ソフトバンク、一橋大学、国立極地研究所は2026年9月17日、成層圏を飛ぶ「HAPS(高高度プラットフォーム)」を地上から追いかけ、レーザーで距離を測る実証に成功したと発表しました。
追尾の対象は、米国のSceye(スカイ)が運用する飛行船型の機体です。
実証は8月22日から24日にかけて、高知県の室戸岬沖の上空で行われました。
Sceyeも9月23日に、この実証が自社の長期試験飛行「ST1」の一環だったと発表しています。
3行で分かるポイント
- 成層圏を飛ぶ飛行船に反射鏡を積み、地上から当てたレーザーの反射光を受け取り続けることに成功した
- ソフトバンクなどは、成層圏の機体を地上から追尾してレーザーで距離を測った例は世界初だと発表している
- 目的は、将来レーザー光で衛星・成層圏・地上をつなぐ通信に向けたデータ集め
まず押さえたい背景
HAPS(High Altitude Platform Station)は、成層圏にとどまって広い範囲に通信サービスを届ける仕組みです。
ソフトバンクは「空飛ぶ基地局」とも呼んでいます(出典:ソフトバンク「世界初、HAPSを地上から追尾してレーザー測距する実証に成功」)。
地上の基地局より高い位置から電波を届け、衛星よりも地上に近い場所を飛ぶ、という中間の位置づけです。
Sceyeは米ニューメキシコ州モリアーティに本社を置く航空宇宙企業で、スイスのツークにも拠点があります。
空気より軽い気体で浮かぶ飛行船型のHAPSを開発しています。
同社は用途として、スマートフォンへの直接の通信提供と、温室効果ガスや災害の監視などの観測を挙げています。
ソフトバンクは東京都港区に本社を置く通信会社で、携帯電話や固定通信、インターネット接続のサービスを提供しています。
国立極地研究所は東京都立川市にある研究機関で、南極と北極に観測基地を持ち、日本の極地観測の中核を担っています。
一橋大学は、今回の地上装置の土台になった小型の衛星レーザー測距装置「Omni-SLR」を設計しました。
レーザー測距は、短いパルス状のレーザー光を対象に送り、反射した光が戻るまでの時間から距離を求める技術です。
光の速さは決まっているため、往復にかかった時間が分かれば距離を計算できます。
反射光を確実に返すため、対象には「コーナーキューブ反射鏡」を載せます。
これは、どの角度から光が入っても光源の方向へ光を送り返す反射鏡で、自転車の反射板と同じ原理です。
何が発表されたか
ソフトバンクの発表によると、Sceyeの飛行船型HAPSに、HAPS用に作ったコーナーキューブ反射鏡を搭載しました。
地上からは小型で持ち運べるレーザー測距装置でパルスを送り、飛ぶ機体を捕まえて追尾しながら反射光を連続して受け取ることに成功しました。
3者は、成層圏に滞空するHAPSを地上から追尾してレーザー測距した実証は世界初だとしています。
役割分担は次のとおりです。
ソフトバンクは実証全体の計画と反射装置の製作、機体への搭載調整を担いました。
一橋大学は、Omni-SLRをもとにHAPSを追尾できる可搬型の装置を組み立て、ソフトウエアを作りました。
国立極地研究所は、コーナーキューブの設計・検証とデータ分析を担当しました。
SceyeのCTO(最高技術責任者)のジョニー・トゥルオン氏は、この難しさを「10マイル(約16km)先で動くコインの中心に、レーザーポインターを当て続けるようなもの」とたとえています(出典:Sceye「Sceye Supports SoftBank Corp. in World-First Demonstration of Laser Ranging by Tracking a HAPS from the Ground」)。
この実証は、Sceyeの試験飛行「ST1」の途中で行われました。
Sceyeによると、機体は8月9日にニューメキシコ州を出発し、30日をかけて日本との間をほぼ3万km往復しました。
Via Satelliteは、飛行期間を8月9日から9月5日までと報じています(出典:Via Satellite「Sceye’s Recent HAPS Flight Included Optical Demonstration」)。
同じ飛行では、改造していない普通のスマートフォンへ文字メッセージ、音声通話、インターネット接続、動画配信を直接届ける試験や、機上でデータを処理する試験も行われました。
宇宙業界にとっての意味
今回の目的は、光無線通信の装置をHAPSにどう載せるかを検討し、将来の衛星・HAPS・地上の間の光無線通信に向けたデータを集めることです。
光無線通信は、電波の代わりにレーザー光で情報を送る通信です。
レーザー光は細く絞られたまま進むため、送る側と受ける側が互いに正確に向きを合わせ続ける必要があります。
今回は通信ではなく距離の測定ですが、動く成層圏の機体を地上から捕まえて光を往復させられたことは、その前段にあたる確認です。
Sceyeは、衛星とHAPSと地上をつなぐ光通信の用途として、高速なデータ伝送、災害時の通信復旧、大陸間の低遅延ネットワークを挙げています。
創業者兼CEOのミケル・ベスターガード・フランセン氏は、地上と成層圏と宇宙を光の回線でつなぐ力が、情報を安全に世界へ運ぶ方法を根本から変える可能性がある、と述べています。
これは同社の見通しであり、今回の実証で通信性能が確かめられたわけではありません。
今後の注目点
ソフトバンクは、2026年に実証用の低軌道衛星を打ち上げ、宇宙と地上の間で光無線通信を実証する予定です。
2027年にはHAPSに光無線通信装置を載せ、衛星とHAPSの間で双方向の光無線通信を検証するとしています。
その先には、高速・大容量の3次元の通信ネットワークの実現を掲げています。
今回確かめたのは、反射光を使った追尾と距離測定の段階です。
次の節目は、実際にデータを光で送受信する衛星の打ち上げと、HAPSへの通信装置の搭載です。
出典
- ソフトバンク「世界初、HAPSを地上から追尾してレーザー測距する実証に成功」
- Sceye「Sceye Supports SoftBank Corp. in World-First Demonstration of Laser Ranging by Tracking a HAPS from the Ground」(PR Newswire)
- Via Satellite「Sceye’s Recent HAPS Flight Included Optical Demonstration」
- SoftBank「SoftBank Corp., Hitotsubashi University and NIPR Achieve World’s First Demonstration of Laser Ranging by Tracking a HAPS from the Ground」
- Sceye「About Sceye」
- Sceye 公式サイト
- ソフトバンク「会社概要」
- 国立極地研究所「研究所の概要」
- sceye.com「sceye-completes-record-us-japan-stratospheric-flight」