2026年9月14日、パリで開かれた宇宙ビジネスの国際会議 World Space Business Week で、アラブ首長国連邦のSpace42とアメリカのViasatが、共同出資会社Equatysを設立する拘束力のある契約に署名しました。
両社の出資額は合わせて最大10億ドルです。
Equatysが手がけるのは、ふつうのスマートフォンが地上の基地局を介さずに衛星と直接つながる通信(ダイレクト・トゥ・デバイス、D2D)のための設備を、複数の通信事業者に共同利用させる事業です。
3行で分かるポイント
- Space42とViasatがEquatysの共同設立契約に署名し、当初は各社4億ドル、将来の増資を含めて合わせて最大10億ドルを出資します
- Equatysは自社で携帯サービスを売らず、衛星と地上の通信設備を通信会社に使わせる会社です。携帯電話の基地局の鉄塔を各社で共同利用するやり方を宇宙に持ち込みます
- 設計上は最大2,800機の衛星まで拡張できる計画で、各国の規制当局の承認などの条件が満たされて初めて正式に発足します
まず押さえたい背景
Space42は、衛星通信と地理空間データの解析、AIを組み合わせて提供するアラブ首長国連邦の企業です。
地理空間データを扱うBayanatと、同国の衛星通信事業者Yahsatが2024年に合併して誕生しました。
主要株主にはG42、ムバダラ、IHCが並びます(出典: Space42・Viasat「Space42 and Viasat Sign Binding Agreement to co-found Equatys」。以下、発表内容は同リリースによります)。
Viasatは、アメリカ・カリフォルニア州カールスバッドに本社、ロンドンに国際本社を置く通信企業です。
家庭や小規模事業者向けの衛星ブロードバンド、旅客機やビジネス機の機内インターネット、政府・防衛機関向けの安全な通信、船舶向けや農業・鉱業向けの通信を手がけ、従業員は約7,000人です(出典: Viasat「About Viasat」)。
海洋向け通信の事業者Inmarsatの買収を2023年5月に完了しています。
今回の事業の土台になるのが、両社が持つ周波数です。
モバイル衛星サービス(MSS)は、移動しながら衛星と通信するためのサービスで、使える周波数帯は国際的な調整を経て各国ごとに割り当てられます。
Space42はL帯(およそ1〜2GHzの周波数帯)の権利を160を超える市場で調整済みで、ViasatはL帯を世界規模で、加えて欧州でS帯を保有します。
合わせると、国際調整済みの周波数は100MHz超になります。
何が発表されたか
出資は、両社が当初それぞれ4億ドルを拠出し、第三者投資家も参加できる将来の増資でSpace42が2億ドルを追加する形です。
これで2社の出資額は最大10億ドルになります。
Payloadの取材によると、発足時に投入される資金は8億ドルで、第1世代の衛星群については金額を公表しない追加出資の合意も結ばれています(出典: Payload「Viasat and Space42 Commit Up to $1B to Equatys Joint Venture」)。
Equatysが採る方式は、両社が「タワー会社モデル」と呼ぶものです。
携帯電話会社が基地局の鉄塔を1社ずつ建てる代わりに、専門会社が建てた鉄塔を各社が借りるのと同じ考え方で、衛星と地上局はEquatysが持ち、利用する通信事業者はそれぞれの周波数と顧客を自分で持ち続けます。
衛星群は、最大2,800機、60の軌道面、3つの高度層に拡張できる設計で、3GPPのNTN規格に沿って作られます。
3GPPは携帯電話の通信規格を決める国際的な共同作業体で、1998年の設立以降、3Gから5Gまでの規格をまとめてきました。
2022年のRelease 17で、衛星などを使う非地上系ネットワーク(NTN)を規格に取り込んでいます(出典: 3GPP「About 3GPP」)。
この規格に合わせることで、市販の端末や既存の携帯網とつなぎやすくなります。
発足時の最初の衛星群の最初の分は、Equatysの設立時に割り当てられる予定です。
Payloadの報道では、第1段階は200機未満で緯度50〜55度までを連続して覆う構成となり、サービス開始の目標は2029年末です。
宇宙業界にとっての意味
スマートフォンと直接つながる衛星通信を自前でやろうとすれば、通信事業者は衛星群と地上局をまるごと調達することになります。
Equatysの狙いは、その設備を1か所にまとめて貸し出し、利用する事業者が設備投資をせずに使えるようにすることです。
Payloadの報道では、Equatysの経営陣は同社を宇宙の共有インフラと位置づけ、Space42とViasatをその最初の2つの顧客だと説明しています。
もうひとつの要素が、上で触れた100MHz超の周波数です。
衛星でスマートフォンにつなぐには、その端末が使える帯域の権利が要ります。
両社は既存のモバイル衛星サービス用の周波数を持ち込む形になり、設計は他の免許保有者も参加できるように開かれています。
ただし、これらは契約が結ばれた段階の計画であり、発足の条件が残っています。
今後の注目点
正式な発足には、各国の規制当局の承認と、Viasatを主要な技術契約者として選任することを含む、通常の完了条件が満たされる必要があります。
衛星群の調達と確定契約も同じ条件付きです。
スケジュールの見方も注目点です。
両社がEquatysの設立計画を初めて公表したのは2025年9月15日で、その時点では発表から3年以内の商用展開を掲げていました(出典: Viasat「Space42 and Viasat to Launch Equatys」)。
署名後に示された目標は2029年末のサービス開始です。
最初の衛星群の規模がどう決まるか、そしてどの通信事業者が顧客として名前を出すかが、次に確認したい点になります。
ほしまる共同で持つのは衛星と地上局で、周波数とお客さんはそれぞれの会社のまま。ここが「みんなで1つの携帯会社を作る」という話とは違うところなんだ。
出典
- Space42・Viasat「Space42 and Viasat Sign Binding Agreement to co-found Equatys, Creating the First Shared Space and Ground Infrastructure Platform for Global Direct-to-Device and Advanced MSS Connectivity」
- Payload「Viasat and Space42 Commit Up to $1B to Equatys Joint Venture」
- Viasat「Space42 and Viasat to Launch Equatys」
- Viasat「About Viasat」
- 3GPP「About 3GPP」