金星が灼熱なのは、二酸化炭素を主成分とする厚い大気が、地表から逃げようとする熱を閉じ込めているためです。
大きさは地球とほぼ同じなのに、表面の温度は約467℃、地表の気圧は地球の海面の約93倍に達します(出典:NASA Science「Venus: Facts」。以下、金星の基本データは同ページによります)。
夕方や明け方の空でひときわ明るく光るあの星は、厚い雲の下にこのような世界を隠しています。

金星はどんな惑星?大きさは地球の双子で環境は正反対
直径は地球の約95%で太陽までの距離は0.72天文単位
金星の赤道での直径は約12,104kmです。
地球は約12,756kmなので、差は650kmほどしかありません。
日本天文学会の天文学辞典では、金星の赤道半径は地球の0.949倍、質量は0.815倍とされています(出典:日本天文学会「天文学辞典」金星)。
同じ辞典は、金属の核、岩石のマントル、地殻という内部のつくりも地球と同じだと説明しています。

NASAはこうした似かよった構造と大きさから、金星を「地球の双子」と呼ぶことがあると紹介しています。
同じページには、ときに「地球の悪い双子」とも呼ばれるとあります。
なぜ「悪い」のかは、表面の環境を知ると見えてきます。
太陽からの平均距離は約1億800万km、天文単位で表すと0.72天文単位です。
天文単位は、太陽から地球までの平均的な距離を1とした、太陽系の距離をはかる物差しです。
つまり金星は、地球の7割ほどの距離で太陽のまわりを回っています。
地球より内側を回るこの位置関係は、夜空での見え方にも関わってきます。
表面は約467℃で気圧は地球の93倍
金星の表面温度は約467℃で、鉛が溶けるほどの熱さです。
NASAは金星を太陽系で最も熱い惑星としており、太陽にいちばん近い水星よりも熱いと説明しています。
台所のオーブンの最高温度をはるかに超える熱が、昼も夜も惑星全体を覆っている状態です。
地表の気圧は、地球の海面の約93倍です。
気圧は、頭の上に積み重なった空気が押してくる力の大きさを表します。
地球の海面で感じている空気の重さの93倍が、金星の地表では全身にかかることになります。
大気の大部分は二酸化炭素で、空は硫酸でできた濃い雲に覆われています。
大きさはそっくりでも、熱さ、空気の重さ、空の成分のどれをとっても、地球とはまったく違う世界です。
なぜ金星はこれほど熱いのか
二酸化炭素の厚い大気が熱を閉じ込める
熱くなる仕組みの出発点は、太陽の光です。
雲を通り抜けた太陽の光の一部が地表に届き、地面を温めます。
温まった地面は、目に見えない赤外線という光のかたちで熱を外へ出します。
地球の夜に地面が冷えていくのも、この赤外線で熱が宇宙へ逃げていくためです。
ところが二酸化炭素には、この赤外線を吸収しやすい性質があります。
大気に二酸化炭素が多いと、地面から出た熱が宇宙へ抜ける前に大気に取り込まれ、地表付近にとどまります。
これが温室効果です。

NASAは、金星でも地球でも、同じ二酸化炭素という気体が温室効果を生み出していると説明しています。
違いは量にあります。
金星の大気は二酸化炭素が主成分で、しかも先ほどの約93倍という気圧が示すとおり、とても厚く積み重なっています。
薄手のシャツと、何十枚も重ねた厚い毛布くらいの差だと考えると、イメージしやすいかもしれません。
温暖化が止まらなくなる暴走温室効果
NASAは金星の状態を「暴走温室効果」と表現しています。
暴走温室効果とは、温度が上がるほど熱を閉じ込める働きが強まり、上昇に歯止めがかからなくなった状態のことです。
いったんこの状態に入ると、惑星は高温のまま落ち着いてしまいます。
金星がどのような経緯でこの状態になったのかは、研究者の間でまだ決着がついていません。
NASAゴダード宇宙科学研究所のマイケル・ウェイ氏らは2016年、惑星の気候をコンピューターで再現する気候モデルを使った研究を発表しました。
その内容は、若いころの金星には浅い海があり、最大20億年ほど生命が住めるほどの温度が保たれていた可能性があるというものです(出典:NASA Science「NASA climate modeling suggests Venus may have been habitable」)。
この場合、金星はある時点から暴走温室効果に陥り、現在の姿に変わったことになります。
一方、ジュネーブ大学やフランス国立科学研究センター(CNRS)などの研究チームは2021年、科学誌Natureで反対の結果を発表しました(出典:CNRS「Climate model shows that Venus could never have had oceans」)。
当時の太陽は今より30%暗かったものの、雲が夜側に集まって熱を閉じ込める側に働き、水が液体になれるほど地表が冷えなかったため、海は一度もできなかったという内容です。
どちらも気候モデルによる結果で、CNRSの発表は、今後の金星探査でこうした理論が確かめられる可能性に触れています。
惑星全体を包む硫酸の雲
金星の硫酸の雲は、高度50〜70kmのあたりに広がっています(出典:日本天文学会「天文学辞典」金星)。
この雲は、金星に差し込む太陽の光の8割近くを宇宙へはね返します。
そのぶん、地表に届く太陽の光は限られます。
それでも地表が灼熱なのは、閉じ込める側の働きが強いからです。
天文学辞典は、大気の量が多く、二酸化炭素と雲の両方の温室効果が働くために、大気の底が高温になると説明しています。
雲は日差しをさえぎる日傘であると同時に、熱を逃がさないふたの役目も果たしているわけです。

雲の下の地表には、火山や変形した山々があります。
地表の姿が詳しく分かったのは、雲を通り抜ける電波を使ったレーダー観測のおかげです。
天文学辞典によると、探査機マゼランのレーダー観測で、火山活動でできた平原が表面の60%を占めることなどが明らかになりました。

1日が1年より長く太陽が西から昇る金星の回り方
自転に243日かかり公転の225日より長い
惑星がコマのように自分自身で回ることを自転、太陽のまわりを1周することを公転といいます。
地球は約1日で自転し、約365日で公転します。
金星の自転は、1回転に地球の日数で243日かかります。
一方、太陽のまわりを1周する公転は225日です。
自分で1回転するより早く、太陽のまわりを1周し終えてしまうのです。
NASAはこの自転1回転を金星の「1日」と呼び、金星では1日が1年より長いと紹介しています。
ほしまる自転1回が243日なら、金星で日の出から次の日の出までも243日待つことになるのかな?
逆向きに自転するため太陽は西から昇る
金星は、地球とは逆向きに自転しています。
地球も金星も、太陽のまわりを同じ向きに公転していますが、金星だけは自転の向きが公転と反対です。
NASAは、金星の地表に立てば太陽は西から昇って東に沈むと説明しています。


この逆向きの自転は、日の出から次の日の出までの長さにも関わります。
JAXAの2020年の発表は、金星の自転周期を地球時間で243日、公転を225日としています。
そのうえで、自転の向きが公転と逆であることから、一日の長さは117日になると説明しています(出典:JAXAほか プレスリリース「金星探査機『あかつき』観測成果論文のScience誌掲載について」)。
自転と公転が逆向きなので、二つの動きが足し合わさり、太陽が空を一巡するまでの時間が自転1回分より短くなるのです。
自転1回分を「1日」と数えれば1年より長く、日の出から次の日の出までを「1日」と数えれば117日になります。
どちらを「1日」と呼ぶかで、数字が変わるわけです。
雲の上では時速360kmの風が惑星をめぐる
地面はこれほどゆっくり回っているのに、大気は猛スピードで回っています。
NASAによると、金星では時速360kmもの風が観測されています。
新幹線の最高速度を上回る風が、惑星をぐるりと取り巻いているのです。
JAXAの発表によると、この風は高度とともに強まり、高度約50〜70kmの雲の層の上端付近で最も速くなります。
そこでは大気が惑星を約4日で一周し、その速さは自転の60倍ほどに達します。
自転をはるかに上回る速さで大気が回るこの現象を、スーパーローテーションと呼びます。
「スーパー」は「上回る」という意味です。


なぜこれほど速い回転が保たれるのかは、長いあいだ謎でした。
その答えに迫ったのが、日本の金星探査機「あかつき」です。
夜空でいちばん明るい惑星を見つけるには
月の次に明るく見える天体
NASAによると、金星は空で太陽と月に次いで3番目に明るい天体です。
太陽が沈んだあとの夜空に限れば、月の次に明るく見える天体ということになります。
街明かりの多い都会でも、晴れていれば見つけられる明るさです。
明るく見える要素としては、まず先ほどの雲があります。
金星の雲は、差し込む太陽の光の8割近くをはね返します。
もうひとつは地球との距離です。
金星は地球のすぐ内側を回るため、地球に近づく時期があります。
国立天文台は、地球との距離の変化と満ち欠けの組み合わせによって、金星の明るさが変わると説明しています(出典:国立天文台「金星が最大光度(2023年7月)」)。
宵の明星と明けの明星になる仕組み
地球より内側の軌道を回る惑星を内惑星と呼び、水星と金星がこれに当たります(出典:日本天文学会「天文学辞典」内惑星)。
内側を回る金星は、地球から見ると、いつも太陽の近くの方向にあります。
太陽から見かけ上いちばん離れたときでも、その角度は47度です。
この角度の制限が、見える時間帯を決めています。
太陽が空にあるあいだは、金星は明るい空にまぎれて見つけにくくなります。
太陽が沈んだ直後か、昇る直前の短い時間だけ、太陽の近くにいる金星が暗くなった空に浮かびます。
天文学辞典は、日の出前に見える金星を明けの明星、日没直後に見える金星を宵の明星と呼ぶと説明しています。
太陽の東側に離れて見える時期は、日没後の西の空に宵の明星として現れます(出典:日本天文学会「天文学辞典」最大離角)。
太陽の西側に離れて見える時期は、日の出前の東の空に明けの明星として現れます。
一方、真夜中に見上げる方向は、太陽とほぼ反対側です。
太陽から47度より離れられない金星は、真夜中の空には昇ってきません。





太陽系の外側へ向かう旅の途中で振り返ると、金星はいつも太陽のすぐそばで小さく光っていたよ。
月のように満ち欠けし584日で一巡する
金星は、自分では光らず、太陽の光を反射して輝いています。
地球より内側を回っているため、地球から見たときに、太陽に照らされている面の見え方が位置によって変わります。
国立天文台は、これによって金星が満ち欠けして見えると説明しています。
金星が太陽の向こう側にあるときは、照らされた面のほぼ全体がこちらを向き、丸く見えます。
地球と太陽のあいだに近づくにつれて、照らされた面の多くが向こう側へ回り込み、細く欠けていきます。
細く欠けて新月のような状態になってから、満ちて丸くなり、再び細くなって元に戻るまでの一巡は、国立天文台の値で583.9日、約1年7カ月です。
NASAもこの周期を584日としています。


形と同時に、見かけの大きさも変わります。
細く欠けた時期の金星は地球に近いため大きく見え、丸く見える時期は太陽の向こう側にあって遠いため小さく見えます。
国立天文台によると、金星が最も明るく輝く「最大光度」のころは、見えている面のうち太陽の光が当たっているのは4分の1ほどで、細く欠けた形をしています。
双眼鏡や小さな望遠鏡を使うと、肉眼では点にしか見えない金星の欠けた形を確かめられます。
金星探査の歩みとあかつきが明らかにしたこと
旧ソ連のベネラ計画が地表に降り立った
金星の地表に初めて探査機を送り込んだのは、旧ソ連のベネラ計画です。
NASAによると、旧ソ連は1961年から1984年にかけて、ベネラ計画として一連の探査機を金星へ送りました。
そのうち10機が地表に到達しています。
地表に降りた探査機が動き続けられた時間は、最も長いもので2時間、最も短いもので23分でした。
着陸した先は、約467℃の熱と地球の約93倍の気圧が待つ世界です。
限られた時間に送られてきたデータが、厚い雲の下の様子を伝える手がかりになりました。
日本初の惑星周回機あかつきの15年
あかつきは、2010年5月21日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット17号機で打ち上げられました(出典:JAXA プレスリリース「金星探査機『あかつき』(PLANET-C)の運用終了」)。
2015年12月に金星を回る軌道への投入に成功し、日本初の地球以外の惑星を回る探査機となりました。
投入直後の軌道は、金星を約13日14時間で一周する細長い楕円でした(出典:ISAS トピックス「金星探査機『あかつき』の金星周回軌道投入結果について」)。
金星にいちばん近づくときの高度は約400km、いちばん遠ざかるときは約44万kmです。
あかつきは、金星の自転と同じ向きに回っていました。
あかつきはその後、8年以上にわたって金星の大気を観測しました。
2024年4月末の運用で、姿勢を保つ精度の高くない制御モードが長く続いたことをきっかけに、通信を確立できなくなりました。
JAXAは2025年9月18日に電波を止める作業を行い、あかつきの運用を終えています。
太陽系最大の山岳波と大気の高速回転
JAXAは、あかつきの主な成果として三つを挙げています。
太陽系最大の山岳波の発見、スーパーローテーションが保たれる仕組みの解明、地球の気象学で使われるデータ同化という手法の導入です。
山岳波とは、風が山を越えるときに大気が上下に揺さぶられて生まれる波のことです。
地球でも、山の風下に規則正しく並ぶ雲として姿を見せることがあります。
2015年12月、あかつきの赤外線カメラは、雲の上端あたりの高度約65kmに、南北およそ1万kmにわたる弓の形の模様をとらえました(出典:ISAS「Finding the cause of a bow-shaped feature on Venus」)。
この模様は4日間の観測中、強い東風に流されることなく、アフロディーテ大陸と呼ばれる高地の上空にとどまっていました。
研究チームは数値シミュレーションと合わせて調べ、下層の大気で生まれた波が上へ伝わってできた模様だと結論づけ、2017年1月に科学誌Nature Geoscienceで発表しました。


スーパーローテーションについては、北海道大学やJAXA宇宙科学研究所などの国際研究グループが2020年4月、科学誌Scienceで成果を発表しました。
大気は昼に太陽で温められ、夜に冷やされることで揺れ動き、熱潮汐波と呼ばれる波が生まれます。
あかつきの画像と温度データを詳しく分析した結果、この熱潮汐波が赤道に近い低緯度で大気を加速し、高速の回転を保っていることが分かりました。
同じ発表は、ほかの波や乱れた空気の流れが、低緯度ではむしろ回転を弱める向きに働いていることも示しています。
データ同化とは、観測で得たデータを、大気の動きを計算するコンピューターのシミュレーションに取り込み、実際の大気の状態をより正確に推定する手法です。
地球の天気予報を支えている手法を、金星の大気に持ち込んだことになります。
よくある質問
まとめ
金星は、大きさも内部のつくりも地球とよく似ていながら、二酸化炭素の厚い大気と硫酸の雲によって、まったく違う環境になった惑星です。
分かっていることと、まだ分かっていないことを整理すると、次のとおりです。
分かっていること
- 赤道半径は地球の0.949倍で、太陽から0.72天文単位の距離を回っている
- 表面は約467℃、気圧は地球の海面の約93倍で、太陽系で最も熱い惑星とされる
- 二酸化炭素と雲の温室効果が、地表の熱を閉じ込めている
- 自転は243日で公転の225日より長く、向きが逆なので太陽は西から昇る
- 雲の上端付近では、大気が自転の60倍ほどの速さで回っている
- 月の次に明るく見え、約1年7カ月の周期で満ち欠けする
分かっていないこと
- 若いころの金星に海があったのかどうか
- 海があったとすれば、いつ、どのようにして暴走温室効果に陥ったのか
金星は、よく似た大きさと内部を持つ惑星が、まったく違う道をたどりうることを教えてくれます。
いつか人類は地球を離れ、別の星に暮らしの場を広げていくのかもしれません。
ASTRONOTEは「人類が地球の寿命を超え、宇宙のどこかで存在し続ける未来へ」という言葉を出発点にしています(発起人の想い)。
ただ、その旅立ちの準備を進められる場所は、いまのところ地球しかありません。
467℃の地表。
地球の93倍の空気の重さ。
空を覆う硫酸の雲。
宵の空にひときわ明るく輝く双子のきょうだいは、私たちの惑星がどれほど得がたい出発点なのかを、毎晩のように映し出す鏡なのかもしれません。
出典
- NASA Science「Venus: Facts」
- NASA Science「NASA climate modeling suggests Venus may have been habitable」
- CNRS「Climate model shows that Venus could never have had oceans」
- 日本天文学会「天文学辞典」金星
- 日本天文学会「天文学辞典」内惑星
- 日本天文学会「天文学辞典」最大離角
- 国立天文台「金星が最大光度(2023年7月)」
- JAXA・北海道大学・北海道情報大学 プレスリリース「金星探査機『あかつき』観測成果論文のScience誌掲載について」(2020年4月24日)
- JAXA プレスリリース「金星探査機『あかつき』(PLANET-C)の運用終了」(2025年9月18日)
- ISAS トピックス「金星探査機『あかつき』の金星周回軌道投入結果について」(2015年12月9日)
- ISAS「Finding the cause of a bow-shaped feature on Venus: Observations by the Venus Climate Orbiter “Akatsuki” and analysis of numerical simulations」