- 質量って、結局のところ重さのことじゃないの?
- 体重の正体はヒッグス粒子だと聞いたけれど、本当なの?
- なぜ物には質量があるのか、教科書を読んでもいまひとつ腑に落ちない
こんなふうに感じたことはないでしょうか。
結論から言うと、質量は「物質の動きにくさ」を表す量で、場所によって変わる「重さ」とは別物です。
そして質量の起源は、ヒッグス場だけで説明できるほど単純ではありません。
この記事は、JAXA・国立天文台・査読論文などの一次情報に直接あたって検証するASTRONOTE編集部がまとめています。
この記事を読むと、次のことがわかります。
- 質量と重さ(重量)の違いと、月やISSで何が変わるのか
- 慣性質量と重力質量という「二つの顔」と等価原理
- E=mc²が示す、質量とエネルギーの深い関係
- 素粒子に質量を与えるヒッグス場と、体重の大半を生む本当の仕組み
読み終える頃には、「質量とは何か」という問いに、自分の言葉で答えられるようになっているはずです。
ほしまるこの目で見てきた宇宙の話も交えながら、案内するよ。質量の正体、いっしょにたどっていこう!
質量とは物質の「動きにくさ」を表す量
質量と重さは、日常では同じように使われますが、物理ではまったく別の量です。
まずこの違いから確認します。
質量の定義は「慣性の大きさ」で単位はキログラム
質量とは、物質の「動きにくさ」の度合いを表す量です。
言いかえると、物体を動かしたり止めたりするときの手ごわさ、つまり慣性の大きさのことです。
JAXAは、質量を「物質の動きにくさの度合い、つまり慣性の大きさのこと」と説明しています(出典: JAXA ファン!ファン!JAXA!)。
質量の大きな物体ほど、動かし始めるにも、動いているものを止めるにも大きな力が必要になります。
たとえば同じ力で押しても、軽い台車はすっと動き、重い台車はなかなか動きません。
この動かしにくさの違いが、質量の違いそのものです。
- 単位はキログラム(kg)で表す
- 物質そのものに備わった量で、場所を変えても変化しない
- 地球の上でも、月の上でも、宇宙空間でも同じ値になる
質量は「その物体がどこにあるか」に左右されません。
体重計に乗ったときの数値が場所で変わるイメージとは、少し違います。
その違いを次に見ていきます。
「重さ(重量)」は場所によって変わる別の量
重さ(重量)とは、物体に働く重力の大きさのことです。
質量とよく混同されますが、重さは力の一種なので、単位はキログラムではなくニュートン(N)で表します。
JAXAは重さを「物体に作用する万有引力(重力)の大きさ」と説明しています(出典: JAXA ファン!ファン!JAXA!)。
重さは、その場所の重力の強さによって変わります。
地球で質量60kgの人は、重力が地球の約6分の1しかない月面では、重さも約6分の1(約100N)になります。
さらに地球を回るISS(国際宇宙ステーション)の中では、ほぼ重さがなくなります。
それでも、体を作っている物質の量、つまり質量は60kgのまま変わりません。
同じ人が場所を変えたときの、質量と重さの違いを比べてみましょう。
| 場所 | 質量 | 重さ(重力の大きさ) |
|---|---|---|
| 地球 | 60kg(不変) | 約590N(標準重力から換算) |
| 月面 | 60kg(不変) | 約6分の1(約100N) |
| ISS(軌道上) | 60kg(不変) | ほぼゼロ(無重量状態) |
※地球での重さは計算値です(質量60kg × 標準重力加速度9.80665m/s²)。
JAXAが明示しているのは月面の約100N(約6分の1)です。
表からわかるように、変わっているのは重さだけで、質量はどこでも同じです。
「重い・軽い」と感じる感覚は重さの話で、物質そのものの量である質量とは分けて考えます。


質量には慣性質量と重力質量の二つの顔がある
質量は、測り方によって二つの定義があります。
動かしにくさと引き合う強さ、その二つの顔を見ていきます。
慣性質量は「動かしにくさ」で決まる質量
慣性質量は、物体に力を加えたときの加速のしにくさで決まる質量です。
同じ力を加えても、慣性質量が大きいほど速度は変わりにくくなります。
物理では、力と加速度と質量の関係を「力=質量×加速度」という式で表します。
この式の中の質量が、慣性質量にあたります。
日常の場面で考えると、慣性質量は次のような形で顔を出します。
- 止まっているショッピングカートを押し出すときの重たさ
- 動いているカートを止めるときの踏ん張り
- 急ブレーキで体が前へ持っていかれる感覚
これらはすべて、動きの状態を変えにくいという慣性のあらわれです。
慣性質量は、重力がまったく働かない宇宙空間でも測れます。
無重量の場所でも、物体は動かしにくさを持っているからです。
この点が、次に説明する重力質量との考え方の違いにつながります。
重力質量は「引き合う強さ」で決まる質量
重力質量は、物体どうしが重力で引き合う強さで決まる質量です。
質量を持つものは、たがいに引き合う性質を持っています。
この引き合う力(万有引力)の源になっているのが、重力質量です。
重力質量が大きいほど、まわりの物体を強く引きつけ、また強く引きつけられます。
慣性質量と重力質量は、定義の出発点がまったく異なります。
- 慣性質量は「動かしにくさ」から決まる量
- 重力質量は「引き合う強さ」から決まる量
一方は運動の変えにくさ、もう一方は重力の源という、別々の性質から定義されています。
本来なら、この二つが同じ値になる理由はどこにもないはずです。
ところが実際に測ってみると、二つはぴたりと一致します。
この不思議な一致が、次に説明する等価原理の出発点になります。
二つが一致する等価原理が相対論の入口になった
慣性質量と重力質量が一致することを、等価原理と呼びます。
定義の異なる二つの質量が、実験で確かめられる限りとても高い精度で同じ値になる、という事実です。
なぜ一致するのかは、ニュートンの力学では「たまたまそうなっている」としか説明できませんでした。
この当たり前のようで実は自明でない一致に注目したのが、アインシュタインです。
彼は等価原理を手がかりに、重力を「空間と時間のゆがみ」としてとらえ直しました。
その考えが、20世紀初頭に発表された一般相対性理論へとつながっていきます。
国立天文台の解説でも、一般相対性理論は一般相対性原理と等価原理を基礎としていると説明されています(出典: 国立天文台 暦計算室)。
等価原理をめぐるポイントは、以下のとおりです。
- 慣性質量と重力質量は、定義がまったく違うのに値が一致する
- その一致がなぜ起きるかは、古典力学では説明できない
- アインシュタインはこの一致を、重力理論を作り直す手がかりにした
つまり質量は、物を動かしにくくする量であると同時に、重力を生む量でもあります。
この二面性が、宇宙の重力を理解する理論の入口になりました。
質量とエネルギーは同じものの別の姿である
質量は、動きにくさだけでなく、エネルギーとも深く結びついています。
E=mc²が示す関係を見ていきます。
E=mc²は質量がエネルギーに転換できることを示す
E=mc²は、質量とエネルギーが同じものの別の姿であることを示す式です。
Eはエネルギー、mは質量、cは光の速さを表します。
光の速さは非常に大きな値なので、わずかな質量が莫大なエネルギーに相当します。
この式は、アインシュタインの特殊相対性理論から導かれた、質量とエネルギーの等価性を表しています(出典: KEK 近藤氏解説)。
質量とエネルギーが結びつくと、次のようなことが起こります。
- ごく小さな質量が失われるだけで、大きなエネルギーが生まれる
- 太陽の内部では、水素がヘリウムに変わるときに減った質量がエネルギーになる
- 原子核の反応で取り出されるエネルギーも、もとをたどれば質量の一部
太陽が長い時間にわたって輝き続けられるのも、この質量とエネルギーの関係があるからです。
質量は動かしにくさであると同時に、エネルギーの詰まった缶詰のような側面も持っています。
この見方が、質量の起源を考えるうえで重要な足場になります。
この等価性が「質量の起源」を考える鍵になる
E=mc²には、逆向きの意味もあります。
質量がエネルギーになるだけでなく、エネルギーが質量として現れることもある、という点です。
閉じ込められた運動エネルギーや、粒子どうしを結びつけるエネルギーは、外から見ると質量の一部として観測されます。
このエネルギーが質量になるという視点は、次のような問いにつながります。
- 物の質量は、材料となる粒子の質量を足し合わせただけなのか
- それとも、内部に蓄えられたエネルギーも質量になっているのか
結論を先に言うと、答えは後者です。
私たちの体や身のまわりの物質の質量の大半は、粒子そのものの質量ではなく、内部のエネルギーに由来します。
その主役が、次に見ていくヒッグス場と、原子核をまとめる「強い力」です。
まずは素粒子に質量を与えるヒッグス場から見ていきます。


素粒子の質量はヒッグス場から生まれる
そもそも、粒子はどこから質量を得るのでしょうか。
その一つの答えが、宇宙を満たすヒッグス場です。



目には見えない場が宇宙を満たしている、なんて不思議だよ。ぼくも40年の旅のあいだ、ずっとその中を進んでいたんだよ。
ヒッグス場が素粒子の動きを妨げて質量を与える
ヒッグス場は、宇宙の空間全体を満たしていると考えられている場です。
素粒子がこの場の中を進もうとすると、いわば抵抗を受けて動きにくくなります。
この動きにくさが、素粒子にとっての質量として現れます。
東京科学大学(旧・東京工業大学)の解説では、ヒッグス場は「物質を形成している物質粒子と、素粒子の力を媒介する粒子の両方に質量を与える」とされています(出典: 東京工業大学)。
ヒッグス場が質量を与える相手は「素粒子」です。
- クォークや電子などの、物質をつくる基本的な粒子
- W粒子やZ粒子などの、力を伝える粒子
これらの素粒子は、ヒッグス場との関わりの強さによって、それぞれ異なる質量を持ちます。
よく「プールの中を歩くと動きにくい」といった比喩で説明されますが、これはあくまでイメージであり、実際の仕組みそのものではありません。
比喩に引きずられず、素粒子がヒッグス場から質量を受け取るという点だけを押さえておけば十分です。
2012年のヒッグス粒子発見で仕組みが裏づけられた
ヒッグス場のアイデアは、1964年にアングレール氏とヒッグス氏によって提唱されました(出典: 東京科学大学[旧・東京工業大学])。
当時は理論上の予想にすぎず、本当にそのような粒子が存在するのかは長く確かめられていませんでした。
ヒッグス場が実在するなら、その振動にあたるヒッグス粒子が見つかるはずだと考えられていました。
そのヒッグス粒子が実際に見つかったのが、2012年です。
- 2012年7月4日、CERN(欧州合同原子核研究機関)が発見を発表
- LHC(大型ハドロン衝突型加速器)の二つの実験、ATLASとCMSが観測
- 質量はおよそ125〜126GeV付近の新粒子として確認
この発見によって、素粒子に質量を与える仕組みが実験的に裏づけられました。
翌2013年には、理論を提唱したヒッグス氏とアングレール氏にノーベル物理学賞が贈られています(出典: KEK)。
提唱から半世紀ちかくを経て、質量の起源をめぐる理論の一つが確かめられたわけです。
私たちの体の質量の大半はヒッグス由来ではない
ヒッグスが体重を作る、と思われがちですが、実はそうではありません。
体重の大半の正体を見ていきます。



体重の正体は、実は原子核の中で渦巻くエネルギーなんだ。この目で内側をのぞいたわけじゃないけれど、記録を読むたびに感心するよ。
陽子や中性子の質量の大半は強い力のエネルギー
私たちの体重の大部分は、体を作る原子の中心にある原子核が担っています。
原子核は陽子と中性子からできていて、その一つひとつはさらに小さなクォークからできています。
陽子は、アップクォーク二つとダウンクォーク一つが集まったものです。
ところが、このクォークたちを足し合わせても、陽子の質量にはまったく足りません。
クォークどうしは「強い力」で結びつき、その力を伝えるグルーオンという粒子が激しく飛び交っています。
このグルーオンやクォークの運動エネルギー、結びつきのエネルギーが、E=mc²を通じて質量として現れます。
陽子の質量の内訳は、次のようになっています。
- クォーク自身の質量が占める分は、ごくわずか
- 大半は、強い力にともなうエネルギーが生み出した質量
- このように生まれる質量は「動的に生成される質量」と呼ばれる
つまり陽子の重さのほとんどは、粒子そのものの重さではなく、内部で渦巻くエネルギーの重さです。
先ほどのE=mc²が、ここで大きな意味を持ってきます。
ヒッグス由来はごく一部にすぎない
では、陽子の質量のうちヒッグス場に由来する分はどれくらいでしょうか。
ヒッグス場が質量を与えるのはクォーク自身であり、そのクォークの質量は陽子全体のごく一部にすぎません。
どれくらい小さいかは、クォークの質量をどう定義するかによって幅があります。
- 日本物理学会は、アップクォークとダウンクォークの質量(現行クォーク質量)を合計しても陽子質量の1パーセント程度にしかならないと説明しています(出典: 日本物理学会)
- 米ケンタッキー大学は、格子計算による別の計算法(構成クォーク質量)で、クォーク自身の質量が陽子質量の10パーセント未満になると説明しています(出典: 米ケンタッキー大学)
- 現行クォーク質量で見れば約1パーセント、構成クォーク質量で見れば10パーセント未満と、基準の取り方によって数値は変わります
- どちらの見積もりでも、陽子質量の90パーセント超は強い力のエネルギーに由来するという結論は変わりません
物質全体で見ても、ヒッグス場が直接与えるのはクォークの静止質量に限られ、普通物質の質量の大半はエネルギーに由来します。
こうして見ると、「ヒッグス粒子が私たちの体重を作っている」という説明は、正確ではありません。
体重の大半を生んでいるのは、原子核の中で働く強い力のエネルギーのほうです。
ヒッグス場はあくまで、素粒子一つひとつに質量を与える役割を担っています。


質量の基準キログラムはいまや物理定数で決まる
最後に、質量を「測る」側の話です。
1キログラムの決め方は、近年になって大きく変わりました。
かつては「国際キログラム原器」という金属塊で定義していた
かつて1キログラムは、たった一つの金属の塊を基準に決められていました。
それが国際キログラム原器で、白金90パーセントとイリジウム10パーセントからなる合金でできています(出典: 産業技術総合研究所)。
1889年に定められたこの原器は、世界の質量の基準として長く使われてきました。
しかし、この方法には弱点がありました。
- たった一つの人工物が、世界中の質量の基準になっている
- 表面の汚れなどの影響で、原器の質量そのものがわずかに変化してしまう
- その安定性は1億分の5程度が限界とされた
基準そのものが少しずつ変わってしまうのでは、精密な科学や産業には不都合です。
変わらないはずの1キログラムが、実は少しずつ揺らいでいたわけです。
そこで、人工物に頼らない新しい定義が求められるようになりました。
2019年からはプランク定数で定義するようになった
新しい1キログラムは、自然界の基本的な定数を使って定義されています。
基準になったのはプランク定数で、これは量子力学にあらわれる、宇宙のどこでも変わらない数値です。
2018年11月の国際度量衡総会でこの改定が採択され、2019年5月20日から施行されました(出典: 産業技術総合研究所)。
5月20日は、メートル条約が結ばれた日にちなむ「世界計量記念日」です。
- 特定の金属塊ではなく、変わらない物理定数を基準にする
- 世界のどこでも、原理的に同じ精度で1キログラムを再現できる
- 130年ほど続いた人工物による定義に区切りがついた
こうして質量の基準は、一つの物体から、宇宙のどこでも通用する自然の法則へと移りました。
「質量とは何か」という問いは、それを測るものさしの進化とともに、少しずつ深められてきました。
よくある質問
まとめ:質量とは動きにくさであり、その起源は一つではない
質量とは、物質の「動きにくさ」を表す量です。
場所によって変わる「重さ」とは別物で、月でもISSでも質量そのものは変わりません。
この記事の要点は次のとおりです。
- 質量は慣性の大きさで単位はキログラム、重さは重力の大きさで単位はニュートン
- 慣性質量と重力質量は定義が違うのに一致し、それが相対論の入口になった
- E=mc²により、エネルギーも質量として現れる
- ヒッグス場が質量を与えるのは素粒子で、体重の大半は強い力のエネルギー由来
質量を軸にすると、重力やブラックホール、相対性理論といったテーマも、ひとつながりに見えてきます。
「動きにくさ」という素朴な感覚から始まった問いが、宇宙の成り立ちにまで届いていることに、少し驚かされます。



質量の正体、たどってみるとずいぶん奥が深いんだ。この目で見てきた宇宙のスケールも、もとをたどれば質量の物語だよ。またゆっくり、案内するね。