CybExerが欧州10社を率いIRIS²の通信を試す仕組みを開発

エストニアのサイバーセキュリティ企業CybExerは、EUが整備する政府向け衛星通信網「IRIS²(イリス・スクエア)」の通信を試験・検証する仕組みを開発すると発表しました。
開発はエストニア、フィンランド、ギリシャ、イタリアの計10社による企業連合で進め、CybExerが元請け(プライムコントラクター)として全体をまとめます。
プロジェクトは2026年9月17日、スペイン・マドリードにある欧州宇宙機関(ESA)の拠点で正式に始まりました。

3行で分かるポイント

  • エストニアのCybExerが欧州10社の企業連合を率い、EUの新しい衛星通信網の安全性を試す仕組みを作ります。
  • 衛星から地上設備、利用者までの通信全体を、妨害や攻撃を想定した条件で、実際に動いている設備を危険にさらさずに試せるようにします。
  • EUの衛星通信網は2029年に最初の打ち上げを予定しており、この取り組みはそれより前に弱点を洗い出すためのものです。
目次

まず押さえたい背景

CybExerは2016年に設立され、エストニアの首都タリンに本社を置く会社です(出典:CybExer「About CybExer」)。
主な製品は「サイバーレンジ」と「デジタルツイン」です。

サイバーレンジは、本物そっくりのネットワークを仮想空間に作り、攻撃への対応を訓練したり、システムを試験したりするための環境です。
いわば、サイバー攻撃の防災訓練を安全に行うための演習場です。

デジタルツインは、実際のシステムや機器を仮想空間に写し取った複製で、本番の設備を止めずに試験ができます。
顧客は銀行・金融、電力などのインフラ、政府、防衛、大学などです。

IRIS²は、EUが進める衛星通信網です。
欧州委員会は、EUの機関や各国の省庁、大使館向けに暗号化した安全な通信を提供し、防衛活動や国境・海上の監視、情報の共有を支えるものと位置づけています(出典:欧州委員会「IRIS² | Secure Connectivity」)。

ESAの2026年8月の発表によると、衛星は計348機で、内訳は低軌道(高度の低い軌道)に330機、中軌道に18機です(出典:ESA「IRIS² reinforced and accelerated as implementation advances」)。
このように多くの衛星を連携させて運用する仕組みを「コンステレーション」と呼びます。

ESAはIRIS²の技術面を担い、開発や性能の確認(認定)、軌道上での検証を監督しています。

何が発表されたか

CybExerの発表によると、企業連合は、保護された衛星通信を試験・検証する仕組みを「端から端まで」通して開発します(出典:CybExer「Europe to test secure satellite communications against disruption and cyberattacks」)。
試験の対象は、衛星との通信回線から地上設備、利用者の端末に至る通信の流れ全体です。
電波による妨害や通信の途絶、サイバー攻撃といった条件を実際に近い形で再現しながら、運用中のシステムを危険にさらさずに試験できるようにします。
想定する場面には、ドローンの運用や、敵対する勢力と競り合う環境での指揮統制(部隊や機器に指示を出し、状況を把握する仕組み)を衛星通信で支えるケースが含まれます。

企業連合にはCybExerのほか、CGI Estonia、CR14、DamoTech、Hellas Sat、KrattWorks、M3S Italia、Magister Solutions、Rantelon、Spaceitが参加します。
このうちHellas Satはギリシャを拠点とする衛星通信会社で、東経39度の位置からHellas Sat 3、Hellas Sat 4などの衛星を運用し、欧州、中東、アフリカ南部に通信サービスを提供しています(出典:Hellas Sat公式サイト)。

この活動は、ESAの「EU Secure Connectivityに関連するプログラム」のうち、IRIS²の低軌道分野で本格運用の前に試験を行い、リスクを減らす活動の「具体化段階」に含まれます。
ESAはこの活動を管理し、政府向け設備の性能を認定・検証する立場も担います。

CybExerで特別プログラムを担当する副社長のKristiina Omri氏は、技術が軌道に投入されたあとでは弱点を見つけるのがかなり難しくなると述べています。
そのうえで、重要な業務に組み込まれる前に、妨害や攻撃を受けたときにシステムがどう振る舞うのかを確かな証拠として押さえる必要があると語っています。

宇宙業界にとっての意味

ESAは同じ9月17日にマドリードの欧州宇宙天文学センター(ESAC)で、この具体化段階の契約18件に署名したと発表しています(出典:ESA「ESA starts next phase of IRIS² evolution through Low-LEO activities」)。
契約額は合計2,000万ユーロで、80社近くが参加します。

これらの契約は、ESAが「Low-LEO」と呼ぶ枠組みに関するものです。
Low-LEOは、政府向けの新しい通信サービスを低軌道で素早く、繰り返し検証するための仕組みです。
対象となる分野は、政府向けの安全なブロードバンドや海上での活動、航空、データ中継などです。

技術が軌道に投入されたあとでは弱点を見つけ、修正するのがかなり難しくなると、Omri氏も発言のなかで述べています。
今回の企業連合は、サイバー攻撃の演習環境を専門とする会社と、衛星を運用するHellas Satなどを組み合わせ、打ち上げ前の段階から通信全体を試験できる体制づくりに取り組みます。
IRIS²のような政府向けの通信網では、衛星を作って打ち上げるだけでなく、妨害や攻撃を受けたときの振る舞いを事前に確かめる役割にも、欧州の企業が参加し始めています。

今後の注目点

CybExerの発表によると、IRIS²は2029年に最初の打ち上げを予定しています。
ESAは、具体化段階のあとに、2027〜2029年に実施する予定のミッションを対象として「実施段階」の調達を始めるとしています。
この段階では、目標とする政府向けサービスを、本格運用の前の水準で軌道上で検証します。

今後確認したいのは、今回の試験の仕組みがどの時点で完成し、ESAによる政府向け設備の認定や検証に実際にどう使われるかです。
あわせて、企業連合の各社がそれぞれどの部分を担当するのかも注目点です。

出典

ほしまる
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