NASAのジャレッド・アイザックマン長官が2026年9月22日、月や火星の探査での国際協力について、ミッションの目的をどれだけ速く、安全に、費用を抑えて達成できるかが判断の軸だという考えを示しました。
その1週間前の9月15日には、米国の非営利団体が主催する会議で、月の南極をめぐる中国との競争を国家安全保障の問題として説明しています。
日本はアルテミス計画で有人与圧ローバの提供を担う立場にあり、今回の姿勢は日本の分担にも関わるテーマです。
3行で分かるポイント
- アイザックマン長官は、国際協力の価値を「ミッションをどれだけ速く、安全に、安く達成できるか」で測る考えを示しました。
- 有人の月面着陸は米国が2028年、中国が2030年を目標としており、長官は月の南極で拠点に適した場所は限られると説明しています。
- 日本は2024年4月の日米の取決めで与圧ローバの提供を担い、日本人宇宙飛行士2名の月面活動機会が規定されています。
まず押さえたい背景
アルテミス計画は、NASAが国際パートナーや民間企業とともに進める有人月探査の計画です。
NASAは2026年5月26日、月面に段階的に拠点を築く「Moon Base」の進捗を公表し、無人のMoon Base I〜IIIを2026年中に打ち上げ、有人の月面着陸を2028年に目指すとしています。
国際協力の枠組みは大きく2つあります。
ひとつはアルテミス合意で、2020年にNASAが米国務省と7か国とともにまとめた、宇宙の探査と利用に関する共通の原則です。
2026年9月21日にアルバニアが署名し、署名国は73か国になりました(出典:NASA「Artemis Accords」)。
もうひとつが、各国の宇宙機関との個別の分担です。
NASAの説明では、ESAがオリオン宇宙船の欧州サービスモジュールや居住モジュール、カナダ宇宙庁がロボットアームのCanadarm3、JAXAが有人与圧ローバや生命維持装置の主要部品、補給機のHTV-XGなどを担います。
ESAは1975年に設立された政府間機関で、本部はパリにあり、23か国が加盟しています。
欧州サービスモジュールは、オリオン宇宙船に電力や推進力、空気と水を供給する部分で、ドイツのブレーメンで組み立てられています。
9月15日の会議は、米国の空軍と宇宙軍を支援し政策提言を行う非営利の会員団体、Air & Space Forces Associationが主催するAir, Space & Cyber Conferenceで、メリーランド州ナショナルハーバーで開かれました。
何が発表されたか
長官は、科学と発見を求めるのであれば、重要なのはミッションの目的をできるだけ速く、安全に、費用を抑えて達成することだけだと述べました。
そのうえで国際協力は成果を早めるための手段であり、各国の産業基盤を持ち寄り、必要な資金を分担し、月面の設備が互いにつながるように規格をそろえる役割があると説明しています(出典:SatNews「NASA Administrator Jared Isaacman Reaffirms Mission Acceleration Focus Across International Space Programs」)。
名前が挙がった協力は、アルテミスIII向けのESAの欧州サービスモジュール、JAXAの有人与圧ローバと火星衛星探査計画MMX、カナダ宇宙庁やESAとの月面協力の覚書などです。
覚書は、正式な契約の前に協力の方向性を確認しておく文書を指します。
MMXは、火星の衛星フォボスの表面から10g以上の試料を採取して地球に持ち帰るJAXAの計画で、2031年度の地球帰還を予定しています。
9月15日の会議では、月探査の競争を国家安全保障と結びつけて説明しました。
成否は年単位ではなく月単位で測られるとしたうえで、中国が2030年の有人月面着陸を目標としているのに対して米国は2028年を目指しており、この差は簡単に失われると述べています。
月の南極には資源があり、拠点に適した場所が限られていることを、空きの少ない駐車場にたとえました。
米国が遅れれば、同盟国が米国の安全保障の約束や技術力に疑いを持つことになるとも語っています(出典:Air & Space Forces Magazine「NASA Boss: Race to Moon Has National Security Stakes」)。
宇宙業界にとっての意味
アルテミス計画では、日本が有人与圧ローバを提供し、その見返りに日本人宇宙飛行士2名の月面活動機会が規定されています。
NASAが公表している分担は、その積み上げの結果です。
判断の軸を速さと費用に置く姿勢は、分担の中身や時期を見直す交渉につながる可能性があります。
一方で、今回名前が挙がった協力は、いずれも成果を早める手段として継続を前提に語られています。
日本の分担は長期にわたります。
有人与圧ローバは、宇宙飛行士2名が宇宙服を着ずに生活しながら移動できる探査車で、10年間の運用と、1日あたり26km、10年で10,000kmを走る能力を目標としています(出典:JAXA「有人与圧ローバー」)。
2024年4月10日に文部科学省とNASAが署名した実施取決めでは、日本が与圧ローバの提供を担い、日本人宇宙飛行士2名の月面活動機会が規定されました。
10年間運用する貢献を、短期で成果を早めるという基準のもとでどう位置づけるかは、今後の日米の協議の対象になり得ます。
今後の注目点
直近では、2026年中の打ち上げを目指すMoon Base I〜IIIの結果が、拠点づくりの進み方を左右します。
アルテミス合意の署名国は2026年9月21日時点で73か国に達しており、参加国が科学機器や技術実証を持ち込む形の協力がどこまで広がるかが見どころです。
日本については、有人与圧ローバの開発の進み方と、日本人宇宙飛行士2名の月面活動機会がどの着陸ミッションに割り当てられるかが焦点になります。
ほしまる速く安く、が判断の軸になったとき、10年間運用する与圧ローバみたいな長い仕事はどう位置づけられるんだろう?
出典
- SatNews「NASA Administrator Jared Isaacman Reaffirms Mission Acceleration Focus Across International Space Programs」
- Air & Space Forces Magazine「NASA Boss: Race to Moon Has National Security Stakes」
- NASA「Artemis Accords」
- NASA「Artemis Partners」
- NASA「NASA Provides Update on Moon Base Rovers, Landers, Missions」
- JAXA 有人宇宙技術部門「「与圧ローバによる月面探査に関する文部科学省と米航空宇宙局の実施取決め」への署名」
- JAXA 有人宇宙技術部門「有人与圧ローバー」
- JAXA「MMX 火星衛星探査計画」
- ESA「What is ESA?」
- Air & Space Forces Association 公式サイト
- www.esa.int「European Service Module」