クルードラゴンは、アメリカの宇宙企業SpaceXが開発した有人宇宙船です。
国際宇宙ステーション(ISS)と地球のあいだで宇宙飛行士を運んでいます。
もとになったのは貨物を運ぶ「ドラゴン補給船」で、そこに人を乗せるための機能が加えられました。
NASA(アメリカ航空宇宙局)は、SpaceXの宇宙船による輸送を、飛行の回数ごとに固定価格で発注しています。
※記事の要点は、以下のスライドでもサッと確認できます。
クルードラゴンとは?ISSと地球を結ぶ民間の有人宇宙船
クルードラゴンは、NASAの商業乗員輸送プログラムのもとでSpaceXが開発しました。
ISSへ宇宙飛行士を送り、任務を終えた飛行士を地球へ連れ帰るための宇宙船です(出典:JAXA 有人宇宙技術部門「クルードラゴン宇宙船」。以下、機体の構成と運用は同ページの記載によります)。
SpaceXは自社のサイトで、この宇宙船を次のように説明しています(出典:SpaceX「Human Spaceflight」)。
- 最大7人を乗せ、地球を回る軌道やその先まで行き来できる
- 現在飛行している宇宙船のなかで、多くの貨物を地球へ持ち帰れる唯一の機体である
- 人を宇宙ステーションへ運んだ、初めての民間の宇宙船である
「唯一」「初めて」はSpaceX自身による説明で、同ページはどの時点の比較なのかを示していません。
同じページの年表では、2020年の出来事として「SpaceXがアメリカに有人宇宙飛行を取り戻した」と記しています。
補給船をもとに有人機へ作り変えた
「ドラゴン」と「クルードラゴン」という2つの名前があるのは、同じ系統の機体に貨物用と有人用があるためです。
もとのドラゴン補給船は、人が乗らない貨物専用の宇宙船でした。
JAXAは、これを有人機にするために次の機能が加えられたと説明しています。
- 上昇時の緊急脱出システムの装備
- ISSとのドッキング機構の変更
- 生命維持システムの追加
JAXAは、これらを有人機に必須の機能としています。
緊急脱出システムは、打ち上げの途中でロケットに異常が起きたとき、乗員の乗ったカプセルをロケットから引き離すための装置です。
ドッキングは、宇宙船とISSをつなぎ合わせることです。
JAXAによると、無人型はISSのロボットアームを使ってISSに結合していました。
クルードラゴンでは、ISSに滞在している乗員(ISSクルー)に依存しないドッキング方式に変わっています。
NASAの商業クルー計画から生まれた
クルードラゴンの開発を後押ししたのは、NASAの商業クルー計画です。
NASAの監察総監室(OIG。NASAの事業や支出を監査する独立部門)の2019年の報告によると、NASAは2014年に、ボーイングとSpaceXの2社と固定価格の契約を結びました(出典:NASA OIG「NASA’s Management of Crew Transportation to the International Space Station」IG-20-005、2019年11月14日)。
契約の名前は「商業乗員輸送能力(CCtCap)」です。
それまでのあいだ、NASAはロシアの宇宙船ソユーズの座席を買って、宇宙飛行士をISSへ送っていました。
OIGは、NASAが2006年以降にソユーズの座席を70席、約39億ドル分購入したと報告しています。
機体はどんな作りになっているのか
クルードラゴンは、大きく2つの部分でできています。
宇宙飛行士と、空気で満たした区画に積む貨物を運ぶ「カプセル」と、空気で満たしていない「トランク」です。
宇宙船の内部を地上に近い気圧に保つことを「与圧」と呼びます。
カプセルの内部は与圧されていて、トランクは与圧されていません。
カプセルとトランクの役割の違い
乗員が乗るのはカプセルです。
カプセルはさらに、与圧区域、サービス区域、ノーズコーンに分かれます。
ノーズコーンは機体の先端にあるふたのような部分です。
軌道に着くと開き、大気圏に再び突入するとき(再突入)には閉じます。
ほしまる地球に帰ってくるのがカプセルなら、もう片方のトランクは最後にどうなるんだろう?
トランクは、ファルコン9ロケットに載せるときに、カプセルとロケットをつなぐ構造の役目を持っています。
外側には、宇宙船に電気を送る太陽電池アレイと、熱を逃がすためのラジエータが付いています。
無人の補給ミッションでは、宇宙空間にさらして使う機器の積み場所にもなります。
JAXAの記載では、トランクは再突入の前に切り離して捨てるまで使われます。
地球へ戻ってくるのはカプセルだけです。


大きさと運べる量を数字で見る
JAXAが掲載している主要諸元は次のとおりです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 直径 | 4m |
| 全長 | 8.1m |
| カプセル内(与圧部)の容積 | 9.3m³ |
| トランク(曝露部)の容積 | 37m³ |
| 輸送能力 | 最大6,000kg |
| 回収能力 | 最大3,000kg |
| 搭乗人数 | 最大7人 |
乗員が過ごすカプセル内の容積は9.3m³で、トランクの容積の4分の1ほどです。
人と与圧した貨物が、この限られた空間に収まります。
なお、最大7人は設計上の上限で、実際のフライトに乗る人数とは別の値です。
回収能力は、地球へ持ち帰れる量を指します。
最大3,000kgで、宇宙へ運べる量(最大6,000kg)の半分です。
打ち上げからISS到着そして着水までの流れ
クルードラゴンの往復は、打ち上げ、ISSへのドッキング、地球への帰還の3段階に分かれます。


ファルコン9でフロリダから打ち上げる
クルードラゴンは、SpaceXのロケット「ファルコン9」の先端に載って打ち上げられます。
ファルコン9は全長70m、直径3.7mです(出典:SpaceX「Falcon 9」)。
70mはロケット全体の高さで、先端で積み荷を覆う「フェアリング」の高さ13.1mとは別の値です。
JAXAは、打ち上げ場所をフロリダ州のケネディ宇宙センター39A射点と説明しています。
射点は、ロケットを立てて打ち上げる発射台のある区画のことです。


ただし、すべての飛行が39A射点から打ち上げられているわけではありません。
2026年2月13日のCrew-12では、近くのケープカナベラル宇宙軍基地にある第40発射施設(SLC-40)から打ち上げられました(出典:NASA Space Station Blog「Crew-12: Falcon 9 First Stage Returns」)。
このときは、ロケットの第1段(打ち上げ直後に燃焼し、途中で切り離される下の段)が、SLC-40の敷地内に新しく設けた着陸地点へ戻りました。
NASAは、SpaceXがフロリダで同じ発射施設から打ち上げた第1段を、その発射施設に着陸させたのはこれが初めてだったとしています。
ISSへは自動制御でドッキングする
軌道に入ったクルードラゴンは、ISSに近づいてドッキングします。
JAXAは、クルードラゴンを「完全自動の宇宙船」と説明しています。
ISSとの結合は、先ほど触れたISSクルーに依存しないドッキング方式で行われます。
船内のディスプレイには、位置や目的地、軌道上の環境といった機体の情報がリアルタイムで表示されます。
この機体は、軌道上の宇宙飛行士と、カリフォルニア州ホーソーンにあるSpaceXの管制センターから監視・制御できます。


パラシュートで減速して海に着水する
任務を終えたクルードラゴンは、ISSを離れて地球へ戻ります。
トランクを切り離したあと、カプセルだけが大気圏に再突入します。
再突入のあと、まず小さなパラシュートを開きます。
続いて4つのメインパラシュートを開き、さらに速度を落とします。
JAXAの記載では、通常のシナリオはフロリダ州の東の沿岸沖への着水です。
一方で、2025年8月9日に地球へ戻ったCrew-10は、カリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋に着水しました(出典:NASA「NASA’s SpaceX Crew-10 Mission Returns, Splashes Down Off California」)。
NASAは、商業クルー計画の乗員としてカリフォルニア沖の太平洋に着水したのは、このCrew-10が初めてだとしています。
着水したカプセルは、SpaceXの回収船がクレーンで海面から吊り上げ、船上のメインデッキに降ろします。
回収船には医療設備とヘリポートが備わっています。
着水後に宇宙飛行士の健康上の不測の事態が起きても、救急治療や病院への搬送ができます。


何が変わったのか?宇宙輸送を買う時代へ
商業クルー計画の前、NASAはロシアのソユーズの座席を買って飛行士をISSへ送っていました。
クルードラゴンでは、アメリカの企業が開発した宇宙船による輸送サービスを、NASAが契約で買う形に変わりました。
宇宙船を開発したのはSpaceXで、NASAはその宇宙船で飛行士を運んでもらう輸送サービスを、CCtCap契約のもとで買っています。
発注者と提供者の役割は、次のように分かれています。
- NASAは、何回の飛行をいくらで頼むかを決めて契約し、代金を払う
- SpaceXは、自社が開発した宇宙船とロケットで、契約した回数の輸送を行う
NASAは、企業の輸送システムが自らの要件を満たしていることを認証してから、宇宙飛行士を乗せた飛行を任せます。
SpaceXは2020年11月に、この乗員輸送の認証を受けました(出典:NASA「NASA Awards SpaceX More Crew Flights to Space Station」)。
NASAは固定価格で飛行を回数ごとに買っている
NASAは2022年8月31日、CCtCap契約のもとで、SpaceXにISSへの乗員輸送5回分を追加で発注したと発表しました。
追加されたのは、Crew-10からCrew-14までの5回です。
この変更で、SpaceXが受け持つ飛行は合計14回になりました。
同じ発表による金額は次のとおりです。
- 追加した5回分と関連サービス:約14.4億ドル(1,436,438,446ドル)
- SpaceXとのCCtCap契約の総額:約49.3億ドル(4,927,306,350ドル)
- 契約期間:2030年まで
NASAはこの契約を「固定価格・数量未確定型」としています。
あらかじめ決めた金額で、飛行を回数ごとに発注する契約形態です。
数量未確定型は、契約の時点で発注の回数をすべて決めず、必要に応じて追加できる形を指します。
2022年の5回分の追加は、この仕組みを使ったものです。
この契約に含まれるCrew-14には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の諏訪理宇宙飛行士が搭乗する予定です(出典:NASA「NASA Shares SpaceX Crew-14 Assignments for Space Station Mission」)。
1席あたりの費用はどう見積もられているか
1人をISSへ運ぶ費用について、NASA OIGは2019年の報告で推計を示しています。
前提は、1回の飛行に4人が乗ることと、公開されている情報を使うことの2つです。
| 宇宙船 | 1席あたりの費用 | 性格 |
|---|---|---|
| SpaceX(クルードラゴン) | 約5,500万ドル | OIGによる推計 |
| ボーイング | 約9,000万ドル | OIGによる推計 |
| ソユーズ | 平均5,540万ドル | NASAが支払った平均額 |
OIGは、商業クルーの2社の推計値について、当時のソユーズの価格に比べて費用を抑えられる可能性があるとしています。
この表の数字には、条件があります。
SpaceXとボーイングの値は2019年時点の推計で、契約書に書かれた1席ごとの単価ではありません。
1回に乗る人数が4人と違えば、1席あたりの値も変わります。
また、NASAが政府として輸送を買う場合の推計なので、民間の個人が乗るときの販売価格を示したものでもありません。
ボーイングの値はSpaceXより高く見積もられていますが、2社の宇宙船の性能や優劣を比べた値ではありません。
同じ前提で計算した、NASAが払う費用の目安です。
民間人だけで地球を回る飛行も実現した
クルードラゴンに乗るのは、NASAや各国の宇宙機関の宇宙飛行士だけではありません。
SpaceXの年表では、2021年に、ファルコン9がドラゴンに乗った民間人だけのクルーを初めて軌道へ打ち上げたとしています(出典:SpaceX「Human Spaceflight」)。
宇宙機関の飛行士以外の人も、同じ宇宙船で地球を回る軌道へ出ています。


よくある質問
まとめ
クルードラゴンの要点は次のとおりです。
- 貨物用のドラゴン補給船をもとに、緊急脱出システムや生命維持システムなどを加えた有人宇宙船である
- 乗員が乗るカプセルと、太陽電池やラジエータを備えたトランクでできていて、地球へ戻るのはカプセルだけ
- ファルコン9で打ち上げられ、自動でISSにドッキングし、パラシュートで減速して海に着水する
- NASAはSpaceXから輸送サービスを買う形で、2030年までの契約で、飛行14回分を総額約49.3億ドルで発注している
一方で、1席あたりの費用は2019年時点のOIGの推計で、その後の実際の支払額を示した値ではありません。
ISSへの有人輸送は、ニュースで見るとロケットが打ち上がる一瞬の出来事です。
けれども実際には、NASAが2030年までの契約で飛行を回数ごとに発注し、SpaceXが打ち上げから回収までを受け持っています。
かつて人類が命がけで海を渡ったように、いつか人類は、星と星のあいだを船のように行き来するようになるのかもしれません。
ASTROWORKSは「人類が地球の寿命を超え、宇宙のどこかで存在し続ける未来へ」という言葉を出発点にしています(発起人の想い)。
ただ、その遠い航路も、まず地球と軌道を結ぶ1本の航路から始まります。
打ち上げ、ドッキング、着水、回収。
同じ手順を何度も繰り返すことで、宇宙への行き来は特別な冒険から、計画を立てて乗る便へと変わってきました。
港から港へ確かに行き来できる船があってはじめて、もっと遠い海へ漕ぎ出す準備が整います。
クルードラゴンを知ったあとは、打ち上げを担うファルコン9、それを造るSpaceXという企業、行き先のISSを調べてみると、理解がつながっていきます。
月をめざすアルテミス計画でも、NASAは有人月着陸機の開発をSpaceXと契約しています(出典:NASA OIG「NASA’s Management of the Human Landing System Contracts」IG-26-004)。
出典
- JAXA 有人宇宙技術部門「クルードラゴン宇宙船」 https://humans-in-space.jaxa.jp/iss/launch/falcon-9/crewdragon/
- SpaceX「Human Spaceflight」 https://www.spacex.com/humanspaceflight/
- SpaceX「Falcon 9」 https://www.spacex.com/vehicles/falcon-9/
- NASA Space Station Blog「Crew-12: Falcon 9 First Stage Returns」(2026年2月13日) https://www.nasa.gov/blogs/spacestation/2026/02/13/crew-12-falcon-9-first-stage-returns/
- NASA「NASA’s SpaceX Crew-10 Mission Returns, Splashes Down Off California」(2025年8月9日) https://www.nasa.gov/news-release/nasas-spacex-crew-10-mission-returns-splashes-down-off-california
- NASA「NASA Awards SpaceX More Crew Flights to Space Station」(2022年8月31日) https://www.nasa.gov/humans-in-space/nasa-awards-spacex-more-crew-flights-to-space-station/
- NASA「NASA Shares SpaceX Crew-14 Assignments for Space Station Mission」(2026年9月24日) https://www.nasa.gov/news-release/nasa-shares-spacex-crew-14-assignments-for-space-station-mission/
- NASA Office of Inspector General「NASA’s Management of Crew Transportation to the International Space Station」IG-20-005(2019年11月14日) https://oig.nasa.gov/wp-content/uploads/2024/02/IG-20-005.pdf
- NASA Office of Inspector General「NASA’s Management of the Human Landing System Contracts」IG-26-004(2026年3月10日) https://oig.nasa.gov/wp-content/uploads/2026/03/final-report-ig-26-004-nasas-management-of-the-human-landing-system-contracts.pdf


