カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から、森林などが吸収する量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることです。
排出をまったく出さない状態を指すのではありません。
出てしまう分をできるだけ減らし、そのうえで残る分を吸収で打ち消す、という差し引きの考え方です。
日本は2050年までにこの状態を目指すと宣言しており、その途中の目標として、2035年度と2040年度の削減幅も決めています。
排出が実際に減ったかどうかは、各国の報告値と、日本の衛星「いぶき」シリーズなどの観測データによる推定値を突き合わせる研究が進められています。
カーボンニュートラルは排出と吸収の差し引きをゼロにすること
環境省は、カーボンニュートラルを「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します」と説明しています(出典:環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」)。
温室効果ガスとは、地球の熱を宇宙へ逃がしにくくする性質をもつ気体のことで、代表が二酸化炭素です。
均衡させるとは、出ていく量と取り込まれる量を釣り合わせる、という意味です。
天秤を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。
片方の皿には、工場や発電所、自動車、家庭などから出る温室効果ガスが載っています。
もう片方の皿には、森林などが大気から取り込む分が載っています。
この2つの皿が釣り合った状態が、カーボンニュートラルです。

実質ゼロは排出をまったくなくすことではない
「実質ゼロ」の「実質」は、差し引きした結果がゼロという意味です。
環境省の説明では、排出量から「植林、森林管理などによる『吸収量』を差し引いて、合計を実質的にゼロにする」とされています。
つまり、排出そのものがゼロでなくても、同じ量を吸収できていれば実質ゼロになります。
ただし、吸収できる量には限りがあります。
そのため環境省は、実現には「温室効果ガスの排出量の削減 並びに 吸収作用の保全及び強化をする必要があります」と書いています。
出す量を減らすことと、吸い込む力を守り強めることの両方が、差し引きをゼロに近づける手段になります。
家計にたとえると、支出を減らすことと、収入を保つことを同時に進めて、収支をゼロに合わせるイメージです。
どちらか片方だけでは、帳尻は合いません。
ほしまる森が吸ってくれるなら、木をたくさん植えれば、出す量はそのままでもいいのかな?
植林や森林管理で吸収を強めることは、たしかに実質ゼロに近づく手段のひとつです。
一方で、環境省の説明が「削減」と「吸収作用の保全及び強化」を並べて挙げているとおり、吸収だけに頼る形にはなっていません。
対象は二酸化炭素だけでなく温室効果ガス全体
カーボンニュートラルの「カーボン」は炭素を意味するため、二酸化炭素だけの話だと受け取られることがあります。
実際には、対象は温室効果ガス全体です。
環境省は、2050年に向けた政府の宣言を「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表現しています。
温室効果ガスには、二酸化炭素のほかにもいくつかの種類があります。
気象庁は、人間活動によって増えている温室効果ガスとして、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、ハロカーボン類などを挙げています(出典:気象庁「展示室1 温室効果ガスに関する基礎知識」)。
ハロカーボン類は、冷蔵庫やエアコンの冷媒などに使われてきたフロンの仲間を含む、人工的につくられた物質のグループです。
このうちメタンは、二酸化炭素と同じく熱を宇宙へ逃がしにくくする気体です。
あとで紹介する衛星「いぶき」シリーズも、二酸化炭素とメタンを主な観測対象にしています。
なぜ排出を実質ゼロにする必要があるのか
温室効果ガスが増えると、地球にたまる熱が増え、平均気温が上がります。
この変化はすでに観測されています。
温室効果ガスが増えると地球の熱が宇宙へ逃げにくくなる
地球は、太陽から届く光で温められています。
温められた地面や海は、今度は目に見えない赤外線という形で、熱を宇宙へ向けて放出します。
入ってくる熱と出ていく熱がつり合うところで、地球の平均的な温度が決まります。
このとき、大気中の温室効果ガスが、地表から宇宙へ向かう赤外線の一部を吸収します。
吸収された熱の一部は、ふたたび地表へ向けて放出されます。
気象庁はこの働きを、地表面が上向きに放出する赤外線を「吸収し、再放出することで地表面へ戻す働き」と説明しています(出典:気象庁「地球温暖化について」)。


温室効果そのものは、地球を生き物が暮らせる温度に保つ役割も果たしています。
問題になるのは、温室効果ガスが増えて、宇宙へ逃げていく熱が減りすぎることです。
毛布を1枚から2枚、3枚と重ねていくと、体から逃げる熱が減って暑くなっていくのに近い状態です。
世界の平均気温はすでに約1.1℃上がっている
環境省によると、世界の平均気温は、2020年時点で工業化以前(1850〜1900年)と比べて約1.1℃上昇したことが示されています(出典:環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」)。
比べている基準は、石炭などを大量に燃やすようになる前の時代の平均です。
1.1℃と聞くと、小さな変化に思えるかもしれません。
ただし、これは1日の気温差や季節の変化ではなく、地球全体の、長い期間をならした平均気温の上昇です。
地球全体の平均を押し上げるには、それだけ大量の熱が陸と海と大気にたまっている必要があります。
排出を実質ゼロにする目標は、この温暖化の原因となる温室効果ガスが、大気中にこれ以上増え続けない状態をつくることにつながっています。
日本はいつまでにどれだけ減らすと決めているのか
日本は、2050年に実質ゼロを目指すことを宣言し、法律にも書き込んでいます。
さらに、そこへ向かう途中の目標として、2035年度と2040年度の削減幅を決めています。
2050年に実質ゼロを目指すと宣言し法律にも書き込んだ
環境省によると、「2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました」。
この目標は、宣言にとどまっていません。
地球温暖化対策推進法に、「2050年までの脱炭素社会の実現」が位置付けられました(出典:環境省 脱炭素ポータル「国の取組」)。
地球温暖化対策推進法は、日本の温暖化対策の土台になっている法律です。
環境省は、1997年に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で京都議定書が採択されたことを受け、1998年に成立したと説明しています。
国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって温暖化対策に取り組むための枠組みとして作られた法律です。
2050年の目標がこの法律に書き込まれたことで、政府の方針は法律に根拠をもつ目標になりました。
途中の目標は2035年度に60%削減と2040年度に73%削減
2050年まで何もしないで最後に一気に減らす、というわけにはいきません。
そこで日本は、途中の到達点を決めています。
環境省によると、日本は従来の2030年度目標に加え、2025年2月に新たな削減目標を掲げました。
内容は、温室効果ガスを2013年度と比べて、2035年度に60%、2040年度に73%削減することです(出典:環境省 脱炭素ポータル「国の取組」)。
環境省はこの目標を、世界全体での1.5℃目標と整合的で、2050年ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標と位置付けています。
ネット・ゼロは、カーボンニュートラルと同じく、差し引きで実質ゼロにすることを指す言葉です。
「直線的な経路」とは、2013年度の排出量を出発点にして、2050年のゼロまで一本の直線を引いたとき、その線の上に途中の目標が並ぶという意味です。
削減の幅はいずれも2013年度が基準なので、「60%削減」は「2013年度の排出量の4割まで減らす」ことを意味します。


年間10億トンを超える排出を2050年までにゼロへ
では、いま日本はどれくらいの温室効果ガスを出しているのでしょうか。
環境省は、日本が年間で10億トン(2023年度排出・吸収量実績)を超える温室効果ガスを排出しており、2050年までにこれを実質ゼロにする必要があると説明しています。
10億トンを365日で割ると、1日あたり約270万トンを超える量になります。
毎日これだけの温室効果ガスが出ている状態から、25年ほどのあいだに差し引きゼロを目指すことになります。
この排出は、工場や発電所だけから出ているわけではありません。
環境省は、衣食住や移動といったライフスタイルに起因する温室効果ガスが日本全体の排出量の約6割を占めるという分析もあると紹介しています(出典:環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」)。
そのうえで、国や自治体、事業者だけの問題ではないとしています。
実質ゼロに近づくには排出を減らし吸収を守る
最初の節で見たとおり、実質ゼロには「排出の削減」と「吸収の保全・強化」の2つの方向があります。
排出を減らす方向はエネルギーの使い方と作り方を変えること
二酸化炭素の大きな出どころは、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料を燃やすことです。
化石燃料は、大昔の生き物の遺骸が長い時間をかけて変化したもので、炭素を多く含んでいます。
燃やすと、その炭素が空気中の酸素と結びつき、二酸化炭素として大気に出ていきます。
排出を減らす方向は、大きく次の2つに分かれます。
- エネルギーの使い方を変え、同じ暮らしや生産に必要なエネルギーの量を減らすこと(省エネルギー)
- エネルギーの作り方を変え、太陽光や風力など、発電のときに二酸化炭素をほとんど出さない方法に置き換えていくこと
前者は、使う量そのものを減らす取り組みです。
後者は、使う量が同じでも、その裏で出る二酸化炭素を減らす取り組みです。
電気を使う機器が同じでも、その電気をどう作ったかによって、排出の量は変わります。
吸収を守る方向は森林を保ち育てること
もう一方の皿に載るのが、吸収です。
環境省は、差し引く吸収量の例として「植林、森林管理などによる吸収量」を挙げています。
樹木は、光合成で大気中の二酸化炭素を取り込み、炭素を幹や枝、根として体に蓄えます。
森林は、大気から二酸化炭素を取り込んで、炭素をため込んでおく場所として働いています。
吸収を守り強める取り組みには、新たに木を植えることに加え、今ある森林を手入れして健全に保つことも含まれます。
反対に、森林が失われると、それまでの吸収が見込めなくなります。
吸収の皿を軽くしないことも、差し引きをゼロに近づけるうえで欠かせない取り組みです。



排出を減らして、吸収を守る。でも、本当に減ったかどうかは、誰がどうやって確かめるんだろう?
減ったかどうかをどう確かめる?宇宙から温室効果ガスを測る衛星
温室効果ガスは目に見えず、風に乗って国境を越えて広がります。
地上の観測点だけでは、地球全体を細かく見渡すことはできません。
そこで日本は、宇宙から温室効果ガスを測る衛星を打ち上げ、2009年から観測を続けています。
いぶきは宇宙から二酸化炭素とメタンを測った最初の衛星
「いぶき」(GOSAT)は、2009年1月23日に打ち上げられた人工衛星です。
国立環境研究所のGOSATプロジェクトは、いぶきを、2つの主要な温室効果ガスである二酸化炭素とメタンの濃度を宇宙から測る、世界初の衛星と紹介しています(出典:国立環境研究所「GOSAT Project」)。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、いぶきを「世界で初めての、温室効果ガスの『共通のものさし』になった人工衛星」と表現しています(出典:JAXA サテライトナビゲーター「いぶき(GOSAT)」)。
宇宙から気体の量を測る手がかりは、光です。
太陽の光をプリズムに通すと、虹色の帯に分かれます。
よく見ると、その帯のところどころに、スリットのような暗い線が入っています。
JAXAは、これは光がある物質を通過する際に、特定の波長をもつ成分だけが吸収されるために起こる現象だと説明しています。
波長とは、光の色の違いを決める、波の山と山の間隔のことです。
二酸化炭素やメタンは、それぞれ決まった波長の光を吸収します。
いぶきは、地表で反射した太陽の赤外線や、地球自体が出す赤外線を観測します。
大気を通ってきた光のうち、その気体に対応する波長がどれだけ暗くなっているかを調べれば、大気中にその気体がどれだけ含まれているかを計算できます。
光に残った「指紋」を読み取るようなしくみです。


いぶきGWが長期観測を引き継ぎ大きな排出源を見張る
いぶきの観測は、2018年に打ち上げられた「いぶき2号」、そして2025年6月29日に打ち上げられた「いぶきGW」(GOSAT-GW)へと引き継がれています(出典:JAXA サテライトナビゲーター「いぶきGW(GOSAT-GW)」)。
同じ種類の観測を長く続けることで、温室効果ガスの量が年ごとにどう変わってきたかを比べられます。
いぶきGWに載っている温室効果ガス観測センサ「TANSO-3」は、二酸化炭素とメタンに加え、新たに二酸化窒素も観測します。
二酸化窒素は、自動車や工場などで燃料を燃やすときに出る気体です。
TANSO-3には、観測の仕方が2種類あります。
JAXAの記載は次のとおりです。
- 広域観測モードでは、911km以上の観測幅を10km分解能で面的に観測する
- 精密観測モードでは、90km以上の観測幅を3km分解能で詳細に観測する
分解能は、どれだけ細かく見分けられるかを表す値で、数字が小さいほど細かく見えます。
精密観測モードでは、都市圏や発電所、永久凍土など、温室効果ガスを大量に排出する地点を、最大90か所程度、3日に1回観測します。
永久凍土は、何年も凍ったままの地面のことで、とけるとため込んでいたメタンなどが出てくることがあります。
地球全体をまんべんなく見る観測に、排出の多い場所を狙って細かく見る観測が加わった形です。


各国が報告する排出量と衛星の推定を突き合わせる
パリ協定のもとでは、各国が自国の温室効果ガス排出量を国連に報告しています。
パリ協定は、温暖化を抑えるために、世界の国々が温室効果ガスの削減に取り組むことを定めた国際的な約束です。
各国の報告値は、燃料の使用量などの統計から計算されています。
JAXAによると、この報告値と、衛星の観測データによる推定値の差を調べる研究が行われています。
統計から積み上げた数字と、宇宙から大気を直接測った数字という、成り立ちの違う2つの数字を並べて見比べる研究です。





帳簿の数字と、実際に空に出ている量を、別々の方法で比べられるんだね。宇宙からの目は、国ごとの計算とは違う道筋で同じ空気を見ているんだ。
よくある質問
まとめ 実質ゼロは排出と吸収の帳尻を合わせる目標
カーボンニュートラルは、温室効果ガスを一切出さないことではなく、出す量と吸い込む量を釣り合わせることです。
要点は次のとおりです。
分かっていること
- カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量から森林などの吸収量を差し引いて、実質ゼロにすること
- 対象は二酸化炭素だけでなく、メタンなどを含む温室効果ガス全体
- 日本は2050年の実質ゼロを宣言し、地球温暖化対策推進法に位置付けている
- 宇宙からは、いぶき(2009年)、いぶき2号(2018年)、いぶきGW(2025年)が温室効果ガスを観測し続けている
数字を見るときの注意
- 60%・73%の削減目標は、いずれも2013年度の排出量と比べた値
- 年間10億トン超という排出量は、2023年度の排出・吸収量実績
- 約1.1℃の上昇は、2020年時点の世界平均気温を、1850〜1900年と比べた値
カーボンニュートラルは、出ていくものと取り込まれるものの帳尻を、地球というひとつの星の単位で合わせようとする試みです。
いつか人類は、この惑星を離れ、ほかの星で暮らす道を探し始めるのかもしれません。
ASTRONOTEは「人類が地球の寿命を超え、宇宙のどこかで存在し続ける未来へ」という想いを出発点にしています(発起人の想い)。
ただ、その準備を進められる場所は、いまのところ地球しかありません。
排出を減らす。
森を守る。
宇宙から空気を測る。
自分たちの星の収支を、宇宙から確かめられるようになったことは、遠い星へ向かう計画よりも手前にある、足元の準備なのかもしれません。
温室効果の仕組みをもっと知りたくなったら、気候変動がなぜ起きるのか、そして地球を宇宙から見守るほかの地球観測衛星にも目を向けてみてください。
出典
- 環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
- 環境省 脱炭素ポータル「国の取組」https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/road-to-carbon-neutral/
- 気象庁「展示室1 温室効果ガスに関する基礎知識」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/ghg/tour/tour_a1.html
- 気象庁「地球温暖化について」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq6.html
- JAXA サテライトナビゲーター「いぶき(GOSAT)」https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/gosat/
- JAXA サテライトナビゲーター「いぶきGW(GOSAT-GW)」https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/gosat-gw/
- 国立環境研究所「GOSAT Project – Global Greenhouse Gas Observation by Satellite」https://www.gosat.nies.go.jp/