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1 春の星座は、春にしか見えない星座ではない 2 まずは北斗七星を見つけて、春の大曲線をたどる 3 春の大三角をつくる、3つの星 4 春の主な星座を、目印の星の並びから探す 5 春の夜空が「宇宙の窓」と呼ばれる理由 6 まとめ 春の星座は、たどって、その先をのぞく 7 出典

春の星座の見つけ方、北斗七星から春の大曲線をたどって春の大三角へ

春の星座の見つけ方、北斗七星から春の大曲線をたどって春の大三角へ
  • 春の星座って、結局どれのことなんだろう
  • 一覧は見たのに、実際に空を見上げると何ひとつ分からない
  • そもそも、なぜ「春の」星座と呼ぶのか

結論から書きます。春の星座は、春にしか見えない星座ではありません。

そして名前を覚えるより先に、北斗七星から1本の線をたどるほうが、はるかに確実に見つかります。
国立天文台が案内している順路は、北斗七星からアークトゥルス、そしてスピカへ。
この1本さえたどれれば、今夜のうちに星座をひとつ特定できます。

この記事は、宇宙の科学と宇宙産業の情報を国立天文台・日本天文学会などの一次情報と整合させて発信するASTROWORKS編集部がまとめています。

この記事で分かることは、次のとおりです。

  • 「季節の星座」という区分が、何を基準にしているのか
  • 北斗七星から春の大曲線をたどる具体的な手順
  • 春の大三角をつくる3つの星と、その明るさの差
  • 星の少ない春の空が「宇宙の窓」と呼ばれる理由

読み終える頃には、早見盤の丸暗記ではなく、空の上で指をなぞる順路が手に入ります。

ほしまる

ぼくは40年かけて太陽系をめぐってきたけれど、星の探し方はいつも「一本の線をたどる」ことから始まるんだ。今夜、その一本をあなたに渡すよ。

目次

春の星座は、春にしか見えない星座ではない

「春の星座」という呼び名は、見える時期を区切ったものではありません。
まず、その前提を外しておきます。

「季節の星座」の目安は「20時に南中する時期」

季節の星座という区分は、天体の性質ではなく、観察する側の約束事です。

国立天文台 暦計算室の暦Wiki「季節の星座」によれば、理科年表は「20時に南中する時期を参考として載せています」。
基準になっているのは、その星座が何月に空へ現れるかではなく、夜のはじめにどこへ来るかのほうです。

南中という言葉に、一言だけ補足を添えます。
天体が子午線、つまり天球上で真北と真南を結ぶ線を横切ることを、子午線通過といいます。
日本付近では太陽や月・惑星がおおむね南の空を通っていくため、これを南中と呼びます(出典: 国立天文台 暦計算室「おもな恒星」。以下、恒星の等級と星座名も同ページの表記によります)。
南中したとき、その天体は空のいちばん高いあたりに来ます。

夜空のドームと子午線を示した図。星が子午線を横切るときに最も高くなる様子を描いている
南中とは、天体が子午線(真北と真南を結ぶ線)を横切ること。そのとき天体は空のいちばん高いあたりに来る。「季節の星座」は、20時ごろにこの位置へ来る時期を目安にした区分。(図解はイメージです)

この基準に沿って整理すると、「春の星座」とは、春の夜の20時ごろに空の高い位置へ来る星座、という意味合いになります。
見えるか見えないかの線引きではなく、いちばん見やすい時期の目安です。

ここが、多くの一覧表では触れられないところです。
一覧を暗記しても空で星座を特定できないのは、記憶力の問題ではありません。
一覧が答えていないのは「いつ、どちらを向くか」のほうだからです。

では、しし座は夏には見えないのか

素朴な疑問として、こう思う方もいるでしょう。
春の星座が春だけのものでないなら、しし座は夏の夜にも空にあるのでしょうか。

暦Wiki「季節の星座」は、この点をはっきり書いています。
「多くの星座は、時間を選べば、太陽に近づく1−2か月を除いてほぼ1年中見ることができます」。

効いているのは「時間を選べば」という条件と、「多くの星座は」という限定です。
すべての星座がいつでも見えるという話ではありません。
どの星座にも、太陽と同じ方向に来てしまう1〜2か月があります。その時期は、その星座が空に昇っている時間帯がそのまま昼になるため、観察できません。

裏を返せば、それ以外の時期は、夜更けや明け方まで待つという条件つきで空のどこかにあるということです。
春の星座を秋に見たければ、20時ではなく夜明け前に東の空を探すことになります。
星座が季節とともに入れ替わるわけではありません。同じ星空が1年かけて時計のように回っていて、その一部を夜という限られた時間帯だけ切り取って眺めている。そういう関係です。

太陽を中心とした地球の公転軌道と、遠くの星座の方向を示した図
同じ星座でも、地球が軌道上のどこにいるかで見え方が変わる。夜の側がその方向を向く時期は観察できるが、太陽と同じ方向に来る時期は昼の空になり見えない。(図解はイメージです)

「春の星座」という呼び名は、その切り取り方に付けられたラベルにすぎません。

星座探しに要るのは、名前より「いつ・どの空を見るか」

同じ暦Wikiのページには、星座探しの要点を突いた一文があります。
「ただ星を眺めているだけでは季節はわからず、いつ・どこに見えるかも必要です」。

星座探しにつまずく理由の大半は、ここに集約されます。
名前と神話は覚えたのに、空を見上げると手がかりがない。
足りていないのは知識の量ではなく、時刻と方角という2つの座標です。

そこで、ここからは順路として組み立てていきます。
最初に押さえるのは、春の空でいちばん見つけやすい星の並び、北斗七星。
次に、そこから伸びる1本のカーブをたどって、明るい星へ順に到達します。
最後は、その線と三角形を足がかりに、周辺の星座へ視野を広げていきます。

一覧は、すでに空で1つ見つけられる人にとっては便利ですが、まだ何も特定できていない段階では手がかりになりません。
まずひとつ、確実に指させる星をつくる。
そこからは、隣へ隣へと広げていくだけです。

出発点は、北の空にある柄杓の形です。

まずは北斗七星を見つけて、春の大曲線をたどる

ここからが探し方の本体です。
国立天文台が実際に案内している順路を、そのままたどります。

北斗七星は星座ではなく、おおぐま座の一部

最初に、つまずきやすい点をひとつ外しておきます。
北斗七星は、星座ではありません。

日本天文学会の天文学辞典は、北斗七星を「おおぐま座の腰から尻尾を形作る七つの星がつくる柄杓(ひしゃく)の形をしたパターン」と定義しています。
北斗七星それ自体は現在国際的に共通に用いられる88個の星座には数えられておらず、より大きな領域に広がるおおぐま座の一部に含まれる。
国立天文台の広報ブログには、そう書かれています(出典: 国立天文台 広報ブログ「北斗が建す深宇宙への航路」)。

北斗七星の7つの星と、それを含むおおぐま座の星座境界を示した星図
柄杓の形に並ぶ北斗七星(7つの星)と、ゴールドの線で囲んだおおぐま座の領域。北斗七星は星座ではなく、より大きなおおぐま座の一部にあたる。(星の位置はIAU公認星名リストの座標にもとづく、星座境界はIAU/VizieR VI/49 (Davenhall & Leggett 1989)にもとづく作図)

星座と、星の並びのパターンは別物です。
星座の名称と境界の決め方は1928年の国際天文学連合(IAU)の総会で採択され、1930年の出版によって現在の88星座が確定しました(出典: 日本天文学会 天文学辞典「星座」)。
現代の星座は形の見立てであると同時に、星の位置を示す天空の領域区分でもあります。
一方の北斗七星は、その区分とは無関係に、目立つ星がたまたま柄杓の形に並んで見えるものです。

見つけやすさは折り紙つきです。
天文学辞典によれば、春から夏の北天でよく目立ちます。
春から初夏にかけて北天高く昇っていく七つの星の連なり、という広報ブログの紹介もあります。
北の空が開けた場所であれば、最初に狙う対象として手堅い並びです。

柄のカーブをそのまま延ばすと、どこへ行き着くか

北斗七星を見つけたら、柄杓の柄にあたる部分に注目します。
柄はまっすぐではなく、ゆるやかに曲がっています。
この曲がりを、そのまま空の先へ延長してください。

その行き先は、国立天文台の広報ブログにはっきり書かれています。
柄の緩やかなカーブを延長した線は、うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカという二つの1等星を結ぶ。
これが春の大曲線です。

北斗七星からアークトゥルス、スピカへとたどる春の大曲線の星図
北斗七星の柄のカーブをそのまま延ばした先に、うしかい座のアークトゥルス、さらにおとめ座のスピカが並ぶ。これが春の大曲線の順路。(星の位置はIAU公認星名リストの座標にもとづく作図)

順番が大切です。
北斗七星、アークトゥルス、スピカ。
国立天文台の月別の星空案内も、同じ順路をすすめています。
頭の真上より少し北側に見える北斗七星から、うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカへとたどる春の大曲線を目印に春の星座を探そう、という案内です(出典: 国立天文台「東京の星空・カレンダー・惑星(2026年5月)」)。

実際に空でやるときのコツは、一気に飛ばさないことです。
柄の3つの星の並び方を目でなぞり、その延長線上でいちばん明るい星を探す。
それがアークトゥルスです。

そこで一度止まってから、同じカーブをさらに延ばした先にある明るい星を探す。
それがスピカになります。

指1本ぶんずつ進めていくと、迷いません。
なお柄杓の升のほうも使えます。
升の先端を伸ばすと北極星が見つかる、という探し方は理科の授業でもおなじみで、同じブログでも紹介されています。

柄で春の星座へ、升で北極星へ。
北斗七星は、方角と季節の両方に効く道しるべです。

大曲線の先にある、からす座の小さな四辺形

スピカで終わりではありません。
春の大曲線には、その先があります。

同じブログは、この曲線を「北天に発して空を渡り南の空まで伸びる」ものと表現し、その終着点を明かしています。
たどり着くのは、小さな四辺形。
からす座です。

北斗七星が頭の真上より少し北側にあるとき、そこから南の空まで渡る大曲線の終端は、かなり低い位置に来ます。
からす座を探すときは、視線を大きく下へ振ることになります。
正直なところ、都市部で最初に狙う対象としては難易度が上がります。
逆に、空の開けた場所であれば、四辺形の形そのものは小さいながら意外に拾いやすいまとまりです。

からす座は、古代の天文学者プトレマイオスがまとめた48星座のひとつです。
この48星座は現在の88星座にも引き継がれており、暦計算室の星座一覧では、88星座のうちどれがそれにあたるかが欄で示されています(出典: 国立天文台 暦計算室「星座の名前」)。
いま空を区切っている星座の中に、古代からの一群がそのまま残っているわけです。

そして、この小さな領域には見どころが潜んでいます。
NGC 4038とNGC 4039、通称「触角銀河」です。
互いの重力で引き合い、形が変わりつつある銀河のペアを相互作用銀河といい、この2つはその代表例になっています。

衝突しつつある2つの銀河、触角銀河(NGC 4038とNGC 4039)の観測画像
からす座の方向にある触角銀河(NGC 4038とNGC 4039)。互いの重力で引き合い、衝突によって恒星やガスが引き出されて2本の長い尾が伸びている。 Credit: NASA

衝突によって恒星やガスが引き出され、2本の細く長い尾となって伸びています。
ここで働いているのが潮汐力です。
天体の各部分に働く重力と、天体の重心に働く重力との間に生じる大きさの差から、天体を変形させるように働く力を指します。

肉眼で見える対象ではありません。
それでも、派手さのない春の南天の奥で、銀河どうしがぶつかっている。
この事実は、あとで出てくる春の空の性質とまっすぐつながります。

ほしまる

北斗七星の柄をなぞって、指をゆっくり滑らせてごらん。ぼくが宇宙で使っていた航法も、結局は「明るい目印から次の目印へ」の繰り返しなんだよ。

春の大三角をつくる、3つの星

大曲線をたどれたら、次は三角形です。
国立天文台が春の大三角をなすと明記している3つの星を、順に見ていきます。

アークトゥルス — 日本では「麦星」と呼ばれていた

春の大三角の中で、いちばん明るいのがアークトゥルスです。

うしかい座のα星で、等級は-0.0。
同じ三角形をつくるスピカの1.0、デネボラの2.1と並べると、明るさの差は歴然です。
等級は数値が小さいほど明るいという尺度なので、-0.0という値は、この3つの中で頭ひとつ抜けていることを意味します。
大曲線をたどっていて「これで合っているのか」と迷ったら、いちばん明るい星が正解、と考えて差し支えありません。

アークトゥルス、スピカ、デネボラの等級の差を大きさと明るさで表した比較図
春の大三角をつくる3つの星の明るさの比較。等級は数値が小さいほど明るいという尺度で、アークトゥルスが頭ひとつ抜けている。(図解はイメージです)

この星には、日本の暮らしに根ざした呼び名が残っています。
暦Wiki「季節の星座」によれば、和名は麦星、麦熟れ星、麦刈り星。
明け方の東の空に出る11月ごろには麦蒔き、西に入る5〜6月ごろには麦刈りの季節にあたります。
星の位置が、そのまま農作業の暦として働いていたわけです。

さらに、五月雨星、雨夜(あまい)の星という呼び名も紹介されています。
こちらは梅雨明けごろの夕方、天頂に光る様子から来ています。
これらの和名の典拠として挙げられているのは、野尻抱影著『日本星名辞典』(東京堂出版)です。

星座の名前を覚えるのは退屈でも、名前が付けられた理由には理屈があります。
カレンダーも時計もない時代に、季節を外さず種を蒔く。
そのための実用的な装置が、この明るい星でした。

スピカ — 大曲線と大三角が重なる、おとめ座のα星

スピカは、2つの図形が交差する位置にある星です。

おとめ座のα星で、等級は1.0。
春の大曲線をたどった先の到達点であり、同時に春の大三角の頂点のひとつでもあります。
役割が2つ重なっているぶん、最初に押さえておきたい目印です。

ここで、大曲線と大三角の違いを整理しておきます。
大曲線は、北斗七星から始まって空を渡る「道順」です。
まだ何も見つけていない状態から出発するための、たどる線。
対する大三角は、明るい3つの星が描く「図形」で、たどり着いたあとに周囲へ視野を広げるための基準になります。

探すときは、この2つを別々に使います。
まず北斗七星から曲線をたどってスピカまで来る。
そこから今度は、三角形のもうひとつの頂点を探しにいく。
スピカは、その切り替え地点にあたります。

アークトゥルスとスピカは、どちらも1等星です。
大曲線の上に明るい星が2つ並んでいるので、途中で見失っても復帰しやすい構成になっています。
片方を見つけたら、カーブの向きを思い出してもう片方を探す。
この往復ができるようになると、春の空はかなり楽になります。

デネボラ — 大三角でいちばん暗い、しし座のβ星

3つ目の頂点が、しし座のβ星デネボラです。
等級は2.1で、春の大三角をつくる3つの中では最も暗い星です。

ここが最大の関門になります。
アークトゥルスの-0.0、スピカの1.0に対して2.1という値は、都市部の空では条件によって見落とす明るさです。
街明かりの下で「三角形が見つからない」となるとき、欠けているのはたいていデネボラのほうです。

対策は2つあります。
ひとつは、場所を選ぶこと。
街明かりから離れ、空が暗い場所に出れば、2等星は素直に見えます。

もうひとつは、順序を守ることです。
アークトゥルスとスピカという明るい2点を先に確定させてから、その2点を底辺として三角形が閉じる方向へ視線を送る。
何もない空から2等星を探すのと、位置の見当がついた場所を探すのとでは、難しさがまったく違います。

デネボラを拾えると、副産物があります。
この星はしし座に属しているため、そのまま次の星座へ入っていく足がかりになります。
三角形の頂点であると同時に、しし座への入口です。

ほしまる

暗い星ほど、見つけたときのうれしさは大きいんだ。ぼくも遠くの弱い電波を拾えた日は、機体じゅうが誇らしかったよ。

アークトゥルス・スピカ・デネボラを結んだ春の大三角の星図
春の大三角をつくる3つの星の実際の位置関係。うしかい座のアークトゥルス、おとめ座のスピカ、しし座のデネボラを結んだ図形。(星の位置はIAU公認星名リストの座標にもとづく作図)

春の主な星座を、目印の星の並びから探す

ここからは一覧ではなく、たどって届く順に並べます。
大曲線と大三角を起点に、周辺へ広げていきましょう。

しし座 — 胸元で光る1等星レグルスから探す

しし座を探す起点になるのは、レグルスです。
しし座のα星で、等級は1.4の1等星。

レグルスが月に隠される「レグルス食」の解説には、印象的な一節があります。
この星が隠されている間は「まるでしし座の胸元が月に代わってしまったような不思議な光景」を楽しめるかもしれない、と書かれています(出典: 国立天文台「レグルス食(2026年1月)」)。
レグルスは、しし座の胸のあたりで光る星です。

探すときは、1等星と2.1等星を両端に置くと分かりやすくなります。
胸元のレグルスと、先ほど三角形の頂点として押さえたデネボラ。
この2つの星の間隔が、そのまましし座というまとまりのおおよその広がりになります。
片方だけを見て「これがしし座か」と判断するより、2点の距離感をつかむほうが、星座としての形を捉えやすくなります。

しし座も古い星座のひとつで、黄道十二宮(太陽が天球上を1年かけて一周する通り道を、12に区切ったもの)に含まれます。
太陽の通り道に沿った区分なので、しし座の領域は月や惑星が通過する道筋にもあたります。
レグルス食が繰り返し起こるのは、そのためです。

明るい星が2つあり、月や惑星がしばしば近くを通る。
春の星座の中では、条件のよくない空でも比較的粘れる相手です。

おおぐま座 — 北斗七星から全体像へ広げる

出発点だった北斗七星に、もう一度戻ります。
今度は、パターンから星座へと視野を広げる番です。

天文学辞典の定義を思い出してください。
北斗七星は、おおぐま座の腰から尻尾を形作る七つの星です。
あの柄杓は、熊の後ろ半分にあたります。
柄杓の升が腰、柄が尻尾。
そう考えると、熊の胴体と頭は柄杓の外側、升の側へ続いていくことになります。

おおぐま座は、非常に大きな星座です。
北斗七星は、その一部にすぎません。
国立天文台の広報ブログも、北斗七星は「より大きな領域に広がる星座、おおぐま座の一部に含まれています」と説明しています。
柄杓の形しか知らないと、星座としてのおおぐま座の大きさを見誤ります。

もうひとつ、北斗七星には実務的な使い道があります。
北極星を見つける目印としての役割です。
天文学辞典は、春から夏の北天でよく目立つ北斗七星が、この時期に北極星を探すよい目印になると書いています。

北斗七星の升の先端を延長して北極星を見つける手順を示した星図
北斗七星の升の先端(メラクからドゥーベへ)を伸ばした先に、こぐま座の北極星がある。方角の基準が決まると、他の星座を探す精度が上がる。(星の位置はIAU公認星名リストの座標にもとづく、星座境界はIAU/VizieR VI/49 (Davenhall & Leggett 1989)にもとづく作図)

北極星はこぐま座のα星で、等級は2.0。
柄杓の升の先端を伸ばした先にあります。

方角の基準が手に入ると、他の星座を探すときの精度が上がります。
北が決まれば、南も東も決まるからです。

うしかい座とかんむり座 — アークトゥルスの周辺へ視野を広げる

大曲線の途中で立ち止まって、周りを見る時間をつくります。

アークトゥルスは、うしかい座のα星でした。
星座としてのうしかい座も、古い星座のひとつです。
大曲線をたどっているとき、見ているのはアークトゥルスという1点だけですが、その周囲にはうしかい座という領域が広がっています。

近くには、かんむり座という小さな星座もあります。
こちらも、古くから伝わる星座のひとつです。

国立天文台が公開している東京の星空の星図(2026年5月中旬21時ごろ)には、アークトゥルスと春の大曲線に加えて、うしかい座、かんむり座、りょうけん座、かみのけ座が描かれています。
アークトゥルスまで指を運んだら、いったん動きを止めて、その周辺だけをゆっくり見渡してみてください。
大曲線の通り道の周りに、春の星座がいくつも並んでいます。

アークトゥルスと、うしかい座・かんむり座・りょうけん座・かみのけ座の星座境界を示した星図
アークトゥルスの周辺に広がる4つの星座の領域。大曲線でアークトゥルスまで指を運んだら、その周りを見渡すと、うしかい座・かんむり座・りょうけん座・かみのけ座が並んでいる。(星の位置はIAU公認星名リストの座標にもとづく、星座境界はIAU/VizieR VI/49 (Davenhall & Leggett 1989)にもとづく作図)

星座どうしの見え方は、観察する日付・時刻・場所によって、空の中の高さも向きも変わります。
そこで実用的なのが、国立天文台 暦計算室の「今日のほしぞら」です。
代表的な都市を選べば、その日の星空で惑星や星座がどう見えるかを調べられます。
アークトゥルスの位置を画面上で確認してから外に出ると、周辺の星座の探索がかなり楽になります。

うしかい座もかんむり座も、1等星のアークトゥルスに比べれば地味な相手です。
だからこそ、明るい星を先に確定させてから周囲へ広げる、という順序が効いてきます。

おとめ座とからす座 — 南の空へ視線を下ろす

最後に、大曲線の南側です。

スピカはおとめ座のα星でした。
おとめ座もまた古い星座のひとつで、しし座と同じ黄道十二宮に含まれます。
この領域も、月や惑星が通る道筋にあたります。

そして、その先が、すでに触れたからす座の小さな四辺形です。
大曲線は北の空に発して、この南の四辺形で終わります。

観察条件には、現実的な事情があります。
南の低い空は、市街地では街明かりや大気の影響を受けやすい方向です。
同じ2等星、3等星でも、頭上にあるときと南の低空にあるときでは見え方が変わります。
春の星座の中で、からす座がとくに「知られていない」側にいるのは、形が悪いからではなく、探しにくい高さに来るからだと考えられます。

そして、この南の方向、つまりおとめ座からからす座にかけての領域は、肉眼で見るぶんには明るい星が乏しい、地味な空です。
にもかかわらず、天文学の側から見ると、春の夜空でもっとも注目される方向でもあります。

星が少ないことが、そのまま利点になっているからです。

ほしまる

何もないように見える方向ほど、遠くまで見通せることがあるんだ。ぼくが宇宙で学んだことのひとつだよ。

春の夜空が「宇宙の窓」と呼ばれる理由

春の空に明るい星が少ないのには、はっきりした理由があります。
地球が銀河のどちらを向いているか、という問題です。

星が少ないのは、円盤と垂直な方向を見ているから

星座を形作る星々も、太陽も、1千億個もの星の大集団である「天の川銀河(銀河系)」に属しています。
星空とは、天の川銀河を内側から見ている景色です(出典: 国立天文台「春の星空は『宇宙の窓』」)。

天の川銀河は、渦巻腕を持つ円盤状の構造をしています。
この円盤を真横から見ると、薄い凸レンズのような形になります。
ここまでを押さえたうえで、太陽の位置から2つの方向を比べてみてください。

円盤の面に沿った方向を見ると、視線の先には星がびっしりと並びます。
奥へ行っても、まだ円盤の中だからです。
一方、円盤に対して垂直な方向を見ると、すぐに円盤の外へ出てしまいます。
そちらには星があまりありません。

春の星座は、ちょうどこの垂直に近い方向にあたります。
だから春の宵の空では、夏や冬のような華やかな天の川を見られません。

天の川銀河の円盤を真横から見た断面図と、太陽系から見た2つの視線方向を示した図
太陽系は天の川銀河の円盤の中にある。円盤に沿った方向を見れば手前に星が重なって見通せないが、円盤と垂直な方向はすぐ外へ抜けるため星が少なく、その先の銀河まで見通せる。春の星座はこの垂直に近い方向にあたる。(図解はイメージです)

身近な例で置き換えると、こうなります。
厳密には異なりますが、イメージとしては、混み合った電車の中で車両の長い方向を見るか、窓の外を見るかの違いに近い構図です。
車両に沿って見れば人が幾重にも重なって奥が見えず、窓のほうを向けば手前がすいているぶん遠くまで見通せます。
春の星空は、この「窓のほう」を向いている状態です。

星が少ないのは、宇宙が寂しいからではありません。
太陽系の立ち位置と、視線の向きの問題です。

星が少ない分、その先の銀河を見通せる

手前に星が少ないことは、観察する側にとって不利ではありません。
むしろ、有利に働きます。

国立天文台は、春の星座の方向は星が少ないため、ちょうど空にぽっかり開いた窓のように、遠くの銀河を見通せる、と説明しています。
だから「宇宙の窓」と呼ばれています。

見えているのは、天の川銀河の外にある天体、つまり銀河そのものです。
夏や冬に空を横切る天の川は壮観ですが、あれは太陽系が属する円盤の内側の景色にすぎません。
円盤の外へ視線が抜ける春だからこそ、銀河系の外側にある天体が視界に入ってきます。

地味に見えていた春の空が、実は宇宙でいちばん遠くまで届く方向でした。
明るい星に邪魔されないから、遠くが見える。

同じ解説は、この季節に双眼鏡や望遠鏡をのぞく機会があったら、ぜひ様々な銀河を探してみてほしいと呼びかけています。
肉眼だけでは届きませんが、機材があるなら春は当たりの季節です。
先ほど触れたからす座の触角銀河も、この窓の向こうにある天体のひとつでした。

春の大三角の内側に広がる、おとめ座銀河団

窓の向こうに、具体的に何があるのか。

おとめ座の方向には、おとめ座銀河団があります。
日本天文学会の天文学辞典によれば、太陽系からの距離は約18メガパーセク(18 Mpc=5900万光年)。
10〜25メガパーセクの範囲に、ほぼ視線に沿って細長い領域に銀河が分布しています。
メガパーセクは天文学で使う距離の単位で、辞典の表記どおり光年に換算すると5900万光年にあたります。

規模を数字で押さえます。
銀河団としては最も近いため、12等級より明るい銀河が40個あまり見られます。
暗いものまで含めると3000個以上の銀河がありますが、大部分は矮小銀河、つまり小型の銀河です。
最も明るいのは、巨大楕円銀河のM87です。

巨大楕円銀河M87の観測画像
おとめ座銀河団のなかで最も明るい、巨大楕円銀河M87。中心から細いジェットが伸びている。 Credit: NASA/JPL-Caltech/IPAC/Event Horizon Telescope Collaboration

そのM87には、続きがあります。
同辞典によれば、2019年4月10日、イベントホライズンテレスコープ(EHT)が、M87の中心にあるブラックホール(太陽質量の65億倍)のシャドウを観測したと発表しました。
シャドウとは、ブラックホールそのものは光を出さないため、周囲の明るいガスを背景にして中心部が影のように暗く見える領域のことです。

先ほど大曲線をたどり、三角形を閉じたとき、その内側にはこれだけのものが広がっていました。
肉眼では、そこはただの暗い空です。
けれど、暗いことこそが、そこまで見通せる理由でした。

まとめ 春の星座は、たどって、その先をのぞく

春の星座は、覚えるものではなく、たどるものです。
北斗七星から1本の線を引いた先に、星座も、その向こうの銀河もありました。

分かっていること。

  • 「季節の星座」は見える時期の区切りではなく、理科年表が20時に南中する時期を参考として載せている、観察上の目安
  • 多くの星座は、時間を選べば、太陽に近づく1〜2か月を除いてほぼ1年中見える
  • 春の大曲線の順路は、北斗七星の柄のカーブを延ばしてアークトゥルス、さらにスピカ、そしてからす座の四辺形へ
  • 春の大三角は、アークトゥルス、スピカ、デネボラの3つの星が描く図形
  • 春の星座の方向は天の川銀河の円盤と垂直に近く、星が少ないぶん遠くの銀河を見通せる

数字を捉えるときの注意。

  • 等級は明るさの尺度で、数値が小さいほど明るい(アークトゥルス-0.0、スピカ1.0、デネボラ2.1)
  • おとめ座銀河団の銀河の数は、どこまで暗いものを数えるかで変わる(12等級より明るいものは40個あまり、暗いものを含めると3000個以上)

次に晴れた夜、北の空で柄杓を見つけたら、柄のカーブに指を沿わせてみてください。
その指先が止まった場所の、さらに向こう側に、5900万光年先の銀河が並んでいます。

出典

ほしまる ほしまる

月食も流星群も、探査機の最前線も。観測のコツはぼくにおまかせ!

執筆・監修|ASTRONOTE編集部(宇宙物理学専攻)
掲載内容は公開時点の情報です。
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