欧州宇宙機関(ESA)とアメリカの宇宙企業Axiom Spaceが、国際宇宙ステーション(ISS)の運用が終わったあとの地球低軌道の使い方をめぐって、協力の覚書に署名しました。
ESAは2026年9月12日、パリで開かれた国際宇宙サミットに合わせて署名したと発表しています。
ヨーロッパの宇宙飛行士が、Axiom Spaceの建設する商業宇宙ステーションに滞在する可能性などを、両者でこれから検討していきます。
3行で分かるポイント
- ESAとAxiom Spaceが、ISSの運用終了後もヨーロッパが地球低軌道を使い続けられるようにするための協力の枠組みを決めました
- 検討する分野は、宇宙飛行士の滞在、ESAによるステーションへの貢献、実験装置の開発、船外活動の訓練支援などです
- 覚書は協力の方向性を確認する段階の取り決めで、実際に何をするかはESA加盟国の判断で決まります
まず押さえたい背景
ESA(欧州宇宙機関)は1975年に設立された政府間機関で、本部はパリにあります。
23か国が加盟し、ヨーロッパの宇宙計画を取りまとめて実行する役割を担っています(出典: ESA「What is ESA?」)。
Axiom Spaceは2016年に設立されたアメリカの宇宙企業で、運営上の本社はテキサス州ヒューストンにあり、従業員は約700人です(出典: Axiom Space「Axiom Space Redomiciles to Texas, Building the Space Ecosystem to Enable Humanity’s Future」)。
商業宇宙ステーション「Axiom Station」の建設と、月面などで使う次世代宇宙服の開発を進めています(出典: Axiom Space「About」)。
地球低軌道(LEO)は、地球のすぐ外側をまわる高度の低い軌道の領域で、ISSもここを周回しています。
そのISSは2030年に運用を終える計画で、NASAはその後の受け皿として、企業が所有・運用する宇宙ステーションの開発を支援しています(出典: NASA「Commercial Space Stations」)。
つまり、いま各国が軌道上で続けている実験の場が、10年に満たない先になくなります。
なお覚書(MoU)は、正式な契約の前に、どの分野で協力していくかという方向性を確認するための取り決めです。
何が発表されたか
ESAによると、今回の覚書は地球低軌道での将来の協力を探るためのもので、次のような分野が検討の対象に入ります。
- Axiom Stationでの宇宙飛行士ミッション
- ステーションに対するESAの貢献の可能性
- 微小重力環境を使う利用者層の開拓
- 科学ペイロード(軌道上で動かす実験装置)の開発と搭載
- 船外活動(EVA)プログラムの訓練・運用支援
ESA事務局長のJosef Aschbacher氏は、ヨーロッパは自律性を高めながらISS運用終了後の時代に備えているとしたうえで、今回の協力は、将来の商業ステーションが欧州の科学と宇宙飛行士ミッションをどう支えられるか、また欧州の輸送能力がどのような役割を果たしうるかを検討する土台になると述べています。
そのうえで、次の段階はESA加盟国の決定に従うとしています。
有人・ロボット探査部門を統括するDaniel Neuenschwander氏は、ISSの軌道離脱が近づくなか、低軌道へのアクセスを確保する手段を先回りして準備するのが務めだと述べました。
今回の文書は、軌道上で科学を続ける能力を守り、欧州の宇宙飛行士団に飛行機会を提供し続ける姿勢と、欧州が進める自律的な貨物機の開発計画に対する国際パートナーの関心の高まりを示すものだとしています。
Axiom SpaceのCEO兼社長であるJonathan Cirtain氏は、持続的な有人宇宙活動への道は国際協力を通ると述べ、ESAと加盟国が将来の宇宙飛行士ミッションの顧客として加わることに期待を示しました。
宇宙業界にとっての意味
ISSの運用終了後にヨーロッパが軌道上での活動を続けるには、実験や滞在の「行き先」と、そこへ物や人を運ぶ「足」の両方が要ります。
今回の覚書は、行き先の候補としてAxiom Stationを、足の側として欧州が開発中の輸送手段を置いて、その組み合わせを検討の俎上に載せたものです。
足の側では、ESAは2024年5月に、Thales Alenia SpaceとThe Exploration Companyの2社と、低軌道への貨物往復サービスを開発する契約を結んでいます。
実証は理想的には2028年、遅くとも2030年までに実施する計画です(出典: ESA「ESA signs contracts for commercial space cargo return service」)。
自前の貨物機が実際に飛ぶようになれば、その運び先として商業ステーションが必要になります。
今回の覚書は、その両端を同じ話として扱う枠組みにあたります。
ただし覚書は拘束力のある契約ではありません。
Aschbacher氏自身が、次の段階は加盟国の決定に導かれると述べており、実際に欧州の宇宙飛行士がAxiom Stationへ向かうかどうかは、これから決まる段階です。
今後の注目点
当面の焦点は、ESA加盟国がこの方向にどこまで予算と意思決定で応えるかです。
覚書に書かれた検討項目のうち、どれが正式な契約や個別の合意に進むかが、次の具体的な節目になります。
技術面では、欧州の貨物往復サービスの実証が2028年から2030年までの目標に対してどう進むか、そしてAxiom Stationの建設がどこまで形になるかが、この枠組みが実体を持つかどうかを左右します。
ほしまるぼくが旅に出たころ、宇宙の”家”は国が建てて国が持つものだったよ。会社が建てた家に国がお客さんとして行く、というのはずいぶん新しい話なんだ。
出典
- ESA「ESA and Axiom Space strengthen cooperation for the post-ISS era」
- Axiom Space「Axiom Space Redomiciles to Texas, Building the Space Ecosystem to Enable Humanity’s Future」
- Axiom Space「About」
- ESA「What is ESA?」
- ESA「ESA signs contracts for commercial space cargo return service」
- NASA「Commercial Space Stations」