- ブラッドムーンって、結局あの赤い月のことでいいの?
- 皆既月食と何が違うんだろう
- 赤い月は不吉って聞いたことがあるけれど、本当のところはどうなの?
答えを先に書きます。
ブラッドムーンは、皆既月食のときに赤銅(しゃくどう)色へ変わった月を指す通称です。
天文学の正式な用語ではありません。
月が赤黒く染まるのは、地球の大気を通り抜けた光だけが、月面に届いているからです。
この記事は、宇宙の科学と宇宙産業の情報を一次情報と整合させて発信するASTROWORKS編集部がまとめています。
この記事で扱うのは、次の5点です。
- ブラッドムーンと皆既月食・部分月食の関係
- 月が赤黒く見える仕組み(散乱と屈折の二段構え)
- 皆既のたびに赤さが変わる理由と、明るさを表す「ダンジョンの尺度」
- 呼び名の由来と、「不吉」という言い伝えの背景
- 次に日本で観察できる月食の日付と、観察のこつ
読み終えるころには、赤い月を見上げたときに、地球の空が今どんな状態なのかまで想像できるようになります。
ほしまるあの赤い色、ぼくもずっと不思議だったんだ。種明かしは月じゃなくて、君たちの足もとの空のほうにあるんだよ。


ブラッドムーンとは皆既月食のときに赤銅色へ変わった月を指す通称
まず言葉の位置づけを整理します。
ブラッドムーンは現象の名前ではなく、見え方に付いた呼び名です。
公的機関の資料では「皆既月食」と表記され、専門用語としては使われない
ブラッドムーンにあたる現象を、天文の公的機関は「皆既月食」と呼んでいます。
国立天文台の解説では、月食は「地球の影の中を月が通過することによって、月が暗くなったり、欠けたように見えたりする現象」と定義されています。
そのうえで、月全体が地球の本影に入る現象を「皆既月食」と呼ぶと説明しています(出典: 国立天文台「月食とは」/「2021年11月19日 部分月食 解説資料」)。
一連の解説文のどこにも、ブラッドムーンという語は出てきません。
英語圏では事情が少し違います。
NASAは月食の解説ページで現象そのものを total lunar eclipse と表記する一方、一般向けの記事や配信では「Blood Moon」を見出しに使う場面があります。
この語は科学的な定義を持つ用語ではなく、報道や一般向けの発信で定着した通称、という位置づけです。
「間違った言葉だから使うべきではない」という話ではありません。
天文の世界には、この種の通称がいくつもあります。
たとえば「スーパームーン」について、国立天文台は「天文学の正式な用語ではなく、定義もはっきりしていません」と明記しています(出典: 国立天文台 よくある質問「『スーパームーン』ってなに?」)。
呼び名をきっかけに空を見上げる人が増えるなら、それ自体は歓迎すべきことです。
ただし、正確な情報を調べたいときは「皆既月食」で検索したほうが、公的機関の資料にたどり着きやすくなります。
皆既では月全体が、部分月食では欠けた部分が赤銅色になる
赤銅色になるのは皆既のあいだだけ、と思われがちです。
実際には、本影に入った部分はいつでも赤銅色をしています。
国立天文台は、地球の影のうち太陽の光が完全にさえぎられた部分を「本影」、一部だけがさえぎられた部分を「半影」と呼び分けています。
月全体が本影に入れば皆既月食、月の一部だけが入れば部分月食です。
では部分月食のときはどう見えるのでしょうか。
国立天文台の資料には、次のように書かれています。
部分食中の月は、まだ本影に入っていない部分の光が本影の部分に比べてたいへん強いため、光っている部分のまぶしさに紛れてしまい、暗い部分の色合いはなかなかわかりません。
(出典: 国立天文台「2021年11月19日 部分月食 解説資料」)
同じ資料は続けて、月が深く欠けて光が弱まれば、欠けた部分が赤銅色になっていることに気づけると説明しています。
つまり色が消えているのではなく、明るい部分に目がくらんで見えにくいだけです。
月がどれだけ深く影に入っているかは「食分」という値で表されます。
食分は影に覆われる月の直径の度合いで、1.0以上になると皆既月食です。
2021年11月19日の部分月食は最大食分0.978に達し、国立天文台はこれを「たいへん深い部分月食」と表現しました(出典: 国立天文台「2021年11月19日 部分月食 解説資料」)。
このときは月の直径の97.8パーセントまで影に入り込み、欠けた部分の赤銅色が見分けやすい条件がそろっていました。
地平線近くの赤い月や大気のちりで赤らんだ月は、月食とは別の現象
「赤い月を見た」という体験の多くは、実は月食ではありません。
国立天文台は、月が赤っぽく見える理由を、朝日や夕日が赤く見えるのと同じ現象として説明しています。
青い光は大気の分子にぶつかって散乱されやすく、大気の中を長く通るほど目に届きにくくなります。
一方の赤い光は散乱されにくいため、遠回りをしても目まで届きます。
ここで効いてくるのが、見上げる方向による大気の厚みの違いです。
地球を取り巻く大気の厚さはどこでもほぼ同じですが、地上から見ると、真上がいちばん薄く、水平方向へ近づくほど厚くなります。
そのため地平線の近くにある月は、厚い大気ごしの光になり、赤っぽく見えます(出典: 国立天文台 よくある質問「月が赤く見えるときがあるのはなぜ?」)。
この赤さは、満月でも三日月でも起こります。
同じ資料は、月だけでなく星も地平線近くでは赤っぽく見えると付け加えています。
大気中のちりや煙が多いときに赤みが強まるのも、通り道で青い光が失われる量が増えるためです。
見分け方は単純です。
月食の赤さは、月が丸いまま暗く沈んだ色に変わり、時間とともに影が月面を横切っていきます。
低空の赤い月は、月が高く昇るにつれて白い光へ戻っていきます。
昇っても赤いままなら月食、白くなるなら大気の効果、と覚えておくと迷いません。


月が赤黒く染まるのは地球の大気を通った光だけが月へ届いているから
ここからが記事の核心です。
太陽の光は地球にさえぎられているのに、なぜ月は真っ暗にならないのでしょうか。
地球の影には本影と半影があり、月がどちらに入るかで見え方が決まる
仕組みの土台は、影が二重構造になっているという点です。
国立天文台は、太陽からの光が地球によって完全にさえぎられ、光が直接届かない部分を「本影」、太陽の光の一部だけがさえぎられる部分を「半影」と呼びます。
月が本影に入った部分はたいへん暗くなりますが、半影に入ってもほとんど暗くなりません。
半影食は、注意深く観察してやっと気づく程度の変化です。
月食の呼び分けも、この二重構造で決まります。
月全体が本影に入れば皆既月食、一部だけなら部分月食、本影に入らず半影だけを通れば半影月食です。
ここで押さえておくと得をする性質がひとつあります。
月食が始まる時刻は、観察する場所によりません。
国立天文台は、日食が地表のごく狭い範囲でしか起こらないのに対し、月食は月面で起きていることを遠くから眺めている現象だからだと説明しています。
月が見えている地域、つまり地球のおよそ半分の地域で、同じ現象を同じ時刻に見ることになります。
そのため、月食の予報は「何時何分に始まる」と全国共通で書けます。
場所ごとに変わるのは、そのときの月の高度と方位、そして月が地平線の下にあるかどうかだけです。
青い光が散らされて赤い光が残る仕組みは夕焼けが赤くなるのと同じ
赤銅色の正体は、地球の大気を通り抜けてきた太陽光です。
国立天文台は、皆既食中の月の色を次のように説明しています。
波長の短い青い光は空気の分子によって散乱され、大気をほとんど通過できません。
波長の長い赤い光は散乱されにくく、弱まりながらも大気を通過します。
その結果、月には赤い側の光がより多く届きます。
NASAも同じ現象を、身近な言い方で説明しています。
The same phenomenon that makes our sky blue and our sunsets red causes the Moon to turn reddish-orange during a lunar eclipse.
出典: NASA Science「Eclipses and the Moon」
訳すと、「空を青くし、夕日を赤くするのと同じ現象が、月食のときに月を赤みがかったオレンジ色に変える」となります。
空の青さと夕焼けの赤さは、別々の現象ではなく同じ仕組みの裏表です。
その裏表が、そのまま月の色として現れます。
ひとつ補足します。
月に届くのは赤い光「だけ」ではありません。
赤やオレンジのような波長の長い光が相対的に多く残る、というのが正確なところです。
実際に皆既中の月が、深い赤に見える回とオレンジ色に見える回があるのは、この配合が毎回変わるためです。
センサーやカメラの設計に携わった経験がある方なら、光学フィルターを1枚かませた状態を想像すると近いかもしれません。
厳密には異なりますが、地球の大気が巨大なフィルターとして働いていると考えると、色の変化の理由をつかみやすくなります。
大気がレンズのように働き、赤い光を本影の内側へ曲げて送り込む
散乱の話だけでは、説明が半分しか終わっていません。
色が赤に偏る理由は分かっても、そもそも影の内側にどうやって光が入るのかが残っているからです。
答えは屈折です。
国立天文台は「大気がレンズのような役割を果たし、太陽光が屈折されて本影の内側に入り込みます」と説明しています。
そして「このかすかな赤い光が皆既食中の月面を照らし、月が赤黒く見えるのです」と結んでいます(出典: 国立天文台「月食とは」)。
皆既月食の赤は、二段構えで作られています。
第一段は散乱です。
大気を通り抜ける光の色を、赤い側へ偏らせます。
第二段が屈折で、その光を影の内側へ曲げて送り込みます。
どちらか一方でも欠ければ、月は真っ暗になるか、赤くならないかのどちらかです。
NASAは、月面に届く光を「地球の大気の縁からの光だけ」と表現しています。
太陽の光が地球の本体でさえぎられても、大気という薄い層のふちを通った光は残ります。
その光が曲げられて影の中心へ回り込み、月をかすかに照らします。
多くの解説がこの屈折の一段を飛ばして、散乱だけで話を終えてしまいます。
けれども影の中に光を運んでいるのは屈折です。
ここまで押さえて、ようやく仕組みが閉じます。



地球の大気って、宇宙から眺めると本当に薄い膜みたいなものなんだ。その膜のふちを通った光だけが、ぼくが旅してきた遠い宇宙まで届いてくるんだよ。
月の側から見れば、地球のふちが夕焼け色の輪になって光っている
視点を月面に移すと、この仕組みは一枚の絵になります。
皆既月食のとき、月から地球を見上げたら何が見えるでしょうか。
太陽は地球の裏側に隠れています。
けれど地球の輪郭には、大気を通った光がぐるりと縁取りのように残ります。
NASAの記事は、この光景を次のように描写しています。
The rim of the planet looks to be on fire!
出典: NASA Science「Total Eclipse of the Moon」
「惑星のふちが燃えているように見える」という意味です。
同じ記事は、この光が地球の影の中心まで届き、影を銅色の輝きで満たすと続けています。
その輪の正体も、NASAが別の解説で言い切っています。
月食のときに月を照らしているのは、地球上で同時に起きているすべての朝焼けと夕焼けの光です。
「世界中の日の出と日の入りが、まとめて月に投影されているようなものだ」という表現が使われています(出典: NASA Science「Eclipses and the Moon」)。
赤銅色の月を見上げているとき、目にしているのは地球の裏側の夕暮れを、月というスクリーンごしに映した姿です。
月そのものは何ひとつ変わっていません。
変わっているのは、地球の空の状態です。


同じ皆既月食でも赤さが毎回違う理由は地球の大気の状態にある
「前に見たときは、もっと明るいオレンジだった」という感覚は正しいことが多いです。
皆既中の色は、毎回同じにはなりません。
ダンジョンの尺度は皆既中の月の明るさと色を段階で表す物差し
色の違いを記録して比べるために、観測者が使ってきた物差しがあります。
ダンジョンの尺度です。
The French astronomer A. Danjon proposed a useful five point scale for evaluating the visual appearance and brightness of the Moon during total lunar eclipses.
(出典: Fred Espenak, “Danjon Scale of Lunar Eclipse Brightness”, NASA)
日本語にすると、「フランスの天文学者A.ダンジョンは、皆既月食中の月の見え方と明るさを評価するための、5段階からなる便利な尺度を提案した」という内容です。
明るさと色をひとつの値で言い表し、別の月食どうしを比較できるようにするのが狙いです。
段階はL=0からL=4まであります。
以下は原文の記述を編集部で日本語に訳したものです。
| L値 | 見え方 |
|---|---|
| L=0 | 非常に暗い月食。皆既の中ごろは月がほとんど見えない |
| L=1 | 暗い月食。灰色または褐色を帯び、模様は見分けにくい |
| L=2 | 深い赤またはさび色。本影の中心部は非常に暗く、外縁は比較的明るい |
| L=3 | れんが色。本影の縁が明るいか、黄色みを帯びる |
| L=4 | 非常に明るい銅赤色またはオレンジ色。本影の縁は青みを帯びて明るい |
同じ資料は、L値の判定を皆既の中ごろに、肉眼か双眼鏡か小型望遠鏡で行うのがよいとしています。
特別な機材は要りません。
自分が見た月がどの段階に近かったかをメモしておくと、次の皆既月食との比較が楽しみに変わります。
大規模な火山噴火のあとは大気中のちりが増えて月が暗くなる
では、段階を左右しているのは何でしょうか。
決め手は地球側の大気です。
国立天文台の資料によれば、本影に回り込む光の量は「主に地球の上層大気に塵がどれだけあるか」に関連すると考えられています。
火山活動などで上層大気の塵が多くなれば、大気を通る光が弱まり、月はより暗くなります(出典: 国立天文台「2021年11月19日 部分月食 解説資料」)。
同じ資料には、大気の状態によって皆既中の月がオレンジ色のような明るい色になることもあれば、黒に近い暗い色になることもあり、事前にはっきりした予測ができないという記述もあります。
天気予報のようには当てられない、という正直な書きぶりです。
NASAも、月食のあいだ地球の大気に含まれるちりや雲が多いほど、月はより赤く見えると説明しています(出典: NASA Science「Eclipses and the Moon」)。
国立天文台が「暗くなる」に重心を置き、NASAが「赤みが増す」に重心を置いたかたちです。
どちらも大気中の微粒子が光の通り方を変えるという同じ話で、微粒子が増えるほど月に届く光は弱く、色は深いほうへ寄っていきます。
ここに、この現象のいちばん面白いところがあります。
月の色を決めているのは、月ではありません。
地球のどこかで起きた噴火や、大気に漂う微粒子の量が、はるか遠く離れた月面の色として現れます。
月食の夜に見上げているのは、地球の大気の健康診断書のようなものです。
月が本影のどこを通るかによっても、赤さと皆既の長さが変わる
もうひとつ、幾何学的な要因があります。
月が本影のどのあたりを通り抜けるかです。
ダンジョンの尺度のL=2の記述には、本影の中心部が非常に暗く、外縁は比較的明るいと書かれています。
影は均一な暗さではありません。
中心ほど深く、縁ほど浅い濃淡があります。
そのため、月が本影の中心近くを通る回は暗く沈んだ色になりやすく、縁をかすめる回は明るい色に見えやすくなります。
どれだけ深く入るかは、食分の値に表れます。
皆既月食はいずれも食分が1.0以上ですが、1.0をわずかに超えるだけで縁寄りを通る回もあれば、月が本影の奥まで入り込む回もあります。
影を横切る道のりも変わります。
中心寄りを通れば影の中を進む距離は長くなり、縁寄りを通れば短くなります。
皆既の継続時間に差が出るのは、この道のりの違いによるものです。
まとめると、皆既中の月の見え方は、地球の大気の状態と、月が本影のどこを通るかという二つの条件で決まります。
どちらも回ごとに変わるため、同じ赤は二度と現れません。
一度見たから十分、という現象ではないわけです。


ブラッドムーンという呼び名は天文学の用語ではなく英語圏の通称として広まった
ここからは、言葉そのものの話に移ります。
「不吉」という言い伝えが気になっている方は、この章が本題です。
皆既月食が続けて起こる「テトラッド」と、それを予兆として扱った書籍が同じ時期に重なった
天文学に「テトラッド」という用語があります。
NASAの記事は「4回続けて起こる月食がすべて皆既となるとき、その一連をテトラッドと呼ぶ」と説明しています(出典: NASA Science, Tony Phillips「A Tetrad of Lunar Eclipses」)。
2014年から2015年にかけて、このテトラッドがありました。
記事が挙げている日付は、2014年4月15日、2014年10月8日、2015年4月4日、2015年9月28日です。
半年ほどの間隔で、皆既月食が4回続いたことになります。
同じ時期に、この並びを終末の予兆として扱った書籍が刊行されています。
書誌情報を確認しました。
書名は『Four Blood Moons』、著者はジョン・ヘイギー、刊行年は2013年、版元は Worthy publishers と記録されています(出典: Open Library 書誌情報「The four blood moons」)。
英語圏でこの呼び名が急速に広まった時期と、テトラッドおよび同書の刊行時期は重なっています。
ただし、この語が広まった経緯を特定できる一次資料は確認できていません。
ここでは「同じ時期に重なった」という事実にとどめておきます。
テトラッド自体が珍しいのかどうかについては、NASAが答えを出しています。
月食の専門家フレッド・エスペナク氏は「21世紀には8組のテトラッドがあるので、現在の月食のパターンではテトラッドは頻繁に起こる現象だと言える」と述べています。
そのうえで「1600年から1900年までの300年間には、テトラッドは1組もなかった」と付け加えています。
珍しい時代もあれば、ありふれた時代もある、という周期の問題です。
赤い月が凶事と結びつけられてきた背景には、めったに見えない現象という事情がある
赤い月を不吉と感じる感覚は、迷信のひとことで片づけるにはもったいない話です。
背景を考えると、むしろ自然な反応に見えてきます。
満月は、暦さえあれば予測できる出来事です。
けれど月食は、暦の知識がなければ予告なく訪れます。
いつもの満月が欠けはじめ、やがて血の色をした球体に変わり、しばらくして元に戻ります。
天体の運行を計算する手段がなかった時代に、この変化を異変と受け取るのは無理のないことです。
頻度の問題もあります。
国立天文台の資料に載る2018年から2025年の皆既月食は8回で、そのうち日本で見えたのは5回です(出典: 国立天文台「月食一覧」)。
一生のうちに何度も遭遇する現象ではありません。
まれで、予告なく起こり、しかも色が異様であれば、記録に残るのは吉事より凶事のほうになります。
現代でも構図は変わっていません。
インターネット上には、赤い月と災害を結びつける記事が今も出回ります。
ただし予告なく起こるという前提は、すでに崩れています。
月食は数百年先まで計算でき、国立天文台は日付と時刻を公開しています。
異変ではなく予定として扱えるようになった、という点が昔と現代の決定的な違いです。
なお、特定の信仰や文化の是非にここで立ち入るつもりはありません。
科学の側からできるのは、現象の仕組みと予測可能性を示すところまでです。
月食が地震や人体に特別な影響を及ぼすという根拠は確認できない
いちばん気にされている点に、正面から答えます。
出発点として押さえておきたい事実があります。
月食は満月のときにしか起こりません。
地球が太陽と月のあいだに入る配置が必要だからです。
つまり月食の夜の月と地球の位置関係は、ふつうの満月の夜と変わりません。
月食だからといって、月が近づいたり離れたりするわけではありません。
地震との関係については、アメリカ地質調査所(USGS)が公開しているFAQに、慎重な書き方で整理されています。
近年の研究のいくつかは、月の引力によって地球そのものがわずかに変形する現象(地球潮汐)と、ある種の地震とのあいだに相関を見いだしています。
満月や新月のように潮汐が大きい時期には、大陸の縁や沈み込み帯の浅い逆断層で地震が起こりやすくなる、という研究結果が紹介されています。
ただしUSGSは、その効果の大きさについても書いています。
The increased probability is a factor of ~3 during high tides.
(出典: USGS「Can the position of the moon or the planets affect seismicity?」)
「潮汐が大きいあいだ、確率はおよそ3倍に上がる」という記述です。
同じ回答は、そのあとに但し書きを添えています。
ある場所・ある年に地震が起こる背景確率は、もともと非常に低い水準です(数パーセントの何分の1)。
それを3倍にしたところで、きわめて小さい確率のままです。
整理すると、こうなります。
潮汐と一部の地震に相関を報告する研究はあります。
一方で、その要因は満月や新月に共通するもので、月食に特有の効果ではありません。
月食の夜だけ特別な力が働くという説明は、公的機関の資料には見当たりませんでした。
人体への影響についても同様で、月食を原因とする作用を示した公的機関の記述は確認できていません。



ぼくがいた場所からは、地球も月も、ただ静かに同じ軌道を回っていたよ。
予定どおりの影が、予定どおりに通り過ぎるだけなんだ。
次に日本でブラッドムーンを見られる日と、当日までに準備しておくこと
仕組みが分かったら、次は自分の目で確かめる番です。
日付から押さえていきます。
今後日本で観察できる月食の予定を、種類と見え方で整理する
国立天文台が公開している「月食一覧」から、2026年8月以降に起こる月食を並べます。
| 日付 | 種類 | 日本での状況 |
|---|---|---|
| 2026年8月28日 | 部分月食 | 日本で見えない |
| 2028年1月12日 | 部分月食 | 日本で見えない |
| 2028年7月7日 | 部分月食 | 日本で見える(月入帯食) |
| 2029年1月1日 | 皆既月食 | 日本で見える |
| 2029年6月26日 | 皆既月食 | 日本で見えない |
| 2029年12月21日 | 皆既月食 | 日本で見える(月入帯食) |
| 2030年6月16日 | 部分月食 | 日本で見える(月入帯食) |
直近では2026年3月3日に皆既月食があり、日本でも観察できました(出典: 国立天文台「月食一覧」/NASA Science「March 2026 Total Lunar Eclipse: Your Questions Answered」)。
その次に赤銅色の月、つまりブラッドムーンと呼ばれる姿を日本で見られるのは、2029年1月1日の皆既月食です。
元日の夜という、覚えやすい日付になりました。
それより手前で日本から観察できる月食は、2028年7月7日の部分月食です。
表にある「月入帯食」という言葉にも触れておきます。
国立天文台は、月食が始まる時刻にまだ月が地平線の下にあり、欠けた状態で昇ってくる場合を「月出帯食」と呼んでいます。
月入帯食はその逆で、食の途中のまま月が地平線に沈む場合を指します。
どちらも、地域によって見届けられる範囲が変わります。
なお、各地の月の出入りの時刻や、月食の始まり・最大・終わりの高度と方位は、国立天文台 暦計算室の「月食各地予報」で調べられます。
月食が始まる時刻そのものは全国共通ですが、そのとき月がどこにあるかは場所ごとに違います。
当日が近づいたら、住んでいる地域の条件を確認しておくと確実です。
肉眼でも見えるが、双眼鏡があると赤銅色の濃淡まで分かる
観察の準備は、拍子抜けするほど簡単です。
国立天文台は「月食は、肉眼で十分に観察できる天文現象です」と明記しています。
NASAも、特別な機材がなくても月食は観察でき、必要なのは月が見える視界だけだと説明しています(出典: NASA Science「March 2026 Total Lunar Eclipse: Your Questions Answered」)。
日食のように減光フィルターや専用グラスを用意する必要はありません。
この違いは安全に直結するので、混同しないよう気をつけてください。
そのうえで、道具があると見えるものが増えます。
国立天文台の解説によれば、双眼鏡や望遠鏡を使うと次のような変化を楽しめます。
- 地球の影が月面のクレーターや海を横切って移動していく様子
- 月面の色や明るさの変化
- 部分食が深くなるにつれて、月明かりに隠れていた暗い星が見えてくる様子
手持ちではなく三脚に固定すると、手ぶれがなくなり、より快適に観察できます。
観察場所については、街明かりの影響をそれほど気にしなくて構いません。
月は明るい天体なので、住宅街のベランダからでも十分に見えます。
ただし皆既に入ると月はぐっと暗くなるため、目が暗さに慣れる時間を数分とっておくと、色の濃淡をつかみやすくなります。
写真は皆既中と部分食で明るさが大きく変わることを前提に設定する
撮影に挑戦するなら、明るさの落差を前提に考えるのが近道です。
国立天文台は、月食の撮影で注意すべき点を挙げています。
ひとつは、月の見かけの大きさが思いの外小さいことです。
スマートフォンのカメラはレンズの視野が広いため、月がたいへん小さく写り、欠けた様子や表面の模様が分かりにくくなります。
なるべく望遠での撮影になるようにするとよい、と説明されています。
もうひとつは、背景に比べて月がとても明るいことです。
自動設定のままだと、カメラが背景の夜空に明るさを合わせてしまい、月は露出オーバーになります。
強い光とハレーションに埋もれて、欠けた形も模様も写りません。
露出を低く調整できるカメラなら、それだけで結果が変わります。
ところが皆既が近づくと、今度は逆の問題が起こります。
食分が大きくなって月の光っている部分が少なくなると、月そのものが暗くなり、写りづらくなります。
そのつど露出を調整し、露出時間が長くなる場面ではカメラを固定してください。
ピントは自動調整が苦手な場面なので、手動なら無限遠に合わせます。
ストロボは光らせません。
近くに浮かぶほこりが反射して写り込むためです。
いちばん効くのは、当日より前のリハーサルです。
国立天文台も、月食の当日になる前に、実際の月と当日使うカメラでテスト撮影をしておくよう勧めています。
本番の夜に設定を探すと、いちばん美しい時間帯を逃します。



ぼくも40年、撮ることより待つことのほうが長かったんだ。準備を先に済ませておくと、その夜は空を見るだけで済むよ。


よくある質問
まとめ ブラッドムーンは地球の大気が月に描く色だと分かる
ブラッドムーンは、皆既月食のときに赤銅色へ変わった月を指す通称でした。
天文学の正式な用語ではなく、公的機関の資料では皆既月食と表記されます。
赤黒い色を作っているのは、地球の大気です。
青い光が散乱で失われ、残った赤い側の光が屈折で本影の内側へ回り込み、月面をかすかに照らします。
月から見れば、地球のふちが夕焼け色の輪になって燃えています。
赤さが毎回違うのは、大気中のちりの量と、月が本影のどこを通るかが回ごとに変わるためです。
呼び名の由来は英語圏の通称にあり、不吉という言い伝えの背景には、まれで予告なく起こる現象という事情がありました。
今はもう予告なくは起こりません。
直近の皆既月食は2026年3月3日で、次に日本で赤銅色の月を見られるのは2029年1月1日です。
考えてみると、月食は地球の大気を外側から眺められる、数少ない機会です。
月の色が濃いか薄いかは、その夜の地球の空が何を含んでいるかを映しています。
人類がこの先も宇宙へ手を伸ばしていくとして、その足場になるのは、今のところ地球という一点だけです。
次に晴れた満月の夜は、月の色を意識して見上げてみてください。
低い空で赤らんでいるのか、高く昇っても赤いのか。
その違いが分かるようになると、月食の夜の赤はまったく別の意味を持って見えてきます。


出典
- 国立天文台「月食とは」
- 国立天文台「月食の観察のしかた」
- 国立天文台「月食一覧」
- 国立天文台「2021年11月19日 部分月食 解説資料」(2021年11月12日改訂)
- 国立天文台 暦計算室「月食各地予報」
- 国立天文台 よくある質問「月が赤く見えるときがあるのはなぜ?」
- 国立天文台 よくある質問「『スーパームーン』ってなに?」
- NASA Science「Eclipses and the Moon」
- NASA Science「March 2026 Total Lunar Eclipse: Your Questions Answered」
- NASA Science, Tony Phillips「A Tetrad of Lunar Eclipses」
- NASA Science「Total Eclipse of the Moon」
- Fred Espenak (NASA)「Danjon Scale of Lunar Eclipse Brightness」
- U.S. Geological Survey「Can the position of the moon or the planets affect seismicity?」
- Open Library 書誌情報「The four blood moons」(John Hagee, 2013, Worthy publishers)