アメリカの宇宙ステーション開発企業Vastは2026年9月23日、月面での事業を担う「Lunar Programs(月面事業)」部門を新設したと発表しました。
地球を回る宇宙ステーションの開発で積み上げた技術を月面に応用し、NASAが進める月面基地(Moon Base)の構想を支えることが狙いです。
月面向けの電力設備、出入り口となるエアロック、居住施設、通信と測位を担う衛星群の4つを計画しています。
3行で分かるポイント
- 宇宙ステーションを開発するアメリカのVastが、月面の仕事を担う新しい部門をつくりました。
- 月面で使う発電設備、出入り口、住む建物、月を回る通信衛星の開発を計画しています。
- NASAは月の南極付近に基地を段階的につくる計画で、Vastはこの計画を支えることを目指しています。
まず押さえたい背景
Vastは、アメリカ・カリフォルニア州ロングビーチに本社を置く宇宙企業です。
次世代の宇宙ステーションと宇宙インフラを、ハードウェアを数多く造りながら段階的に、低コストで開発する方針を掲げています(出典:Vast「Vast Expands into High-Power Satellite Buses…」)。
従業員は1,000人を超え、民間から10億ドル以上の資金を集めています。
2025年11月2日には、宇宙ステーション向けの主要技術を宇宙空間で試す試験機「Haven Demo」を打ち上げ、電子機器や電源、飛行ソフトウェアを確かめたうえで、2026年2月4日に大気圏へ再突入させて運用を終えました。
次の段階の「Haven-1」は2027年の打ち上げを予定しており、Vastは世界初の商業宇宙ステーションになると説明しています。
商業宇宙ステーションとは、国ではなく民間企業が保有・運営し、研究や製造の場として顧客に貸し出す宇宙ステーションのことです。
NASAの月面基地は、月の南極付近につくる前哨基地です(出典:NASA「Moon Base」)。
NASAは建設を3段階に分けています。
現在から2029年までは月面への確実な到達と環境の把握、2029〜2032年は初期のインフラの配備、2032年以降は宇宙飛行士が長く滞在して働ける恒久的な基地の整備を進める計画です(出典:NASA「Moon Base Phases」)。
何が発表されたか
Vastは新部門の計画を、NASAの段階的な進め方に合わせた3段階で示しました(出典:Vast「Vast Establishes Lunar Programs Division…」)。
第1段階では基盤となる設備を置き、技術実証を行って後続のシステムのリスクを下げます。
第2段階では月面に常設の設備を置き、居住に使う技術を確かめます。
第3段階では、宇宙飛行士の長期滞在に必要なシステムを配備します。
計画している製品は4つです。
1つ目は、太陽光発電と蓄電、電力の分配を担う電力設備です。
2つ目は、Havenの技術を基にしたエアロックです。
エアロックは、宇宙服を着た人が気圧を保ったまま建物の内外を出入りするための小部屋です。
月の細かい砂ぼこりへの対策や、宇宙服との適合も課題として挙げています。
3つ目は、生命維持、温度管理、電子機器、通信の機能を備えた複数の区画からなる居住施設です。
4つ目は、月を回る通信・測位衛星のコンステレーション(多数の衛星を連携させる仕組み)で、月の南極を途切れなくカバーし、地球との通信をつなぐことを目指します。
新部門は、上級副社長(月面事業担当)のColin Smith氏が率います。
Smith氏はVastの創業メンバーで、Haven-1を立ち上げ当初から最初の飛行用機体の製造まで主導してきました。
宇宙業界にとっての意味
Vastは、Havenで開発した圧力容器、生命維持と温度管理のシステム、電子機器、電源、飛行ソフトウェアを月面に応用すると説明しています。
地球の周りを回るステーションと月面の基地は、人が宇宙服なしで過ごせる密閉空間を保つという点で求められる技術が共通します。
CEOのMax Haot氏は、人類初の月面前哨基地の建設を支える製造能力と飛行実績、技術力が自社にはあると述べています。
通信衛星の計画も、月面活動の課題に関わります。
月の南極や裏側には、地球のアンテナから直接電波が届きにくい場所があります(出典:NASA「The Lunar Relay」)。
NASAはこの課題に対し、月を回る中継衛星網を民間の力で整えるLCRNS(月通信中継・航法システム)を進めています。
Vastは自社の衛星網を、LCRNSを補う存在と位置づけています。
さらに、NASAの深宇宙ネットワーク(DSN)のような、多くのミッションで利用枠を分け合う設備への依存を減らすとしています。
DSNは、カリフォルニア州とスペインのマドリード近郊、オーストラリアのキャンベラ近郊にある巨大アンテナ群で、惑星探査機や月のミッションとの通信を担っています(出典:NASA「Deep Space Network」)。
今回の発表は部門の新設と開発計画を示したもので、NASAとの特定の契約を伝えるものではありません。
今後の注目点
直近の節目は、2027年に予定するHaven-1の打ち上げです。
通信衛星網の設計は、2027年後半に10機の打ち上げを目指す同社の大電力衛星計画の技術も土台にするとしています。
これらの計画が予定どおり進むかどうかが、月面向けの技術の実績にも関わります。
あわせて、NASAの月面基地計画でVastが受注する案件が出てくるか、4つの製品それぞれの開発時期がいつ示されるかも注目点です。
出典
- Vast「Vast Establishes Lunar Programs Division, Applying Haven Flight Heritage to Power, Communications, and Habitats on the Moon」
- Vast「Vast Expands into High-Power Satellite Buses, Leveraging In-House Space Station Technology and Proven Haven Demo Satellite Heritage」
- NASA「Moon Base」
- NASA「Moon Base Phases」
- NASA「The Lunar Relay」
- NASA「Deep Space Network」
- Payload「Vast Announces New Lunar Programs Division」