- 宇宙ビジネスって、結局どこの会社がやっているの?
- トヨタやホンダまで宇宙をやっていると聞いたけれど、本当なの?
- 社名を並べられても、自分に関係があるのか分からない
企業名のリストを眺めたものの、頭に地図が残らないまま閉じてしまった経験、ありませんか。
結論から書くと、日本の宇宙ビジネスの企業は「輸送」「衛星等」「探査等」の3分野で整理できます。
この区分は編集部が独自に考えたものではなく、政府が宇宙戦略基金の支援分野として置いている枠組みです。
宇宙の科学と宇宙産業を一次情報に照らして発信するASTROWORKS編集部が、公開資料を読み直してまとめました。
この記事で整理するのは、次の4点です。
- 輸送・衛星・探査の3分野に並ぶ企業の顔ぶれとそれぞれの役割
- 重工・電機系、商社、スタートアップが同じ市場に並ぶ理由
- トヨタやホンダなど、異業種から宇宙に入ってきている実例
- 企業の動きを自分で追うための、公開情報を見る順番
読み終えるころには、社名の暗記ではなく「この産業はどう分かれていて、自分の技術がどこに関われるのか」という地図が手に入ります。
ほしまる40年ぶりに地球へ帰ってきたら、宇宙で働く会社がずいぶん増えていて驚いたよ。いっしょに地図を広げてみようね。
宇宙ビジネスの企業は輸送・衛星・探査の3分野に整理できる
社名を覚える前に、産業の切り分け方を持っておくと迷いません。
政府の枠組みがそのまま使えます。
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局の「宇宙戦略基金第3期について(全体概要)」は、支援分野(3Areas)として「輸送」「衛星等」「探査等」の3つを示しています。
国が民間企業や大学の技術開発を支援するときの区分がこの3つです。
産業の地図として借りるには、ちょうどよい粒度です。
この3分野は、扱うものがはっきり違います。
- 輸送は、宇宙へ物を運ぶ手段そのものをつくる分野
- 衛星等は、軌道上に置く装置と、そこから得られる通信やデータを扱う分野
- 探査等は、月や小惑星など、地球の外を目的地にする分野
企業数がいちばん多く、宇宙以外の業界から関わる余地も広いのが衛星分野です。
一方で報道の注目が集まりやすいのは輸送と探査で、ここが「宇宙ビジネス=ロケット」という印象をつくっています。
実際の産業は、この3つが重なりながら動いています。



運ぶ人、軌道で働く人、遠くへ行く人。宇宙の会社も、役割で分けると意外とすっきりするんだ。
輸送分野は基幹ロケットを担う重工系と小型ロケットに挑む新興企業に分かれる
輸送分野は、国の基幹ロケットを担う層と、小型ロケットで別の市場を狙う層の二層構造になっています。
基幹ロケットの中心にあるのがH3です。
JAXAは公式サイトで「H3ロケットは日本の新しい基幹ロケットです」「H-IIAロケットの後継機として開発されました」と説明しています。
三菱重工業は英語の公式ページでH3を「Japan’s flagship rocket jointly developed by JAXA and MHI」と記載しており、JAXAとの共同開発という位置づけです。
同社は打上げ輸送サービスの紹介ページで、ロケットの製造、ロケットと人工衛星間のインターフェース調整、プログラムのマネージメント、打上げまでを担うとしています。
これらをまとめて「一貫したサービス」と表現しています。
固体ロケットの側にはIHIエアロスペースがいます。
同社はイプシロンロケットについて「IHIエアロスペースが開発を担った」と記載しています。
後継機であるイプシロンSの打上げ能力は、低軌道1,200kg以上、太陽同期軌道600kg以上です。
公式の打上げ予定には「2026年度 イプシロンSロケット 実証機」と記載があります。
新興企業の代表がインターステラテクノロジズです。
同社は小型衛星専用の2段式ロケット「ZERO」を開発しており、公式サイトでは最大衛星重量を低軌道1,000kgとしています。
観測ロケットMOMOでは、2019年5月4日に「宇宙品質にシフト MOMO3号機」が「国内民間企業単独として初めて宇宙空間に到達」したと記載しています。
| 企業 | 主に担うロケット | 位置づけ |
|---|---|---|
| 三菱重工業 | H3 | JAXAとの共同開発、打上げまでの一貫サービス |
| IHIエアロスペース | イプシロン/イプシロンS | 固体ロケットの開発を担当 |
| インターステラテクノロジズ | ZERO/MOMO | 小型衛星向けの民間ロケット |
なお、各社の公式サイトには累計打上げ回数や成功率の集計値は掲載されていません。
号機ごとの記録は公開されているので、確認したい場合はそちらを見るのが正確です。
衛星分野はつくる企業と使う企業と守る企業の3層で構成される
衛星分野は、衛星をつくる層、衛星を使ってサービスを売る層、軌道環境を守る層の3層に分かれます。
この3層を知ると、宇宙ビジネス企業の範囲が一気に広がって見えます。
つくる層には、長い実績を持つ電機大手と、小型衛星を量産する新興勢が並びます。
三菱電機は「1960年代に宇宙事業に参入して以来、通信・放送、測位、地球観測、物資輸送などの様々な人工衛星、追跡管制局、大型望遠鏡などを製造してきました」と説明しています。
NECは自社を「日本の宇宙開発のリーディングカンパニー」と位置づけ、標準衛星システム「NEXTAR」を開発・実証したと記載しています。
新興勢では、アクセルスペースが「これまでに18機の小型衛星を開発し、軌道上で運用してきました」と公表しました。
Synspectiveは100kg級の小型SAR衛星を扱い、30機のコンステレーション構築を目標に掲げます。
QPS研究所は「2028年5月までに24機、2030年にはさらなる機数を投入した大規模衛星コンステレーションを構築」する計画を示しています。
使う層の代表がスカパーJSATです。
同社は自社を「日本で唯一」かつ「アジア最大」の民間衛星通信事業者と説明し、保有する通信衛星はすべて約36,000kmの静止軌道にあるとしています。
公式の衛星一覧には2025年12月現在の情報として16機が掲載され、製造中の2機はこれとは別に区分されています(出典: スカパーJSAT「衛星一覧」)。
掲載内容は打上げや運用終了にあわせて更新されます。
最新の機数を知りたい場合は、同じ衛星一覧のページで確認するのが確実です。
守る層にいるのがアストロスケールです。
同社は「持続可能な宇宙環境(スペースサステナビリティ)に専業で取り組む、初の民間企業」と自らを定義し、事業をInspect(観測)、Service(サービス)、Remove(除去)の3つに整理しています。
- つくる層は、大型衛星の一次請けと、小型衛星を量産する新興勢に分かれる
- 使う層は、通信・放送や地球観測データをサービスとして販売する
- 守る層は、デブリ除去や衛星の寿命延長といった軌道上サービスを担う
衛星データを業務に取り入れる企業も、広い意味ではこの分野の関係者です。
非宇宙のエンジニアが最初に接点を持ちやすいのも、ここです。
探査分野は月面を事業領域にしようとする企業が集まっている
探査分野は、月を目的地に据えた企業が集まる領域です。
注目度が高い一方、収益が立つまでの期間が長く、投資が先行しやすい性格を持ちます。
月面輸送を事業にしているのがispaceです。
同社は公式に、月への高頻度かつ低コストな輸送サービス、リモートセンシングなどの月面データサービス、月面と月軌道での通信・測位サービスの3つを事業として掲げています。
ミッション1について、同社は「Although the lander did not complete a soft landing」と述べています。
そのうえで「the HAKUTO-R lunar lander completed Success 1 through Success 8 of the Mission 1 milestones」と記載しています(出典: ispace「ispace Announces Results of the “HAKUTO-R” Mission 1 Lunar Landing」2023年5月26日/ispace「Mission 1」ページ)。
Success 9(月面着陸の完了)とSuccess 10(着陸後の定常状態の確立)は未達です。
ミッション2「RESILIENCE」では、着陸最終フェーズでレーザーレンジファインダー(LRF)の有効な計測値の取得に遅れが生じました。
十分な減速ができないまま、ハードランディングに至ったと分析されています(出典: ispace「ispace Releases Technical Cause Analysis for HAKUTO-R Mission 2」2025年6月24日)。
次のミッション3で使う新型ランダーは「ULTRA」です。
開発は経済産業省のSBIR(Small Business Innovation Research)制度による助成を受けて進められています(出典: ispace「ispace Announces New “ULTRA” Lunar Lander Integrating Japanese and U.S. Lander Models」2026年3月27日)。
2026年7月29日には、三菱重工業とH3ロケットによる打上げ・輸送サービス契約を締結したと発表しました。
ミッション3の打上げは2028年が予定されています(出典: ispace「ispace and Mitsubishi Heavy Industries Agree to Launch Mission 3 ULTRA Lunar Lander Aboard H3 Rocket」2026年7月29日)。
自動車メーカーが主役側にいるのもこの分野の特徴です。
JAXAとトヨタ自動車は、燃料電池車両技術を用いた月面モビリティ「有人与圧ローバ」の共同研究を進めています。
2020年8月には、その愛称を「LUNAR CRUISER(ルナ・クルーザー)」と発表しました。
同じリリースでは「2020年代後半の打ち上げを目指し」研究を進めていると記載されています。
- ispaceは月面への輸送とデータ、通信をサービスとして設計している
- トヨタ自動車はJAXAとの共同研究という形で月面モビリティに関わっている
- 探査分野は、宇宙専業ではない企業が中核に入っている場面が多い
月面は重力が地球の約6分の1で、赤道付近の観測では昼が110℃、夜がマイナス170℃と、その差は200℃以上あります(出典: JAXA ファン!ファン!JAXA!「もっと知りたい!?惑星のこと ~月編~」)。
この温度は赤道付近の観測値であり、観測地点や測定方法によって値は変わります。
表面はレゴリスと呼ばれる細かい砂に覆われています。
この環境に耐える技術を、地上のものづくりから持ち込もうとしているのが現在の探査分野です。


大手メーカーと商社とスタートアップが同じ市場に並ぶ理由は役割分担
分野の次は、産業のなかでの立ち位置という縦軸を重ねます。
ここが分かると混乱が解けます。
読者がいちばん戸惑うのは、売上数兆円規模の企業と社員数十人の企業が、同じ「宇宙ビジネス企業」として並ぶ点です。
これは規模の優劣ではなく、担っている層が違うだけです。
基盤をつくる層、資金と販路をつなぐ層、新しい売り方を持ち込む層が、それぞれ別の役割で同じ産業に参加しています。
重工・電機系はロケットと大型衛星の一次請けとして基盤を支える
重工・電機系の企業は、国の基幹インフラにあたるロケットと大型衛星を担う層です。
会社全体の売上高と宇宙事業の規模は、同じ物差しでは測れません。
日本航空宇宙工業会の宇宙機器産業実態調査(令和5年度調査・令和4年度実績)によると、宇宙機器産業の売上高合計は3,980億円、従業員数は8,891人でした。
産業全体でこの水準なので、売上が兆円規模の総合メーカーにとって、宇宙事業が全社に占める割合は小さくなります。
「宇宙をやっている大企業」を全社売上の順に並べても、宇宙事業の規模の順にはなりません。
それでも、この層が抜けると産業が成立しません。
NECは日本初の人工衛星「おおすみ」の開発・製造を担当したと記載し、宇宙への挑戦から約70年にわたり日本の宇宙開発を支えてきたとしています。
三菱重工業は打上げ輸送サービスにおいて、プログラム・マネジメント、ミッション・インテグレーション、ロケット製造、打上げ業務までを担うと説明しています。
長期にわたる開発と、失敗が許されにくい品質保証を引き受けているのがこの層です。
- 担うのは基幹ロケットと大型衛星、追跡管制局などの基盤設備
- 開発期間が長く、国のプロジェクトと結びついている
- 会社全体の売上に対して宇宙事業の比率は小さくなりやすい
規模の大小ではなく、産業のどこを支えているかで見るのが正確な捉え方です。
商社と金融は出資と販路で技術と事業をつなぐ
商社や金融機関は、自社でロケットや衛星をつくりません。
それでも、出資と販路という形で産業に組み込まれています。
分かりやすいのが丸紅とインターステラテクノロジズの関係です。
2019年11月の公式リリースによると、丸紅は新株予約権の行使により同年11月1日に資本提携をしました。
リリースには「丸紅は、2016年よりISTとの業務提携を開始し、国内外の顧客に対するロケット販売支援を行ってきました」と記載されています。
つくる企業に対して、売り先を開拓する機能を担っているという構図です。
出資額は公表されていません。
金融機関は出資と融資の両方で関わります。
スペースワンは2024年10月の公式リリースで、三井住友信託銀行およびニッセイ・キャピタルが運営するファンドから第三者割当増資による資金調達を実施したと発表しました。
同リリースには、既存の出資者として日本政策投資銀行、紀陽銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行などの名前が並びます。
出資と融資を合わせた累計調達額は200億円を超えると記載されています。
なお、この200億円超は出資と融資の合計として公表されたもので、補助金等は含まないと同リリースに明記されています。
アークエッジ・スペースは2026年2月、みずほ銀行から融資契約による30億円の資金調達を実施し、累計資金調達額が155億円になったと公表しています。
- 商社は出資に加えて、国内外への販売支援という役割を持つ
- 金融機関は出資と融資を使い分けて、開発期間の長さを資金面で支える
- 出資額は非公表の案件も多く、公表されている場合だけ数字を見る
つくる企業だけを追うと、この層は視界から消えます。
産業の資金の流れを見るなら、出資側のリリースも合わせて読む価値があります。
スタートアップは小型化と量産とデータ販売で新しい市場をつくる
スタートアップが持ち込んだのは、従来の宇宙開発とは別のモデルです。
一品物の大型衛星を官需で開発する形に対し、小型化と量産、そしてデータやサービスの販売という道筋を立てています。
Synspectiveは100kg級の小型SAR衛星を使い、SARデータの販売とソリューションサービスという2つの事業を掲げています。
QPS研究所は九州大学の小型人工衛星開発の技術をベースにしており、北部九州の地場のものづくり企業を中心とした全国25社以上と開発を進めていると説明しています。
アクセルスペースは、地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」と、小型衛星のワンストップサービス「AxelLiner」の2本立てでサービスを設計しました。
衛星そのものを売るのではなく、衛星から得られるものを売るという発想です。
この形をとると、売上が立つまでに時間がかかります。
衛星やロケットは、軌道に乗って運用が始まるまで収入になりにくいためです。
だからこそ、先ほどの資金調達が繰り返されます。
決算を見るときは、赤字か黒字かだけで判断せず、資金使途と開発の進み方をあわせて読むと実態に近づきます。
- 一品物ではなく、量産を前提とした設計になっている
- 収益源はハードウェアの納入だけでなく、データやサービスの継続販売
- 運用開始まで期間が長いため、資金調達を重ねながら開発する
新しい市場をつくる側なので、既存の物差しがそのまま当てはまらない層です。


自動車メーカーなど異業種からの参入が宇宙ビジネスの裾野を広げている
異業種の参入は、地上で磨いた技術の転用という共通の構造を持ちます。
宇宙専業でなくても入り口があります。
「トヨタやホンダが宇宙をやっている」という話は事実です。
ただし、まったく新しい技術をゼロから始めたわけではありません。
走行性能、燃焼と制御、材料、施工、保存技術といった既存の強みを、月面や軌道上という別の環境に持ち込んでいます。
自分の業界の技術が宇宙に関係あるのかを知りたい人にとって、ここがいちばん見るべき場所です。



宇宙で必要になる技術って、実は地上でとことん鍛えられたものばかりなんだ。あなたの仕事の技も、どこかで役に立つかもしれないよ。
トヨタは有人与圧ローバの共同研究で月面モビリティに関わっている
トヨタ自動車はJAXAと組み、月面での有人探査活動に使う「有人与圧ローバ」の共同研究を進めています。
公式サイトには、この共同研究を2019年から行っていると記載されています。
2019年7月のJAXAリリースには、燃料電池車技術を用いた月面モビリティについて、試作車の製作・実験・評価を含む3年間の共同研究協定を締結したと書かれています。
2020年8月には、両者がこのローバの愛称を「LUNAR CRUISER(ルナ・クルーザー)」と命名しました。
愛称の由来として、トヨタのSUVであるLAND CRUISERが持つ「必ず生きて帰ってくる」という精神や、品質、耐久性、信頼性を引き継ぎたいという想いが挙げられています。
同リリースでは「2020年代後半の打ち上げを目指し」研究を進めているとしています。
これ以降に更新された公式の打上げ目標年は、今回確認した範囲では見当たりませんでした。
技術の転用は、トヨタ自身の言葉に表れています。
公式サイトには「これまでのクルマづくりで培ってきた信頼性、耐久性、走破性およびFC(燃料電池)技術等で貢献していきます」と記載されています。
さらに「月面で鍛えられた技術は地球へフィードバックし、もっといいクルマづくり、持続可能な社会や地球のための技術の発展に生かしていきます」と続きます。
月面が最終目的ではなく、往復する関係として位置づけられている点が特徴です。
- 位置づけはJAXAとの共同研究であり、製品として完成・実用化した段階ではない
- 使われているのは燃料電池、走破性、耐久性といった既存の自動車技術
- 月面環境は重力が地球の約6分の1、赤道付近の温度は昼が110℃・夜がマイナス170℃(出典: JAXA ファン!ファン!JAXA!「もっと知りたい!?惑星のこと ~月編~」)
ホンダは再使用型ロケットの実験機で高度271.4mの離着陸に成功している
異業種の参入が構想段階にとどまらないことを示すのが、ホンダの実験です。
実機が飛び、着地しています。
本田技研工業の公式リリース「再使用型ロケット実験機の離着陸実験に成功」によると、実験は2025年6月17日16時15分、北海道広尾郡大樹町のHonda専用実験設備で実施されました。
実施主体は株式会社本田技術研究所です。
結果として、到達高度271.4m、着地位置の目標との誤差37cm、飛行時間56.6秒と記載されています。
高度271.4mという数字だけを見ると小さく感じるかもしれません。
それでも、打ち上げた機体を制御しながら狙った場所へ戻す技術の実証という点に意味があります。
着地誤差37cmは、その制御精度を示す数値です。
今後については「技術開発の目標として2029年に準軌道への到達能力実現を目指します」と明記されています。
準軌道への到達は、地球を周回する軌道に乗ることとは別の段階です。
公式が示している目標の範囲を、そのまま受け取るのが正確です。
| 項目 | 公式リリースの記載 |
|---|---|
| 実施日時 | 2025年6月17日 16時15分 |
| 実施場所 | 北海道広尾郡大樹町 Honda専用実験設備 |
| 到達高度 | 271.4m |
| 着地誤差 | 37cm |
| 飛行時間 | 56.6秒 |
| 今後の目標 | 2029年に準軌道への到達能力実現 |
燃焼、姿勢制御、自動運転で培った制御技術といった蓄積が、この分野につながっています。
素材や建設や食品の技術も月面や軌道上の課題解決に転用されている
参入しているのは自動車メーカーだけではありません。
タイヤ、建設、食品といった業界からも、それぞれの得意技術が持ち込まれています。
ブリヂストンは2019年4月、有人与圧ローバのタイヤ研究への参画を発表しました。
リリースには、月面で接地体が果たすべき4つの役割として「重量を支える、駆動力・制動力を伝える、方向を転換・維持する、路面変化に追従する」が挙げられています(出典: ブリヂストン「JAXA、トヨタ自動車株式会社と共に国際宇宙探査ミッションへ挑戦」2019年4月11日)。
2025年7月には、ispaceと中小型月面探査車向けタイヤの実用化を目指す基本合意書を締結しました。
金属製スポークを採用した弾性車輪について「最短2029年頃の実用化を共に目指していきます」と発表しています(出典: ブリヂストン「ispaceとブリヂストン、中小型月面探査車向けタイヤの実用化を目指す基本合意書を締結」2025年7月31日)。
清水建設の事例は、技術の行き来がとくに分かりやすい例です。
同社は2025年1月、JAXA宇宙戦略基金事業の実施機関に選定されました。
WAAMと呼ばれる金属3D積層により、直径2.5m規模の大型液体推進薬タンクを一体造形する技術の構築を目指すという内容です。
リリースには「アルミ合金製の建築用外装材への適用と並行して、ロケット用燃料タンクへの適用に向けた検討を進めてきました」と記載されています。
2026年4月には、ispaceとシスルナ空間のインフラ構築に関する基本合意を締結し、月面データセンターの建設検討を主軸とした共同検討を開始したと発表しました。
そこでは「当社が培ってきた無人化・省人化技術や現場でのものづくりの経験」を活かせる分野だと述べています。
食品業界からはキユーピーが参画しています。
同社は月面等での長期滞在を支える食料供給システムの開発プロジェクトについて、「100年以上培ってきた調理の簡便化技術・鮮度保持技術」を活用していくと記載しています。
- ブリヂストンはタイヤの知見を月面探査車の接地体開発に転用している
- 清水建設は無人化・省人化施工と金属3D積層の技術を宇宙側へ持ち込んでいる
- キユーピーは調理の簡便化技術と鮮度保持技術を長期滞在の食に応用している
JAXAには、民間事業者と共同で宇宙関連事業の創出を目指す「J-SPARC」というプログラムもあります。
公式ページでは、異分野の人材、技術、資金を糾合し、宇宙分野に閉じないイノベーション創出を目指すと説明されています。


企業の動きの背景には市場を4兆円から8兆円に広げる政府目標がある
これだけの企業が動いている理由は、政策と資金の側から説明できます。
数字は出典と対象時点をそろえて見ます。
政府の宇宙基本計画(令和5年6月13日 閣議決定)には、次のように書かれています。
「宇宙機器と宇宙ソリューションの市場を合わせて、2020年に4.0兆円となっている市場規模を、2030年代の早期に2倍の8.0兆円に拡大していくことを目標とする」。
この4兆円から8兆円という数字は実績ではなく、政府が掲げた目標です。
内閣府の宇宙戦略基金の資料でも、事業全体の目標(3Goals)の筆頭に「宇宙関連市場の拡大(2030年代早期に4兆円⇒8兆円 等)」が置かれています。
目標が置かれ、そこに公的資金がつき、民間の投資が続く。
この順番で企業の参入が起きています。
一時的な話題ではなく、10年単位の制度設計として動いている点が、現在の宇宙ビジネスの特徴です。
宇宙戦略基金は総額1兆円規模で民間企業と大学の技術開発を支える
企業側から見た資金の出どころのひとつが、宇宙戦略基金です。
仕組みと金額を、資料の表記どおりに確認します。
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局の「宇宙戦略基金第3期について(全体概要)」(令和8年2月)によると、この基金は民間企業・大学等が複数年度にわたって研究開発に取り組めるよう創設されました。
支援の対象は先端技術開発、技術実証、商業化です。
資料には「速やかに総額1兆円規模の支援を行うことを目指す」と記載されています。
資金の流れは、内閣府・経済産業省・文部科学省・総務省が基金を造成し、JAXAが民間企業、スタートアップ、大学・国研等へ委託や補助金交付を行う形です。
予算措置は補正予算で積み上げられてきました。
第三期にあたる令和7年度補正予算では2,000億円が措置され、その内訳は文部科学省950億円、経済産業省740億円、総務省310億円と記載されています。
それ以前は令和5年度補正予算3,000億円、令和6年度補正予算3,000億円が措置されています。
第三期では技術開発テーマとして全19テーマが設定され、支援分野は冒頭で触れた輸送、衛星等、探査等の3領域に対応しています。
| 予算 | 措置額 | 内訳 |
|---|---|---|
| 令和5年度補正予算 | 3,000億円 | 文科省1,500億円、経産省1,260億円、総務省240億円 |
| 令和6年度補正予算 | 3,000億円 | 文科省1,550億円、経産省1,000億円、総務省450億円 |
| 令和7年度補正予算(第三期) | 2,000億円 | 文科省950億円、経産省740億円、総務省310億円 |
措置額は補正予算ごとに分かれているため、金額を見るときは対象年度とセットで捉えると正確です。
宇宙スタートアップの上場が続き資金調達の手段が広がった
資金の出どころは公的支援とベンチャーキャピタルだけではありません。
株式市場からも資金が入る段階に来ています。
宇宙関連のスタートアップの上場が続いており、各社の公式リリースで上場市場と時期が確認できます。
いずれも東京証券取引所グロース市場への上場です。
なお、この記事は業界解説であり、投資助言ではありません。
株価や投資判断には触れず、産業の資金調達手段が広がったという事実だけを扱います。
| 企業 | 上場市場 | 上場時期 |
|---|---|---|
| ispace | 東証グロース市場 | 2023年4月 |
| アストロスケールホールディングス | 東証グロース市場 | 2024年6月 |
| Synspective | 東証グロース市場 | 2024年12月 |
| アクセルスペースホールディングス | 東証グロース市場 | 2025年8月 |
| QPSホールディングス(※) | 東証グロース市場 | 2025年12月 |
※旧QPS研究所(証券コード5595)は2023年12月に上場したのち、株式移転にともない2025年11月27日をもって上場廃止となり、持株会社の株式会社QPSホールディングス(証券コード464A)が2025年12月1日に上場しています(出典: QPS研究所「【お知らせ】株式移転に関するご案内」2025年11月27日)。
アクセルスペースも上場主体は持株会社であり、事業会社の株式会社アクセルスペースは持株会社の100%子会社です。
社名が似ていて別法人という例があるので、調べるときは上場主体を確認すると混乱を避けられます。
開発に長い時間がかかる産業で、公的支援、民間出資、融資、株式市場という複数の資金ルートが並んだことが、参入企業の増加を後押ししています。


宇宙ビジネスの企業を自分で調べるときは公開情報の見る順番が決まる
社名のリストは半年もすると古くなります。
自分で追える手順を持っておくほうが長く役に立ちます。
企業一覧の記事は便利ですが、新規参入や事業撤退、社名変更を追い切れません。
公開情報には見る順番があり、その順に当たると、記事に載っていない企業まで見つかります。
編集部が実際に使っている順番は次のとおりです。
- 政策資料で産業全体の枠組みと予算の方向を押さえる
- 各社の決算資料で、宇宙事業の実際の規模を確認する
- 官公庁やJAXAの公募採択結果で、受注実績のある企業をたどる



見る順番さえ覚えておけば、これから生まれる会社のことも自分で追いかけられるようになるよ。
決算資料のセグメント情報で宇宙事業の実際の規模を確かめる
企業の宇宙事業の規模を知りたいときは、有価証券報告書や決算説明資料のセグメント情報を見ます。
会社全体の売上高と宇宙事業の規模を混同しないための、いちばん確実な方法です。
宇宙事業が独立したセグメントとして開示されていない企業も多くあります。
その場合、外部から宇宙事業の売上を正確に知る手立てはありません。
「規模が分からない」というのが、そのときの正確な理解になります。
推計値を持ち出して断定するより、開示されていない事実をそのまま受け取るほうが誤りません。
実際、三菱電機やNECが製造した人工衛星の累計機数も、両社の公式ページには数値の記載がありません。
産業全体の規模感は、業界団体の調査が参考になります。
日本航空宇宙工業会の宇宙機器産業実態調査(令和5年度調査・令和4年度実績)では、宇宙機器産業の売上高合計が3,980億円、従業員数が8,891人と報告されています。
同調査は、日本国内の宇宙機器産業の実態を把握できる唯一の調査だと位置づけられています。
- 独立セグメントがある企業は、そのセグメントの売上と利益を見る
- 独立セグメントがない企業は、規模不明として扱う
- 産業全体の規模は業界団体の調査で押さえる
この2つを分けて見るだけで、売上ランキング型の記事に振り回されなくなります。
官公庁の公募採択結果から受注実績のある企業をたどる
プレスリリースを出さない企業でも、公募の採択一覧には名前が残ります。
ここが、一覧記事に載っていない企業を見つける方法になります。
宇宙戦略基金では、JAXAが民間企業や大学等へ委託・補助金交付を行う仕組みになっています。
そのため、JAXAが公表する公募情報と採択結果には、技術開発テーマごとに採択された企業名が並びます。
テーマ名を見れば、その企業がどの技術で選ばれたのかまで分かります。
清水建設がロケット用大型構造部品の金属3D積層で実施機関に選定された事例も、この形で公表されたものです。
内閣府の宇宙政策委員会の配布資料も有効です。
産業規模の推計や政策の方向性がまとまっており、企業の動きを読むための背景になります。
ただし資料によって産業区分の定義が異なる点には注意が要ります。
内閣府の宇宙政策基礎資料では、宇宙基本計画にもとづく「宇宙機器産業」「宇宙ソリューション産業」という区分と、別の調査による「宇宙コア産業」「宇宙技術活用産業」という区分が併記されています。
同じ2020年の約4兆円でも、区分が違えば内訳の数字が変わります。
- 採択結果はテーマ名と企業名がセットで公表される
- 政策委員会の資料は産業全体の枠組みを押さえるのに向く
- 産業規模の数値は、必ず区分名と対象年をセットで確認する
数字だけを切り出すと、意味が変わってしまう場面があります。
宇宙ビジネス企業を名乗る範囲の広さに注意して読む
最後に、読むときの判断軸をひとつ足しておきます。
「宇宙ビジネス企業」という言葉が指す範囲は、とても広いということです。
ロケットを一機まるごとつくる企業も、部品を1点供給する企業も、衛星データを使ったサービスを1本出した企業も、同じ「宇宙ビジネス企業」として紹介されます。
関わり方の深さは、記事や一覧では区別されません。
どちらがよい悪いという話ではなく、粒度が違うものが同じ枠に並んでいるという構造の問題です。
社数の話も同じです。
日本の宇宙関連企業が何社あるかについて、定義とセットで示された公表値は見当たりませんでした。
先ほどの日本航空宇宙工業会の調査には、令和5年度調査でアンケートに回答した企業として92社の一覧が掲載されています。
ただしこれは回答企業数であり、日本の宇宙関連企業の総数ではありません。
社数を見かけたときは、何を数えた数字なのかを確認するのが安全です。
- その企業の売上のうち、宇宙が占める割合はどれくらいか
- 主契約者なのか、部品供給なのか、データの利用者なのか
- 発表は基本合意や共同研究の段階か、実際に納入や運用が始まっているか
この3つを確かめるだけで、同じ一覧を読んでも見えるものが変わります。
宇宙ビジネスの企業についてよくある質問
まとめ 宇宙ビジネスの企業は分野と役割の2軸で見ると全体像がつかめる
宇宙ビジネスの企業は、社名を覚えるのではなく、2つの見方を重ねると整理できます。
ひとつは分野です。
政府が宇宙戦略基金の支援分野として置く輸送、衛星等、探査等という区分が、そのまま産業の地図になります。
もうひとつは役割です。
基盤を担う重工・電機系、出資と販路でつなぐ商社と金融、小型化と量産で売り方をつくり替えるスタートアップ、そして地上の技術を転用する異業種。
この4つの立ち位置が、同じ市場のなかで別の仕事をしています。
売上規模が違う企業が同じ一覧に並ぶのは、優劣ではなく層が違うからです。
背景には、宇宙機器と宇宙ソリューションの市場を2030年代早期に8.0兆円へ拡大するという政府目標と、総額1兆円規模を目指す宇宙戦略基金があります。
制度として10年単位で設計されているので、参入の動きはこの先も続きます。
そして企業の顔ぶれは変わり続けます。
だからこそ、決算資料のセグメント情報と公募の採択結果という2つの入り口を覚えておくと、最新の情報を自分で追えるようになります。
宇宙の仕事を担っているのは、宇宙専業の会社だけではありません。
タイヤも、建設も、食品も、地上で積み上げた技術のまま月へ向かっています。



あなたが今の仕事で磨いている技術も、いつか宇宙で必要になる日が来るかもしれない。宇宙はずっと、あなたを待っていたんだよ。
出典
- 内閣府 宇宙開発戦略推進事務局「宇宙戦略基金第3期について(全体概要)」令和8年2月
- 内閣府「宇宙基本計画」令和5年6月13日 閣議決定
- 内閣府 宇宙政策委員会「宇宙政策基礎資料」
- JAXA「H3ロケット」
- JAXA ファン!ファン!JAXA!「もっと知りたい!?惑星のこと ~月編~」
- 三菱重工業「打上げ輸送サービス」
- 三菱重工業「Launch Vehicles」
- IHIエアロスペース「イプシロンロケットについて」
- IHIエアロスペース「打上げ予定・実績」
- インターステラテクノロジズ「ZERO」
- インターステラテクノロジズ「MOMO」
- 三菱電機「宇宙システム」
- NEC「宇宙・衛星ソリューション」
- NEC「NEC標準衛星システム NEXTAR」
- スカパーJSAT「宇宙事業」
- スカパーJSAT「衛星一覧」
- アクセルスペース「サービス」
- Synspective「Constellation」
- QPS研究所「事業内容」
- アストロスケール「私たちについて」
- ispace「Company」
- ispace「Mission 1」
- ispace「ispace Announces Results of the “HAKUTO-R” Mission 1 Lunar Landing」2023年5月26日
- ispace「Mission 2」
- ispace「ispace Releases Technical Cause Analysis for HAKUTO-R Mission 2」2025年6月24日
- ispace「Status Update on ispace Mission 2 SMBC x HAKUTO-R Venture Moon」2025年6月6日
- ispace「ispace Announces New “ULTRA” Lunar Lander Integrating Japanese and U.S. Lander Models」2026年3月27日
- ispace「ispace and Mitsubishi Heavy Industries Agree to Launch Mission 3 ULTRA Lunar Lander Aboard H3 Rocket」2026年7月29日
- JAXA「JAXAとトヨタ、有人与圧ローバの愛称を「LUNAR CRUISER」に決定」2020年8月28日
- JAXA「JAXAとトヨタ、有人与圧ローバの実現に向け 具体的な共同研究に着手」2019年7月16日
- トヨタ自動車「ルナクルーザー」
- 本田技研工業「再使用型ロケット実験機の離着陸実験に成功」2025年6月17日
- ブリヂストン「JAXA、トヨタ自動車株式会社と共に国際宇宙探査ミッションへ挑戦」2019年4月11日
- ブリヂストン「ispaceとブリヂストン、中小型月面探査車向けタイヤの実用化を目指す基本合意書を締結」2025年7月31日
- 清水建設「シスルナ空間におけるインフラアーキテクチャ構築に向けた基本合意を締結」2026年4月15日
- 清水建設「ロケット用大型構造部品を対象とした金属3D積層に係る基盤技術開発」
- キユーピー「月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発」2021年12月8日
- JAXA「J-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)」
- インターステラテクノロジズ「丸紅株式会社との資本提携について」2019年11月11日
- スペースワン「資金調達に関するお知らせ」2024年10月9日
- アークエッジ・スペース「みずほ銀行より30億円の資金調達を実施」2026年2月3日
- 日本航空宇宙工業会「令和5年度 宇宙機器産業実態調査報告書」概要
- ispace「ispace上場に関するお知らせ」
- QPS研究所「東京証券取引所グロース市場への上場に関するお知らせ」
- QPS研究所「【お知らせ】株式移転に関するご案内」2025年11月27日
- アストロスケール「Astroscale listed on the Tokyo Stock Exchange Growth Market」
- Synspective「東京証券取引所グロース市場への上場」
- 株式会社アクセルスペースホールディングス「アクセルスペースホールディングス、東京証券取引所グロース市場に上場」2025年8月13日
- アクセルスペースホールディングス上場に関するインタビュー記事(補足)