- 「宇宙飛行士の募集、次はいつ始まるんだろう」
- 「エンジニアの自分でも、応募資格を満たせるのかな」
- 「募集が出てから準備を始めたのでは、もう遅いのでは」
結論から書きます。
この記事の執筆時点で、JAXA宇宙飛行士候補者の募集は受付されていません。
次回の時期についても、JAXAから公式な発表は出ていません。
ただし前回の募集要項は今も公開されたままで、応募資格も選抜の流れも処遇も、そこに数値まで書かれています。
この記事は、JAXA公式の募集要項・プレスリリース・有人宇宙技術部門のよくある質問を確認のうえ、ASTROWORKS編集部がまとめています。
この記事で分かることは次のとおりです。
- 次回募集についてJAXAが公表している唯一の情報と、それをどう読むか
- 2021年度募集要項に書かれた応募資格・職務内容・給与
- 書類選抜から第三次選抜までの5段階と、前回の応募者数の内訳
- 発表を待つ間に積み上げられる準備5つ
読み終える頃には、今の自分に足りないものと、発表を待っている今日から手をつけられることがはっきりします。
ほしまるぼくは40年ぶんの旅をしてきたけれど、そのうち何年かは打ち上げを待つ地上の日々だったんだ。待っている時間は、何もしていない時間じゃないよ。
※記事の要点は、以下のスライドでもサッと確認できます。
宇宙飛行士の募集は次回未定でJAXAの公式発表を待つ段階
まず、公式情報がどこまで語っているのかを確認します。
検索で見かける「次はこの年」という話の出どころも、あわせて切り分けます。
直近の募集はすでに選抜結果まで終わり現在は受付をしていない
直近の宇宙飛行士候補者募集は、2021年度に行われたものです。
受付期間は2021年12月20日(月)から2022年3月4日(金)まで。
健康診断結果(健康診断書を含む)の提出についてのみ期限が1ヶ月延長され、4月4日(月)日本時間正午が締め切りになりました。
採用人員は「若干名」と記載されていました(出典: JAXA「2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項」)。
この募集はすでに終わっています。
募集要項では最終選抜結果の通知時期を2023年2月頃としており、実際に2023年2月28日、JAXAは候補者2名の決定を発表しました。
選ばれたのは諏訪理さんと米田あゆさんの2名です(出典: JAXA「JAXA宇宙飛行士候補者(2021~2022年度 募集・選抜)の決定について」)。
募集専用の特設サイト「Hello! EXPLORERS PROJECT」には、現在「募集は終了しました」と表示されています。
次回については「次回の募集の予定は、決まり次第JAXAホームページ等でお知らせいたします」と書かれているだけです。
サイトに掲載されている最新のお知らせも2023年4月6日付で、新しい募集に関する告知は出ていません。
つまり今は、応募したくても応募先そのものが開いていない状態です。
次回時期の唯一の公式情報はJAXAのよくある質問にある
では、次回についてJAXAは何ひとつ語っていないのかというと、そうではありません。
JAXA有人宇宙技術部門の「よくある質問」には「次回宇宙飛行士募集はいつですか」という項目があり、回答はこの一文だけです。
2021年以降、約5年おきの募集を予定しております。
(出典: JAXA 有人宇宙技術部門 よくある質問「次回宇宙飛行士募集はいつですか」)
これが、次回時期について現時点で確認できる唯一の公式な手がかりです。
そして、この文はあくまで「予定」です。
実施時期も間隔も、JAXAの計画や国際宇宙探査の状況によって変わります。
ここから特定の年月を逆算し、確定した予定として扱うのは適切ではありません。
それでも、この一文から読み取れることはあります。
JAXAが次の募集を単発の思いつきではなく、継続的な計画として位置づけているという事実です。
前回のように、次がいつ来るのか見当もつかない状態とは前提が違います。
最新の状態は下記URLから直接確認できますので、気になったときはご自身で開いてみてください。
https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000445.html
報道で示された公募の見通しは公式発表とは切り分けて考える
宇宙飛行士の募集について検索すると、具体的な年を挙げた見通しや、応募資格の変更に触れた記事に行き当たることがあります。
このような情報に触れたときは、次の3層に分けて考えると混乱しません。
- JAXAが公式サイト・報道発表・募集要項で発表した事実
- 報道機関が取材にもとづいて報じた見通し
- 解説サイトや個人が公式情報から推測して書いた内容
3層目は根拠が公開されていないことが多く、応募の判断材料にはなりません。
2層目の報道は、媒体名と掲載日を確認したうえで「JAXAの公式発表ではない」と留保をつけて読む対象です。
この記事の執筆にあたっては、公募の見通しを報じた記事について本文を取得できませんでした。
そのため、報じられた内容には触れていません。
JAXAの特設サイトにも報道発表にも、新しい募集の告知は出ていない状態です。
記憶や伝聞で「次は◯年らしい」と判断するより、公式ページを自分で開いて確かめるほうが確実です。
募集開始を最初に知る導線は特設サイトとJAXAの報道発表
告知を見逃さないために見ておく場所は、3つあります。
- JAXA宇宙飛行士候補者募集の特設サイト「Hello! EXPLORERS PROJECT」。募集要項・お知らせ・前回の選抜レポートが集まる場所です
- JAXAの報道発表。前回の募集要項は2021年11月19日付で公開されました
- JAXA有人宇宙技術部門のサイト。よくある質問や現役宇宙飛行士のプロフィールが更新されます
前回の受付期間は、2021年12月20日から2022年3月4日までの約2ヶ月半でした。
この間にエントリーシートを書き上げ、医療機関で健康診断を受け、その結果まで入力する必要がありました。
告知を知った時点で健康診断の予約から始めると、それだけで日程が厳しくなります。
募集の開始を知る導線を用意しておくことと、始まってから動ける状態を作っておくことは、別の話です。



ぼくの打ち上げ日は、何度も延びたんだ。でも延びているあいだも点検は続いていた。日付が決まってから慌てる機体は、たいてい間に合わないよ。
応募資格と処遇は募集要項にすべて明記されている
ここから紹介するのは、すべて2021年度募集要項の内容です。
次回の要項で条件が変わる可能性は、常にあります。
学歴要件はなく実務経験の年数が資格の中心にある
2021年度募集要項の応募資格は、次の2つを両方満たすことでした。
ひとつは「2021年度末(2022年3月末)の時点で、3年以上の実務経験を有すること」。
もうひとつは、身長や視力などの医学的特性の条件です。
学歴や専攻に関する条件は、この要項には書かれていません。
実務経験の年数には注記があり、「修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の実務経験とみなします」とされています(出典: 募集要項 4.応募資格)。
学位を持っている人はその分だけ年数に読み替えられる、という設計です。
理系か文系かという区分ではなく、実務経験の年数と中身が問われる構造になっています。
これはエントリーシートの記載項目にも表れていました。
「業務歴(詳細)」の欄では、期間・テーマ・専門分野・実施形態(個人またはチーム)・自身が成し遂げた成果・チームでの役割まで書くよう求められています。
専門分野の分類には「情報」「計測・制御」「電気・電子・通信」「機械・航空・宇宙工学」「材料・金属」といった区分が並びます。
ソフトウェア開発、組み込み、制御、センサー、機械設計などの実務は、この分類の中にそのまま置ける経歴です。
身長や視力などの医学的特性が数値で定められている
医学的特性は、募集要項に数値で明記されていました。
- 身長 149.5-190.5cm
- 視力 遠距離視力 両眼とも矯正視力1.0以上
- 色覚 正常(石原式による)
- 聴力 正常(背後2mの距離で普通の会話可能)
誤解が多いのが視力です。
条件は矯正視力で、裸眼視力の条件は書かれていません。
JAXAのよくある質問でも、眼鏡やコンタクトレンズで1.0以上に矯正できれば宇宙飛行士を目指せると説明されています。
ただし屈折度などの基準があり、PRK手術やLASIK手術を受けた場合にも基準があるとされています。
色覚については、航空機や宇宙船の機器・表示を色で識別する場面が安全に直結するため、検査で正常であることが国際医学基準とされています(出典: JAXA 有人宇宙技術部門 よくある質問「目が悪いと宇宙飛行士になれないのですか」)。
身体的な条件は、応募資格の先にも出てきます。
募集要項の留意事項には、宇宙服サイズの制約から担当する宇宙飛行士には身体的特性の条件があり、身体的特性によってはミッションが制約される可能性があると書かれています。
例として挙げられているのは、ソユーズ宇宙船の搭乗条件にある体重50-95kgの規定です(出典: 募集要項 11.留意事項(3))。
応募資格を満たすことと、あらゆるミッションに就けることは同じではない、という説明になっています。
日本国籍を含む欠格事由が資格の前提になっている
応募資格には、満たすべき条件とは別に、該当すると応募できない条件が列挙されています。
募集要項の記載は次のとおりです。
- 日本国籍を有しない者
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの者又はその刑の執行猶予の期間中の者その他その執行を受けることがなくなるまでの者
- 日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
- 反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有している者
(出典: 募集要項 4.応募資格)
この4項目は、エントリーシートでも「応募資格確認」の欄として設けられ、いずれにも該当しないことをチェックする形式になっていました。
形式的な確認に見えますが、扱いは厳格です。
留意事項には、提出された書類に虚偽の記載があった場合、または記載すべき事実を記載しなかった場合、採用が取り消されることがあっても異存がないことを了承する、と書かれています。
第一次選抜の合格者は誓約書に署名します。
経歴も健康状態も、正確に書くことが前提になっている選抜です。
職務は訓練と搭乗だけでなく技術業務と広報にも及ぶ
募集要項の職務内容は、4つの区分で書かれています。
- 訓練業務。航空機操縦訓練、ジェット機による無重力体感訓練、サバイバル訓練などが含まれ、英語とロシア語も習得します
- 搭乗業務。最長6ヶ月間程度のISSでの長期滞在、船外活動、ゲートウェイでの短期滞在、月面着陸船への搭乗、月面での船外活動までが並びます
- 技術業務。専門的な研究活動、システム・実験機器の開発、宇宙飛行士との通信を行う交信担当や手順検証などの運用業務、マネージメント業務を担います
- アウトリーチ業務。宇宙開発に関わる普及啓発活動に、積極的な参加が求められます
宇宙で過ごす時間より、地上での訓練と技術業務の時間のほうが圧倒的に長い職務設計です。
募集要項はその点を隠していません。
留意事項には、選抜された後、搭乗業務を行うまでの訓練業務が長くて7~10年間程度に及ぶことがあると明記されています。
訓練結果の評価やISSやアルテミス計画の変更などにより、宇宙飛行できない場合があるとも書かれています。
宇宙飛行士候補者になることと、宇宙へ行くことは、地続きではあっても同じではありません。
給与と勤務地はJAXA職員の規程に沿って決まる
処遇は「宇宙航空研究開発機構職員給与規程」によって決まり、給与は経歴などを考慮のうえJAXAの規定により決定されます。
募集要項に記載された本給(月額)の目安は、30歳で約32万円、35歳で約36万円でした。
これは本給の目安であって、年収でも実際の支給額でもありません。
これに加えて、昇給が年1回、賞与が年2回。
諸手当として超過勤務手当・住居手当・通勤手当・特殊勤務手当・宇宙飛行士手当などが挙げられており、退職金制度もあります。
勤務条件も具体的です。
完全週休2日制で、定年は60歳(再雇用制度あり)。
主な勤務地はJAXAの筑波宇宙センター(茨城県つくば市)で、米国・ロシア・欧州・カナダの宇宙機関の訓練施設などでも訓練を行います。
候補者訓練期間の一部、最初の搭乗ミッション決定までの期間、搭乗ミッション決定後は、長期出張や海外宇宙機関への赴任になると書かれています(出典: 募集要項 12.処遇)。
これらは国立研究開発法人の職員としての処遇体系です。



ぼくの設計寿命は10年だったのに、40年働いたんだ。それでも給料の話は一度も出てこなかったよ。この仕事は、そういう仕事なんだ。


選抜は書類審査から三次選抜まで段階を追って進む
応募したあと何が起きるのかを、段階順に見ていきます。
前回は受付開始から最終結果の通知まで、1年以上かかりました。
書類選抜で最も多くの応募者が落ちたのは医学審査だった
前回の書類選抜の結果は、実数で公表されています。
応募者4,127名に対し、合格者は2,266名、不合格者は1,860名、辞退者は1名でした。
不合格の内訳は、応募資格非該当が416名、医学審査不合格が1,444名です(出典: JAXA「2021年度 宇宙飛行士候補者の書類選抜結果について(補足説明)」)。
最初の関門で落ちた1,860名のうち、8割近くが医学審査によるものだったという数字です。
応募資格の年数や国籍の条件でつまずいた人よりも、健康診断の結果で条件に届かなかった人のほうがはるかに多かった、ということになります。
エントリーシートには身長・体重・BMI・血圧・脈拍のほか、視力や色覚、聴力、血液検査、尿検査の結果まで入力する項目がありました。
書類選抜は書類の巧拙を競う段階ではなく、資格と健康状態の適合を機械的に確認する段階だと分かります。
なお、この募集で最終的に候補者として決まったのは2名です。
第0次選抜は英語試験とSTEM分野の筆記が中心になる
書類選抜を通過すると、第0次選抜に進みます。
この段階は2つに分かれていて、最初に行われるのが英語試験です。
その合格者だけが、次の審査に進みます。
英語試験の合格者に課されたのは、次の内容でした。
- 一般教養試験(大学の教養課程相当)
- STEM分野の試験(国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)相当)
- 小論文
- 適性検査
- エントリーシート(志望動機、自分の目指す宇宙飛行士像、業務経験等)による審査
STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の略だと募集要項に注記されています。
応募資格に学歴や専攻の条件がなくても、STEM分野の知識と英語は選抜の早い段階で実際に測られます。
前回の日程は、英語試験が2022年5月8日(日)で、代替日程はありませんでした。
一日で複数の筆記試験を受け切る形式なので、当日の体調管理まで含めた準備が要ります。
一次から三次は医学検査と資質特性と面接を重ねる
第一次選抜から第三次選抜までは、医学検査・資質特性検査・面接試験を繰り返す構成です。
募集要項に記載された内容と、前回の実施時期は次のとおりでした。
| 選抜段階 | 主な試験・検査 | 前回の実施時期 |
|---|---|---|
| 第一次選抜 | 一次医学検査、医学特性検査、プレゼンテーション試験、資質特性検査、運用技量試験 | 2022年7月頃(2日間程度) |
| 第二次選抜 | 二次医学検査、医学特性検査、面接試験(英語、資質特性、プレゼンテーション) | 2022年10月頃(約1週間) |
| 第三次選抜 | 三次医学検査、医学特性検査、資質特性検査、運用技量試験、面接試験(総合、英語、プレゼンテーション) | 検査・試験は2023年1月頃(約3週間)、面接試験は2023年2月頃(約2日) |
実施場所として挙げられていたのは、JAXA筑波宇宙センター、JAXA東京事務所、海外(予定)ほかです。
段階が上がるほど拘束期間が長くなり、第三次選抜では約3週間の検査期間が設定されていました。
働きながら受ける前提だと、この期間の確保そのものが課題になります。
この日程は前回の予定であり、次回も同じとは限りません。
募集要項にも、記載は公開時点での概要であり、第0次選抜以降の各選抜試験の実施時期・詳細は一つ前の段階の合格者のみに通知すると書かれています。
選抜スケジュールが変更となる場合がある、という但し書きも添えられています。
合格後も基礎訓練を終えるまで宇宙飛行士とは呼ばれない
最終選抜を通過して得られる肩書きは、宇宙飛行士ではなく「宇宙飛行士候補者」です。
募集要項には、候補者訓練の修了後、訓練結果の評価によりJAXA宇宙飛行士に認定されると書かれています。
2023年2月28日のプレスリリースでも、約2年間の基礎訓練を経て、訓練結果の評価によりJAXA宇宙飛行士に認定されると説明されました。
実際の経過も公開されています。
米田あゆ宇宙飛行士は2023年4月にJAXAへ入構し、宇宙飛行士候補者として基礎訓練を行い、2024年10月にJAXA宇宙飛行士に認定されました。
諏訪理宇宙飛行士は2023年7月にJAXAへ入構し、同じく2024年10月に認定されています(出典: JAXA 有人宇宙技術部門 JAXA宇宙飛行士 米田あゆ/諏訪理)。
受付開始が2021年12月、候補者決定が2023年2月、認定が2024年10月。
応募してから宇宙飛行士と呼ばれるまでに、3年近くが経っている計算になります。
そのうえで、搭乗業務までの訓練が長くて7~10年間程度に及ぶことがあると要項に書かれているわけです。
短距離走ではなく、区切りの多い長距離走だと考えたほうが実態に近い構造です。


発表を待つ間に積み上げられる準備は5つある
募集要項の応募資格・評価する特性・留意事項から逆算すると、告知を待つ間にできることが見えてきます。
以下の5つは、すべて要項の記述に紐づくものです。
専門分野の実務経験を年数と中身の両方で積む
年数の条件は、待っている間にも自動的に積み上がります。
応募資格は3年以上の実務経験で、修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の実務経験とみなされます。
今日から新しく何かを始めなくても、目の前の仕事を続けているだけで条件に近づきます。
ただし、見られるのは年数だけではありません。
募集要項の「評価する特性」には、STEM分野の知識や論理的思考力、円滑な意思の疎通が図れる英語能力とともに、教育や実務経験等の中で取り組んできたことにおける専門性が挙げられています。
エントリーシートの業務歴の欄でも、テーマ・専門分野・実施形態・自身が成し遂げた成果・チームでの役割まで求められました。
「何年やったか」に加えて「何をやったか」を語れる状態にしておく必要があります。
宇宙とは無関係に見える仕事でも、この形式には収まります。
制御ソフトの信頼性設計、センサーの校正、量産ラインの品質改善、故障解析の進め方。
専門分野の分類に「情報」「計測・制御」「電気・電子・通信」「機械・航空・宇宙工学」が並んでいることを思い出してください。
今の仕事の記録を、期間と役割と成果の形で残しておくことが、そのまま準備になります。
英語は試験と訓練の両方で使える水準まで引き上げる
英語は、選抜の入口であり、採用後の業務言語でもあります。
第0次選抜では最初に英語試験が行われ、その合格者だけが次の審査に進みました。
第二次選抜と第三次選抜には、英語の面接試験が含まれます。
選抜を通過したあとも、候補者訓練で英語とロシア語を習得すると職務内容に書かれています。
求められるのは、読み書きだけの英語ではありません。
評価する特性にも「円滑な意思の疎通が図れる英語能力」が挙げられています。
求める人物像には、国際共同事業や多国籍なメンバーシップのチームの中で協調性とリーダーシップを発揮できること、という項目が並びます。
議論と説明に耐える英語が求められる構造です。
スコアの基準は、募集要項には書かれていません。
エントリーシートの語学能力欄では、言語レベル(S:ネイティブ、A:技術調整、B:日常会話、C:辞書で読解可能)と、TOEFL・TOEIC・実用英語技能検定・CEFRなどのスコアや級、受験時期を書く形式になっていました。
何点あれば通るという公式の目安は示されていないので、点数だけを目標にするより、業務で使える水準を上げていくほうが要項の記述に合っています。
医学審査を通れる健康状態を今から維持する
前回の書類選抜で不合格になった1,860名のうち、1,444名が医学審査による不合格でした。
そして選抜が進んでも医学検査は終わりません。
第一次選抜で一次医学検査、第二次選抜で二次医学検査、第三次選抜で三次医学検査と、段階ごとに繰り返されます。
医学特性検査も各段階に置かれています。
応募の時点でも、医療機関を自分で受診し、その結果をエントリーシートに入力する必要がありました。
前回の健康診断項目は、身長・体重・BMI・腹囲・座高・血圧・脈拍といった一般項目に加え、眼科(色覚、遠距離視力、屈折検査、角膜曲率半径計測)、耳鼻科の聴力検査、血液検査、尿検査まで及びます。
この受診料は応募者の負担とされていました。
第一次選抜までの受験・検査に必要な旅費も応募者負担です。
この記事で健康法やトレーニング方法を勧めることはしません。
根拠のある推奨を書ける材料が、公開情報の中にないからです。
確かなのは、応募を思い立ったその日の健康状態が、そのまま最初の関門になるという点だけです。
数値が気になるなら、まず健康診断の結果を手元で確認するところからになります。
泳力と普通自動車免許は選抜後の要件を先取りできる
募集要項の留意事項には、選抜された宇宙飛行士候補者に要求される事項が書かれています。
応募条件ではありませんが、内容は具体的です。
- 選抜後、基礎訓練時に必要な泳力(水着及び着衣で75m:25m x 3回、10分間立ち泳ぎ)を習得します
- 米国勤務当初に必要な国際免許の取得のため、日本の普通自動車免許を取得します
- 訓練業務及び搭乗業務のため、長期間にわたり海外及び宇宙での勤務をします
このうち泳力と免許は、待っている間に潰しておける項目です。
泳力は水着だけでなく着衣での75mが含まれていて、普段泳がない人にとってはそれなりの練習が要ります。
普通自動車免許も、取得までに数週間から数ヶ月かかります。
どちらも「選抜に通ってから」でも間に合う建て付けではありますが、候補者訓練が始まってからの負荷を思えば、先に済ませておくほうが軽いはずです。
資格として履歴に書けるものでもあるので、待ち時間の使い道としては分かりやすい部類です。
発信力とチームでの実績を記録として残しておく
求める人物像には、多国籍なチームの中で協調性と十分なリーダーシップを発揮できること、そしてミッションで得た経験・体験・成果を世界中の人々と共有する表現力・発信力があることが挙げられています。
評価する特性にも、ミッション遂行能力(自己管理、コミュニケーション、状況認識、リーダーシップ、問題解決、チームワーク、マルチタスク等)と、自らの体験や成果などを外部に伝える豊かな表現力と発信力が並びます。
これは選抜の形式にも反映されています。
プレゼンテーション試験は第一次選抜にあり、第二次選抜と第三次選抜の面接試験にも含まれます。
3段階にわたって、人前で説明する力が測られる設計です。
準備といっても、話し方の練習だけを指すわけではありません。
エントリーシートには「発表論文、著作等」の欄があり、学会や研究会での報告、解説、著作、特許を書く形式になっていました。
「特殊な環境での経験」を最大3つまで具体的に書く欄もあります。
社内勉強会での登壇、技術記事の執筆、チームリードとして進めた改善。
そのときは記録に残すほどでもないと思った仕事が、あとで語れる材料になります。
日付と役割と結果を、その都度メモしておく価値はあります。



ぼくが40年ぶんの旅で持ち帰れたのは、こまめに送り続けた記録だけなんだ。あとから思い出そうとしても、もう電波は届かないよ。
宇宙で働く道は宇宙飛行士の募集だけではない
宇宙飛行士の募集は、採用人員が若干名で、しかも数年に一度です。
その一方で、有人宇宙開発を地上で支える仕事は、募集のない期間も動き続けています。
宇宙飛行士の活動は地上の職種に支えられている
宇宙飛行士の職務内容には、地上側の仕事が具体的に書かれています。
募集要項の技術業務に挙げられているのは、次のような内容です。
- 宇宙飛行士との通信を行う交信担当や手順検証などの運用業務
- 宇宙飛行及び訓練で積み重ねた経験を活かした、専門的な研究活動、システム・実験機器の開発
- 飛行士育成や訓練開発支援
これらは宇宙飛行士自身が担う業務として書かれたものですが、裏を返せば、地上には同じ領域を専門に担当する人たちがいるという意味でもあります。
交信の手順を作る人、実験機器を設計する人、訓練プログラムを組み立てる人。
ISS計画に参加する日本・米国・ロシア・欧州・カナダの宇宙機関それぞれに、訓練を設計し運用する体制があります。
JAXA有人宇宙技術部門のサイトでも、「JAXA宇宙飛行士」と並んで「地上で支える人びと」というコーナーが設けられ、スペシャリストの声やプロジェクトトークが紹介されています。
どのような職種があり、どのような経歴の人が就いているかは、そこで実名の記事として読めます。
具体的な人数や年収は公開されていないため、この記事では推測を書きません。
採用の入口と時期は機関や企業ごとに異なる
宇宙飛行士候補者の募集と、宇宙機関や企業の技術職採用は、まったく別の枠組みで動いています。
前者は採用人員が若干名で、JAXAが公表しているのは約5年おきの予定という一文だけです。
後者は、組織ごとの採用計画に沿って動きます。
たとえばJAXAの採用情報ページには、宇宙飛行士候補者募集とは別の区分として、新卒/既卒採用、キャリア採用、宇宙航空プロジェクト研究員、招聘職員採用、カムバック採用などが並んでいます(出典: JAXA 採用情報)。
民間企業についても、採用の時期や条件は各社の公式採用ページで公開されています。
募集状況は時期によって変わるため、この記事では個社の状況を書きません。
関心のある組織があれば、その公式採用ページを直接確認するのが確実です。
宇宙飛行士の募集が出ていない期間は宇宙に関わる仕事の入口が閉じている、という理解は事実と合いません。
入口の数も開くタイミングも、枠組みごとに違います。



ぼくが土星の環を撮れたのは、地上でカメラの露出を計算してくれた人がいたからなんだ。宇宙に行った機体だけが、宇宙の仕事をしているわけじゃないよ。
宇宙飛行士の募集に関するよくある質問
まとめ 宇宙飛行士の募集は待つ間の準備で差がつく
宇宙飛行士の募集について、この記事で確認したことを整理します。
次回の募集時期は公式には未定で、JAXAが示しているのは約5年おきの募集を予定しているという一文だけです。
前回の応募資格は学歴不問で、3年以上の実務経験と医学的特性が軸でした。
選抜は書類選抜から第三次選抜までの5段階で、受付開始から結果通知まで1年以上かかっています。
待っている間に積み上げられるのは、専門分野の実務、英語、健康状態、泳力と普通自動車免許、そして実績の記録の5つです。
どれも募集要項に書かれた条件から逆算したもので、告知を待ってから始めるには重いものばかりです。
告知は特設サイトとJAXAの報道発表に出ます。
そして宇宙飛行士を地上で支える職種や、宇宙機関・企業の採用の枠組みは、募集の有無とは別に動き続けています。
告知が来た日に動ける状態は、今日から積み上げられます。
出典
- 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項」(2021年11月19日/2022年2月10日更新)
- JAXA宇宙飛行士候補者募集 特設サイト Hello! EXPLORERS PROJECT
- JAXA「2021年度 宇宙飛行士候補者の書類選抜結果について(補足説明)」
- JAXA「JAXA宇宙飛行士候補者(2021~2022年度 募集・選抜)の決定について」(2023年2月28日)
- JAXA 有人宇宙技術部門 よくある質問「次回宇宙飛行士募集はいつですか」
- JAXA 有人宇宙技術部門 よくある質問「目が悪いと宇宙飛行士になれないのですか」
- JAXA 有人宇宙技術部門 よくある質問「宇宙飛行士になるにはどうすればよいのですか」
- JAXA 有人宇宙技術部門 JAXA宇宙飛行士 米田あゆ
- JAXA 有人宇宙技術部門 JAXA宇宙飛行士 諏訪理
- JAXA 有人宇宙技術部門 宇宙飛行士と地上で支える人びと
- JAXA 採用情報



