米国で通信を規制する連邦通信委員会(FCC)は、米国時間の2026年9月30日(水)に、宇宙ビジネスにかかわる2つの決定を可決しました。
1つは、衛星の打ち上げや運用などの宇宙活動を、連邦法に基づく環境影響の審査の対象外と明確にしたことです。
もう1つは、衛星ブロードバンド(衛星を使ったインターネット接続)向けに、1,000MHz(1GHz)を超える周波数を新たに使えるようにしたことです。
3行で分かるポイント
- 米国の通信規制当局が、衛星の打ち上げや運用などの宇宙活動は環境影響の審査が要る「重大な連邦政府の行為」にあたらない、と整理しました。
- 衛星インターネットに使える電波の帯域が、12.7GHz帯と42GHz帯であわせて1,000MHz以上増えます。
- 軌道上のごみ対策と宇宙の安全に関するルールは、これまでどおり米国の免許事業者に適用されます。
まず押さえたい背景
FCCは、米国の50州・首都ワシントン・海外領土で、ラジオ、テレビ、有線、衛星、ケーブルによる州をまたぐ通信と国際通信を規制する独立した連邦機関です(出典:FCC「What We Do」)。
衛星が地上と電波をやり取りするには、FCCから周波数の免許を受ける必要があります。
今回の1つ目の決定は、米国の国家環境政策法(NEPA)にかかわるものです。
NEPAは、連邦政府による重大な行為が環境にどのような影響を与えるかの評価を求める法律です。
FCCの従来のルールでは、多くの案件は簡易な扱いで済みますが、特別な事情がある場合は環境アセスメント(事業が環境に与える影響を事前に調べてまとめる手続き)が必要になります(出典:Davis Wright Tremaine「FCC Proposes Major Environmental Review Changes for Wireless and Satellite Projects」)。
2つ目の決定は周波数です。
電波は周波数ごとに用途が割り当てられていて、同じ帯域を複数の業務が共有するときは、互いに混信しない条件を決める必要があります。
衛星通信では、地上から衛星へ送る電波を「アップリンク」、衛星から地上へ送る電波を「ダウンリンク」と呼びます。
業界団体の衛星産業協会(SIA)は、米国の衛星運用会社、サービス事業者、製造会社、打ち上げ事業者、地上設備の供給会社などが加盟する団体で、FCCなどの政策担当者に業界の立場を伝える活動をしています(出典:SIA「About」)。
何が発表されたか
Via Satelliteによると、FCCはNEPAの運用を見直し、打ち上げ、軌道への投入、宇宙機の運用といった宇宙での活動は、NEPAの審査が要る「重大な連邦政府の行為」に分類されないと明確にしました。
周波数の認可や、衛星地上局(衛星と電波をやり取りする地上のアンテナ設備)のような施設についても、同じく重大な連邦政府の行為ではないとしています(出典:Via Satellite「FCC Continues Deregulation Push with Environmental Regulations and More Spectrum」)。
打ち上げについては、すでに連邦航空局(FAA)がNEPAの審査を行っています。
FAAは米国の航空の安全を担う連邦機関です(出典:USAGov「Federal Aviation Administration (FAA)」)。
衛星事業者8社は、衛星の運用をNEPAの対象から外すよう、共同でFCCに求めていました。
Amazon、SpaceXなどは今回の見直しを支持する声明を出しています。
FCCのオリビア・トラスティ委員は、米国の免許事業者には軌道上デブリ(使い終わった衛星やロケットの破片など、軌道上のごみ)と宇宙の安全に関する要件が引き続き適用されると述べました。
周波数では、12.7GHz帯と42GHz帯で1,000MHzを超える帯域を衛星通信に使えるようにしました。
命令の番号はFCC 26-65で、対象は12.7〜13.25GHzと42〜42.5GHzです(出典:Converge Digest「FCC Opens 1,000+ MHz for Satellite Broadband」)。
12.7GHz帯は、アップリンクとダウンリンクの両方向で使えるようにします。
地上の中継局から衛星への送信や、航空機や船舶に積んだ端末から静止衛星(地上からは止まって見える軌道の衛星)への送信が含まれます。
42GHz帯は、地上の中継局が衛星からの電波を受ける用途に開放し、手続きを簡素にした免許方式(ライトライセンス)を採ります。
地上の固定通信がこれまで持っていた優先的な割り当ては維持されます。
宇宙業界にとっての意味
ブレンダン・カー委員長は、今回の見直しが無線やブロードバンドの整備を速め、活動家による予測しにくい訴訟リスクを取り除くと述べました。
FCCが公表した草案の段階では、光害や軌道上デブリへの懸念は、FCCの免許と環境への影響を結びつける理由として不十分だとする考えが示されていました。
衛星事業者にとっては、環境面の手続きが減ることで、免許の取得にかかる負担が軽くなる方向の変更です。
周波数については、自宅向けの衛星ブロードバンドや、航空機・船舶での接続、地上の中継局が扱える通信量の拡大に使えるとされています。
アンナ・ゴメス委員は、技術革新を支え利用者の需要に応えるために、12.7GHz帯と42GHz帯の利用を広げると述べました。
SIAのトム・ストループ会長は、この決定が米国の技術革新を進め、宇宙経済での米国の主導的な立場を保つために欠かせないと評価しています。
今後の注目点
FCCは同じ日に、Kuバンド・Kaバンドの1,450MHz分と、Dバンドと呼ばれる帯域、さらに新しい宇宙活動向けの周波数について、規則案を示して意見を募る手続き(規則制定提案告示)も始めました。
これらはまだ提案の段階で、今回の命令で使えるようになったわけではありません。
NEPAについても、FCCは歴史的な遺産の保護にかかわる審査の扱いなどを、追加の意見募集の論点にしています。
今後は、追加で提案された帯域がどのような条件で開放されるか、地上の通信事業者との共用ルールがどう決まるかが焦点になります。
出典
- Via Satellite「FCC Continues Deregulation Push with Environmental Regulations and More Spectrum」
- Davis Wright Tremaine「FCC Proposes Major Environmental Review Changes for Wireless and Satellite Projects」
- Converge Digest「FCC Opens 1,000+ MHz for Satellite Broadband」
- SIA「About」
- USAGov「Federal Communications Commission (FCC)」
- USAGov「Federal Aviation Administration (FAA)」
- FCC「What We Do」
- docs.fcc.gov「DOC-424840A1.pdf」