アメリカの衛星通信会社Elveo Mobileと、衛星メーカーのApexは2026年9月14日、Elveoが計画する低軌道の通信衛星群を量産するための専用工場を、アメリカ国内に立ち上げる提携を発表しました。
Elveoが目指しているのは、地上の基地局を経由せず、いま人々が使っているスマートフォンがそのまま衛星とつながるサービスです。
Elveoはまずアメリカに最初の生産拠点を構え、同じやり方をヨーロッパとアジアにも広げる計画を示しています。
3行で分かるポイント
- 携帯電話向けの衛星通信を手がけるElveo Mobileが、自社の衛星を米国内で量産するため、衛星メーカーのApexと提携しました。
- Apexは、規格化した衛星の土台を年200機を超える規模でつくるロサンゼルスの工場を持ち、その工場の設計と生産管理ソフトをまとめて他社へ移す事業を提供しています。
- 工場を持つのはElveo側で、Apexは立ち上げ方を渡す役割です。工場の場所や生産機数、量産の開始時期が今後の焦点になります。
まず押さえたい背景
Elveo Mobileは、ワシントンD.C.周辺に本社を置く衛星通信会社です。
D2D(ダイレクト・ツー・デバイス)と呼ばれる、専用の受信機を付けていない普通の携帯電話と衛星を直接つなぐ通信を事業にしています。
ふだんスマートフォンが電波をやり取りしている相手は、数km先に立つ地上の基地局です。
D2Dは、その役目を数百km上空を回る衛星に肩代わりさせ、基地局が建っていない海上や山間部、災害で地上設備が壊れた場所にも通話やデータ通信を届けようとする技術です。
Elveoは、D2Dを手がけてきたLynk GlobalとOmnispaceの合併によって2026年8月14日に生まれた会社で、Ramu Potarazu氏が最高経営責任者を務めています。
世界的に調整済みのS帯と呼ばれる周波数を60MHz分以上持ち、50社以上の携帯電話事業者と商用契約を結び、主要な販売パートナーが60か国以上で事業を展開していると説明しています(出典: PR Newswire「Lynk and Omnispace Launch Elveo Mobile with Merger Completion」)。
衛星は、携帯電話の通信方式を世界で取り決めている標準化団体3GPPが定めたNTN(非地上系ネットワーク)の規格に沿って設計され、すでに世の中にある約80億台の携帯電話や機器で使えることを狙っています。
相手方のApexは、2022年にIan Cinnamon氏とMax Benassi氏が設立したロサンゼルスの衛星メーカーです。
同社がつくるのは「衛星バス」で、これはカメラや通信機といった積み荷を載せる土台にあたり、電源・姿勢制御・通信・推進など、どの衛星にも共通して要る機能をひとまとめにした部分です。
Apexはこのバスを規格品として設計し、Aries・Nova・Cometという製品名で提供しています。
2025年に立ち上げた自社工場「Factory One」は13万平方フィート超(約1万2,000平方メートル超)の広さで、年200機を超えるバスの生産能力を掲げています。
何が発表されたか
今回の提携の中身は、ElveoがApexの「Factory X」という仕組みを使い、自社の衛星生産施設をアメリカに立ち上げることです。
Factory Xは、Apexが自社のFactory Oneを物理的な設計図として、同社の生産管理ソフト「Octopus」を土台に、パートナー企業が自前の高速生産ラインを持てるようにする事業です。
提供されるのは、組み立てから試験までの設備の構成、実際の生産で検証された作業手順、現地での訓練と継続的な技術支援、そしてAries・Nova・Cometのバスです。
Apexは、この方式なら最短12か月で衛星の生産を始められるとしており、施設の規模も2万5,000平方フィートから25万平方フィート超まで需要に合わせて選べると説明しています。
ElveoはこのアメリカでのFactory Xを土台とし、同じやり方で地域パートナーとともにヨーロッパとアジアにも製造拠点を広げる方針を示しました。
Potarazu氏は、この提携によって開発の進め方とコスト構造を自分たちで握れるようになり、あわせて海外のパートナーと高度技術の経済機会をつくれると述べています。
Apexの共同創業者であるCinnamon氏は、衛星製造の知見を活かすことで、従来の進め方より何年も早くElveoの衛星群を配備できるとしています。
宇宙業界にとっての意味
D2Dは、衛星が1機や2機あるだけでは商売になりません。
地上の携帯電話がいつでもつながる状態を保つには、上空のどこかに常に衛星がいる必要があり、数百km程度の低軌道では1機が同じ場所の上を通る時間が短いため、多数の衛星を軌道上に並べることが前提になります。
つまりD2D事業では、衛星を何機つくれるかがサービス開始の速さをそのまま左右します。
衛星は長らく、案件ごとに設計して少数を丁寧に組み立てる製品でした。
Apexのように、規格化したバスを工場で流れ作業のようにつくる方式は、この前提を変えようとする動きです。
今回の提携が目を引くのは、その一歩先を行く点にあります。
Apexが売るのは衛星そのものだけでなく、工場の設計・生産管理ソフト・作業手順・訓練を組み合わせた「つくり方」であり、Elveoは製造能力を自社の資産として持つことになります。
衛星の設計と周波数と携帯電話事業者との契約はElveoが持ち、量産を回す力を外から取り込む分担です。
なお、SpaceNewsは、ElveoがSpaceXやAST SpaceMobileと、標準的なスマートフォン向けの高容量な衛星サービスを競う位置にあると報じています。
今後の注目点
次に確かめたいのは、アメリカの工場をどこに建てるのか、どれだけの規模にするのか、そして何機の衛星をいつから量産するのかという点です。
Factory Xで示されている12か月という立ち上げ期間は、Apexが掲げる目安であり、Elveoの工場に実際に当てはまる期間は今後の発表を待つことになります。
ヨーロッパとアジアの展開についても、地域パートナーがどの企業になるかはこれからです。
Elveoは合併の完了から1か月の会社で、今回の提携は、その新体制が最初に打ち出した製造面の方針にあたります。
ほしまるApexがElveoの衛星をつくってあげる、という話じゃないんだね。Elveoが自分の工場を持てるように、つくり方のほうを渡すんだ。
出典
- Via Satellite 「Elveo Mobile Partners With Apex to Scale Up D2D Constellation Production in the U.S.」
- PR Newswire 「Elveo Mobile Announces Partnership with Apex to Establish and Scale Spacecraft Platform Production for Global D2D Network」
- Apex 「Factory X」
- Apex 「Factory One」
- Apex 「Productized Satellite Platforms」
- Elveo 「Elveo Mobile」
- PR Newswire 「Lynk and Omnispace Launch Elveo Mobile with Merger Completion」
- SpaceNews 「Lynk and Omnispace form Elveo Mobile to advance D2D services」