民間の技術を短期間で軍に取り入れるアメリカ国防総省の組織DIUと、アメリカ宇宙軍で装備の調達を担当するSpace Systems Command(SSC)は2026年9月18日、静止軌道の物体を宇宙から高分解能で撮影する偵察衛星の試作について、True AnomalyとNorthrop Grummanの2社と契約したと発表しました。
計画では2028年に打ち上げ、2029年に宇宙軍の運用へ移します。
契約額は公表されていません。
3行で分かるポイント
- DIUと宇宙軍のSSCが、静止軌道の物体を宇宙から高分解能で撮影する偵察衛星の試作を、True AnomalyとNorthrop Grummanの2社に発注しました
- 狙いは、市販されている衛星や部品を活かして、これまでより安く早く偵察衛星をそろえることです
- 打ち上げは2028年、宇宙軍による運用への移行は2029年の予定です
まず押さえたい背景
静止軌道は、地球の自転と同じ周期で地球を回るため、地上から見ると空の同じ位置に止まって見える軌道です。
通信・放送・気象の衛星が多く置かれ、各国の軍事衛星も集まっています。
この軌道にある物体が何であり、どのような状態なのかを把握する任務を、アメリカ宇宙軍はGSSAPと呼ばれる衛星で担ってきました。
GSSAPはNorthrop Grummanが製造した衛星です(出典:Northrop Grumman「Northrop Grumman to Deliver New Space Domain Awareness Prototype Satellite」)。
今回契約した2社のうち、True Anomalyはアメリカのコロラド州センテニアルに本社を置く防衛技術企業です。
宇宙での防衛に的を絞り、宇宙機とソフトウェア、搭載機器を自社で開発しています(出典:True Anomaly 公式サイト)。
Northrop Grummanは、バージニア州フォールズチャーチに本社を置く航空・防衛・宇宙分野の大手企業で、従業員は約10万人です(出典:Northrop Grumman「Who We Are」)。
発注側のDIUは、民間の技術が国防の研究開発より速く進んでいるという問題意識から2015年8月に設けられた国防総省の組織で、通常の調達より短い期間で試作の契約を結ぶ仕組みを使います(出典:DIU「About」)。
何が発表されたか
今回の計画の名前はGHOST-Rです。
静止軌道で高い分解能の光学観測を行う戦術偵察、という意味の英語の頭文字を並べたものです。
市販の宇宙機や、衛星の土台にあたるバス(電源・姿勢制御・通信などをまとめた共通部分)、電気光学ペイロード(可視光などの光をとらえるカメラ機器)を組み合わせ、宇宙から宇宙を撮る高分解能の画像で静止軌道の物体を見分けることを目指します。
True Anomalyは、自社の宇宙機Jackalと、地上側の運用システムMosaicを使います。
Jackalは軌道を大きく変えられる多用途の宇宙機で、Mosaicは運用者の意図を自律的な動作に変換するソフトウェアです(出典:True Anomaly 公式サイト)。
はじめは宇宙軍の運用者と共同で動かし、その後は政府が所有して運用するRG-XXの装備へ移す計画です。
RG-XXは、宇宙軍の宇宙空間に展開する偵察層の正式なプログラムです。
Northrop Grummanは、小型のスーツケースほどの大きさの衛星ESPASat-Lを使います。
同社の相乗り用プラットフォームESPAStarと組み合わせる構成で、カメラはカリフォルニア州アーバインのTRL11が供給します。
TRL11は宇宙で使う光学カメラと映像システムを手がける企業です(出典:TRL11 公式サイト)。
Northrop Grummanの発表では、納入までの期間は加速された24か月とされ、組み立て・統合・試験はバージニア州ダレスとアリゾナ州ギルバートの衛星製造施設で行います。
宇宙業界にとっての意味
静止軌道の物体を地上の望遠鏡で見ようとすると、大気の影響と、遠く離れていることによる制約を受けます。
同じ軌道に衛星を置いて近づいて撮れば、この制約を避けられます。
True AnomalyのCEOは、偵察の仕組みを少数の精巧な装備に頼り続けることはできず、これからは持続性と柔軟性があり、数をそろえられる価格で配備できる機体が有利になる、という見方を示しています。
2026年4月には、SSCがRG-XXの開発に向けてAndromedaと呼ばれる契約を14社に出し、総額は18億ドルを超えました(出典:Via Satellite「True Anomaly and Northrop Grumman Aiming to Build GHOST-R Prototypes to Reduce RG-XX Costs」)。
今回の発注で、宇宙防衛に的を絞った新しい企業が、大手と並んで試作を担う形になりました。
今後の注目点
次の節目は2028年の打ち上げです。
Northrop Grummanは24か月で納入する計画のため、当面は製造と試験の進み方が焦点になります。
試作がうまく運べば、正式なプログラムであるRG-XXへ引き継がれる道筋が用意されています。
2社は、小型で安く数をそろえる方向と、軌道を大きく変えられる多用途の機体という異なる設計で臨みます。
2029年に予定されている宇宙軍への運用移行に向けて、どちらの設計がどこまで費用を下げられるかが問われます。
ほしまる同じ静止軌道を見張るのに、スーツケースほどの衛星と身軽に動きまわる宇宙機、どちらのやり方が向いているのか気になるね。
出典
- Northrop Grumman「Northrop Grumman to Deliver New Space Domain Awareness Prototype Satellite」
- DVIDS「DIU and Space Systems Command award GHOST-R prototype contracts to support GEO recon capabilities for Department of War」
- Intelligence Community News「DIU and SSC award GHOST-R prototype contracts」
- Payload「DIU and SSC Announce Joint GHOST-R Mission」
- DefenseScoop「Pentagon taps Northrop Grumman, True Anomaly for recon satellites that can monitor other space systems」
- Via Satellite「True Anomaly and Northrop Grumman Aiming to Build GHOST-R Prototypes to Reduce RG-XX Costs」
- True Anomaly 公式サイト
- Northrop Grumman「Who We Are」
- TRL11 公式サイト
- DIU「About」
- www.trueanomaly.space「true-anomaly-begins-victus-haze」