衣服やバッグに使われるファスナーの大手、YKKの技術が月面基地の研究に使われます。
YKKはミサワホーム、ミサワホーム総合研究所、カンボウプラスと4社で研究を提案しました。
テーマは、月面に置く小さな建物どうしを、ファスナーと柔らかい膜の素材でつなぐ技術の開発です。
この提案はJAXAの研究制度「Moon to Mars Innovation」に採択内定となり、4社が2026年1月22日に発表しました(出典:YKK株式会社「JAXAの『Moon to Mars Innovation』に採択内定され 月面拠点の構築に資する空間連結技術の確立を目指す」。以下、研究の条件は同発表によります)。
YKKのファスナーは、これまでに宇宙飛行士の服にも使われてきました。
3行で分かるポイント
- YKKなど4社が、月面基地の建物どうしをファスナーと膜の素材でつなぐ技術をJAXAと共同で研究する
- 研究期間は2026年4月から2028年3月までの24か月で、研究経費は1,000万円
- YKKの空気や水を通さないファスナーは、スペースシャトル時代から宇宙飛行士の服に使われてきた
まず押さえたい背景
YKKは東京都千代田区に本社を置く会社で、ファスナーなどのファスニング商品を製造・販売しています。
70の国・地域で事業を展開しています(出典:YKK株式会社「会社概要」)。
ミサワホームは東京都新宿区に本社を置く住宅メーカーで、南極の昭和基地の建設支援に50年以上携わってきました(出典:ミサワホーム株式会社「PR TIMES プレスリリース」)。
ミサワホーム総合研究所は、住まいと暮らしを研究する機関として1973年に設立されました。
カンボウプラスは大阪市に本社を置く1939年設立の素材メーカーです(出典:カンボウプラス株式会社「会社概要」)。
テントやトラックの幌、工事現場の養生シートに使われる、布に樹脂を塗り重ねた丈夫な素材(膜材)を作っています。
YKKのファスナーは宇宙でも使われてきました。
スペースシャトルの宇宙飛行士は、緊急避難用に打ち上げ時と帰還時に、機内の気圧の変化から体を守る服を必ず着ていました。
この服は与圧服と呼ばれ、オレンジ色をしています。
与圧服の胸から背中にかけて使われているのが、YKKの水や空気を通さないファスナーです(出典:YKK株式会社「こんなところにYKK 宇宙服(与圧服)」)。
2016年度には、YKKの水密・気密ファスナー「PROSEAL®」が新型の与圧服に採用され、本体とフードの部分に使われました(出典:SPACE CONNECT「宇宙で活躍するYKKのファスナー技術を紹介」)。
何が発表されたか
研究テーマは「月面基地構築に資するフレキシブルで施工性の高い空間連結技術の開発」です。
「施工性が高い」とは、組み立てや建設の作業がしやすいことを指します。
構想は、月面に小さな建物のまとまり(モジュール)をいくつも置き、それらをつないで基地を広げていくというものです。
モジュールの間を柔らかい膜材でつなぎ、その接続部分にファスナーを使います。
4社とJAXAの役割は次のとおりです。
- ミサワホーム・ミサワホーム総合研究所:研究全体のとりまとめと、工場生産を生かしたモジュールの開発・技術実証
- YKK:スライドファスナーなどの開発・供給
- カンボウプラス:膜材などの開発・供給
- JAXA:宇宙環境に関する情報と知見の提供
この技術のもとになったのは、南極での取り組みです。
ミサワホームは、昭和基地とドームふじ基地で「南極移動基地ユニット」を使った実証を行いました。
専門知識のない作業者でも建物を広げたり縮めたりしやすくする「セルサイクル工法」の検証を通じて、ユニットどうしをつなぐ技術を確かめ、そこにYKKのファスナーとカンボウプラスの膜材が組み合わされました。
今回の研究では、地上と南極で培ったこの技術を、宇宙の環境で使えるようにすることを目指します。
宇宙業界にとっての意味
Moon to Mars Innovationは、JAXAの宇宙探査イノベーションハブが運営する共同研究制度です。
JAXAの将来の宇宙探査ミッションと、企業による宇宙事業化の両方で成果を出すことを目的にしています(出典:JAXA宇宙探査イノベーションハブ「Moon to Mars Innovation」)。
地上にある民間企業の技術を応用することを基本としており、研究領域のひとつに、月や火星での長期滞在を扱う「ハビテーション(居住)」があります。
今回の提案は、住宅、ファスナー、膜材という、これまで宇宙開発と縁が薄かった分野の技術を組み合わせたものです。
ミサワホームらは、月面基地づくりの初期には、小さなモジュールをつないで拠点を広げる方法が有力だとしています。
つなぎ目を柔らかい膜とファスナーにすれば、建物の配置を変えたり後から付け足したりしやすくなる、というのが今回の技術の狙いです。
ただし現時点は研究が始まった段階で、月面で使える性能が確かめられたわけではありません。
今後の注目点
研究期間は2028年3月までです。
4社は宇宙特有の条件に合わせた開発を進め、部品レベルでの宇宙での実証も視野に入れるとしています。
ここでいう宇宙特有の条件には、真空や大きな温度変化、放射線などが考えられます。
南極で確かめた接続の技術が、こうした条件でもそのまま通用するかは、今後の研究で確かめる点です。
宇宙での実証をいつ・どの手段で行うかは、今後の発表を待つ必要があります。
ほしまる与圧服のファスナーは人ひとりの体を包む大きさだったけど、建物どうしをつなぐ長いつなぎ目でも、同じように空気を逃がさずにいられるのかな?
出典
- YKK株式会社「ミサワホーム・ミサワホーム総合研究所・YKK・カンボウプラスによる技術開発 JAXAの『Moon to Mars Innovation』に採択内定され 月面拠点の構築に資する空間連結技術の確立を目指す」 https://www.ykk.com/newsroom/g_news/2026/20260122.html
- ミサワホーム株式会社「JAXAの『Moon to Mars Innovation』に採択内定され 月面拠点の構築に資する空間連結技術の確立を目指す」(PR TIMES) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000207.000071302.html
- YKK株式会社「会社概要」 https://www.ykk.com/corporate/group/
- YKK株式会社「こんなところにYKK 宇宙服(与圧服)」 https://www.ykk.com/ykk/here/ajax/spacesuit.html
- カンボウプラス株式会社「会社概要」 https://kanbo.co.jp/4525
- JAXA宇宙探査イノベーションハブ「Moon to Mars Innovation」 https://www.ihub-tansa.jaxa.jp/introduction/
- SPACE CONNECT「宇宙で活躍するYKKのファスナー技術を紹介|宇宙服、そして月面基地向け研究へ」 https://space-connect.jp/ykk-space/
- info.gbiz.go.jp「ichiran」 https://info.gbiz.go.jp/hojin/ichiran?hojinBango=5011101035813