宇宙食に必要な栄養やカロリーは、地上の食事とほぼ同じです。
違うのは、宇宙で安全に食べるための条件です。
容器や包装が燃えにくいこと、常温で長く保存できること、食べるときに中身が飛び散らないことなどが求められます。
国際宇宙ステーション(ISS)には、日本の食品も届いています。
食品メーカーなどが提案した食品を、JAXAが自ら定めた基準に照らして認証する「宇宙日本食」という仕組みがあり、焼きそばやカレーも認証されています。
※記事の要点は、以下のスライドでもサッと確認できます。
宇宙食は地上の食品と何が違うのか
栄養の維持と気分転換が宇宙食の役割
宇宙食の役割は、栄養をとることだけではありません。
JAXAは、宇宙飛行士が健康に過ごすために栄養バランスを保つことに加えて、おいしく変化のある食事で精神的なストレスを和らげることを挙げています(出典:JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙で食べる」。以下、宇宙食の役割・カロリー・種類・条件は同ページの記載によります)。
気分をリフレッシュし、仕事のパフォーマンスを保ち、高めることも、その役割に含まれています。
つまり宇宙食には、体を保つ役割と、食べる楽しみで心の状態を整える役割の両方があります。
後で紹介する宇宙日本食も、同じ考え方の上にあります。
JAXAは宇宙日本食の目的を、日本人宇宙飛行士に日本食の味を楽しんでもらい、長期滞在中の精神的なストレスを和らげることだと説明しています(出典:JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食」)。
そのうえで、パフォーマンスの維持・向上につなげることも目的に挙げています。
必要なカロリーは地上とほぼ同じ
宇宙で1日に必要なカロリーは、地上とほぼ同じです。
ISSに長期滞在する宇宙飛行士の必要カロリーは、ISSの宇宙食供給の基準文書「ISS FOOD PLAN」の規定にもとづき、年代・性別・体重から計算します。
計算式は、次のとおりです。
| 年代 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 18〜30歳 | 1.7×(15.3×体重(kg)+679)kcal | 1.6×(14.7×体重(kg)+496)kcal |
| 30〜60歳 | 1.7×(11.6×体重(kg)+879)kcal | 1.6×(8.7×体重(kg)+829)kcal |
JAXAが示す例では、45歳で体重70kgの男性は2,875kcal、35歳で体重50kgの女性は2,022kcalです。
JAXAは、この数字を地上で必要とされる1日のカロリーとほぼ同じだとしています。
宇宙だからといって、特別に多く食べたり、少なく抑えたりするわけではありません。
例外は、船外活動の日です。
船外活動とは、宇宙服を着てステーションの外に出て作業することです。
船外活動を行う場合は、500kcalを余分にとることになっています。
ほしまる食べる量が地上と同じなら、どうしてふつうのお弁当をそのまま持っていけないんだろう?
容器が燃えにくく、粉や中身が飛び散らない食品が選ばれる
地上の食品と宇宙食を分けているのは、栄養の量ではなく、宇宙で安全に食べられるかどうかの条件です。
JAXAは宇宙食の条件を、4つの項目に分けて示しています。
| 項目 | JAXAが挙げる具体的な条件 |
|---|---|
| 安全であること | 容器や包装が燃えにくいこと。燃えた場合でも人体に有害なガスが出ないこと |
| 保存性が高いこと | 常温で長期保存ができること |
| 衛生性が高いこと | 食中毒などを防ぐため、食品内の細菌の種類や数を基準以下にすること |
| 食べるときに危険要因が出ないこと | 中身が飛び散らないこと。細かい粉を出さないこと。強いにおいを出さないこと |
燃えにくさが求められているのは、食品そのものではなく容器や包装です。
燃えたときに有害なガスが出ないことも、条件に含まれています。
4つ目の「食べるときに危険要因が出ないこと」は、さらに2つに分かれています。
ひとつは、電気系への障害を防ぐための条件です。
液体を含む食品は、パッケージに付いたスパウト(吸い口)やストローを使って飲みます。
そのまま食べる食品は、とろみをつけたゾル状の食品にして、飛び散らないようにしています。
もうひとつは、ステーション内の空気をきれいに保つための条件です。
細かい粉を出さないこと、強いにおいを出さないことが、この項目に入っています。
ISSの中は、微小重力(重力の影響がごく小さく、物が浮いたままになる状態)の環境です。
地上ならお皿に落ちるパンくずや汁のしずくも、ここでは浮いたまま漂います。
4つ目の項目にある条件は、食べ物を「浮かせない、散らさない」ための工夫だと考えると分かりやすいでしょう。


ISSで食べる宇宙食にはどんな種類がある?
JAXAは宇宙食を、加水食品、温度安定化食品、自然形態食品・半乾燥食品、調味料の4つに分けています。
それぞれの食べ方と、日本の食品の例、他国の宇宙食の例を表にまとめます。
| 種類 | 食べ方 | 日本の食品の例 | 他国の宇宙食の例 |
|---|---|---|---|
| 加水食品 | 水やお湯を注いで食べる | ご飯類、麺類、お茶などの粉末飲料 | シリアル、シュリンプカクテル、コーヒー |
| 温度安定化食品 | 開けてそのまま、または温めて食べる | カレー、魚の缶詰、やきとり | ミートローフ、ラビオリ、プリン |
| 自然形態食品・半乾燥食品 | そのまま食べる | 羊羹、ビスケット、キャンディー、ゼリー、海苔 | トルティーヤ、ドライフルーツ、ビーフジャーキー |
| 調味料 | 食品に味をつける | マヨネーズ、醤油 | 塩、こしょう、ケチャップ、マスタード、チリソース、タバスコ |
どの種類にも、前の節で説明した条件がかかっています。
違いは、常温での保存や飛び散り対策を、どのような加工や形で実現しているかにあります。
水を加えて戻す加水食品と温度安定化食品
加水食品は、水やお湯を注いで食べる食品です。
JAXAによると、フリーズドライ製法やスプレードライ製法などで作られます。
フリーズドライは、食品を凍らせてから水分を抜く製法です。
スプレードライは、液体を霧状にして熱風で乾かし、粉末にする製法です。
どちらも水分を抜いた状態で保存し、食べる直前に水分を戻します。
日本の宇宙日本食では、おにぎり(鮭)がこの形で認証されています。
JAXAの宇宙日本食の容器には、加水食品用としてスパウト付きのものと、スパウトが付いていないものの2種類があります(出典:JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食の申請について」)。
注いだお湯や戻した中身がこぼれないよう、包装の段階から作り分けられています。
温度安定化食品は、レトルト食品や缶詰などです。
レトルト食品は、袋に詰めて密封したあとに加熱殺菌した食品で、地上でもカレーなどでおなじみです。
宇宙では開けてそのまま食べられるほか、ISSのフードウォーマー(調理設備)で温めて食べることもできます。
日本の例にはカレーや魚の缶詰、やきとりがあり、他国の宇宙食にはミートローフやラビオリ、プリンがあります。
そのまま食べる食品と液体になった塩こしょう
自然形態食品・半乾燥食品は、袋を開けてそのまま食べられる加工食品です。
羊羹やビスケット、キャンディーやゼリーなどのお菓子類、海苔などがこの分類に入ります。
他国の宇宙食では、トルティーヤやドライフルーツ、ビーフジャーキーが例に挙がっています。
調味料にも、宇宙ならではの工夫があります。
地上では粉末で使う塩とこしょうが、宇宙では微小重力の環境で飛び散らないよう、液体になっています。
日本の調味料ではマヨネーズと醤油が挙がっています。
宇宙日本食の認証食品の一覧にも「マヨネーズ」「キッコーマン宇宙生しょうゆ」が並んでいます(出典:JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食」。以下、宇宙日本食の認証数と品目は同ページによります)。
宇宙日本食はどうやって宇宙へ行くのか
宇宙日本食は、食品メーカーなどが提案した食品を、JAXAが「宇宙日本食認証基準」に照らして審査し、基準を満たしていれば認証する仕組みです。
宇宙食の条件を満たしているかを、メーカーが試験や検査で示し、JAXAが確かめる流れになっています。



自分の会社の食品を宇宙へ届けたいと考えたら、メーカーは最初に何をすればいいんだろう?
食品メーカーが提案しJAXAが基準に照らして認証する
JAXAは、認証を受けるために満たすべき基準や手続き、書類の様式を「宇宙日本食認証基準」として定めています(出典:JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食の申請について」。以下、認証と搭載の手順は同ページによります)。
認証を受けるには、基準を満たすための検査や試験を行い、そのデータとともに宇宙日本食事務局(JAXA)へ申請します。
新規の申請は常時受け付けています。
認証までの手順は、次の7段階です。
- 宇宙日本食事務局へ相談し、認証の流れと書類の書き方の説明を受ける
- 食品サンプルを提出し、宇宙日本食としての適性評価を受ける
- 適性が確認できたら、調整作業申込書を提出する
- 一次審査の書類を作成して提出する
- 一次審査の合格後、各種の試験・検査を行い、二次審査の書類を提出する
- 審査機関が製造場所を立入検査し、書類や衛生管理体制などを評価する
- 二次審査の合格後、覚書を結び、JAXAが認証書を発行する
2つ目の段階では、ISSの加温器や注湯器(JAXAが貸し出す)との相性を、メーカー側で確かめることもできます。
適性評価の結果によっては、食品の改良が必要になる場合もあります。
審査には試験・検査、製造場所の立入検査、衛生管理体制の評価まで含まれるため、食品メーカーにとっては品質管理の体制ごと審査を受ける仕事になります。


保存性については、手順の中に原則として賞味期間以上の保存試験があります。
打ち上げの時期によっては、保存試験の途中でも「Pre宇宙日本食」としてISSに搭載されることがあります。
この場合も保存試験は続け、1.5年間の試験が終わった時点で改めて二次審査を受けて、宇宙日本食として認証されます。
認証を受けた企業や団体は、自社のホームページや認証を受けた食品のパッケージに「宇宙日本食」のロゴマークを使えます。
和食に限らず焼きそばやカレーも認証されている
宇宙日本食は、伝統的な「和食」に限りません。
JAXAは対象を「日本の家庭で普段食されている範囲」としており、焼きそばやカレーも認証されています。
認証食品の一覧には、次のような品目が並んでいます。
- 主食・麺類では、おにぎり(鮭)、山菜おこわ、日清スペースカップヌードル、スペース日清焼そばU.F.O.
- おかずでは、サバの味噌煮、サンマの蒲焼き、スペースからあげクン、レトルトビーフカレー
- お菓子や飲み物では、羊羹(小倉)、キシリトールガム(ライムミント)、粉末緑茶、イオンドリンク
ラーメンやからあげ、ガムまで含まれており、JAXAが対象とする「家庭で普段食されている範囲」の広さが品目の名前からも分かります。
認証の数と食べられる宇宙飛行士の範囲
JAXAのページでは、宇宙日本食の認証数は25社/団体・43品目です(2026年10月時点)。
新規の申請を常時受け付けているため、この数は今後変わる可能性があります。
宇宙日本食は、現在は日本人宇宙飛行士だけに提供されています。
JAXAは、今後は国際パートナーの宇宙飛行士にもいずれ提供できるようにしたいと考えています。
認証された食品がISSに届くまでには、別の手順があります。
- ISSへの長期滞在が決まった宇宙飛行士を対象に、試食会を行う
- 試食結果やISSへの搭載量、宇宙機の種類などを考慮し、JAXAが品目と数量を決めて認証企業に発注する
- 認証企業が宇宙日本食を製造し、JAXAに納める
- JAXAが受領検査を行い、打ち上げを担う機関へ輸送する
- 宇宙機に積まれてISSへ届けられる
認証はゴールではなく、搭載の候補になるための条件です。
実際にどの食品が何個宇宙へ行くかは、搭乗する宇宙飛行士の試食結果なども踏まえてJAXAが決めています。


宇宙日本食は災害食としても使われている
宇宙日本食に認証された食品は、簡易な審査で、日本災害食学会が認証する「日本災害食」に認証されるようになりました。
JAXAと日本災害食学会は、宇宙食と災害食には常温での長期保管など、必要な特性に多くの類似点があることに着目しました。
そのうえで、2つの認証制度の連携を共同で検討してきました(出典:JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食認証食品が『日本災害食』認証申請を行う場合、審査項目の一部が省略されることになりました」)。
その結果、宇宙日本食の認証食品が日本災害食の認証を申請する場合、JAXAで既に審査された項目は、学会での審査を省略できることになりました。
宇宙のために満たした条件が、そのまま地上での審査の一部を担う形です。
JAXAはこの取り組みについて、宇宙日本食が地上の生活でも活用され、宇宙がより身近な存在になることへの期待を示しています。


なお、両者は、日本災害食に認証されている食品を宇宙日本食に認証する場合の手続きについても、共同で検討を続ける予定だと発表しています。
FAQ
まとめ
宇宙食と地上の食品の違いは、栄養の量ではなく、宇宙で安全に食べるための条件にあります。
宇宙日本食は、その条件を食品メーカーが試験や検査で示し、JAXAが認証する仕組みです。
分かっていることは、次のとおりです。
- 必要なカロリーは地上とほぼ同じで、船外活動の日は500kcalを上乗せする
- 容器の燃えにくさ、常温での長期保存、衛生性、飛び散りや粉・においを出さないことが条件
- 宇宙日本食の認証数は25社/団体・43品目(2026年10月時点)で、焼きそばやカレーも含まれる
- 宇宙日本食の認証食品は、簡易な審査で日本災害食にも認証される
これから決まっていくことも残っています。
- 宇宙日本食を国際パートナーの宇宙飛行士へ提供する時期
- 日本災害食から宇宙日本食へ認証する場合の手続き
食事は、宇宙での暮らしを形づくる要素のひとつです。
宇宙服や睡眠、体の変化といったISSでの暮らし全体に目を向けると、宇宙食がなぜこの形になったのかも、よりはっきり見えてきます。
出典
- JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙で食べる」
- JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食」
- JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食の申請について」
- JAXA 有人宇宙技術部門「宇宙日本食認証食品が『日本災害食』認証申請を行う場合、 審査項目の一部が省略されることになりました ~宇宙日本食の地上生活での活用へ~」


