米国のKatalyst Space Technologiesは2026年9月25日、NASAの天文衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト天文台(Swift)」の軌道を上げるために打ち上げた無人のロボット宇宙機「LINK」が、軌道を離れて大気圏に再突入したと発表しました。
LINKは向きを保つ装置の故障で燃料を想定より早く使ってしまい、Swiftをつかんで高い軌道へ運ぶ作業はできませんでした。
その代わりに、Swiftへの接近やロボットアームの試験を行い、85日間の運用で飛行データを集めました。
3行で分かるポイント
- NASAの古い天文衛星を別の宇宙機でつかみ、高い軌道へ押し上げて寿命を延ばす計画でしたが、実現しませんでした。
- 宇宙機の向きを整える装置が故障し、代わりに使ったガス噴射で燃料が足りなくなりました。
- 宇宙機はSwiftへの接近とロボットアームの試験を行ったあと、2026年9月25日に大気圏へ再突入しました。
まず押さえたい背景
Katalyst Space Technologiesは米国の宇宙企業です。
ほかの衛星とドッキングし、ロボットアームで作業したり、軌道を移ったりできる多目的のロボット宇宙機「NEXUS」を開発しています(出典:Katalyst Space「公式サイト」)。
Swiftは、NASAが2004年に打ち上げた天文衛星です。
宇宙で最も強力な爆発とされるガンマ線バーストなどを調べるための衛星で、当初の主要ミッションは2年の計画でしたが、21年にわたって観測を続けてきました(出典:NASA「NASA Updates Next Steps for Commercial Swift Boost Mission」)。
問題は高度です。
地球の近くを回る衛星は、ごく薄い大気にわずかにブレーキをかけられ、少しずつ高度が下がります。
NASAによると、最近の太陽活動の極大期でこの効果が強まり、Swiftは想定より速く高度を下げていました(出典:NASA「Swift Boost Mission」)。
NASAは2025年9月にKatalystと契約し、1年足らずで宇宙機を設計・製造・試験して打ち上げ、Swiftをつかんで持ち上げる計画を進めました。
NASAの運用チームは、この作業が成功しやすい高度300km以上にSwiftを保つよう取り組んでいました。
Swiftは、そもそも修理や燃料補給を受けることを想定して設計された衛星ではありません。
そのような相手に別の宇宙機が近づいてつかむ技術は「軌道上サービス」と呼ばれ、衛星の寿命延長や、不要になった衛星の片づけへの応用が期待されている分野です。
何が発表されたか
Katalystによると、LINKは契約から9か月で設計・製造・試験・打ち上げまで進められ、ミッション全体の規模は3,000万ドルでした(出典:Katalyst Space「Katalyst Concludes LINK Mission, Advances Future Robotic Space Operations」。以下、LINKの経過は同発表によります)。
打ち上げは2026年7月3日です。
つまずいたのは、打ち上げ後に機能を確かめる初期運用の段階でした。
宇宙機の向きを保つ装置のひとつに、リアクションホイールがあります。
内部の円盤を回す速さを変え、その反動で機体の向きを変える装置で、燃料を使わずに向きを調整できます。
LINKでは電源系統の故障により、3基あるリアクションホイールのうち2基が使えなくなりました。
NASAによると、この姿勢制御の問題は7月28日に起き、機体が回転してしまう状態になりました(出典:NASA「NASA Updates Next Steps for Commercial Swift Boost Mission」)。
チームは電気の力でガスを加速して噴き出す推進装置(ホール効果スラスタ)を使い、機体の回転を毎秒9度から毎秒1.47度まで落としました。
その後はRCSと呼ばれる小さな噴射装置で向きを保ちましたが、この方法では推進剤(噴射に使う燃料)の消費が急に増えました。
その結果、Swiftをつかんで軌道を上げる段階を安全に行えるだけの燃料が残らなくなりました。
NASAは8月19日の発表で、LINKはSwiftの捕獲も軌道上げも行わないと明らかにしています。
LINKは計画を切り替え、Swiftから12〜15kmの距離まで近づいて、Swiftを点として写す画像を撮影しました。
3本のロボットアームの動作制御、耐久試験、つかむ動作の練習も行いました。
LINKは軌道を離れる操作を行い、9月25日に大気圏に再突入しました。
軌道上での運用は85日間でした。
宇宙業界にとっての意味
今回の結果は、軌道上サービスの商業化に向けた実証として、できたことと、できなかったことの両方を残しました。
できなかったのは、本来の目的であるSwiftの捕獲と軌道上げです。
Swiftは修理を想定せずに作られた衛星で、LINKより大きな機体です。
そのような相手をつかむ作業は、今回は実際に試す段階まで進みませんでした。
一方で、契約から9か月で打ち上げまで進めたこと、故障後に回転を止めて運用を立て直したこと、目標の衛星に接近してロボットアームを動かしたことは、飛行データとして残りました。
NASA宇宙物理学部門長のShawn Domagal-Goldman氏は、Swiftからさらに科学成果が得られることを皆が望んでいたとしつつ、このミッションから得られる教訓はどちらに転んでも価値があると分かっていたと述べています。
NASA長官のJared Isaacman氏も、見返りが大きい場合には素早く動き、賢明なリスクを取るべきで、今回まさにそれを実行したと述べています。
今後の注目点
KatalystのCEOであるGhonhee Lee氏は、LINKのあとのミッションはすべてより強い土台から始まると述べ、飛行データと運用経験を強調しています。
同社は量産型の機体「NEXUS」を、軌道上でのさまざまな作業に使う標準の機体として位置づけています。
NEXUSの計画として、衛星を軌道から降ろす作業を請け負うサービスや、宇宙からの電力伝送の実証が挙げられています。
今回の故障の原因となった電源系統の対策がNEXUSにどう反映されるかが、次の確認点です。
Swift自体については、NASAは8月の時点で、何も手を打たなければ2026年内に大気圏へ再突入する見込みだとしています。
Swiftの今後の運用や再突入時期について、NASAが続けて出す発表に注目です。