ASTRONOTE 宇宙を知る。世界が変わる。
1 まず、あの赤い星を見つけてみる 2 なぜ「いつか爆発する」と言い切れるのか 3 2019年の「大減光」は、何だったのか 4 2025年、ついに「相棒」が写った 5 結局、いつ爆発するの? 6 爆発したら、地球はどうなる? 7 よくある質問 8 まとめ 現在進行形で観測されている星 9 出典

ベテルギウスとは?オリオン座の赤い星が、いつか消える日

ベテルギウスとは?オリオン座の赤い星が、いつか消える日

冬の夜、南の空を見上げてください。

縦長の長方形の真ん中に、星が3つ並んでいます。オリオン座の三つ星です。
そのすぐ左上に、はっきり赤い星がひとつあります。

それがベテルギウスです。

この星は、いつか爆発して消えます。
これは可能性の話ではなく、研究者のあいだで異論のない結論です。
ただし「いつ」は、誰にも特定できていません。

そして、もうひとつ先に書いておきます。
爆発しても、地球に実害はほぼ及びません。

この記事では、この赤い星について「どこまで分かっていて、どこから先が未解決なのか」を順番に見ていきます。
宇宙の科学と宇宙産業の情報を一次情報と整合させて発信するASTROWORKS編集部がまとめました。

この記事で分かることは、次の通りです。

  • 太陽と桁の違う星、赤色超巨星ベテルギウスの姿
  • 2019年の「大減光」で実際に何が起きていたのか
  • 2025年に写真に写った「相棒」が示したもの
  • 爆発の時期がなぜ絞り込めないのか、そして地球はどうなるのか
ほしまる

ぼくは40年かけて太陽系を旅してきたけれど、ベテルギウスの最期にはまだ立ち会えていないんだ。
分かっていることと、まだ分からないこと。いっしょに線を引いていこうね。

赤くまだらに輝くベテルギウスの表面をとらえた画像
超大型望遠鏡がとらえたベテルギウス。表面の明るさが一様ではなく、模様が短期間で変わっていく様子が観測されている。 Credit: ESA/Herschel/PACS/L. Decin et al.
目次

まず、あの赤い星を見つけてみる

ベテルギウスは、特別な機材がなくても肉眼で見つかります。

目印は、先ほどの三つ星です。
国立天文台は、オリオン座について「横に並んだ三ツ星をはさんで、上方に赤いベテルギウス、下方に白いリゲル、色の好対照な2つの一等星が輝く」と説明しています(出典: 国立天文台「去りゆく冬――三鷹にて」)。
上が赤、下が白。並べて見比べると、色の違いは写真に頼らなくても分かります。

オリオン座の三つ星とベテルギウス・リゲル、冬の大三角を実座標で描いた星図
オリオン座の三つ星をはさんで、上に赤いベテルギウス、下に白いリゲル。ベテルギウスからシリウス、プロキオンを結ぶと冬の大三角になる。(星の位置はIAU公認星名リストの座標にもとづく作図)

もうひとつの目印が、冬の大三角です。
ベテルギウスから東へ、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンを結ぶと、大きな三角形ができます。
どれも明るい星なので、街明かりのある市街地からでもたどれます。

明るさは0.0等(極大)。肉眼で見える星のなかでも最上位です(出典: 国立天文台暦計算室「こよみ用語解説 おもな恒星」)。

太陽の20倍近く重いのに、表面は太陽より冷たい

この星は、太陽とは桁が違います。

日本天文学会の天文学辞典は、ベテルギウスを「太陽の約20倍の質量を持つM型の赤色超巨星」とし、脈動変光星の半規則型に分類しています(出典: 日本天文学会 天文学辞典「ベテルギウス」)。
脈動変光星とは、星そのものが膨らんだり縮んだりして明るさが変わる星のこと。
半規則型は、その周期がおおむね決まっているのに、きれいには揃わないタイプを指します。

主な値を太陽と並べてみます。

項目太陽ベテルギウス
質量116.5〜19倍(Joyce et al. 2020の推定)
半径1約700倍(NASA)
表面温度摂氏約5,500度摂氏およそ3,300度
年齢約45億年約1,000万年

半径・年齢・表面温度はNASAの解説、太陽側の年齢と表面温度はNASAの太陽解説によります(出典: NASA「What is Betelgeuse? Inside the Strange, Volatile Star」/NASA「Sun Facts」)。
NASAは、ベテルギウスを太陽の位置に置いたら木星の軌道を越えるほど大きい、と表現しています。

太陽の位置にベテルギウスを置いた大きさの比較図。星の表面が地球の軌道と木星の軌道を包み込み、中心の太陽は点にしか見えない
太陽のある場所にベテルギウスを置いたときの大きさのイメージ。表面は地球の軌道をはるかに越え、木星の軌道の外側まで届く。中心の太陽は点にしか見えない(図解はイメージです)

ここで表面温度を見てください。
太陽よりはるかに重いのに、表面はむしろ冷たいのです。
赤く見えるのは、この低い温度の反映です。重い星ほど熱く輝きそうなものですが、晩年の姿は逆になります。

距離が研究ごとに違うのは、測るのが本当に難しいから

ベテルギウスの距離を調べると、記事によって数字が違います。
これは誰かが間違えているのではありません。

NASAの解説は「約700光年」としています。
一方、オーストラリア国立大学のMeridith Joyce氏らは、脈動の周期から半径を求め、そこから距離を逆算しました。
結果は168パーセク、光年に直すとおよそ530光年。それまでの推定より25パーセント近い、という内容です(出典: Joyce et al. 2020, The Astrophysical Journal 902, 63/オーストラリア国立大学プレスリリース)。

なぜ、ふつうの方法で決まらないのか。
理由のひとつは、この星が「点」として振る舞ってくれないことにあります。
ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡は、ベテルギウスの表面の明るさが一様ではなく、その模様が短期間で変わっていく様子を捉えました(出典: Montargès et al. 2021, Nature 594, 365-368)。
位置のずれを読み取ろうにも、基準にすべき星の姿そのものが揺らいでいるわけです。

この距離の不確かさは、あとで「爆発の時期」の話に効いてきます。
総説論文も、距離の不確かさをベテルギウス理解の決定的な障害として挙げています(出典: Wheeler & Chatzopoulos 2023, Astronomy & Geophysics 64(3), arXiv:2306.09449)。

なぜ「いつか爆発する」と言い切れるのか

爆発するかどうかについては、研究者のあいだで異論がありません。
理由は、この星が一生のどこにいるかで決まっています。

重い星ほど、燃料を使うのが速い

重い星は、長生きしません。

一見すると逆に思えます。燃料をたくさん持っているのだから、長く輝けそうです。
ところが重い星は中心部の圧力と温度が高く、核融合が桁違いの速さで進みます。
NASAは、大質量星の一生はわずか数百万年で終わると説明しています(出典: NASA「Stars」)。

ベテルギウスの年齢は、およそ1,000万年(出典: NASA「What is Betelgeuse?」)。
太陽の約45億年と比べると、100分の1にも満たない若さです。
それでいて、すでに一生の終盤に差しかかっています。

厳密には異なりますが、イメージとしてはバッテリーと消費電流の関係に近い話です。
容量が20倍あっても、消費電流が数千倍なら、先に尽きるのは容量の大きいほうになります。
星の場合、この「消費電流」を決めているのが、自らの重さです。

ほしまる

ぼくは省エネで40年もったけれど、ベテルギウスは真逆の生き方なんだ。
全開で燃やして、あっという間に駆け抜けていくんだよ。

中心に鉄がたまった瞬間、星は自分を支えられなくなる

星が輝いていられるのは、中心の核融合が生む圧力と、自らの重さによる収縮がつり合っているからです。

中心の水素を使い切ると、次はヘリウムが燃え始めます。
NASAの解説によれば、この連鎖は炭素から酸素・ネオン・マグネシウムへと進み、最も大きな星ではケイ素が鉄に変わるところまで続きます(出典: NASA「Stars」)。

問題は、その鉄です。
鉄より重い元素をつくる核融合は、エネルギーを放出せず、逆に吸収します。
つまり鉄が中心にたまった時点で、星は自分を支える力を生み出せなくなります。

大質量星の内部が玉ねぎ状の層構造になり中心に鉄の核ができる様子を示した断面図
重い星の内部は、外側に水素の層、内側ほど重い元素の層が積み重なる構造になる。中心に鉄がたまると星は自分を支える力を生み出せなくなり、重力崩壊型超新星へ向かう。(図解はイメージです)

そこから先は一瞬です。
鉄の中心核が崩壊し、原子核どうしの力がブレーキをかけたところで跳ね返り、その変化が外向きの衝撃波を生む。
この衝撃波が星を吹き飛ばす現象が、超新星です。

ベテルギウスは分厚い水素の外層をまとった赤色超巨星なので、II型超新星として終わると予想されています(出典: 日本天文学会 天文学辞典「ベテルギウス」)。
爆発の時期をめぐって激しく議論している研究者たちも、ここでは一致しています。
対立しているのは「いつ」であって、「そうなるか」ではありません。

2019年の「大減光」は、何だったのか

ベテルギウスが世界的な話題になった直接のきっかけが、この事件です。

一等星が、二等星並みまで暗くなった

まず、変化の規模から。
等級は、数字が大きいほど暗いことを表す尺度です。

日本天文学会の天文学辞典によれば、ベテルギウスは0.4等程度だったところから2019年秋に減光を始め、2020年2月10日頃に約1.6等まで落ちました。
この100年で最も暗い状態のひとつです。
2月13日頃に減光が止まり、5月10日には減光前の明るさに戻っています(出典: 日本天文学会 天文学辞典「ベテルギウス」)。

NASAは、この現象を「数か月かけて約60パーセント暗くなった」と表現しています(出典: NASA「What is Betelgeuse?」)。
6割暗くなる変化は、望遠鏡がなくても分かります。
実際、冬の大三角を毎年眺めている人たちが「三角形の形が変わった」と気づきました。

当時は「超新星爆発の前触れではないか」という見方も広がりました。
その解釈が正しかったのかを、次に見ます。

望遠鏡が撮った答え:片側だけが暗くなっていた

推測ではなく画像で確かめたのが、ESOの超大型望遠鏡(VLT)です。

Miguel Montargès氏らのチームは、減光の前後でベテルギウスの表面そのものを撮影しました。
そこには、はっきりした変化が写っていました。
大減光の期間中、ベテルギウスの南半球は可視光で通常の10分の1の暗さになっていたのです(出典: Montargès et al. 2021, Nature 594, 365-368)。

星全体が均等に暗くなったのではなく、片側だけが落ち込んでいた。
論文が示した筋道は、次の順序をたどります。

  • 星の表面から巨大なガスの泡が放出される
  • 放出後、表面の一部の領域が冷える
  • 温度が下がったガスが固体の塵に凝結する
  • できた塵が星を覆い、こちら側に届く光を遮る

肝心なのは順序です。
塵が先にあって星を隠したのではなく、温度低下が先にあって、その結果として塵ができた。
ESOはこの成果を「ベテルギウスの減光の謎が解けた」と発表しました。

ただし、これで議論が終わったわけではありません。
Harper氏らは、光球(光がようやく外へ抜け出してくる薄い層)の温度が十分に下がっていれば、新しい塵を仮定しなくても観測を説明できると報告しています(出典: Harper et al. 2020, The Astrophysical Journal 905, 34「No New Dust Required」)。
Dupree氏らは、2019年初めに光球で衝撃波が発生し、11か月かけて大気を進みながら塵を生成したという見方を示しました(出典: Dupree et al. 2022, The Astrophysical Journal, arXiv:2208.01676)。

塵・温度低下・質量放出。この3つは互いに排他的ではありません。
どれが主役だったのかという重みづけが、まだ定まっていない段階です。

2025年、ついに「相棒」が写った

ベテルギウスには、約6年周期という長い明るさの変動があります。
その説明として長く予言されてきた伴星が、ついに画像に写りました。

本体のまぶしさを、超高速シャッターで乗り越えた

伴星の存在は、以前から疑われていました。
視線速度のデータと位置天文のデータの両方が伴星を指し示し、脈動では説明できない長周期の変動も伴星が原因と考えられていたのです(出典: Howell et al. 2025, The Astrophysical Journal Letters, arXiv:2507.15749)。
それでも見えなかったのは、本体があまりに明るく、距離が近すぎたからでした。

突破口になったのがスペックル観測です。
地上の望遠鏡は大気の揺らぎで像がぼやけ、長時間露光するとその揺らぎが積分されて細部が完全に潰れます。
スペックル観測は、これを逆向きに解きます。
極めて短い露出で揺らぎを凍結した画像を大量に撮り、後から計算処理で重ね合わせて、望遠鏡本来の分解能を復元するのです。

使われたのは、ハワイのジェミニ北望遠鏡(口径8.1メートル)のスペックルイメージャ’Alopeke。
NASAジェット推進研究所は、宇宙望遠鏡による初期の探索では検出できず、地上からのスペックル観測で初めて成功したと説明しています(出典: NASA JPL「NASA Scientist Finds Predicted Companion Star to Betelgeuse」)。

見えたのは、土星の軌道あたりを回る小さな星

観測は2020年と2024年の2回。
2020年は大減光の最中で、伴星が本体のちょうど手前に重なって見えないと予測されていた時期です。
2024年は、伴星が本体から最も離れて見える時期の3日後でした。

そして予測どおり、2020年には何も写らず、2024年にだけ天体が写りました。

Howell氏らが報告した値は、本体からの離角が52ミリ秒角、質量は約1.6太陽質量(幅は1.4から2.0)、有効温度はおよそ7,400Kで、主系列に入る前のF型矮星とみられる、というものです(出典: Howell et al. 2025, ApJL, arXiv:2507.15749)。

52ミリ秒角と言われても、ぴんと来ないかもしれません。
1ミリ秒角は1度の360万分の1。
満月の見かけの直径が約0.5度なので、52ミリ秒角はその3万5千分の1ほどの間隔にあたります。

ベテルギウスと伴星の位置関係を土星の軌道の大きさと比べた図
伴星はベテルギウスの広がった大気のすぐ外側を回っていると考えられている。論文が採用した距離を前提に換算すると、投影距離は太陽系でいえば土星の軌道あたりにあたる。(図解はイメージです)

論文が採用した168パーセクの距離を前提に換算すると、投影距離はおよそ9天文単位。
太陽系でいえば土星の軌道のあたりです。
伴星は、ベテルギウスの広がった大気のすぐ外側を回っている計算になります。

この星には、Siwarhaという名前が付きました。
アラビア語で「彼女の腕輪」。
「アル・ジャウザーの手」を語源とするベテルギウスの名に合わせたものです(出典: NASA JPL)。

ほしまる

長いあいだ疑われていた相棒が、やっと写真に写ったんだ。ぼくも遠くから相棒を待ち続けた身だから、この知らせはうれしかったよ。

ただし、確定にはもう一度の観測が要る

慎重さが必要なことは、論文自身が示しています。
Howell氏らの論文タイトルには「probable(見込まれる)」という語が入っており、本文でも検出は1.5シグマにとどまると明記されています。
偶然のゆらぎで同じものが見えてしまう可能性を、排除しきれない水準です。
それでも著者らは、現れた時期・離角・位置角・等級差・推定質量のいずれもが事前の予測と合致している点を根拠に挙げています。

質量の見積もりも、まだ揺れています。
2026年7月、Montargès氏らはESOの超大型望遠鏡で2024年12月に取得した画像を公表し、この伴星が太陽の2倍から3倍の質量を持つと報告しました(出典: ESO「Astronomers capture the strongest evidence yet of Betelgeuse’s companion star」)。
Howell氏らの約1.6太陽質量とは、ずれがあります。

補強材料も出ています。
2026年1月、Dupree氏らはハッブル宇宙望遠鏡の約8年分のスペクトル変化から、伴星がベテルギウスの大気を横切った後に残す高密度ガスの航跡を検出したと報告しました。
公転周期は約2,100日、およそ6年です(出典: NASA「NASA Hubble Helps Detect ‘Wake’ of Betelgeuse’s Elusive Companion Star」)。

決定打になるのは、次の好機です。
Howell氏らの論文は、次に伴星が最も離れて見えるのはUT2027年11月26日だと記しています。
確定した発見と呼べるかどうかは、この観測を待つ段階です。

結局、いつ爆発するの?

おそらく、いちばん知りたいのはここでしょう。
先に答えを書くと、幅のある予測しか立てられません。その理由を説明します。

中心で何が燃えているかは、外からは見えない

爆発の時期を決めているのは、中心核の状態です。
そして中心核は、原理的に見えません。

星の内部から出てきた光は、分厚い外層に何度も散乱・吸収されながら進みます。
観測できるのは、最終的に外へ抜け出してきた光だけ。
つまり中心で何が燃えているかは、表面の観測量から逆算するしかありません。

使うのは、脈動の周期・明るさ・表面温度・半径といった量です。
これらを恒星進化のモデルに当てはめ、どの段階なら観測値を再現できるかを探ります。
ここで効いてくるのが、前提の置き方です。

そして、先ほどの距離が戻ってきます。
距離が変われば見かけの明るさから求まる本当の明るさが変わり、明るさが変われば質量と進化段階の推定も動く。
距離の議論と爆発時期の議論は、地続きなのです。

ヘリウムを燃やしている最中か、もう炭素に入っているか

見解の対立は、具体的にこうなっています。

ひとつめは、まだ中心でヘリウムを燃やしている段階だとする立場。
Joyce氏らは、恒星進化・星震学(恒星の振動パターンから内部構造を推定する分野)・流体力学のシミュレーションを組み合わせ、現在の質量を16.5から19太陽質量、半径を764太陽半径と算出しました。
そのうえで、ベテルギウスは中心ヘリウム燃焼段階に「明確に」位置づけられると結論しています(出典: Joyce et al. 2020, The Astrophysical Journal 902, 63)。
オーストラリア国立大学の発表では、これは「爆発にはまったく近くない」ことを意味し、爆発までおよそ10万年とされています。

もうひとつは、すでに炭素を燃やす段階に入っているとする立場。
斎尾英行氏らは、約2200日・420日・230日・185日という4つの脈動周期をすべて動径振動モードとして解釈し、ベテルギウスは中心炭素燃焼の後期にあり、質量は11から12太陽質量程度だと結論しました(出典: Saio et al. 2023, MNRAS, arXiv:2306.00287)。

これに対する反論も、すぐに出ました。
Molnár氏らは、斎尾氏らのモデルが要求する半径が、実測された角直径と矛盾すると指摘しています(出典: Molnár, Joyce & Leung 2023, Research Notes of the AAS 7, 119, arXiv:2306.05600)。

どちらが正しいかは、まだ決まっていません。
「明日かもしれないし10万年後かもしれない」という言い方が乱暴に聞こえるとしたら、その幅は、こういう対立の幅なのです。

中心ヘリウム燃焼段階と中心炭素燃焼段階の2つの説を並べて比べた図
現在どの燃焼段階にあるかで見解が割れている。中心ヘリウム燃焼とする研究と、すでに中心炭素燃焼の後期に入っているとする研究があり、どちらを取るかで残り時間の見積もりが大きく変わる。(図解はイメージです)

「もう爆発済みで、光が届いていないだけ」は本当か

ネットでよく見かける説を、ここで整理しておきます。

理屈の部分は、正しい話です。
光の速さは有限なので、530光年から700光年先の星の姿は、530年から700年前の姿になります。
仮に600年前に爆発していたなら、その光は今まさに届く途中ということになり、否定はできません。

ただし、ここには条件が隠れています。「何百年も前に爆発していれば」という仮定です。
しかも今見えているのは、まさにその何百年か前の光であり、そこには生きた赤色超巨星が写っています。
2024年の観測でも、脈動する赤色超巨星として観測され続けています。

つまりこの話は、爆発が近いことの根拠にはなりません。
「今日爆発したとしても、それを知るのは数百年後だ」という時間差の指摘であって、切迫度とは別の話です。
NASAの解説も、爆発が起きるのは今からおよそ10万年後までは考えにくいとしています(出典: NASA「What is Betelgeuse?」)。

誰かにこの話を振られたら、「理屈は合っているけれど、根拠にはならない」と答えるのが正確です。

爆発したら、地球はどうなる?

不安の側から、先に片づけます。
結論は、実害は及ばない、です。

危ないのは50光年以内。ベテルギウスは一桁遠い

NASAは、明確な目安を示しています。
「地球のオゾン層が超新星による損傷を受けるためには、爆発が50光年以内で起きる必要がある」(出典: NASA「2012: Fear No Supernova」)。

なぜオゾン層なのか。
超新星が放つX線とガンマ線がオゾン層を壊すと、有害な紫外線を防ぐ働きが弱まるためです。
爆発の衝撃そのものではなく、地球の防御機構への影響が問題になります。

ベテルギウスの距離は、推定に幅があるとはいえ530光年から700光年。
最も近い530光年を採ったとしても、しきい値の10倍以上離れています。
放射のエネルギーは距離が離れるほど急速に薄まるので、この差は決定的です。

地球から50光年の目安と530〜700光年先のベテルギウスの距離を比べた図
オゾン層が損傷を受ける目安は50光年以内。ベテルギウスの距離は530光年から700光年と推定されており、しきい値に対して一桁遠い。(図解はイメージです)

ベテルギウスの爆発は、地球にとって危険な事象ではなく、観測の対象です。

ほしまる

遠さって、こういうときは味方になるんだね。ぼくは太陽が豆電球ぐらいに見える場所まで行ったけれど、それでもまだ太陽系の中なんだよ。

昼でも見える星が、季節ひとつ分だけ空にいる

では、実際どう見えるのか。
ここから先はモデルによる予測なので、前提とセットで考えてください。

Goldberg氏らは、ベテルギウスがII型プラトー超新星として爆発した場合の見え方を計算しました。
プラトー期(爆発の後、明るさがほぼ横ばいのまま続く期間)の明るさは、可視光の光度で満月のおよそ10パーセント。
特に明るいII型プラトー超新星であれば、満月の約50パーセントに達しうるとも記されています(出典: Goldberg, Bauer & Howell 2020, Research Notes of the AAS 4, 35)。

満月の1割、と聞いて暗く感じたかもしれません。
けれど満月は約0.5度の広がりに光が散っているのに対し、超新星はほぼ点として輝きます。
1点に集中する分、見た目の鮮烈さは数字以上になります。昼間の空でも見える明るさです。

広がりを持つ満月と、ほぼ点として輝く超新星の見え方を比べた図解
満月は約0.5度の広がりに光が散っているのに対し、超新星はほぼ点として輝く。光度が満月の1割ほどでも、1点に集中する分、見た目の鮮烈さは数字以上になる。(図解はイメージです)

さらに明るくなるのは、爆発の直後。
衝撃波が星の表面を突き抜けた後の数日間は、全波長を合わせた光度で満月を上回る可能性があります(同論文)。

では、どれくらい続くのか。
日本天文学会の天文学辞典は、II型超新星のうちプラトー型を「極大後100日程度一定の光度を保つ」ものと説明しています(出典: 日本天文学会 天文学辞典「超新星」)。
Goldberg氏らの計算はベテルギウスが典型的なII型プラトー超新星として爆発する場合を想定したものなので、その前提に立てば、満月の1割ほどの明るさが100日前後続く計算になります(この整理は編集部によるもの)。

夜空に月がもうひとつ増えたような状態が、季節ひとつ分だけ続く。
ただし、ここで挙げた明るさも期間も、モデルや典型例にもとづく見積もりです。確定した未来として受け取らないほうが安全です。

そして、オリオン座の形が変わる

爆発の後には、中心核が残ります。
NASAは、この残骸が中性子星かブラックホールのいずれかになると説明しています(出典: NASA「Stars」)。
どちらになるかは、爆発の直前に中心核が持っていた質量で決まります。

ベテルギウスの場合、これも予測が立てにくい状況です。
現在の質量の推定が、11から12太陽質量とする研究と、16.5から19太陽質量とする研究に分かれているためです。
出発点の数字が倍近く違うので、行き先もひとつに絞れません。

ただし、確実に起きる変化がひとつあります。
オリオン座の形が変わることです。

右肩の赤い一等星が失われれば、あの見慣れた四角形は片方の角を欠いた姿になります。
冬の大三角も、頂点のひとつを失います。

現在のオリオン座と、ベテルギウスが失われて肩の星が欠けたオリオン座を並べた星図
ベテルギウスが失われた後のオリオン座(右)。右肩の赤い一等星が欠け、見慣れた四角形は片方の角を失う。冬の大三角も頂点のひとつを失うことになる。(図解はイメージです)

人類がずっと同じ形として語り継いできた星座が、いつかの世代で書き換わる。
ベテルギウスの爆発は、天文現象であると同時に、文化の側にも痕跡を残す出来事です。

よくある質問

ベテルギウスという名前の由来は何ですか

アラビア語に由来する固有名です。
NASAジェット推進研究所は、伝統的な星名Betelgeuseがアラビア語の「アル・ジャウザーの手」に由来し、アル・ジャウザーは古いアラビアの伝承に登場する女性の姿だと説明しています(出典: NASA JPL「NASA Scientist Finds Predicted Companion Star to Betelgeuse」)。

オリオン座の肩の位置にある星なので、「手」を指す名が付いた形です。
2025年に見つかった伴星のSiwarha(彼女の腕輪)も、この語源に合わせて付けられました。

なお語源の細部の解釈には複数の説が知られていますが、この記事では一次情報で確認できたNASAの記述にとどめています。

大減光のあと、明るさは元に戻ったのですか

いったん戻り、その後はやや暗いままです。
日本天文学会の天文学辞典によれば、2020年5月10日時点で減光前の明るさに戻っていますが、2020年秋以降は0.7等程度で、減光前の0.4等よりやや暗い状態が続いています(出典: 日本天文学会 天文学辞典「ベテルギウス」)。

ベテルギウス以外に、近いうちに超新星になりそうな星はありますか

さそり座のアンタレスが、代表的な候補です。
ESOはアンタレスについて、一生の終盤にあり超新星へ向かっている、巨大で比較的低温の赤色超巨星だと説明しています。
現在の質量は太陽の約12倍、直径は太陽の約700倍とされています(出典: ESO「A Beautiful Instance of Stellar Ornamentation」)。

安全性についても答えははっきりしていて、NASAは、超新星になりうる近傍の星はいずれも50光年という目安よりはるかに遠いと明記しています(出典: NASA「2012: Fear No Supernova」)。

まとめ 現在進行形で観測されている星

分かっていることを、先に整理します。

  • ベテルギウスはオリオン座のM型赤色超巨星で、太陽より桁違いに重く、表面はむしろ冷たい
  • 恒星進化の最終盤にあり、いずれII型超新星として一生を終える。ここに異論はない
  • 距離は50光年の目安をはるかに超えているので、爆発しても地球への実害はほぼない

分かっていないことも、同じくらいあります。

  • 正確な距離は530光年から700光年で揺れ、質量の推定も11倍から20倍まで割れている
  • 現在の燃焼段階は中心ヘリウムか中心炭素かで見解が分かれ、爆発時期の見積もりも大きく開いたまま
  • 2019年の大減光の主因が塵か温度低下か質量放出かも、重みづけが定まっていない

ただ、この星は人類が初めて詳細に追跡できている超新星前段階の天体です。
表面の模様が撮影され、長く疑われてきた伴星が写り、その航跡までスペクトルに現れました。
次の節目は2027年11月です。

夜空で赤い星を見上げるとき、その光が数百年前の姿であることを思い出すと、この星の話はもう少し面白くなります。

ほしまる

いつか消える、と分かっている星を見上げられるのは、けっこうすごいことだと思うんだ。
ぼくたちは、その途中に居合わせているんだよ。

出典

ほしまる ほしまる

ブラックホールに銀河、相対性理論。宇宙のしくみを、ぼくがやさしく解きほぐすよ。

執筆・監修|ASTRONOTE編集部(宇宙物理学専攻)
掲載内容は公開時点の情報です。
CAREER この宇宙を、仕事にする。 観測・解析・衛星運用。宇宙で働くための実践情報は、姉妹サイト ASTROWORKS でお届けしています。 姉妹サイト ASTROWORKS へ ↗