。
「学部卒では宇宙の仕事に就けない」も「院卒でなければ相手にされない」も、募集要項を読めば当てはまらない例がすぐ見つかります。
志望先の候補をいくつか決めて、応募資格の欄だけでも学部3年のうちに読んでおくと、進学の判断が具体的になります。


社会人から宇宙分野へ移るときは実務経験が専攻より先に見られる
すでに働いている方にとっては、選考の見られ方が学生とは変わります。
ここも募集要項の記載から確認します。
中途採用は職種単位の募集なので出身専攻より担当領域が問われる
中途採用は、空いているポジションに対して人を探す形で行われます。
そのため問われるのは、卒業した学科ではなく、何を担当してきたかです。
JAXAのキャリア採用の応募資格は、この違いを分かりやすく示しています。
学歴要件は「短大・高専・専門学校 卒業以上」。
実務経験の要件は「募集職務に応用できる分野での実務経験3年以上(宇宙航空分野に限らない。大学院在籍期間は含まない。)」と明記されています(出典: JAXA「キャリア採用」)。
宇宙航空分野の経験でなくてよい、と公式に書かれています。
選考の流れも公開されています。
同ページによると、申込(仮エントリー)、動画録画によるエントリー、書類・録画選考、原則ウェブ上で2回のオンライン面接(募集職務によっては対面面接の場合もあります)という順で進みます。
各段階の結果通知には約1か月前後を要すると記載されています。
民間企業側も同じ考え方です。
先に触れたSynspectiveのSatellite Systems Engineerでは、宇宙業界での実務経験が必須ではなく歓迎条件に置かれ、必須は技術分野の学士号と5年以上の設計・実装の実務経験でした。
なお、宇宙関連企業の職種別の年収については、公的統計でも各社の公式情報でも確認できるものが見つかりませんでした。
金額の相場は、この記事では未公表として扱います。
機械と電気とソフトの経験は宇宙側では呼び名が変わるだけのことがある
前職の担当領域と、宇宙側の職種名の対応を並べてみます。
公式採用ページに掲載されていた職種名だけを使いました。
| これまでの担当領域 | 宇宙側で対応する職種名の例 | 掲載元 |
|---|---|---|
| 機械設計・構造解析 | 衛星構造開発エンジニア/設計/開発・設計 | Synspective、三菱重工業(宇宙事業)、IHIエアロスペース |
| 電源・電気回路 | Senior EPS Engineer(衛星電源系)/電気推進系エンジニア | Synspective |
| 制御・モデルベース開発 | Satellite Systems Engineer | Synspective |
| 組込み・バックエンド開発 | システムエンジニア(ミッションコントロール)/BackEnd Engineer | Synspective |
| 画像処理・データ分析 | SAR Image Processing Engineer/SARデータ分析エンジニア | Synspective |
| 生産技術・品質保証 | 生産技術・管理/品質保証/品質管理エンジニア | 三菱重工業(宇宙事業)、IHIエアロスペース、Synspective |
(出典: Synspective 募集職種一覧、三菱重工業「宇宙事業 キャリア採用」、IHIエアロスペース「採用情報」。募集職種は随時入れ替わるため、掲載状況は各社の公式ページで確認してください)
表にあるSenior EPS EngineerのEPSは、衛星の電源システムを指す略語です。
募集要項では、地球観測衛星の電源システムの設計・製造・試験・検証をリードする役割と説明されています(出典: Synspective「Senior EPS Engineer」)。
もちろん、呼び名が同じでも要求は同じではありません。
宇宙機は打ち上げの振動と真空と放射線にさらされ、故障しても現地で直せません。
その前提から、試験と検証の作り込み方、変更管理の厳しさが変わります。
それでも、出発点になる技術は地上の仕事と地続きです。
足りない部分は入ってから埋める前提で募集が組まれているからこそ、応募資格に「宇宙航空分野に限らない」と書かれています。



ぼくの体をつくってくれた人たちも、もとは飛行機や電気の仕事をしていた人ばかりだったよ。宇宙で生まれた技術者なんて、ひとりもいないんだ。


よくある質問
まとめ 宇宙工学の就職は選択肢の探し方で結果が変わる
「宇宙工学は就職がない」という言葉の中身を、公表資料で分解してきました。
東京大学の航空宇宙工学科では、学部卒業生の97%が修士へ進み、修士修了者の行き先は機械・精密28%、IT・コンサル・金融・商社23%、博士進学22%と業種をまたいで分かれます。
大阪公立大学の公表値は、卒業生の約80%が大学院へ進学、就職率は学域・大学院とも100%。
東北大学の機械知能・航空工学科でも、学部卒業後の進学率は約90%です。
日本大学理工学部の就職先一覧を見ると、重工業、自動車、航空、鉄道の企業名が並びます。
求人が見つからないのは、専攻名で探しているからです。
企業が使っているのは、設計、開発試験、生産技術、品質保証、Systems Engineerといった職種の言葉でした。
中途採用に至っては、JAXAが応募資格に「宇宙航空分野に限らない」と明記しています。
同時に、狭い部分があるのも事実です。
宇宙を主事業とする企業の採用枠は、大手の自動車メーカーや電機メーカーほどの規模ではありません。
その狭さを認めたうえで、条件をひとつずつ外していくのが現実的な進め方だと編集部は考えています。
もうひとつ、この分野の仕事には長い時間軸があります。
JAXAの宇宙戦略基金が最大10年の技術開発を支援対象にしているように、成果が出るまでに年単位、時に十年単位を要する仕事です。
人類が地球の外で存在し続ける道を探ることも、そのために地球を長く住める場所として保つことも、一世代では終わりません。
その長い作業の、どこから加わるか。
ここまで読んできたのは、その入口の話です。



ぼくが40年かけて見てきた景色は、誰かがぼくを設計してくれたから届いたんだ。君の手が、次の目になるかもしれないよ。
出典
- 東京大学 大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻/工学部 航空宇宙工学科「卒業生進路」
- 大阪公立大学 工学部 航空宇宙工学科/工学研究科 航空宇宙工学分野「卒業後の進路」
- 大阪公立大学 工学部 航空宇宙工学科
- 東北大学工学部 機械知能・航空工学科「進路・就職情報」
- 日本大学理工学部 航空宇宙工学科「就職」
- JAXA「採用情報」
- JAXA「キャリア採用」
- JAXA「宇宙航空プロジェクト研究員採用」
- JAXA宇宙戦略基金「宇宙戦略基金について」
- 内閣府 宇宙政策「宇宙基本計画」
- 三菱重工業「宇宙事業 キャリア採用」
- 三菱重工業「募集要項・選考フローについて」
- IHIエアロスペース「採用情報」
- Synspective「Recruit Site(募集職種一覧)」
- Synspective「Satellite Systems Engineer」
- Synspective「Senior EPS Engineer」
- Synspective「27年度新卒(院卒)データプロダクション部 エンジニア」
- UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)
- NASA「What are SmallSats and CubeSats?」



