株式会社アストロスケールホールディングスのフランス子会社Astroscale France SAS(アストロスケールフランス)は2026年9月10日、フランスの宇宙企業Exotrail、衛星通信事業者Eutelsatと共同で取り組む軌道離脱の実証ミッションが、フランスの国家投資計画「France 2030」のプログラムに採択されたと発表しました。
発表は、パリで開かれた「International Space Summit」の場で行われました。
役目を終えたEutelsatのOneWeb衛星に専用の宇宙機を近づけて結合し、大気圏へ落として処分するまでの一連の作業を、2029年から2030年にかけて実際の衛星で実施する計画です。
3行で分かるポイント
- アストロスケールのフランス子会社が、使い終わった衛星を軌道から下ろす実証ミッションに参加し、フランス政府の投資計画に採択された
- Exotrailが全体をまとめ、アストロスケールフランスが衛星に近づいて結合する技術を、Eutelsatが対象となる自社の衛星を提供する
- 実施は2029年から2030年。フランス国内に、繰り返し提供できる衛星の後始末サービスの体制を築くことが狙い
まず押さえたい背景
地球のまわりには、運用を終えた衛星やロケットの部品が数多く残っています。
こうした物体は宇宙デブリと呼ばれ、運用中の衛星にぶつかる危険があるため、役目を終えた衛星を軌道から下ろす仕事に注目が集まっています。
アストロスケールは2013年5月に設立された東証グロース上場の企業で、東京都墨田区に本社と研究開発拠点を置いています。
故障した機体の観測・点検、衛星の寿命延長や修理、運用を終えた衛星の除去といった「軌道上サービス」を手がけ、英国・米国・フランス・イスラエルにも拠点を持ちます。
2021年3月以降、ELSA-dとADRAS-Jのミッションで、軌道上で対象に接近する技術を実証してきました。
Exotrailはフランスの宇宙企業で、ホール推進器を使う電気推進系(電気の力で推進剤を噴き出し、衛星をゆっくり動かし続ける装置)と、軌道上サービスの両方を手がけています。
複数の軌道・複数の用途に対応する衛星の設計・製造・運用を専門とし、Eutelsat、Airbus、ESAなどを顧客に挙げています。
Eutelsatはパリに本社を置く衛星通信事業者で、1977年の設立以来、テレビ放送や航空機・船舶向けの通信を提供しています。
静止軌道の衛星31基に加え、低軌道を回るOneWebの衛星600基以上を運用しています。
このように多数の衛星を連携させ、地上の広い範囲を切れ目なくカバーする仕組みをコンステレーションと呼びます。
今回のミッションは、France 2030の「軌道上サービス-モビリティ」プログラムとして、フランスの宇宙機関CNES(フランス国立宇宙研究センター)との契約のもとで実施されます。
CNESは、フランス政府の宇宙戦略の立案と実行を担う機関です。
何が発表されたか
3社の役割は分かれています。
Exotrailは主契約者、つまりプロジェクト全体に責任を持って発注者と直接契約する立場として、次世代の宇宙サービス機「Spacevan」の設計・開発・製造・組立・試験・運用と、モビリティサービス全体の設計を担います。
アストロスケールフランスは、RPOD(ランデブ・近傍運用・ドッキング)の技術と知見を提供します。
RPODは、軌道上で狙った相手に接近し、すぐそばで相対的な位置と姿勢を保ちながら、最後に結合するまでの一連の運用を指します。
Eutelsatは運用中のOneWeb衛星を提供し、ミッションの要件やインターフェース仕様を示して、共同の運用計画づくりに協力します。
実証では、あらかじめ捕獲の準備がされた低軌道の衛星にSpacevanが接近してドッキングし、結合したまま大気圏へ再突入する軌道まで運びます。
そのあと分離とパッシベーション(推進剤や電池に残ったエネルギーを抜き、後から破裂しない状態にする処置)を行い、最終的に自然な再突入に委ねます。
アストロスケールフランスは、この一連の運用能力をフランス国内に整え、繰り返し提供できる衛星の運用終了時サービスとして、初の実運用事例を構築するとしています。
同社はミッション遂行に必要な人材・設備・産業連携をフランス国内で確立する役割も担います。
宇宙業界にとっての意味
デブリ除去や衛星への接近は、これまで技術実証としてのミッションが中心でした。
今回の計画は、実際に商用の通信ネットワークで働いている衛星を対象にし、同じ手順を繰り返し提供できるサービスとして組み立てる点が特徴です。
アストロスケールフランスのマネージングディレクターであるフィリップ・ブラット氏は、このプログラムを能力開発のフェーズから実ミッション提供のフェーズへの移行を象徴するものと位置づけ、商業市場だけでなく将来的には安全保障・防衛分野にも対応できる実運用基盤の構築を目指すと述べています。
ExotrailのCEOであるジャン=リュック・マリア氏は、この実証が運用終了時サービスにおけるフランス初の具体的な実績になるとともに、フランスおよび欧州が宇宙インフラの持続可能性やレジリエンス、安全保障を高めるために必要な技術を成熟させるものになるとの見方を示しました。
EutelsatのChief Engineering Officerであるフレデリック・ピロ氏は、コンステレーション事業者の実際のニーズに基づいた欧州独自のデオービットサービスの実現に貢献したいとしています。
日本企業にとっては、国内の技術を海外の国家プログラムの一部として供給する形になります。
アストロスケールフランスとExotrailは2026年4月、エマニュエル・マクロン大統領と高市早苗総理大臣の立会いのもとで戦略的パートナーシップを結んでおり、今回の採択はその延長線上にあります。
今後の注目点
当面の焦点は、2029年から2030年に予定される実証までに、SpacevanとRPOD技術を組み合わせた運用をどこまで仕上げられるかです。
実際の衛星を相手にする以上、接近から結合、再突入軌道への移送まで、地上で完全には再現できない工程が続きます。
アストロスケールフランスが担うフランス国内の人材・設備・産業連携の確立がどう進むかも、繰り返し提供できるサービスに育つかどうかを左右する部分です。
契約の具体的な条件や、実証後にサービスとしてどのような形で提供されるかは、今後の発表を待つ段階です。
ほしまる目的の軌道まで荷物を運ぶことと、そこにいる衛星をつかまえて連れ帰ることは、必要な技術が違うんだ。今回の3社の分担は、そこがきれいに分かれているんだよ。
出典
- 株式会社アストロスケールホールディングス「アストロスケールフランス、France 2030プログラムにおいて仏国ExotrailおよびEutelsatとの軌道離脱実証ミッションに採択」
- PR TIMES(株式会社アストロスケールホールディングス)「アストロスケールフランス、France 2030プログラムにおいて仏国ExotrailおよびEutelsatとの軌道離脱実証ミッションに採択」
- Astroscale「Exotrail and Astroscale France join forces to build deorbiting capability aimed at satellites in Low Earth Orbit」
- Exotrail「Discover Exotrail」
- Eutelsat「About us」
- CNES「CNES」