皆既月食は、月がまるごと地球の本影に入った状態です。
太陽と地球と月がこの順にほぼ一直線に並び、地球が作る影の中を月が通り抜けていきます。
このとき月は真っ暗にならず、赤銅(しゃくどう)色と呼ばれる赤黒い色に見えます。
影の内側まで、地球の大気を通り抜けた赤い光が回り込んでいるからです。
日本全国で見られる次の皆既月食は、2029年1月1日です。

皆既月食とは、月がまるごと地球の本影に入った状態
月は自分で光っているのではなく、太陽の光を反射して光っています。
地球にも太陽の光による影があり、普段は見えませんが、太陽とは反対の方向にのびています。
この地球の影の中を月が通過すると、月の一部または全体が暗くなり、月が欠けたように見えます。
これが月食です(出典:国立天文台「2026年3月3日 皆既月食 解説資料」。以下、月食の用語と数値は同資料の表記によります)。
月食が起こるのは、太陽と地球と月がこの順番にほぼ一直線になったときです(出典:日本天文学会「天文学辞典」月食の項)。
月は地球のまわりを回っているため、この並びになるのは満月の頃に限られます。
地球の影は本影と半影の二重になっている
地球の影は、濃さの違う2つの部分に分かれています。
太陽からの光が地球によって完全に遮られ、光が直接届かない部分を本影(ほんえい)と呼びます。
太陽の光の一部だけが遮られる部分は半影(はんえい)と呼び、本影を取り囲むように薄く広がっています(出典:国立天文台「月食とは」)。
この濃さの違いは、そのまま見え方の違いになります。
月のうち本影に入った部分は、たいへん暗くなります。
一方、月は半影に入ってもあまり暗くなりません。
そのため多くの場合、単に「月食」というときは、月が本影に入ることを意味します。

本影に月全体が入れば皆既月食、一部だけなら部分月食
月全体が地球の本影に入る現象を、皆既月食と呼びます。
本影に月全体が入るのではなく、月の一部だけが入る現象が部分月食です。
呼び名はもうひとつあります。
皆既月食でも、月全体が本影に入っている状態のときと、月の一部だけが本影に入っている状態のときがあります。
前者を皆既食、後者を部分食と呼んで、現象全体としての呼び方である皆既月食や部分月食と区別することがあります。
ひとつの皆既月食の夜は、部分食から始まって皆既食になり、また部分食に戻るという進み方をします。
月がどれだけ影に入り込んでいるかは、食分という値で表します。
食分とは、月が地球の影の中に入り込む程度のことで、月食の場合は地球の影で覆われる月の直径の度合いで表します。
値が大きいほど、影の中に月が深く入り込んでいることを意味します。
食分が1.0以上のときに皆既食となります。

半影だけに入る半影月食は、ほとんど暗くならない
月が半影だけに入って、本影には入らない月食も起こります。
これを半影月食と呼びます。
半影には太陽の光が届いているため、半影に入っても月はほとんど暗く見えません。
注意深く観察して、やっと月がやや暗くなっていることに気づく程度の変化です。
3つの種類の違いを、国立天文台の解説にそって次の表にまとめます。
| 月食の種類 | 月が入る影 | 見え方 |
|---|---|---|
| 皆既月食 | 月全体が本影に入る | 赤銅色と呼ばれる赤黒い色に見える |
| 部分月食 | 月の一部が本影に入る | 月が欠けたように見える |
| 半影月食 | 半影だけに入り、本影に入らない | ほとんど暗くならない |
半影月食は、国立天文台の「月食一覧(2010年から2030年)」には掲載されていません(出典:国立天文台「月食一覧(2010年から2030年)」)。
この一覧に日付が並んでいるのは、月が本影に入る月食だけです。
満月のたびに起こらないのは、月の通り道が傾いているから
満月は毎月訪れますが、その満月のたびに月食が起こるわけではありません。
理由は、月の通り道が少し傾いていることにあります。
星空の中での太陽の通り道を黄道、月の通り道を白道と呼びます。
この2つの道は重なっておらず、天文学辞典の記載では、黄道に対して白道が約5度傾いています。
そのため、ふだんの満月は、地球の影の北側や南側にそれたところを通ります。
黄道と白道が交わる点の近くで満月になったときに限って、月は地球の影の中に入ります。
月食がときどきしか起こらないのは、この条件が重なる必要があるためです。
この位置関係は、国立天文台の動画「それでも月食が起こるわけ」でも解説されています。
ほしまる本影は、太陽の光が直接は届かない場所なんだよね。それなら皆既食の月は、どうして見えるんだろう?


なぜ月は真っ暗にならず、赤銅色に見えるのか
皆既食中には、月が本影の中に完全に入り込みます。
それでも月は真っ暗になって見えなくなるわけではなく、赤銅色と呼ばれる赤黒い色に見えます。
光が直接届かないはずの場所に、別の道筋で光が届いているからです。
その道筋を作っているのが、地球を包む大気です。
青い光は大気に散乱され、赤い光が通り抜ける
太陽の光には様々な色の光が含まれていて、色の違いは波長の違いです。
波長とは、光の波の山から次の山までの長さのことで、青い光は短く、赤い光は長くなっています。
太陽光が大気の中を通過するとき、波長の短い青い光は空気の分子によって散乱され、大気をほとんど通過できません。
散乱とは、光が細かい粒にぶつかって、あちこちの方向へ散らばることです。
一方、波長の長い赤い光は散乱されにくく、光は弱められながらも大気を通過します。
赤い光がまったく散らばらないわけではありません。
弱くなりながらも、向こう側へ抜けていく分が残ります。
これは、朝日や夕日が赤く見えるのと同じ理由です。
夕方の太陽が赤いのも、光が厚い大気を通るあいだに青い光が散らされているためです。



残った赤い光は、地球のわきを素通りしていきそうな気がするなあ。どうやって影の中の月まで回り込むんだろう?


大気がレンズになり、赤い光が影の内側へ回り込む
地球をぐるりと包んでいる大気は、光に対してレンズのような役割を果たします。
光が空気や水などの境目を通るとき、進む向きが変わることを屈折と呼びます。
コップの水に差したストローが、水面のところで折れ曲がって見えるのも屈折によるものです。
大気を通った太陽光も同じように屈折し、本影の内側に入り込みます。
このかすかな赤い光が皆既食中の月面を照らし、月が赤黒く見えます。
散乱は月を照らす光の色を決め、屈折はその光が通る道筋を作ります。
2つがそろって、影の中で赤く光る月になります。


同じ皆既月食でも、空気中のちりの量で色が変わる
皆既食中の月の色は、いつも同じではありません。
大気中にちり等が少ないと、大気を通り抜ける光の量が多くなり、明るいオレンジ色に見えます。
逆にちり等が多いと、通り抜ける光の量が少なくなり、黒っぽく見えます。
大規模な火山噴火などが起こり、火山灰や火山ガスなどの火山の噴出物が成層圏まで達した場合には、黒っぽく見える皆既食が観察されています。
その夜の月がどの色に見えるかは、当日の大気の状態しだいです。
色の見え方はダンジョンの尺度で記録できる
皆既月食のときの月の色が月食ごとに異なることは、フランスの天文学者ダンジョンが20世紀初頭にすでに気づいていました。
ダンジョンは独自に「ダンジョンの尺度(スケール)」という色の目安を用いて、月食の色を調べました。
現在でも、この尺度を使って皆既食中の月の色を観察することがあります。
尺度は0から4までの5段階に分かれています。
| 尺度 | 月面の様子 | 簡略的な表現 |
|---|---|---|
| 0 | 非常に暗い食。月のとりわけ中心部は、ほぼ見えない | 黒 |
| 1 | 灰色か褐色がかった暗い食。月の細部を判別するのは難しい | 灰色またはこげ茶色 |
| 2 | 赤もしくは赤茶けた暗い食。たいていの場合、影の中心に一つの非常に暗い斑点を伴う。外縁部は非常に明るい | 暗い赤 |
| 3 | 赤いレンガ色の食。影は、多くの場合、非常に明るいグレーもしくは黄色の部位によって縁取りされている | 明るい赤 |
| 4 | 赤銅色かオレンジ色の非常に明るい食。外縁部は青みがかってたいへん明るい | オレンジ |
右端の「簡略的な表現」は、過去に国立天文台が実施した、皆既月食を観察するキャンペーンで使用したものです。


月食が始まる時刻は、どこで見ても同じ
部分食の始まり、皆既食の始まり、食の最大、皆既食の終わり、部分食の終わり。
これらの時刻は、どこで観察しても同じです。
理由は、月の表面で起こることを、遠く離れた地球から見ているためです。
影に入っているのは月そのものなので、地球のどこから見ても、同じ現象を同じ時刻に見ていることになります。
日食との違いは、月面で起こることを遠くから見ている点
日食と比べると、この性質がはっきりします。
日食は、太陽、月、地球の位置関係によって起こる現象です。
月の本影が地表に届く、たいへん狭い地域だけで皆既食が起こります。
地球上で数百キロメートル場所がずれただけで、本影の外に出てしまいます。
また皆既食が起こる場所であっても、影が差し掛かる時刻は場所ごとに異なります。
そのため日食が始まる時刻も終わる時刻も、場所によって変わります。
月食はその逆です。
皆既食が起これば、月が見えている地域、つまり地球の約半分の地域すべてで、その様子を見られます。
違う場所にいても同じ現象を見ているので、始まる時刻も、食の最大や終わりの時刻も共通です。


場所ごとに変わるのは、月の高さと見える方角
時刻は場所によりませんが、そのときの月の高度や方位は場所ごとに異なります。
高度は地平線からの角度、方位は月が見える方角のことです。
2026年3月3日の皆既月食を例にすると、都市ごとの違いは次のようになります。
| 都市 | 月の出時刻 | 部分食の始まり(18時50分)の月の高度 | 食の最大(20時34分)の月の高度 |
|---|---|---|---|
| 札幌 | 17時14分 | 16.0度 | 33.4度 |
| 仙台 | 17時21分 | 16.2度 | 35.1度 |
| 東京 | 17時28分 | 15.4度 | 35.3度 |
| 京都 | 17時45分 | 12.2度 | 32.4度 |
| 福岡 | 18時08分 | 7.8度 | 28.4度 |
| 那覇 | 18時24分 | 5.0度 | 27.3度 |
同じ時刻でも、部分食の始まりの月の高度は札幌で16.0度、那覇で5.0度と違っています。
月の出の時刻にも、札幌の17時14分から那覇の18時24分まで幅があります。
高度が低い地域では、月は地平線の近くに見えます。
建物や山に視界をさえぎられない場所を選んでおくと、月食の始まりから追いやすくなります。


次に日本で見られる皆既月食は2029年1月1日
日本全国で見られる次の皆既月食は、2029年1月1日です。
最大食分は1.251、食の最大は1時52分(日本時間)です。
世界的に見た場合も、次の皆既月食は同じ2029年1月1日に起こります。
部分月食まで含めると、日本全国で見られる次の月食は2028年7月7日です。
近年の月食を、国立天文台の一覧にそって並べます。
| 日付 | 種類 | 最大食分 | 食の最大(日本時間) | 日本での状況 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年9月8日 | 皆既 | 1.367 | 3時12分 | 全国で見られる |
| 2026年3月3日 | 皆既 | 1.156 | 20時34分 | 全国で見られる |
| 2026年8月28日 | 部分 | 0.935 | 13時13分 | 見られない |
| 2028年1月12日 | 部分 | 0.072 | 12時13分 | 見られない |
| 2028年7月7日 | 部分 | 0.394 | 3時20分 | 全国で見られる(一部地域で部分食のまま月の入り) |
| 2029年1月1日 | 皆既 | 1.251 | 1時52分 | 全国で見られる |
2029年1月1日の月食は、日付が変わってまもない深夜に食の最大を迎えます。
元日の未明という時間帯なので、観察するなら前の晩の過ごし方から考えることになります。
全国で見られた直近の皆既月食は2026年3月3日
日本全国で見られた直近の皆既月食は、2026年3月3日の夕方から宵にかけて起こりました。
このときは日本全国で、部分食の始まり(月の欠け始め)から部分食の終わり(月の欠け終わり)までの全てを見られました。
進行は次のとおりです。


| 現象 | 時刻 | 食分 |
|---|---|---|
| 部分食の始まり | 18時49.8分 | 0.000 |
| 皆既食の始まり | 20時04.0分 | 1.000 |
| 食の最大 | 20時33.7分 | 1.156 |
| 皆既食の終わり | 21時03.4分 | 1.000 |
| 部分食の終わり | 22時17.6分 | 0.000 |
時刻は0.1分の単位で示された値です(0.1分=6秒)。
18時台に欠け始めた月は、20時台の1時間ほどを赤い姿で過ごし、22時過ぎに元どおりの満月に戻りました。
その前に日本全国で見られた皆既月食は、2025年9月8日です。
このときの最大食分は1.367、食の最大は3時12分でした。
その前に2028年7月7日に部分月食が起こる
2029年1月1日を待つあいだにも、月食の機会はあります。
2028年7月7日の部分月食は、日本全国で見られます。
最大食分は0.394、食の最大は3時20分です。
一部の地域では、部分食のまま月の入りとなります。
欠けたまま月が沈むもので、国立天文台の月食一覧では月入帯食と表記されています。
一方、2026年8月28日の部分月食は日本では見られませんでした。
2028年1月12日の部分月食も、日本では見られません。
月食そのものが世界のどこかで起こっていても、そのとき日本で月が空に出ていなければ、その様子は見られないからです。
皆既月食は肉眼で十分に観察できる
月食は、肉眼で十分に観察できる天文現象です。
部分食が始まり、月が地球の本影に入って少しずつ欠けていく様子は、肉眼で確かめられます。
食分が大きくなって皆既食が近づくと、欠けている部分の月面の色がほんのりと色づいて見えてきます。
そして月がすっかり影に入って皆既食になると、一般的には赤黒く色づいた月面になります。



肉眼で見えるなら、双眼鏡を持ち出したら何が変わるんだろう?
双眼鏡や望遠鏡なら、影がクレーターを横切る様子まで追える
双眼鏡や望遠鏡で月を拡大すると、地球の影が月面のクレーターや海を横切って移動していく様子を楽しめます。
月面の海は、地球から見える表側の月の表面のうち、暗く見える地域の呼び名です(出典:日本天文学会「天文学辞典」海(月面の)の項)。
影の縁が、見慣れた模様のどこにさしかかっているかを追えるようになります。
月からの光が集められて強くなるため、月面の色や明るさの変化も、より鮮明に観察できます。
三脚に固定すれば手ぶれがなくなり、落ち着いて観察できます(出典:国立天文台「月食の観察のしかた」)。
ダンジョンの尺度は、肉眼で観察することが基本になっています。
双眼鏡や望遠鏡を使うと、やや明るく感じられたり、逆に暗く感じられたりします。


自分の街での高さと方角は月食各地予報で調べられる
月食の時刻はどこでも同じでも、そのときの月の高度と方位は場所ごとに違います。
自分の観察地点での値は、国立天文台暦計算室が提供している「月食各地予報」で調べられます。
計算地点を指定すると、その場所での月食の始まり、最大、終わりの時刻における月の高度や方位が表示されます。
より長い期間の月食について調べたい場合は、同じく暦計算室の「日月食等データベース」を使います。
写真に撮るなら、ストロボとピントと露出を自分で決める
月食は写真に写せます。
ただし、カメラまかせの設定では思ったように写らないことがあります。
国立天文台は、撮影時の注意点として次の5つを挙げています。
- ストロボはオフに設定します。光ると、近くに浮かぶほこりなどが反射して写り込む場合があります。
- ピントは手動で「無限遠」に合わせます。自動ピント調整は、暗い背景に一点だけある明るいものが苦手なことがあります。
- なるべく望遠になるように設定します。スマートフォンなどはレンズの視野が広いため、月がたいへん小さく写ります。
- 露出は低めに調整します。自動設定では背景の夜空に明るさが合ってしまい、月が露出オーバーになります。
- カメラは三脚などに固定します。望遠になるほど手ぶれは拡大し、露出時間が長くなるとさらに累積します。
露出は、途中で見直すことになります。
食分が大きくなって月の光っている部分が少なくなると、今度は月が暗くなって写りづらくなるためです。
手動での設定ができないカメラでも、以上の点に注意して試行錯誤をすることで、月がきれいに写ることもあります。
月食の当日になる前に、実際の月と当日使うカメラでテストをしておくと、適切な設定や手順をつかめます。
記録の残し方は写真だけではありません。
部分食の影の様子や、皆既食の色具合などをスケッチしておくと、次の月食のときに見比べられます。
よくある質問
まとめ 皆既月食の仕組みと次に見られる日
皆既月食は、月がまるごと地球の本影に入った状態です。
光が直接届かない影の中で月が赤く見えるのは、地球の大気を通り抜けた光が届いているからです。
分かっていることを整理します。
- 太陽と地球と月がこの順にほぼ一直線に並び、月全体が本影に入ると皆既月食になります。
- 赤銅色は、大気で散乱されずに残った赤い光が、屈折して本影の内側へ入り込むことで生まれます。
- 部分食の始まりから終わりまでの時刻は、どこで観察しても同じです。
- 日本全国で見られる次の皆既月食は、2029年1月1日です。
観察するときに効いてくる条件も2つあります。
- その夜の月がどの色に見えるかは、大気中のちりや火山の噴出物の量によって変わります。
- 時刻は共通でも、月の高度と見える方角は場所ごとに違います。
次に赤い月が空にかかる夜、その光が地球の大気を通り抜けてきたものだと思い出すと、見上げている時間の意味が少し変わります。