NASAは2026年9月30日付で、月面に置く科学機器と調査のセットを新たに3件選んだと発表しました。
目的は、人類初の月面拠点として計画している「ムーンベース(Moon Base)」を築く準備です。
選ばれた機器は、NASAが民間企業から月への輸送サービスを買う枠組みを使って月面へ運ばれます。
3行で分かるポイント
- NASAが、月面基地の建設に役立つ科学調査を新たに3件選びました。
- 月の環境と危険の監視、地下の空洞探し、氷の量と場所の測定の3つです。
- 機器は民間企業の月着陸機で運ばれます。打ち上げ時期と金額は今回の発表には入っていません。
まず押さえたい背景
今回の調査は、PRISM(Payloads and Research Investigations on the Surface of the Moon)というNASAの公募プログラムで選ばれました。
PRISMは、月面の着陸地点で調査をやり遂げるための科学機器一式を開発し、月へ送るところまでを公募する枠組みです(出典:NASA Science「Amendment 42: Several Changes to F.10 PRISM」)。
ここでいう「ペイロード」は、ロケットや着陸機に載せて運ぶ荷物のことで、今回は観測機器を指します。
運び役になるのがCLPS(Commercial Lunar Payload Services:商業月面輸送サービス)です。
NASAが自前で着陸機を飛ばすのではなく、アメリカの企業から「月まで届ける」サービスを買う仕組みです。
企業側は、機器を着陸機に組み込む作業から打ち上げ、月面着陸、運用までを受け持ちます。
NASAによると、契約資格を持つアメリカ企業は13社あり、これまでに5社へ17回分の月面輸送が発注されています。
2028年11月までの契約総額は、上限の合計で26億ドルです(出典:NASA「Commercial Lunar Payload Services」)。
同じページでは、ムーンベースを月の南極域に計画している拠点と説明しています。
調査を率いる研究者の所属機関は3つです。
- メリーランド大学ボルティモア郡校(UMBC)は、アメリカ東部のボルティモアとワシントンD.C.の間にキャンパスを置く州立の研究大学です。
- 惑星科学研究所(PSI)は、アリゾナ州ツーソンに本部を置く非営利の研究機関で、惑星・衛星・小惑星・彗星などを研究し、NASAの探査ミッションにも参加しています。
- NASAエイムズ研究センターは、カリフォルニア州シリコンバレーにあるNASAの研究拠点で、航空学や探査技術、宇宙科学の研究開発を手がけています。
何が発表されたか
選ばれたのは次の3件です(出典:NASA「NASA Adds New Science Investigations for Moon Base」。以下、調査の内容は同発表によります)。
| 調査名 | 何を調べるか | 研究代表者 |
|---|---|---|
| LEMS-SP(月環境モニタリングステーション 南極) | 微小隕石の落下、月の希薄な大気中の揮発性物質、月震 | UMBCのMehdi Benna氏 |
| GIMLI(月内部マッピングのための地球物理調査) | マリウス丘陵の縦穴の地下に溶岩チューブがあるか | PSIのNathaniel Putzig氏 |
| DISCO(分光・カラー光学系つき深度イメージャー) | 小さな低温域に隠れた氷、地表の性質 | エイムズ研究センターのAriel Deutsch氏 |
LEMS-SPは、自動で動き続ける長期の環境・危険監視ステーションです。
微小隕石は砂粒ほどの小さな天体のかけらで、大気がほとんどない月ではそのまま地表に降り注ぎます。
LEMS-SPは、その落下や、大気中の揮発性物質(水など、温度が上がると気体になりやすい物質)を測ります。
さらに、短い周期の揺れを捉える地震計で月の揺れも記録します。
これらのデータは、月面基地の設備の安全を判断する材料になります。
GIMLIは、マリウス丘陵(Marius Hills)にある縦穴に設置されます。
地下をスキャンし、縦穴が大きな溶岩チューブにつながっているかを調べます。
溶岩チューブは、昔の溶岩の流れが冷えて固まった後に残ったトンネル状の空洞です。
NASAは、このような空洞が激しい温度変化や放射線、微小隕石から身を守る天然の避難場所になりうるとしています。
DISCOは、月の小さな低温域(micro-cold traps)にある氷を、地表で直接測る初めての機器になるとNASAは説明しています。
低温域とは、日光がほとんど当たらないため非常に冷たく保たれ、氷が残りやすい場所のことです。
DISCOは氷の場所と量に加え、着陸時のロケット噴射がレゴリス(月の表面を覆う細かい砂や岩くず)に与える影響や、車両が走るときの地面の安定性も調べます。
なお、この発表は9月30日に一度更新され、DISCOの名称が訂正されています。
宇宙業界にとっての意味
今回の3件は、いずれも月面基地を建てて運用するうえで必要な情報に向けた調査です。
科学機器を開発する大学・研究機関に加えて、それを運ぶ民間の着陸機事業にも仕事が生まれる構図になっています。
NASAは発表の中で、これらの調査をCLPSで月面へ運ぶとしています。
各機器が答えを出そうとしている問いは、基地づくりの課題と対応しています。
設備の安全を左右する月の環境(LEMS-SP)、人が身を守れる場所の候補(GIMLI)、水資源として使える氷の場所と量(DISCO)です。
DISCOについては、NASAが氷を資源として利用するための運用方法と技術の検討に役立てるとしています。
NASA科学ミッション局のニッキー・フォックス副長官は、将来の宇宙飛行士が月で夜を越えるために必要な情報や資源、安全対策を、科学が先に月面へ行って用意するという趣旨を述べています。
今後の注目点
次の焦点は、3つの機器をどの企業の着陸機で、いつ月へ運ぶかです。
今回の発表には、輸送を担う企業、打ち上げ時期、各調査の契約額は含まれていません。
LEMS-SPとDISCOの具体的な着陸地点も、発表では示されていません。
PRISMの公募では、南極域での調査に向けた予算計画の指針が2026年1月に追加されています。
今後の輸送発注の発表で、どの調査を南極域へ運ぶのか、どの企業が受注するのかが明らかになる見込みです。
出典
- NASA「NASA Adds New Science Investigations for Moon Base」
- NASA「Commercial Lunar Payload Services」
- NASA Science「Amendment 42: Several Changes to F.10 PRISM」
- Planetary Science Institute「About」
- UMBC「About UMBC」
- NASA「Ames Research Center」