ESA(欧州宇宙機関)は2026年9月14日、地球を回る人工衛星とスペースデブリの状況をまとめた年次報告書「Space Environment Report 2026」を公開しました。
2025年末までのデータに基づく今回の版では、軌道環境の状態を測る指標が1年で1けた分(10倍)悪化したこと、打ち上げと大気圏への再突入がどちらも高い水準で続いていることが示されています。
ESAはあわせて、2030年までに新しいデブリをほとんど出さない状態を目指す「Zero Debris(ゼロ・デブリ)」の取り組みを掲げています。
3行で分かるポイント
- ESAが、2025年末までのデータをまとめた年次の宇宙環境報告書を9月14日に公開した。
- 軌道環境の健全性を測る指標は、1年前の約4から約50へ悪化した。
- 2025年は300回を超える打ち上げで4,000機以上の衛星などが軌道に入り、1日平均3機以上が大気圏へ戻っている。
まず押さえたい背景
ESAは、1975年に設立された欧州の政府間機関です。
フランスのパリに本部を置き、23か国が加盟して、地球観測衛星や惑星探査機の開発、打ち上げ、運用などを共同で進めています(出典: ESA「ESA facts」)。
スペースデブリは、役目を終えた人工衛星や、衛星を軌道へ運んだあとのロケットの機体、破壊や衝突で生じた破片など、軌道上に残った人工の物体のことです。
高度が数百kmの低軌道では、秒速数kmという速さで飛んでいるため、数cmの破片でも衛星に当たれば壊してしまいます。
壊れればさらに破片が増え、その破片がまた別の衛星に当たる、という連鎖が起こり得ます。
この連鎖が暴走する状態は、ケスラーシンドロームと呼ばれます。
ESAの宇宙デブリ対策室は、こうした軌道上の物体の数や、デブリを減らす取り組みがどれだけ機能しているかを測るため、2017年から毎年この報告書を出しています。
何が発表されたか
報告書によると、2025年には300回を超える打ち上げがあり、4,000機以上の新しい衛星などが軌道に投入されました。
1日あたりに直すと約10機が打ち上がり、同時に3機を超える壊れていない衛星やロケット本体が大気圏へ再突入しています。
今回いちばん大きく動いたのが、軌道環境の健全性指標です。
これは、衛星1機ずつが環境に与える影響の積み重ねを、2014年に置いた「デブリ対策がしっかり守られた場合」の目標値を基準にして正規化した数値で、値が大きいほど環境への負荷が大きいことを表します。
ESAはこの指標が1年で約4から約50へ上がり、1けた分悪化したと説明しています。
軌道の混み方には高度による差もあります。
高度600kmより下は混雑が進んでいるものの、自分で軌道を変えられる衛星が多く、互いに調整して避けられる状態にあります。
一方で高度600〜1,100kmは、数十年かけて溜まった古いデブリが大量に残っており、運用者にとってより難しい領域だとされています。
今回の版では、制御されない再突入で燃え残った破片が地上の人に当たる危険度を示す指標も新たに加わりました。
ESAは、日常生活のさまざまな危険と比べれば確率そのものは低いとしたうえで、打ち上げと衛星と再突入が増えた積み重ねで上昇傾向にあると指摘しています。
宇宙業界にとっての意味
衛星を運用する事業者にとって、この報告書は設計と運用の条件が動いている証拠として読めます。
ESAは、運用終了後に軌道を離れるまでの猶予を25年から5年へ短縮する要求への移行が、軌道上に留まる期間を短くする流れを後押ししたと述べています。
実際に、ロケット本体の制御された再突入が制御されない再突入を上回る状態が、2年続いています。
つまり、多数の衛星を連携させて運用するコンステレーション事業では、打ち上げる能力だけでなく、確実に軌道を降ろす手段まで含めて成立させる必要が強まっています。
地上の危険度への対策としてESAが挙げているのは、落とす場所と時刻を制御する再突入と、再突入時に機体が燃え尽きやすいように設計する手法です。
どちらも衛星の構造や推進系の設計そのものに関わるため、部品や機体の作り方に影響します。
すでに軌道にあるデブリを外部から取り除く「能動的デブリ除去」も、報告書が必要性を指摘している分野です。
既存のデブリが自分たちで破片を増やしていく以上、新規の排出を抑えるだけでは物体数の増加は止まらない、というのがその理由です。
今後の注目点
ESAは将来予測の計算期間を、これまでの200年先から100年先へ短縮しました。
それでも10cmより大きい物体の数は増え続ける見通しで、ケスラーシンドロームの暴走がより早い時期に現れる形になったと説明しています。
追跡技術の向上で見つかる破片が増える一方、どこから来た破片かまで特定して目録に載せられる数が追いつかず、その差が広がっている点も課題として挙がっています。
ESAは、打ち上げ計画に関するデータの共有が進めば、宇宙交通の調整と予測の精度改善に役立つとしています。
2030年のZero Debrisという目標に向けては、2023年に始まったZero Debris Charterに200を超える企業・研究機関・国際機関と20か国以上が加わっています(出典: ESA「The Zero Debris Charter」)。
次の版で健全性指標がどう動くかが、こうした取り組みの効き目を測る目安になります。
ほしまるぼくが旅していた深宇宙は、何年進んでも景色が変わらない場所だったよ。
でも地球のまわりは、1日に10機ずつ新入りが増えていくんだ。
出典
- ESA「ESA Space Environment Report 2026」
- ESA「Health Index – 2026 Space environment report」
- ESA「Reentry rate remains high – 2026 Space environment report」
- ESA「Payloads and objects – 2026 Space environment report」
- ESA「Number of objects will skyrocket – 2026 Space environment report」
- ESA「Casualty risk on the ground – 2026 Space environment report」
- ESA「Changing orbital landscape – 2026 Space environment report」
- ESA「The Zero Debris Charter」
- ESA「ESA facts」