フランスの小型衛星メーカーU-Spaceと、日本の宇宙ベンチャーである株式会社天地人が、地表の温度を宇宙から測る次世代の赤外線地球観測システムを展開するため、基本合意書に調印しました。
調印式は2026年9月10日、パリで開かれた国際宇宙サミットの二国間セッションで行われました。
U-Spaceが衛星システムの設計から製造・納入までを担い、天地人がそのシステムを運用してデータとサービスの商業化を担当します。
3行で分かるポイント
- フランスのU-Spaceと日本の天地人が、地表の温度を宇宙から測る観測システムの展開で合意しました
- U-Spaceが衛星をつくり、天地人がそれを運用して温度データと関連サービスを販売する役割分担です
- 得られる温度データは、インフラの監視、水資源の管理、農業の最適化、気候リスクへの先行的な対策に使われます
まず押さえたい背景
U-Spaceは、フランス南西部のトゥールーズに拠点を置く小型衛星メーカーです。
コンステレーション向けにモジュール型の衛星を設計・製造し、軌道上の運用までを一貫して手がけています(出典: 株式会社天地人「U-Spaceと天地人、次世代赤外線地球観測システムの展開に向けた戦略的パートナーシップを発表」。以下、提携の内容は同リリースによります)。
コンステレーションは、同じ種類の衛星を何機も打ち上げて群として動かす仕組みで、同じ場所を短い間隔で観測できるようになります。
自社製品としては、用途に応じて構成を変えられる衛星プラットフォーム「FreeForm」と、規格化された16UのCubeSatを掲げています(出典: U-Space公式サイト)。
CubeSatは、1辺10cmの立方体を1ユニット(1U)と数え、必要な数だけ組み合わせてつくる超小型衛星の規格です。
ESAの解説では、ユニット数は2〜16程度、質量は3〜32kgに収まります(出典: ESA「CubeSats」)。
天地人は、東京都中央区日本橋に本社を置く2019年5月設立の企業です(出典: 天地人「会社概要」)。
衛星データとAIを使って地上の見えないリスクを可視化する事業を手がけ、主力プロダクト「KnoWaterleak」では、水道インフラに潜むリスクを検知し、漏水の可能性を予測します。
今回の中心にある地表面温度(LST)は、天気予報で流れる気温とは別のものです。
気温が空気の温度であるのに対し、地表面温度は、衛星が大気越しに見ている地面そのものの温度を指します。
雪や芝生、建物の屋根、森の樹冠など、衛星から見えている面が対象になります(出典: NASA「Land Surface Temperature」)。
衛星はこの温度を、地表から放たれる熱赤外線をとらえて測ります。
NASAの地球観測衛星ランドサットに搭載された熱赤外センサーTIRSは、2つの熱赤外の波長帯で地表面温度を測定しています(出典: NASA「Thermal Infrared Sensor (TIRS)」)。
何が発表されたか
基本合意書(MoU)は、正式な契約の前に、協力の方向性と役割の分担を確認するための取り決めです。
今回の合意で、U-Spaceは「産業プライムコントラクター」として、次世代の宇宙システムと将来のコンステレーションの設計・製造・納入をエンドツーエンドで担います。
プライムコントラクターは、多くの部品メーカーを取りまとめ、システム全体をつくって引き渡す責任を負う主契約企業のことです。
一方の天地人は、そのシステムを運用・活用し、高解像度・高頻度の熱赤外データと、関連する付加価値サービスの商業化を担います。
生み出される地表面温度データについて、発表はインフラ監視、水資源管理、農業の最適化、気候リスクの先行的な低減に不可欠なものだと位置づけています。
U-Space最高経営責任者のトマ・フィステール氏は、この提携をU-Spaceにとって大きなマイルストーンであり、野心的な国際コンステレーションを構築する能力を示すものだと述べています。
天地人の櫻庭康人代表取締役CEOは、漏水リスクの検知という地上の課題から歩みが始まったことに触れ、宇宙の価値はそれが地球にもたらすものにあるという考えを示しました。
衛星の機数や打ち上げ時期といった具体的な条件は、今後の正式な契約で決まる段階です。
宇宙業界にとっての意味
目を引くのは、衛星データを使う側の企業が、観測システムそのものの運用と商業化に回る点です。
天地人はこれまで、他者が取得した衛星データをAIで解析し、水インフラのリスクとして見せるサービスを提供してきました。
今回の役割分担では、そのデータを生む観測システム自体を運用し、熱赤外データを売る側に立ちます。
もうひとつは、フランスと日本の企業が、衛星の製造と、運用・販売とで役割を分け合う構図です。
U-Spaceは、ミッション設計から軌道上運用までをカバーする能力と、独自の製造施設「U-Zine」によって、短いリードタイムで信頼性の高いソリューションを提供できることを強みに挙げています。
フィステール氏が国際的なコンステレーションという言葉を使っているとおり、この合意はU-Space側にとっても、海外に運用と販売のパートナーを持つ動きにあたります。
今後の注目点
次の節目は、基本合意から正式な契約への移行です。
そこで、衛星を何機並べるのか、どの軌道を使うのか、打ち上げがいつになるのかが具体化します。
既存製品であるFreeFormと16U CubeSatのどちらを土台にするのか、あるいは新たに設計するのかも、システムの性能を左右します。
天地人が掲げる「高解像度・高頻度」が、実際にどれだけの分解能と観測間隔になるのかも、次の発表を待つところです。
ほしまる何機の衛星を、どんな軌道に並べるんだろう。そこが決まると、この計画の輪郭がぐっと見えてくるよ。
出典
- 株式会社天地人(PR TIMES)「U-Spaceと天地人、次世代赤外線地球観測システムの展開に向けた戦略的パートナーシップを発表」
- U-Space 「Smallsats & constellation manufacturer」
- 株式会社天地人 「会社概要」
- ESA 「CubeSats」
- NASA 「Land Surface Temperature」
- NASA 「Thermal Infrared Sensor (TIRS)」