福島県の宇宙スタートアップAstroXは2026年9月24日、明石ビール、高知工科大学と、ビールを宇宙空間へ運ぶための三者契約を結んだと発表しました。
契約を結んだのは2026年8月20日です。
専用容器に入れたビールを大学で試験したあと、AstroXのロケットで宇宙へ運びます。
同じ飛行では、耳には聞こえない低い音を測る観測装置も一緒に運ぶ計画です。
3行で分かるポイント
- 宇宙ベンチャーのAstroX、兵庫県明石市のビール醸造所、高知工科大学の3者が、ビールを宇宙へ運ぶ契約を結びました。
- ビールは専用容器に入れ、大学で真空・振動・衝撃の試験を受けてからロケットに載せます。
- 打ち上げ日はまだ決まっていません。同じ飛行で、耳に聞こえない低い音を測る観測も行う計画です。
まず押さえたい背景
AstroXは、福島県南相馬市に本社を置く宇宙輸送の会社で、2022年5月20日に設立されました(出典:AstroX「高知工科大学とAstroX、宇宙輸送と成層圏輸送でペイロード輸送契約を締結」)。
日本では衛星を打ち上げるロケットが足りていません。
AstroXは、この問題を小型ロケットの開発で解決することを目標にしています。
この会社の特徴は「ロックーン(Rockoon)方式」と呼ばれる打ち上げ方法です。
大きな気球でロケットを成層圏までつり上げ、空中でロケットを発射します。
成層圏は、旅客機が飛ぶ高さよりさらに上の大気の層です。
地上から打ち上げるロケットは、空気が濃い低い高度を自力で上っていく必要があります。
ロックーン方式では、この区間を気球が受け持ちます。
明石ビールは、兵庫県明石市でクラフトビールを造っている醸造所です。
麦芽100%のビールを7種類造っています(出典:明石ブルワリー「公式サイト」)。
高知工科大学は、高知県の公立大学法人が運営する理工系の大学で、香美市と高知市にキャンパスがあります(出典:高知工科大学「大学概要」)。
ロケットに載せて運ぶ荷物は「ペイロード」と呼ばれます。
人工衛星や観測装置のほか、今回のビールのように実験用の品物もペイロードになります。
何が発表されたか
3者は、明石で醸造したビールを宇宙へ運ぶ「Beer to Spaceプロジェクト」を進めています。
ビールは専用容器に入れ、高知工科大学で真空・振動・衝撃などの環境試験を受けてから、AstroXのロケットで運ばれます(出典:AstroX「Beer to Spaceプロジェクト 三者契約締結のお知らせ」)。
環境試験は、打ち上げの激しい揺れや衝撃、宇宙の真空に荷物が耐えられるかを、地上で前もって確かめる試験です。
ビールの容器が途中で壊れたり漏れたりすれば、ほかの搭載物にも影響が出るおそれがあるため、この確認が欠かせません。
SPACE CONNECTの報道では、容器は高さ約11cm、直径約4cmのアルミボトルです。
飛行は、地球を周回しない「サブオービタル飛行」で、高度100km以上の宇宙空間を目指し、2026年度中の実現を目指していると報じています(出典:SPACE CONNECT「明石ビールを宇宙へ|AstroX・高知工科大学と輸送契約」)。
サブオービタル飛行は、宇宙空間まで上がったあと、地球を回る速度には達しないまま落ちてくる飛び方です。
打ち上げ時期は調整中です(出典:明石ブルワリー「Beer to Space」)。
この構想は、高知工科大学の博士後期課程に在籍する社会人学生の堺政人氏が発案しました。
同大学の「学生提案宇宙実験」の公募に応募し、採択されたものです。
同じ飛行では、高知工科大学とAstroXが進めるインフラサウンドの観測装置も運びます。
インフラサウンドは、20Hz以下の、人の耳には聞こえない低い音です。
火山の噴火や雷などから出る音で、観測装置はわずかな空気の動きをとらえて検知します。
両者は2026年5月27日にも、この観測装置をロックーン方式のロケットで運ぶ契約を結んでいます。
地上・成層圏・宇宙空間の3つの高さで、同じ音源を同時に観測する計画です(出典:AstroX「高知工科大学とAstroX、宇宙輸送と成層圏輸送でペイロード輸送契約を締結」)。
宇宙業界にとっての意味
ロケット会社の事業では、打ち上げる能力と同じように、運ぶ荷物を集める力が必要になります。
今回の契約の相手には、大学の研究チームのほか、ビール醸造所という宇宙とは別の業種の会社が入っています。
AstroXのニュースページにはペイロード輸送契約の発表が並んでおり、今回の契約もそのひとつです。
一方で、AstroXが2026年度中を目標に掲げる、高度100km以上の宇宙空間への到達という目標は、今回の契約とは別の話です。
今回はあくまで輸送の契約で、実際にビールが宇宙へ届いたわけではありません。
小型の荷物の輸送実績を積めるかどうかは、打ち上げの成否にかかっています。
今後の注目点
いちばんの節目は、打ち上げ日がいつ決まるかです。
3者は2026年度中の実現を目指していますが、日程は調整中です。
その前に、高知工科大学で行う環境試験を、ビールを入れた容器が通過できるかも確認が必要です。
打ち上げのあとは、ロケットが高度100km以上に届いたか、容器を回収してビールの状態を調べられたかが焦点になります。
インフラサウンド観測で、地上・成層圏・宇宙空間の3つの高さのデータが実際にそろうかどうかも注目点です。
ほしまるビールの容器は高さ約11cmだから、手のひらに乗るくらいの大きさなんだね。
そんな小さな荷物でも、打ち上げ前には真空や揺れの試験を全部通る必要があるんだよ。