衛星通信アンテナを手がけるIntellian Technologiesと、通信ネットワークを設計・構築するNetwork Innovationsが、軍・政府向けの可搬型衛星通信端末を共同開発し販売する提携を結びました。
2026年9月16日付の共同発表によると、対象は機材を現地へ運んで短時間で組み立てる「フライアウェイ端末」で、米国と同盟国の軍が使う通信衛星システムWGSに対応させる計画です。
ひとつの端末で複数の周波数帯と複数の高さの軌道を扱えるようにする点が特徴だと、両社は説明しています。
3行で分かるポイント
- 衛星アンテナメーカーとネットワーク構築会社が、持ち運べる軍・政府向け衛星通信地上局を共同開発します。
- 端末は軍用と商用の複数の周波数帯を同時に使える設計で、運び込んでから最短30分程度で通信を始められるとしています。
- 低い軌道から静止軌道まで、高さの違う衛星に合わせられることを目指しています。
まず押さえたい背景
Intellian Technologiesは、2004年創業で韓国の平澤(ピョンテク)に本社を置く衛星通信アンテナ・端末のメーカーです。
商船やクルーズ船向けの船舶用アンテナ、陸上向けや軍・政府向けの端末、平面型アンテナなどを手がけ、韓国のKOSDAQ市場に上場しています。
もう一方のNetwork Innovationsは1989年設立で、4つの大陸で事業を展開する技術システムインテグレーターです。
システムインテグレーターとは、衛星・無線・携帯回線といった異なる通信手段を組み合わせ、利用者が使える形のネットワークとして設計・構築し、運用まで面倒を見る会社を指します。
同社は政府・防衛、公共安全、エネルギー、鉱業、海事などの分野を顧客としています。
今回の中心にあるフライアウェイ端末は、アンテナや通信機器を分解して箱詰めし、車両や航空機で運んだ先で組み立てて使う可搬型の衛星通信地上局です。
固定局のように設備を建てる必要がないため、通信インフラのない場所や、災害・作戦などで急に回線が要る場所で使われます。
WGS(Wideband Global Satcom)は、この端末がつながる相手となる軍用の通信衛星システムです。
製造元のボーイングは2017年の発表で、WGSがX帯とKa帯という周波数帯で通信を提供すると説明し、9号機について米国・カナダ・デンマーク・ルクセンブルク・オランダ・ニュージーランド・オーストラリアの7か国が利用するとしています。
X帯・Ka帯・Ku帯は電波の周波数帯につけられた呼び名で、同じKa帯でも軍に割り当てられた帯域と商用衛星が使う帯域に分かれています。
何が発表されたか
両社は複数年にわたる提携契約を結び、次世代のWGS対応フライアウェイ端末を共同開発し、軍・政府市場へ流通させます。
発表では、軍用X帯・軍用Ka帯・商用Ka帯・商用Ku帯を同時に扱え、広い範囲のKa帯の周波数を電子的に切り替えられる設計だとしています。
両社は、この同時対応が実現すれば世界初になるとしています。
対応する軌道も幅を持たせ、低軌道(LEO)、中軌道(MEO)、静止軌道(GEO)、長楕円軌道(HEO)の衛星と、今後登場する衛星網との相互運用を想定しています。
設置から運用開始までは最短で30分程度とされ、WGSの認証取得とMIL-SPEC(米国防総省の軍用規格)への適合を満たす設計として開発が進められます。
将来はWGS以外の商用版も用意し、政府や企業、重要通信の用途へ広げる計画です。
Intellianのエリック・ソンCEOは、軍用X帯と軍用Ka帯の同時利用、より広い商用Ka帯の周波数、複数軌道への対応を素早く展開できる構成にまとめることで、複雑化する防衛通信の要求に応えると述べています。
Network Innovationsのデレク・ドーソンCEOは、WGS衛星だけでなく既存および新規の低軌道・中軌道の衛星を組み合わせて使えることが顧客の任務にとって重要性を増していると述べています。
端末の設計には、同社が20年以上WGSの利用者を支援してきた運用経験が反映されているとしています。
なお、Intellianにとってこれが初の戦術地上用WGSフライアウェイ端末であり、2026年3月のSATShow Weekで計画の一部が先行して示されたと、Via Satelliteは伝えています。
宇宙業界にとっての意味
軍・政府の衛星通信は長く静止軌道の大型衛星が中心でしたが、低軌道の衛星群を併用する動きが広がっています。
問題は地上側で、周波数帯や軌道ごとに端末が分かれていると、現場は用途の異なる機材を複数持ち込むことになり、運搬・訓練・保守の負担がそれだけ増えます。
今回の端末が設計どおりに実現すれば、こうした現場が1台で複数の帯域と軌道を切り替えられる選択肢を得ることになります。
もうひとつの読みどころは、役割分担の形です。
端末を作るメーカーと、軍・政府の調達や運用に通じたシステムインテグレーターが開発段階から組むことで、実際の任務で求められる条件を製品仕様へ早く反映できるという狙いが、両社の説明から読み取れます。
ただし現時点は開発と流通の取り決めが結ばれた段階で、性能はいずれも設計上の目標として示されているものです。
今後の注目点
最初の節目は、WGSの認証とMIL-SPECへの適合を設計どおりに満たせるかどうかです。
軍用の通信網につなぐ端末は、電波の質や妨害への強さ、温度や振動に耐えるかといった条件を満たして初めて実際の任務で使えるようになります。
次に、同時対応の範囲が最終仕様でどこまで残るか、最短30分という展開時間が実機でどう検証されるかが確認点になります。
提供開始の時期や価格といった条件は、今後の製品化の進み方とともに明らかになっていく段階です。
ほしまるパラボラアンテナは、向いている方角が少しずれるだけで相手に届かなくなるんだ。運んだ先で組み立てて、空のどこを向くか決めるまでが勝負だよ。
出典
- Via Satellite「Intellian to Develop Multi-Band WGS Terminals With Network Innovations」
- PR Newswire(Intellian Technologies・Network Innovations)「Intellian and Network Innovations Sign Strategic Partnership to Develop and Distribute Multi-Band, Multi-Orbit WGS Flyaway Terminals for Military and Government Markets」
- Network Innovations「Intellian and Network Innovations Sign Strategic Partnership to Develop and Distribute Multi-Band, Multi-Orbit WGS Flyaway Terminals」
- Intellian Technologies「Who We Are」
- Intellian Technologies「Intellian accelerates production capacity with launch of new South Korea factory」
- Network Innovations「About」
- Boeing「Ninth Boeing-built Wideband Global SATCOM Satellite to Expand Military Communications Capabilities for U.S., Allies」