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1 ジュノーは木星の成り立ちを探るためにNASAが送り込んだ木星周回探査機 2 極軌道と太陽電池という設計は、木星の強烈な放射線を避けるための答えだった 3 ジュノーが塗り替えた木星像は、境目のない中心核と想像より深い気象層だった 4 極を通る軌道だからこそ見えた、多角形に並ぶ巨大サイクロン群 5 延長ミッションでジュノーは木星本体から木星系全体の探査機に変わった 6 ジュノーについてよくある質問 7 まとめ、ジュノーの観測は木星を「大きなガスの塊」から読み解ける天体に変えた 8 出典

木星探査機ジュノーが明らかにした木星の内部構造と観測の現在地

木星探査機ジュノーが明らかにした木星の内部構造と観測の現在地
  • ジュノーって名前は聞くけど、結局どんな探査機なの
  • 木星のまわりを回って、何が分かったんだろう
  • ニュースで断片的に見るだけで、人に説明できる気がしない

結論から書きます。
ジュノーはNASAが木星の起源と進化を解き明かすために送り込んだ周回探査機です。
その観測が示したのは、木星の中心核が周囲と溶け合った曖昧なものであること、そして縞模様が雲の下およそ3,000kmまで続く立体構造であることでした。

この記事は、宇宙の科学と宇宙産業の情報を一次情報と整合させて発信するASTROWORKS編集部がまとめています。

この記事では、次のポイントを整理します。

  • 打ち上げから木星周回投入までの歩みと、ジュノーが背負った科学目標
  • 極軌道と太陽電池という設計が、放射線への答えになっていた理由
  • 希薄な中心核・深い気象層・南北で非対称な磁場という観測成果
  • 延長ミッションで木星系全体へ広がった、探査の現在地

読み終える頃には、ジュノーの何がすごいのかを自分の言葉で説明できるようになります。

ほしまる

ぼくも木星のそばを通ったとき、あの縞模様に見とれたよ。
あれが表面の模様じゃないと知ったときは、本当に驚いたんだ。

木星のそばを飛ぶ探査機ジュノーを描いた画像
木星を周回するNASAの探査機ジュノー。木星の起源と進化を探ることを主目標に設計された。 Credit: NASA/JPL-Caltech
目次

ジュノーは木星の成り立ちを探るためにNASAが送り込んだ木星周回探査機

はじめに、この記事が扱う「ジュノー」がどれを指すのかをはっきりさせておきます。

日本語で「ジュノー」を検索すると、企業名やアパレルブランド名、小惑星の名前などが混ざって出てきます。
この記事が扱うのは、NASAの木星探査機ジュノー(Juno)です。

NASAはミッションの目的を「ジュノーの主目標は、木星の起源と進化を理解することです」と明記しています(出典: NASA Science「Juno」)。
木星の詳細な地図を作ることでも、美しい写真を撮ることでもありません。
「この惑星はどうやってできたのか」という一点に向けて、機体も軌道も観測機器も設計されています。

探査機の名前も、その目的から来ています。
ローマ神話では、神々の王ユピテル(ジュピター)が自らのいたずらを隠すために雲で身を包み、妻である女神ユノ(ジュノー)はその雲を見通して真実を知りました(出典: Mission Juno「What’s in a Name?」)。
雲の下を見通す探査機、という命名です。

打ち上げから木星到着までの歩みと、ジュノーが背負った科学目標

ジュノーの歩みは、まず「遠さ」との戦いから始まりました。

打ち上げは2011年8月5日、ケープカナベラル空軍基地からAtlas Vロケットによって行われました。
木星の周回軌道に入ったのは2016年7月4日です。
地球を出てから木星に到達するまでに航行した距離は、約28億km(17億マイル)にのぼります(出典: NASA Science「Juno」)。

打ち上げから到着まで、およそ5年。
この間、ジュノーは一度地球へ接近して重力アシスト(天体の重力を利用して速度と進路を変える航法、スイングバイとも呼ばれます)を行い、木星へ向かう速度を得ています。

科学目標は、大きく3本の柱で整理すると分かりやすくなります。

  • 内部構造を測る。重力場のわずかな歪みから、中心核や内部の質量分布を推定する
  • 大気の組成と構造を測る。雲の下の水やアンモニアの分布、風がどこまで深く及んでいるかを調べる
  • 磁場と磁気圏を測る。磁場の形と、極域のオーロラを生む粒子の流れを捉える

この3本は独立した課題ではありません。
どれも「木星がどのような材料から、どのような順序で組み上がったのか」という同じ問いに向かっています。
内部の重元素の量や水の存在量が、木星が太陽系のどのあたりで、どの段階で形成されたかを絞り込む手がかりになるためです。

なぜ木星の内部を調べることが太陽系の歴史を調べることになるのか

木星は太陽系で最大の惑星です。
そして、太陽系の惑星のなかで最も早い時期に形成されたと考えられています。

NASAはジュノーの位置づけを、太陽系の巨大ガス惑星の代表例として木星を理解し、そこから惑星系全体の成り立ちに迫るものだと説明しています(出典: NASA Science「Juno」)。
木星は形成後、その巨大な重力で周囲の物質の動きを支配してきました。
木星がいつ・どこで・どんな材料からできたかが決まると、その後の太陽系の姿もかなりの部分が決まります。

木星の内部は、いわば記録装置です。
地球のような岩石惑星では、プレートの動きや火山活動、風化によって初期の情報が上書きされてきました。
木星の深部は、初期の材料をそのまま抱え込んだまま現在に至ったと考えられています。

ただし、断っておきたいことがあります。
木星を調べれば太陽系の成り立ちがすべて分かる、という話ではありません。
現在得られているのは「形成の条件に制約をかけるデータ」であり、形成シナリオそのものは複数の説が並立したままです。
ジュノーの役割は、その候補を絞り込むための実測値を持ち帰ることにあります。

ほしまる

ぼくが木星に向かうのは、木星が知りたいからだけじゃないんだ。
あの星のなかには、太陽系が生まれたころの記録がそのまま残っているんだよ。

極軌道と太陽電池という設計は、木星の強烈な放射線を避けるための答えだった

木星探査で最大の敵は、距離ではなく放射線です。
ジュノーの設計は、その制約から逆算されています。

極から極へ抜ける細長い軌道が、被曝を抑えながら雲頂に肉薄する

木星は強力な磁場を持ち、その磁場に捕らえられた高エネルギー粒子が赤道面に厚い放射線帯を作っています。
赤道に沿って回る軌道を選べば、探査機は毎周回そこを通り抜けることになります。

ジュノーが選んだのは、極から極へ抜ける極軌道でした。
木星周回投入後、ジュノーは周期53日の極軌道に入り、木星の雲頂のすぐ上から磁気圏の外縁までを往復する細長い楕円を描きました(出典: NASA JPL「Juno」)。
雲頂への最接近距離は約3,500km(2,200マイル)に達します(出典: NASA Science「Juno」)。

この軌道の意味を、設計の言葉に置き換えてみます。
放射線帯という「高被曝ゾーン」を、垂直に、しかも短時間で突っ切る。
軌道の大半は木星から遠く離れた低被曝ゾーンで過ごし、そこでデータを地球へ送る。
車載機器や産業機器で、高温部の滞在時間を設計で切り詰めるのと似た発想です。

周期は固定ではありませんでした。
その後の衛星への接近によって軌道が変化し、ガニメデ接近後は43日、エウロパ接近後は38日、イオ接近後は33日へと短縮されています(出典: NASA Science「Juno」)。
観測機会を増やすうえでは有利に働きます。
反面、木星への接近頻度が上がるため、被曝の管理はより難しくなります。

木星までの距離で太陽電池を選んだ判断と、機器を守る放射線シールド

木星の軌道は太陽から地球の5倍離れており、届く太陽光は地球のおよそ25分の1にとどまります(出典: Mission Juno「Solar Arrays」)。
それでもジュノーは、原子力電池ではなく太陽電池を選びました。

機体は3枚の大きな太陽電池パドルを持ちます。
各パドルは本体から約9m(29.5フィート)伸び、全幅は20m(66フィート)を超えます(出典: NASA Science「Juno」)。
発電量は、地球付近で約14キロワット、木星付近で約400ワットです(出典: NASA JPL「Juno」プレスキット Fast Facts)。

この発電量には、出典間で無視できない食い違いがあります。
Mission Junoの太陽電池ページは、地球付近を「2,000ワット以上」、木星付近を「420ワット」と記載しています(出典: Mission Juno「Solar Arrays」)。
地球付近の値は、プレスキットとおよそ7倍の開きがあります。

セル数はプレスキットが18,698枚、Mission Junoが18,000枚で、18,698枚で約14キロワットなら1枚あたり約0.75ワットという計算になります。

木星軌道で使える約400ワットは、地球付近で得られる電力の数十分の一です。
この電力で探査機を成立させるために、観測機器も運用も徹底して省電力に振られています。
パドルが常に太陽を向くよう機体の姿勢と軌道が設計され、木星の影に入る時間もできるだけ避ける計画が組まれました。

放射線からの防護は、遮蔽で受けています。
最も敏感な電子機器は、チタン製の放射線ボールト(金庫)に収められています。
このボールトはSUVのトランク程度の大きさで、質量は約180kg(400ポンド)です(出典: NASA Science「Juno」)。

耐環境設計を経験した方には、この構成が読みやすいはずです。
全体を重く固めるのではなく、守るべき中枢だけを局所的に固め、残りは曝露を前提に成立させる。
質量が厳しく制限される探査機では、この割り切りが効いてきます。

搭載機器は「内部を測る」「大気を見る」「粒子と電波を捉える」で役割が分かれる

ジュノーには10種類の観測機器が積まれています。
名前を並べるより、何を測るかで束ねたほうが理解が早く進みます。

観測機器役割主に効いた成果
Gravity Science(重力科学)電波の周波数変化から重力場の歪みを測る希薄な中心核、大赤斑の深さ
MWR(マイクロ波放射計)雲の下の大気を波長別に透視する気象層の深さ、イオの地下温度
JIRAM(木星赤外線オーロラマッパー)赤外線で大気とオーロラを撮像する極のサイクロン群の長期変化
JunoCam / SRU(可視光カメラ/恒星基準ユニット)可視光で木星と衛星を撮像する極域の画像、衛星の近接撮像
UVS(紫外分光器)紫外線でオーロラを分光するガニメデの酸素大気
MAG(磁力計)磁場の強さと向きを測る南北非対称な磁場、Great Blue Spot
JADE / JEDI(荷電粒子検出器)低エネルギー/高エネルギーの粒子を捉える磁気圏の構造、イオ由来の粒子
Waves(電波・プラズマ波動センサー)電波とプラズマ波を捉える電離圏密度の時間変動

(機器名・役割の出典: NASA Science「Juno」。

この表で押さえておきたいのは、後述する成果の多くが単独の機器ではなく組み合わせから出ている点です。
たとえば中心核の姿は重力場の測定から、気象層の深さも重力場とマイクロ波観測の突き合わせから導かれました。
機器ごとの成果を追うより、「どの物理量を、どの方法で測ったか」を追ったほうが、木星像の更新の筋道が見えてきます。

木星の赤道面の放射線帯と、極から極へ抜ける細長い楕円軌道を示した図
赤道面に広がる放射線帯を極軌道で垂直に短時間で横切り、軌道の大半は木星から離れた領域で過ごす設計。3枚の太陽電池パドルは常に太陽を向くように運用される。(図解はイメージです)

ジュノーが塗り替えた木星像は、境目のない中心核と想像より深い気象層だった

教科書で習う木星像は、ジュノーの実測によって書き換えられました。
とくに大きく変わったのは、中心核の姿と縞模様の深さです。

中心核は周囲の水素と溶け合った「希薄な核」として観測された

長らく想定されてきた木星の内部像は、比較的単純なものでした。
中心に岩石と氷でできた核があり、その外側を金属水素、さらに外側を分子状水素とヘリウムが包む。
核と外層のあいだには、はっきりした境界があると考えられていました。

ジュノーの重力場観測は、この描像に修正を迫ります。
Mission Junoは木星の核について「大きく、ぼやけていて、希薄である(large, fuzzy and dilute)」と表現しています(出典: Mission Juno「Science Findings」)。
中心部の重元素が周囲の水素と混ざり合い、核と外層の境目がはっきりしない状態です。

測定の仕組みは、意外なほど地味です。
探査機が木星に近づくと、内部の質量分布のわずかな偏りに応じて軌道がごくわずかに乱れます。
その乱れは地球で受信する電波の周波数変化として現れ、そこから重力場の形が逆算されます。
Gravity Scienceは、この電波追跡で内部を「触らずに測る」機器です。

この結果が惑星形成論に投げかける問いは小さくありません。
はっきりした核がないのは、形成初期の核が後から混ざったためなのか、それとも最初から核が明瞭に分離しなかったためなのか。
この点は決着していません。
ジュノーが与えたのは答えではなく、どの形成シナリオなら観測された重力場を再現できるかという厳しい条件です。

縞模様は表面の模様ではなく、雲の下まで続く立体構造だった

写真で見る木星の縞模様は、長いあいだ「表層の模様」として扱われてきました。
どこまで深いのかは、観測手段がないままでした。

ジュノーの重力場測定は、この縞模様が立体構造であることを示しました。
東西方向に吹く帯状風(ジェット気流)は、雲頂から約3,000km(1,900マイル)の深さまで及んでいます。
この気象層は木星全質量の約1パーセント、地球およそ3個分の質量を占めます(出典: NASA JPL「NASA Juno finds Jupiter’s Jet-Streams Are Unearthly」)。
その層より深い部分は、ほぼ剛体のように一体となって自転していることも分かりました。

地球と比べると、この数字の異常さが際立ちます。
地球の大気は地球全体の質量の100万分の1にも届きません。
木星では、気象が惑星の質量の1パーセントを動かしています。
厳密には別の現象ですが、地球の「大気の薄い膜」に対して、木星は「惑星そのものが渦を巻いている」と考えると規模の差がつかみやすくなります。

個別の渦についても深さが測られました。
渦の深さは一様ではなく、約100kmのものから、大赤斑を含む一群では350kmを超えるものまであります。
最も深いのが大赤斑そのもので、雲頂の約500km(300マイル)下まで達しています(出典: NASA JPL「NASA’s Juno: Science Results Offer First 3D View of Jupiter Atmosphere」)。
これらの成果は2018年3月8日付のNature誌に4本の論文として掲載され、重力場をLuciano Iess氏、気象層をYohai Kaspi氏、深部内部をTristan Guillot氏、そして極域の赤外線観測をAlberto Adriani氏がそれぞれ主導しました。

磁場は南北で非対称で、地球の磁場の常識が通じない

地球の磁場は、中心に棒磁石を置いたような双極子でおおむね近似できます。
北と南に磁極がひとつずつあり、方位磁針はその素直な形の上で働きます。

木星の磁場では、この近似が通じませんでした。
Mission Junoは、木星の磁場が複数の極を含む複雑な構造を持ち、北半球のほうが南半球より入り組んでいると報告しています。
また赤道付近には局所的に強い磁場構造があり、Great Blue Spotと名付けられました(出典: Mission Juno「Science Findings」)。

北半球と南半球で磁場の姿がこれほど違う惑星は、ほかに知られていません。
磁場は内部の導電性流体の運動、いわゆるダイナモによって生み出されます。
その南北非対称がどのようなダイナモの働き方から生じているのか、そしてダイナモが駆動される深さがどこなのかは決着していません。

磁場の観測結果と内部構造の観測結果は、互いに矛盾しない内部モデルを要求します。
重力場が示した境目のない希薄な中心核と、磁力計が捉えた複数の極を含む磁場構造。
この2つを同時に説明できる内部モデルを作れるかどうかが、木星研究の焦点になっています。

木星の内部構造の断面図。境界の曖昧な中心核と、雲頂から続く厚い気象層を示している
重力場の観測が示した木星の内部像。中心核は周囲の水素と溶け合って境目がはっきりせず、縞模様を作る気象層は雲頂から約3,000kmの深さまで続く。(図解はイメージです)

極を通る軌道だからこそ見えた、多角形に並ぶ巨大サイクロン群

ジュノーは、木星の極の上空を飛んだ最初の探査機です。
その一点が、次の発見を可能にしました。

北極と南極では、取り囲むサイクロンの数と並び方が違う

地球から木星を見ると、極域はほとんど視界に入りません。
黄道面に近い位置から眺めるためです。
極軌道を選んだジュノーは、真上から極を見下ろす視点を初めて手に入れました。

そこにあったのは、幾何学的に配列した巨大なサイクロン群でした。
2018年3月の発表時点で、北極では中心のサイクロンを8個が取り囲んで八角形を作り、南極では5個が取り囲んで五角形を作っていました。
周極サイクロンの直径は、北極側が約4,000〜4,600km(2,500〜2,900マイル)、南極側が約5,600〜7,000km(3,500〜4,300マイル)です。
風速は時速350km(220マイル)に達します(出典: NASA JPL「NASA Juno finds Jupiter’s Jet-Streams Are Unearthly」)。

南極側の直径は、地球の直径のおよそ半分に相当します。
渦ひとつが、それだけの差し渡しを持っています。

この配列は固定されたものではありませんでした。
2019年11月3日の観測で、南極に6個目のサイクロンが加わり、五角形は六角形へ変わっています。
新しいサイクロンはテキサス州ほどの大きさで、平均風速は時速362km(225マイル)でした(出典: NASA「NASA’s Juno Navigators Enable Jupiter Cyclone Discovery」)。
数を語るときは、観測時点とセットで扱う必要があります。

赤外線観測が示した、サイクロンが崩れずに居座り続ける仕組み

これだけ巨大な渦が密集していれば、互いに干渉して崩れそうに思えます。
地球の台風なら、接近すれば片方が吸収されるか、進路を乱されます。

木星の極では、そうなりませんでした。
JIRAM(木星赤外線オーロラマッパー)による長期観測から、これらのサイクロンが同じ位置にとどまり続けることが示されています。
互いの運動に影響を及ぼし合いながら、平衡位置のまわりで振動しているのです。
この成果はGeophysical Research Letters誌に掲載され、ローマの国立天体物理学研究所のAlessandro Mura氏が主導しました(出典: NASA JPL「NASA’s Juno: Science Results Offer First 3D View of Jupiter Atmosphere」)。

注目したいのは、この結論の出し方です。
一度の撮像では「多角形に並んでいる」という事実しか分かりません。
同じ場所を何年も繰り返し撮り続けて初めて、配列が偶然の一致ではなく安定した構造だと確認できます。
渦の力学を説明する理論より先に、観測の積み重ねが「そこにあり続ける」という事実を固めました。

赤外線を使う理由も、ここに関係します。
可視光では極域の暗い部分が写りません。
熱放射を捉える赤外線なら、太陽光の当たらない領域でも渦の形と温度分布を追えます。
機器の選定が、そのまま長期観測の成立条件になっていました。

ほしまる

同じ場所を何年も見張り続ける仕事は、地味に見えるかもしれないね。
でも「変わらない」と言い切るには、ずっと見ていた記録がいるんだ。

木星の極を真上から見た画像。中心の渦を複数の巨大なサイクロンが取り囲んでいる
ジュノーが捉えた木星の極域。中心のサイクロンを複数の巨大な渦が取り囲み、多角形に並ぶ配列が確認された。 Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/ASI/INAF/JIRAM

延長ミッションでジュノーは木星本体から木星系全体の探査機に変わった

当初の計画は木星本体の周回観測でした。
延長ミッションで、その範囲は木星系全体へ広がります。

ガニメデ・エウロパ・イオへの接近が新しい観測対象を連れてきた

NASAが延長ミッションの承認を発表したのは2021年1月です。
42周回が追加され、ガリレオ衛星への接近と、木星の淡い環の本格的な探査が計画に加わりました。
プライムミッションが終了するのは同年7月なので、延長分が本格的に動き出したのはそのあとになります(出典: NASA「NASA’s Juno Mission Expands Into the Future」)。
最初のガニメデ接近(PJ34)は2021年6月7日で、プライムミッションから延長ミッションへ移る途中の実施でした。

計画された接近は次の内訳です。

  • ガニメデへの接近が2回。1回目は2021年6月7日
  • エウロパへの接近が3回。うち1回は2022年9月29日
  • イオへの接近が11回。2023年12月30日と2024年2月3日を含む

これらの接近から、いくつかの成果が公表されています。
エウロパでは酸素の生成量が直接測定され、その一部が地下海に取り込まれて代謝エネルギー源になる可能性が指摘されました。
ガニメデでは、酸素分子の大気が既存モデルの予想より一桁多いことが分かっています。
イオについては、大気由来の高速中性粒子が初めて検出されました(出典: Mission Juno「Science Findings」)。

イオの内部についても踏み込んだ測定が行われています。
2023年12月30日と2024年2月3日の接近では、約1,500km(930マイル)まで近づき、MWRで地表下の温度が測られました。
地表から数フィート潜っただけで温度が華氏40度以上、摂氏に直すと約22度上がっていたことが報告されています。
この成果はJournal of Geophysical Research: Planets誌に2026年7月22日付で掲載され、NASA JPLのShannon Brown氏が主導しました(出典: NASA JPL「NASA’s Juno Takes Temperature of Jupiter’s Fiery Moon Io」)。

電波掩蔽の観測が、木星の大きさと扁平さの値を更新した

最も新しい成果のひとつが、木星そのものの寸法の更新です。

ジュノーは13回のフライバイで電波掩蔽のデータを取得しました。
その解析から、木星は赤道方向の差し渡しが従来値より約8km(5マイル)小さく、極方向には約24km(15マイル)扁平であることが示されています(出典: NASA Science「NASA’s Juno Mission Redefines Size, Shape of Jupiter」)。
この結果は、Galanti et al.(2026)が2026年2月2日号のNature Astronomy誌に発表した論文「The size and shape of Jupiter」(DOI: 10.1038/s41550-026-02777-x)で示されています。
気圧1バールの面での値として、極半径66,842±0.4km、赤道半径71,488±0.4km、平均半径69,886±0.4kmが報告されています。

手法は、機器セクションの話とつながります。
探査機から地球の深宇宙ネットワークへ電波を送るとき、その電波は木星の大気と電離圏を通過します。

通過の際、荷電した気体が電波を曲げ、遅らせます。
この周波数変化を測ることで、深さごとの温度・圧力・電子密度が求められます。
不透明な雲の下を、電波で「見る」わけです。

木星の正確な半径は、木星だけの話ではありません。
系外惑星の巨大ガス惑星をモデル化するとき、木星の値は基準として使われます。
恒星の手前を横切る惑星のデータを解釈する精度にも、この更新は効いてきます。

運用の期限と、いま公表されている観測の最新地点

ジュノーの現在の状況は、公式情報を丁寧に読む必要があります。

NASAとJPLの公式ページは、延長ミッションの期間を「2025年9月まで、または探査機の寿命が尽きるまで」と記載しています(出典: NASA JPL「Juno」、NASA Science「Juno」)。
JPLのミッションページのステータス欄は、いまも「現在も運用中(Status: Current)」の表示のままです。

公表されている観測にも、その後の日付が残っています。
2026年5月1日、ジュノーは木星の衛星テーベに接近し、恒星基準ユニット(SRU)で撮像しました。
距離は約5,000km(3,100マイル)、解像度は1ピクセルあたり約3km(1.9マイル)です。
この画像は2026年5月5日に公開されました(出典: NASA Science Photojournal「NASA’s Juno Mission Captures Jupiter Moon Thebe」)。


運用の終了を断定する公式発表は、確認できていません。
最新の状況は、NASAとJPLの公式ページで確認することをおすすめします。

ジュノーについてよくある質問

ジュノーという名前の由来は何ですか

ローマ神話に由来します。
Mission Junoの解説では、神々の王ユピテルが自らのいたずらを隠すために雲で身を包んだのに対し、その妻である女神ユノが雲を見通して真実を知った、と説明されています。

そのうえで「同じように、ジュノー探査機は木星の雲の下を見て、この惑星の構造と歴史の理解を助けます」と続きます(出典: Mission Juno「What’s in a Name?」)。
雲に隠れた内部を測るというミッションの目的が、そのまま名前になっています。

小惑星のジュノーと木星探査機のジュノーは関係がありますか

直接の関係はありません。
同じローマ神話の女神名に由来する、別々の命名です。

小惑星のジュノーは火星と木星のあいだの小惑星帯を公転する天体で、直径は約234km(145マイル)、小惑星のなかで10番目に大きい部類に入ります。
組成は硬いケイ酸塩岩石が主体で、最初期に発見された小惑星のひとつです(出典: NASA JPL「Asteroid Juno Grabs the Spotlight」)。

なお日本語で「ジュノー」を検索すると同名の企業名も多く出てきます。
この記事が扱っているのは、NASAの木星探査機のほうです。

ジュノーはなぜ原子力電池ではなく太陽電池で動いているのですか

木星軌道に届く太陽光は地球のおよそ25分の1しかなく、それでも成立させるための条件を設計で積み上げたためです(出典: Mission Juno「Solar Arrays」)。

3枚のパドルは本体から約9m伸び、全幅は20mを超えます(出典: NASA Science「Juno」)。
発電量は地球付近で約14キロワット、木星付近では約400ワットまで落ちます(出典: NASA JPL「Juno」プレスキット Fast Facts)。

この電力で成立させるため、パドルが常に太陽を向く姿勢と軌道が設計され、木星の影に入る時間を避ける計画が組まれました。

大面積のパドル、高効率のセル、そして電力を絞った運用設計。
この3つがそろって、木星での太陽電池運用が成り立っています。

ジュノーはいま木星の周りを回っているのですか

公式ページの記載は「2025年9月まで、または探査機の寿命が尽きるまで」となっています。
一方でJPLのステータス欄は「現在も運用中(Status: Current)」のままで、2026年5月1日には衛星テーベへの接近観測が行われ、その画像が同年5月5日に公開されました。

現在、運用終了を告げる公式発表は確認できていません。
時期によって状況は変わるため、最新の情報はNASAとJPLの公式ページで確認してください。

まとめ、ジュノーの観測は木星を「大きなガスの塊」から読み解ける天体に変えた

ジュノーの全体像は、目的・設計・成果の3段で整理できます。

目的は、木星の起源と進化を理解すること。
設計は、放射線という制約から逆算された極軌道と太陽電池、そしてチタンの放射線ボールト。
成果は、境目のない希薄な中心核、雲頂から約3,000kmまで続く気象層、南北で非対称な磁場、そして極に多角形を描くサイクロン群でした。

木星は「大きなガスの塊」から、内部構造を測って読み解ける天体へ変わりました。

木星の内部に残された記録を読むことは、地球がどのような条件のもとで生まれたのかを知ることにもつながります。
ASTRONOTEは、地球を人類が外へ向かうための研究拠点として捉え直す視点を大切にしています。
遠い惑星を測る作業は、足元の惑星を理解する作業と地続きだと感じます。

ほしまる

縞模様の下に何があるのか、ぼくも長いあいだ知らなかったんだ。
測る道具を持って近づいた探査機が、その答えを持ち帰ってきたんだよ。

出典

ほしまる ほしまる

月食も流星群も、探査機の最前線も。観測のコツはぼくにおまかせ!

執筆・監修|ASTRONOTE編集部(宇宙物理学専攻)
掲載内容は公開時点の情報です。
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