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1 ホワイトホールとは、時間を逆に読んだブラックホール 2 方程式では対等なのに、見つかっているのは片方だけ 3 この考えは、どこから出てきたのか 4 なぜ「実在しないのでは」と疑われてきたのか 5 量子重力では「黒から白へ転じる」筋書きが検討されている 6 ホワイトホールについてよくある質問 7 まとめ 8 出典

ホワイトホールとは?方程式が許す「出口だけの穴」は実在するのか

ホワイトホールとは?方程式が許す「出口だけの穴」は実在するのか

何もない空間から、突然、光と物質が湧き出してくる。
そんな場所を想像してみてください。

ホワイトホールと呼ばれるものです。

結論を先に書きます。
ホワイトホールは、一般相対性理論の方程式が許す解として確かに現れます。
ただし、実在する天体として観測で確かめられてはいません。

方程式の上で成り立つ話と、宇宙で実際に見つかっている話。
この2つは、まったくの別物です。

この記事は、宇宙の科学と宇宙産業の情報を一次情報と整合させて発信するASTROWORKS編集部がまとめています。

この記事で分かることは次の通りです。

  • ホワイトホールの定義と、事象の地平面をまたぐ向きの違い
  • ひとつの解の中に黒と白の両方が現れる理由
  • ワームホール、アインシュタイン・ローゼン橋との使い分け
  • 実在が疑われてきた根拠と、量子重力で今も続く議論

読み終わる頃には、よく見かける「ブラックホールの出口」という説明のどこまでが物理で、どこからが飛躍なのか、自分で線を引けるようになります。

ほしまる

ぼくは40年旅したけれど、白いほうには一度も出会えなかったんだ。会えない理由も、ちゃんとあるんだよ。

目次

ホワイトホールとは、時間を逆に読んだブラックホール

ブラックホールに取り込んだ物質がホワイトホールから出ていくイメージ

まず定義を固めます。
ホワイトホールは天体の観測名ではありません。方程式の中に現れる、時空の領域を指す言葉です。

一般相対性理論の基礎方程式には、おもしろい性質があります。
時間の向きを逆にしても、式の形が変わらないのです。

だからブラックホールを表す解の時間を逆向きにした解も、数学的には同じ資格で存在します。
その逆向きの解が描く領域が、ホワイトホールと呼ばれています。

ただし、ここで確かめられたのは「解がある」ことだけ。
解があることと、その解に対応する天体が宇宙に実在することは、別々に確かめなければなりません。

出るのは許され、入るのは許されない

性質は、ブラックホールを裏返すと見えてきます。
出発点は事象の地平面(事象の地平線とも呼ばれます)です。

矢印が内向きのブラックホールと外向きのホワイトホールを並べた比較図
事象の地平面をまたぐ通行の向きの対比。ブラックホールは外から中へ入る向きだけ、ホワイトホールは中から外へ出る向きだけが許される(図解はイメージです)

NASAはブラックホールの事象の地平面について、こう説明しています。

Inside this boundary, the velocity needed to escape the black hole exceeds the speed of light, which is as fast as anything can go. So whatever passes into the event horizon is doomed to stay inside it – even light.

(出典: NASA Science・Anatomy of a Black Hole)

日本語にすると、「この境界の内側では、ブラックホールから脱出するのに必要な速度が光速を超える。光速は何ものも超えられない速さである。したがって事象の地平面を通り抜けたものは、光でさえ、その内側にとどまる運命にある」という内容です。

つまり事象の地平面は、一方通行のゲートです。
外から中へ入る向きだけが許されます。

ホワイトホールでは、この通行方向がそっくり反転します。
中から外へ出る向きだけが許され、外から中へは入れない。
遠くから眺める観測者には、何もない場所から物質が湧き出してくるように見える計算になります。

ただし地平面の内側で何が起きているかまでは、踏み込めません。
一般相対性理論は内側に特異点(曲率や密度が発散して理論そのものが破綻する点)を予言しますが、そこでは理論の適用範囲を超えてしまうからです。
いえるのは、通行が許される向きが逆だという構造上の違いまでです。

ひとつの解の中に、黒と白が同居している

ここが理解のヤマです。
ホワイトホールは、誰かが空想で別途こしらえた天体ではありません。
ブラックホールを表す解を丁寧に扱うと、自動的に姿を現します。

四つの領域に分かれたクルスカル図の模式図
クルスカル座標で描いた極大拡大されたシュバルツシルト時空。上下の領域がブラックホールとホワイトホール、左右が2つの漸近的に平坦な領域にあたる(図解はイメージです)

事情を分けているのは、座標の選び方です。

地図の投影法を思い浮かべてください。
メルカトル図法では北極点が無限に引き伸ばされて描けなくなりますが、北極点は地球上のごく普通の場所です。
破綻していたのは地球ではなく、地図の描き方のほうでした。

ブラックホールを表す最も基本的な厳密解が、シュバルツシルト解です。
厳密解とは、場の方程式を近似なく完全に解いた解を指します。
ここでも同じことが起こります。素朴な座標では事象の地平面で数式が破綻しますが、それは座標の都合であって、時空そのものの破綻ではありません。

そこで、地平面で破綻しない座標へ描き直したものがクルスカル座標です。
日本天文学会『天文学辞典』は、この座標系について「この座標系では事象の地平線では光の世界線は時空の至るところで ±1 の傾きをもち、因果関係が見やすくなっている」と説明しています(出典: 日本天文学会『天文学辞典』・クルスカル座標)。

描き直すと、解は素朴な座標で見えていた範囲の外側へも無理なく延ばせます。
この操作を解析接続と呼びます。同辞典は「この座標は解析接続できて事象の地平線の外側に2つの漸近的に平坦な領域が存在する」と述べています。
漸近的に平坦とは、遠く離れるほど重力の効果が薄れ、平らな時空に近づくという意味です。

こうして得られる時空は極大拡大されたシュバルツシルト時空と呼ばれ、同辞典によれば「ブラックホール時空を表すばかりでなく、ホワイトホール時空も同時に表す」ものになります。

黒と白は、別々の解ではありません。
ひとつの解を最後まで延ばしたときに、同居して現れる領域どうしなのです。

ワームホールとは、そもそも指すものが違う

この3語は同じ話題で登場するため混同されがちですが、指している対象が違います。

用語指しているもの
ホワイトホール物質や光が出ていく向きだけが許される領域
アインシュタイン・ローゼン橋2つの漸近的に平坦な領域をつなぐ構造
ワームホールその橋を通り抜けられるかどうかを論じる文脈での呼び名

ホワイトホールは「向き」の話。
アインシュタイン・ローゼン橋は「つながり」の話で、向きには触れていません。
ワームホールは、その橋を実際に通り抜けられるかという問いを扱う場面での呼び方です。

橋が数学的に存在することと、人や探査機がそこを通過できることは、まったく別の条件です。
通過可能性を論じるには追加の条件が要り、この記事で確認した一次情報の範囲では「通り抜けられる」とはいえません。

ネット記事で見かける「別の宇宙への入口」という表現は、この3つの区別が溶けてしまった結果であることが多いようです。

方程式では対等なのに、見つかっているのは片方だけ

方程式の上での違いを、まず整理します。

比べる点ブラックホールホワイトホール
地平面をまたぐ向き外から中へ入る向きが許される中から外へ出る向きが許される
許されない向き中から外へは出られない外から中へは入れない
時間の向き解をそのまま読んだ姿同じ解の時間を逆向きにした姿
光のふるまい光さえ地平面から脱出できない光は地平面から出ていく

3行目が、この記事のいちばん重要な点です。

両者は「性質の違う2種類の天体」ではありません。同じひとつの解を、時間のどちら向きに読むかの違いから生まれています。
鏡に映したような関係、といえば輪郭がつかみやすいでしょうか。厳密には鏡に映すのは空間ではなく時間の向きですが、イメージとしてはこれで十分です。

つまり方程式の側に、偏りはありません。一般相対性理論は、黒いほうだけをえこひいきしてはいないのです。

それなのに、現実の宇宙で見つかっているのは片方だけ。その非対称は、方程式ではなく観測の側から持ち込まれています。

ブラックホール側では、複数の独立した手段で候補天体の証拠が積み上がってきました。

撮像では、Event Horizon Telescopeが楕円銀河M87の中心にある超大質量ブラックホールの画像を2019年4月10日に公開しています。NASAはこの画像について「This is the first picture of a black hole.(これはブラックホールの最初の写真である)」と記しています(出典: NASA Science・First Image of a Black Hole)。
同じページは対象を、地球から約5,500万光年の距離にあるM87の中心天体だと説明しています。

重力波でも裏付けが得られています。重力波とは、質量の大きな天体が激しく動くときに時空そのものに生じるさざ波のことです。
NASAジェット推進研究所は、2015年9月14日に重力波が検出されたと伝えています(出典: NASA JPL・Gravitational Waves Detected 100 Years After Einstein’s Prediction)。この事象を起こしたブラックホールの質量について、LIGOの研究者は太陽の約29倍と約36倍と見積もっています。

このほかNASAは、周囲のガスとちりが作る降着円盤(天体へ落ち込むガスが渦を巻いて作る円盤)がX線を含む幅広い波長で光ること、重力レンズによって背景の光が曲げられることも、ブラックホールを探る手がかりに挙げています。

ホワイトホール側には、これに対応する観測結果がありません。Rudeep GaurとMatt Visserは、2023年にarXivへ投稿した論文(査読誌JHEPには2024年に掲載)で、落差をこう表現しています。

the theoretically viable time-reversed variants — the ‘white holes’ — have nowhere near the same level of observational support

(出典: R. Gaur and M. Visser, “Black holes, white holes, and near-horizon physics”, arXiv:2304.10692)

「理論的に成り立つ時間反転版、すなわちホワイトホールは、同じ水準の観測的裏付けにはまるで及んでいない」。

書かれているのが相対的な差である点に注意してください。観測がゼロだと断定しているのではなく、ブラックホール候補天体で積み上がった水準には遠く届いていない、という書き方です。

ほしまる

方程式はどちらも同じくらい許してくれるのに、宇宙が実際に見せてくれるのは片方だけ。この食い違いこそ、研究者たちがずっと考えこんでいるところなんだ。

この考えは、どこから出てきたのか

思いつきの産物ではありません。既存の解を数学的に扱う過程で、いわば副産物として現れました。

2枚の湾曲したシートが中央のくびれた通路でつながる立体図
アインシュタインとローゼンが示した構造の模式図。2つの漸近的に平坦な領域が、くびれた橋のような構造で結ばれている(図解はイメージです)

出発点のひとつが、1935年のアルベルト・アインシュタインとネイサン・ローゼンの論文です。2人が取り組んでいたのは、実はホワイトホールではありませんでした。狙いは、場の特異点を持ち込まずに素粒子を記述する理論を作ることでした。

論文の要旨は、物理的な空間を2枚の同一のシートからなる空間として数学的に表す解を扱っている、と述べています。粒子は、それらのシートをつなぐ「橋」として表されます(出典: A. Einstein and N. Rosen, “The Particle Problem in the General Theory of Relativity”, Physical Review 48, 73-77, 1935, DOI: 10.1103/PhysRev.48.73。要旨はINSPIRE-HEP掲載のものを参照)。

噛み砕くと、空間を1枚の紙ではなく重なった2枚の紙として扱い、素粒子1個を、その2枚をつなぐくびれた通路として表そうとしたわけです。こうすれば、素粒子の位置で場が無限大に発散する厄介事を避けられる、という見通しでした。この構造が、後にアインシュタイン・ローゼン橋と呼ばれるようになります。

素粒子の理論としては、この試みは成功しませんでした。論文の要旨自体が、理論の価値を決めるはずの多粒子系の問題はまだ扱われていない、と締めくくっています。残ったのは、時空をつなぐ橋という幾何学的な構造のほうでした。

その後、シュバルツシルト解を地平面で破綻しない座標へ描き直す研究が進み、解析接続によって解は外側へ延ばされます。延ばした先に現れた領域のひとつが、物質や光が出ていく向きだけを許す領域でした。これがホワイトホール時空です。

ここで、順序を確認しておきます。
先に名前があって、後から探されたのではありません。先に解の拡張があり、そこに現れた領域へ後から名前が与えられました。

この順序が分かると、「実在するかどうか」がなぜ別立ての問いになるのかも見えてきます。解を延ばせば領域は必ず現れます。しかし現れた領域に対応する天体が宇宙にあるかどうかは、方程式だけでは決まらないからです。

なお、ホワイトホールという語を誰がいつ使い始めたのかは、今回確認できた一次情報の範囲では特定できませんでした。この記事では命名の経緯には踏み込まず、辞典で確認できる領域の位置づけにとどめています。

なぜ「実在しないのでは」と疑われてきたのか

方程式が許すことは、存在することを意味しません。
否定的な見方を支えてきた論点を見ていきます。

白い天体が乱れを増して黒い天体へ変わる過程を左から右に並べた図
指数関数的に成長する不安定性によって、ホワイトホールがブラックホールへ転じるという論法の模式図。初期宇宙のコンパクトな領域を対象とした議論にあたる(図解はイメージです)

ひとつ目は、不安定性です。

Douglas M. Eardleyは1974年の論文で、ビッグバンのうち大きく遅れて始まるコンパクトな領域としてのホワイトホールは存在できない、と述べています。
理由は、そのような領域が指数関数的に成長する不安定性を被り、それがホワイトホールをブラックホールへ変えてしまうという点です(出典: D. M. Eardley, “Death of White Holes in the Early Universe”, Physical Review Letters 33, 442-444, 1974, DOI: 10.1103/PhysRevLett.33.442。要旨はINSPIRE-HEP掲載のものを参照)。

否定の理由が独特です。
「解が存在しない」からではなく、「解はあっても、わずかな乱れが時間とともに急激に育ってしまう」から存在できない、という論法になっています。
理屈の上では立たせられるのに、現実の微小な揺らぎがそれを許さない、というイメージです。

射程も確認しておきましょう。
この論文が否定している対象は、ビッグバンの中で大きく遅れて始まるコンパクトな領域という、宇宙論的な設定のホワイトホールです。
あらゆるホワイトホールを一括して否定した結論ではありません。

ふたつ目は、どうやって作られるのかです。

ブラックホールには、よく知られた作られ方があります。
NASAは「One type of black hole is born when massive stars run out of fuel and explode in supernovae.(あるタイプのブラックホールは、大質量星が燃料を使い果たし超新星として爆発するときに生まれる)」と説明しています(出典: NASA Science・Black Holes)。
星が自らの重力を支えきれずにつぶれる重力崩壊が、天体としての出発点です。

ホワイトホールには、これと同じ形の道筋が確立していません。
ただし「作られない」ことが示されたわけでもありません。
分かっているのは「重力崩壊に対応する経路が確立していない」という状態までです。

別の形の形成過程については、検討が続いています。
GaurとVisserは前掲の論文で、黒い地平面と白い地平面の区別が地平面近傍の物理だけで決まることを示し、非自明な物理を時空のコンパクトな領域に閉じ込めた、ブラックホールからホワイトホールへの転移の明示的な古典模型を構成しています(出典: R. Gaur and M. Visser, arXiv:2304.10692)。
星の崩壊からではなく、すでにあるブラックホールが転じるという道筋です。

三つ目は、突発天体をホワイトホールで説明しようとする提案の扱いです。
短時間だけ明るく輝く現象は天文学でしばしば見つかり、その一部と結びつける提案もときおり出されます。

ただし前掲の記述の通り、白い天体の側にはブラックホールと同水準の観測的裏付けがありません。
個別の提案も、この裏付けの乏しさの外側に立てるわけではないのです。
今回確認できた一次情報の範囲では、特定の突発天体をホワイトホールと同定した結果は確認できませんでした。

「ホワイトホールが観測された」という見出しを見かけたら、確かめたい点は3つです。

  • 元になった論文が査読誌に載っているか、どの号のどのページかが示されているか
  • 論文自身が「説明できる可能性がある」と書いているのか、「である」と書いているのか
  • 同じ現象について、既知の天体物理による説明が並行して提案されていないか

一次情報の要旨をひとつ開くだけで、断定なのか可能性の提示なのかは、たいてい判別がつきます。

ほしまる

見出しがどれだけ派手でも、要旨の1段落を読めばトーンが分かるんだ。ぼくも観測データを送るときは、確かなことと推測を必ず分けて記録していたよ。

量子重力では「黒から白へ転じる」筋書きが検討されている

否定側だけを見ていると、現在地を見誤ります。
研究が続いている側も見ておきましょう。

ブラックホールが蒸発しトンネル効果で白い天体の残骸へ転移する過程を並べた図
量子重力で提案されている筋書きの模式図。ブラックホールが蒸発で小さくなり、量子トンネルによって白い天体へ転移して長寿命の残骸として残るという模型(図解はイメージです)

前提として、ブラックホールは永遠に存在し続けるとは考えられていません。
量子的な効果によって少しずつエネルギーを放出し、質量を失っていくと予想されており、この過程は蒸発と呼ばれます。

問題は、蒸発が終わりに近づいたときです。
残った領域は極端に小さく重力も強いため、一般相対性理論だけでは扱いきれません。
重力と量子論を統一的に扱う量子重力の出番になりますが、この理論はまだ完成していません。

その未完成の枠組みの中で提案されている筋書きのひとつが、黒から白への転移です。

Quantum tunneling of a black hole into a white hole provides a model for the full life cycle of a black hole. The white hole acts as a long-lived remnant, solving the black-hole information paradox.

(出典: E. Bianchi, M. Christodoulou, F. D’Ambrosio, H. M. Haggard, C. Rovelli, “White Holes as Remnants: A Surprising Scenario for the End of a Black Hole”, arXiv:1802.04264, 2018)

「ブラックホールがホワイトホールへ量子トンネルすることは、ブラックホールの全生涯にわたるモデルを与える。このホワイトホールは長寿命の残骸としてふるまい、ブラックホール情報パラドックスを解決する」という内容です。

量子トンネルとは、古典的には越えられないはずの壁を、量子論的な効果によってすり抜ける現象です。
情報パラドックスは、ブラックホールに落ちた物質が持っていた情報が蒸発とともに失われるように見え、量子論の原則と衝突する問題を指します。
この模型では、蒸発しきって消えるのではなく白い天体へ転移して長く残ると考えることで、その衝突を回避しようとしています。

さらにこの筋書きは、宇宙論の未解決問題とも接続します。

a component of dark matter could be formed by remnants of evaporated black holes: stable Planck-size white holes with a large interior

(出典: C. Rovelli and F. Vidotto, “White-hole dark matter and the origin of past low-entropy”, arXiv:1804.04147, 2018)

「ダークマターの一成分が、蒸発したブラックホールの残骸、すなわち内部が広い安定なプランクサイズのホワイトホールによって形成されている可能性がある」。

ダークマターは、光では直接とらえられないのに、重力の効果からその存在が示されている物質です。
正体はまだ分かっていません。

プランクサイズとは、現在の物理学で意味を持つとされる長さの最小スケールで、原子核よりもはるかに小さい領域を指します。
外から見ると極端に小さいのに内部は広い、という表現はここから来ています。

読み違えを避けるために、位置づけをはっきりさせておきます。
述べられているのは可能性であり、ダークマターの正体が判明したという報告ではありません。
要旨自体が could be formed(形成されている可能性がある)という書き方を選んでいます。
同論文はさらに、残骸がビッグバン以前の遺物である可能性にも触れており、複数の筋書きを並べて検討する段階にあることが読み取れます。

いま分かっていることを、整理しておきます。

  • 一般相対性理論の解としてホワイトホールが現れることは確立している
  • 初期宇宙のホワイトホールについては、指数関数的な不安定性が指摘されている
  • 量子重力の枠組みでは、黒から白への転移や残骸としての存在が提案されている
  • 白い天体の観測的裏付けは、ブラックホールで積み上がった水準に及んでいない

最後の項目の言い回しには理由があります。
GaurとVisserの表現は「同じ水準にまるで及んでいない」であって、「何も見つかっていない」ではありません。
相対的な差として述べられているものを、絶対的な不在に読み替えないほうが正確です。

土台の側にも不確かさがあります。
黒から白への転移を扱う議論は量子重力に依拠していますが、その量子重力そのものが完成した理論ではなく、複数の枠組みが並立している状況です。
観測によってこれらの模型を選別する手段も、現時点では確立していません。

ほしまる

分からないことを分からないまま正直に書き残せるのが、科学のいちばん強いところなんだ。ぼくが40年送り続けたデータも、答えではなく次の問いを増やしてきたんだよ。

ホワイトホールについてよくある質問

ホワイトホールは発見されているのですか。

ブラックホール候補天体と同程度の観測的裏付けは、白い天体の側では得られていません。GaurとVisserは、ホワイトホールが「同じ水準の観測的裏付けにはまるで及んでいない」と記しています(出典: R. Gaur and M. Visser, arXiv:2304.10692)。一方でブラックホール側には、M87中心天体の撮像や重力波の検出といった証拠が積み上がっています。

ブラックホールに落ちた物質は、ホワイトホールから出てくるのですか。

同じ解の中に両方の領域が現れることは、片方に落ちたものが他方から出てくることを意味しません。クルスカル図が示すのは、極大拡大されたシュバルツシルト時空にどのような領域が含まれるかという構造であって、物質の行き先ではありません(出典: 日本天文学会『天文学辞典』・クルスカル座標)。

量子重力で議論されている黒から白への転移は別の文脈で、ひとつのブラックホールが蒸発の終わりに白い天体へ転じるという模型です。

ホワイトホールとワームホールは同じものですか。

指しているものが違います。物質や光が出ていく向きだけが許される領域がホワイトホール、2つの漸近的に平坦な領域をつなぐ構造がアインシュタイン・ローゼン橋で、その通り抜けを論じる文脈での呼び名がワームホールです。通り抜けが可能かどうかは追加の条件を要する別の問題であり、可能だとはいえません。

まとめ

分かっていること

  • 一般相対性理論の解の時間を逆向きにしたものがホワイトホールで、シュバルツシルト解をクルスカル座標へ描き直して解析接続すると、ブラックホール時空と同時に姿を現す
  • 方程式の上では、地平面をまたぐ通行の向きが逆であるだけで、両者は対等
  • 観測の上では、撮像や重力波でブラックホールの証拠が積み上がっている
  • 初期宇宙のホワイトホールには、指数関数的な不安定性が指摘されている

分かっていないこと

  • 白い天体が実在するかどうか。観測的裏付けはブラックホールと同水準に届いていない
  • 星の重力崩壊に対応する形成経路。確立していないだけで、否定されたわけでもない
  • 「ホワイトホール」という語の命名者と命名年
  • 量子重力で提案される転移や残骸の筋書きが正しいかどうか。理論そのものが未完成で、選別する観測手段もない

方程式は、黒と白を平等に許しています。
宇宙が片方しか見せてくれない理由は、まだ誰も知りません。

銀河団の重力レンズで背景の銀河が弧状に引き伸ばされた天体画像
重力レンズによって背景の光が曲げられている様子をとらえた画像。ブラックホールを探る手がかりのひとつにあたる Credit: NASA/ESA/JPL-Caltech

出典

ほしまる ほしまる

ブラックホールに銀河、相対性理論。宇宙のしくみを、ぼくがやさしく解きほぐすよ。

執筆・監修|ASTRONOTE編集部(宇宙物理学専攻)
掲載内容は公開時点の情報です。
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