夜空を横切る火球の映像が、SNSで流れてくることがあります。
あの光は、どれくらい珍しい出来事なのでしょうか。

結論を先に書きます。隕石のもとになる物質は、毎日降っています。
NASAの推定で1日あたり約48.5トン。ただし、その大半は目に見えない塵で、地表まで届く「隕石」になるのはごく一部です。
そして日本でも、2020年に千葉県で破片が回収されています。
この記事をまとめているのはASTROWORKS編集部です。宇宙の科学と宇宙産業の情報を、NASA・国立天文台・国立科学博物館・国立極地研究所などの一次情報と整合させて発信しています。
この記事で分かることは、次のとおりです。
- 流星・火球・隕石という3つの呼び名の使い分け
- 天体のサイズごとに桁で変わる落下頻度
- 国立科学博物館のリストに載る日本の隕石と、習志野隕石の実例
- チェリャビンスクの被害の内訳と、いま進んでいる監視・軌道変更の取り組み
読み終える頃には、ニュースで火球の映像を見たとき、それがどのくらい珍しい出来事なのかを桁で判断できるようになります。
ほしまるぼくは40年かけて太陽系をひとまわりして帰ってきたんだ。宇宙の石ころが地球に落ちる話、ぼくの目で見てきたスケール感つきで案内するよ。
流星と火球と隕石は、どこが違う?
頻度の話に入る前に、言葉を整理しておきます。
3つの言葉は、別々の現象ではありません。
ひとつの落下現象を、段階ごとに呼び分けたものです。
光っているのが流星、地面に残ったのが隕石
NASAの定義を追ってみましょう。
宇宙空間にある石は「meteoroid(流星物質)」です。
大きさは塵の粒から小さな小惑星までの幅があります。


それが地球の大気に高速で飛び込んで燃えるときが「meteor(流星)」。
そして大気圏を生き延びて地面に届いた物体だけが「meteorite(隕石)」と呼ばれます(出典: NASA Science『Meteors and Meteorites: Facts』)。
では「火球」はどこに入るのでしょうか。
これは流星の一種で、明るさによる区別です。
国立天文台は「流星の中でも特に明るいもののことを『火球』と呼びます」「マイナス4等程度より明るい流星のことを火球と呼ぶことが多いようです」と説明しています(出典: 国立天文台『私が見たものは流れ星だったのでしょうか?』)。
マイナス4等は、金星がいちばん明るく見えるときと同じくらいの光です。
つまり、夜空で見た光は流星か火球。
拾える石が隕石。
同じ落下でも、光っている最中と地面に残った後では呼び名が変わります。
毎日48.5トン降っているのに、なぜ珍しいのか
隕石落下は、めったに起きない特別な事件ではありません。
量で見れば、毎日起きている日常の現象です。
NASAは、地球に降り注ぐ隕石物質を1日あたり約48.5トン、キログラムに直すと44,000キログラムと推定しています(出典: NASA Science『Meteors and Meteorites: Facts』)。
中型トラック数台分の物質が、毎日どこかの空から入ってきている計算です。
ただし、これを「毎日それだけの岩が降ってきて危ない」とは限りません。
量の大半を占めるのは、肉眼では見えない塵の粒だからです。
では、なぜ地面に届く石は珍しいのか。
答えは単純で、ほとんどが届く前に消えてしまうからです。
国立天文台は、流星について「たいていは大気との摩擦で蒸発してしまい、地面まで達することはほとんどありません」と書いています(出典: 国立天文台『私が見たものは流れ星だったのでしょうか?』)。
高度は数十キロメートル。
旅客機が飛ぶ高さの、さらに数倍上での出来事です。
秒速十数キロメートルで突入した物体は、前面の空気が急激に圧縮されて高温になり、表面から削れながら失われていきます。
表面をあえて溶かして熱を逃がすアブレーションは、宇宙機の耐熱シールドの設計にも使われている考え方です。
厳密には設計された材料と天然の岩石では条件が異なりますが、熱設計や材料の仕事をしてきた方には想像しやすい現象かもしれません。
どのくらいの大きさなら消えるのか。
NASAは、およそ25メートル未満の宇宙の岩なら、その多くは大気圏に入る際に燃え尽き、被害はほとんど出ないとしています(出典: NASA『Asteroid Fast Facts』)。
毎日大量に降っていても、石として残るものはごくわずか。
この落差が、隕石を珍しくしています。
「どれくらいの頻度?」はサイズを決めないと答えが出ない
隕石落下の頻度は、ひとつの数字では答えられません。天体の大きさが変わると、答えは桁ごと変わるからです。



ぼくがいちばん伝えたいのはここなんだ。「隕石は危ないの?」の答えは、大きさを決めないと出てこないんだよ。
頻度は、階段のように桁で変わる
NASAが公開している目安を並べてみます。


| 天体のおおよそのサイズ | 頻度の目安 | 起きること |
|---|---|---|
| 塵・砂粒サイズ | 毎日 | 100トン超が地球に降り注ぐ |
| 自動車ほどの大きさ | およそ1年に1回 | 明るい火球になり、地表に届く前に燃え尽きる |
| フットボール競技場ほどの大きさ | およそ2,000年に1回 | 周辺の地域に大きな被害が出る |
| 文明を脅かすほどの大きさ | 数百万年に1回 | 地球規模の影響 |
自動車ほどの大きさの小惑星がおよそ1年に1回地球の大気に突入し、フットボール競技場ほどの大きさの流星物質はおよそ2,000年に1回落ちて周辺の地域に大きな被害を出し、文明を脅かすほどの大きさの天体は数百万年に1回しか訪れません(出典: NASA『Asteroid Fast Facts』)。
注意したいのは、この表が「サイズ→頻度」の一対一対応ではない点です。
NASAの表記はクルマや競技場といった見た目のたとえで、メートル値は明示されていません。
先ほど触れた「25メートル未満は大半が大気圏で燃え尽きる」という区分は、これとは別の切り口です。
被害についても、25メートルから1キロメートルの間なら落下地点周辺に局所的な被害、1~2キロメートルを超えると世界規模の影響がありえます。
火球は月に数個。それでも石は拾えない
「落ちる頻度」と「見つかる頻度」は、まったく別の数字です。
火球そのものは、それほど珍しくありません。
国立天文台は「火球は日本全国でいえば、平均すると1ヶ月に数個程度の頻度で目撃されています」と説明しています(出典: 国立天文台『私が見たものは流れ星だったのでしょうか?』)。
月に数個。
一方、日本で回収された隕石は、後で見るように1000年以上かけて数十個です。
差が生まれる理由は、大きく3つあります。
- 火球の多くは、そもそも地表に固体を残さず上空で消える
- 残ったとしても、破片は数十グラムから数百グラムと小さい
- 地球の表面の大半は海か、人がほとんど入らない土地で占められている
破片が人の目に触れる場所へちょうど落ちて、しかも誰かがそれに気づく。
この条件が重なったときだけ回収されます。
明るい火球を見た人が「近くに落ちたはずだ」と感じても、実際の発光点は高度数十キロメートル。
体感の距離と本当の距離は、まったく一致しません。
5万個の隕石と、190個のクレーター
短い時間の頻度と、長い時間の頻度は、別の物差しで測ります。
NASAは、地球上で見つかった隕石は5万個を超えると表記しています。
ただしこれは「発見された数」であって、「落ちた数」ではありません。
クレーターについては、地球上で現在知られているものが約190個とあります(出典: NASA Science『Meteors and Meteorites: Facts』)。
こちらも「現在確認されている数」です。
地球には風と水と植生があり、プレートも動くため、古いクレーターは削られたり埋もれたり、地殻ごと沈み込んだりします。
月の表面がクレーターだらけなのに地球がそうでないのは、衝突が少なかったからではなく、痕跡を消し続けているからです。
どちらも「数え上げられたもの」の数。
実際の落下回数はもっと多い、という前提で読むほうが実態に近づきます。
日本にも、落ちている
1000年以上の記録で、54個
「日本に落ちた隕石」を数えるとき、実務上の基準になっているのが国立科学博物館の『日本の隕石リスト』です。
2023年3月23日現在の掲載内容では、球粒隕石44個、鉄隕石9個、石鉄隕石1個の合計54個。最も古い記録は福岡県の直方隕石で、861年5月19日(貞観3年)まで遡ります(出典: 国立科学博物館『日本の隕石リスト』)。
1000年以上の記録がありながら、合計で54個です。
ここで、数え方の食い違いにも触れておきます。
国立極地研究所は2020年の習志野隕石について「国内で隕石が発見されたのは小牧隕石以来2年ぶりで、53番目の隕石となります」と発表しています(出典: 国立極地研究所『「習志野隕石」が国際隕石学会に登録されました』)。
科博のリストは54個、極地研は習志野を53番目。
どちらかが誤りという話ではなく、集計の時点が違えば数は動きます。
「日本の隕石は何個か」に単一の正解を出そうとせず、どの資料の何年時点の数字かをセットで押さえるのが安全です。
なお、このリストは「落下」と「発見」を区別して記載しています。
落ちる瞬間が目撃された隕石と、後から地上で見つかった隕石は、記録上の意味が異なります。



数え方が違うと数も変わる。宇宙の話ではよくあることなんだ。数字を見たら「いつの、どこの数字?」と聞き返す癖をつけるといいよ。
2020年、習志野のマンションで見つかった石
日本で最近起きた落下として記録が詳しいのが、習志野隕石です。
国立極地研究所の発表によると、2020年7月2日(木)午前2時32分、関東地方上空に大火球が流れました。
その後、千葉県習志野市のマンションで破片が発見されます。


63グラムと70グラムの破片に、その後の調査で見つかった小さな破片を合わせて156グラム。
これが習志野隕石1号です。
2号は船橋市でした。
アパートで屋根瓦が割れているのが見つかり、瓦の破片と一緒に2つ目の隕石片が回収されています。
95グラムと73グラムの破片とその他小さな破片を合わせて194グラム。
分類はH5普通コンドライト(球粒隕石)でした。
この記号を分解しておきます。
まず「普通コンドライト」は、日常語の「ありふれた」という意味ではなく、全岩の化学組成で区別したときの分類名です。
コンドライトは化学的な特徴によって、普通コンドライト・炭素質コンドライト・エンスタタイトコンドライトなどに区別され、そのうち普通コンドライトはさらにH・L・LLという化学的グループに分けられます(出典: 国立極地研究所『南極隕石ラボラトリーで普通コンドライトの新たな分類決定手法を開発』)。
名前のとおり数は多く、2024年4月現在、国際隕石学会に登録されている隕石の約80%がこのグループです(出典: 国立極地研究所 ウェブマガジン『極』「普通コンドライト(H3)|Yamato-82038」)。
後ろの数字は、岩石学的タイプと呼ばれるものです。
コンドリュール(球粒)の明瞭度が母天体で受けた熱変成の程度を反映することから、数字で区別されます(出典: 国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー『隕石とは』)。
普通コンドライトの場合、低い熱変成度の3から高い熱変成度の6までに区分されます(出典: 国立極地研究所『南極隕石ラボラトリーで普通コンドライトの新たな分類決定手法を開発』)。
つまりH5の5は、上限の6に次ぐ段階。
その石が生まれた天体の中で、比較的強い熱を受けて変化したことを示す目印です。
国際隕石学会への登録申請は10月24日付けで承認され、隕石データベースに11月1日に登録されました(出典: 国立極地研究所『「習志野隕石」が国際隕石学会に登録されました』)。
科博のリストでは、落下年月日2020年7月2日、種類H5、総重量約0.36キログラム、個数3個として記載されています。
深夜の火球から、住宅地での回収、そして国際登録まで。
一連の流れが数か月で追える近年の事例です。
国内54個。それでも日本が隕石研究大国な理由
理由は日本列島ではなく、南極にあります。
国立極地研究所によると、1969年のやまと隕石の発見以来、これまでに48,500個以上の隕石が南極氷床上から回収されています。
さらに「国際隕石学会に登録されている隕石の約60%は南極から採集されており、南極は、地球上で最も隕石が沢山採集される地域と考えられています」と説明されています(出典: 国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー『南極隕石について』)。


南極に多く落ちているわけではありません。
集まる仕組みがあるのです。
南極に落ちた隕石は雪に取り込まれ、埋もれて氷床の一部になります。
氷床は内陸から沿岸へ向けて流動していて、隕石も一緒に運ばれます。
山地などでは氷床がせき止められるため、局所的に上昇流が起こります。
この地域はカタバ風と呼ばれる斜面を吹き下ろす強風が強く、上昇した氷は継続的に昇華されます。
結果として、氷に取り込まれていた隕石だけが表面に取り残される、という流れです(出典: 国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー『南極隕石について』)。
氷が運び、風が氷を削り、石だけが残る。
あくまでイメージですが、自然が作った選鉱装置のようなものです。
国立極地研究所の南極隕石ラボラトリーは、保有する隕石の総数がおよそ17,000個で、世界最大級の地球外物質コレクションだとしています。
被害を出すのは、石ではなく衝撃波
直径約18メートルが、街の窓を割った
近年もっとも被害が記録された落下が、2013年にロシアで起きたチェリャビンスクの事例です。


NASAのCNEOS(地球近傍天体研究センター)は、この現象を次の数値で整理しています。
最大光度の日時は2013年2月15日03時20分33秒(GMT)。そのときの高度は23.3キロメートル、速度は秒速18.6キロメートル。
火球の総衝突エネルギーは440キロトン(TNT換算)と見積もられています。
そして、この総エネルギー約440キロトンから、有効直径は約18メートル、質量はおよそ11,000トンと推定されています(出典: NASA CNEOS『Additional Details on the Large Fireball Event over Russia on Feb. 15, 2013』)。
押さえておきたいのは、高度23.3キロメートルという数字です。
被害を出したエネルギーの解放は、地面ではなく成層圏で起きました。
音速の50倍を超える速度で突入した物体は、前面の圧力に耐えられず砕け、一気にエネルギーを放出します。この上空での爆発をエアバーストと呼びます。
そこから生まれた衝撃波が空気を伝わって地表に届き、街に被害をもたらしました。
先ほどのNASAの目安では、25メートル未満は「ほとんど燃え尽き、被害はほとんど出ない」帯です。約18メートルはその帯に入ります。
それでも街に被害が出た。目安はあくまで目安で、条件によっては例外が出ると理解しておくのが実際的です。
負傷者の大半は、割れた窓ガラスだった
被害の内訳は、多くの人の直感と違います。
NASAは、この爆発で1,600人を超える負傷者が出て、その大半は割れたガラスによるものだったと記載しています。
被害の広がりは200平方マイル(518平方キロメートル)(出典: NASA Science『Meteors and Meteorites: Facts』)。
518平方キロメートルは、東京23区の面積に近い広さです。別の記事でも同じ説明がされています(出典: NASA『Five Years after the Chelyabinsk Meteor: NASA Leads Efforts in Planetary Defense』)。
上空での爆発で衝撃波が発生し、それが窓ガラスを割る。そして、窓のそばにいた人が破片で負傷する。落ちてきた岩が人に当たったわけではありません。
この構図には、実用的な意味もあります。
光と衝撃波では、伝わる速さがまったく違います。
光は事実上すぐ届きますが、衝撃波は音と同じように空気を伝わるため、高度数十キロメートルの爆発では地表に達するまでに時間がかかります。
音速の目安を秒速300〜340メートルとして概算すると、その差はおおよそ1〜2分(音速は空気の温度によって変わり、上空ほど遅くなるため幅を持たせています)。
言い換えると、空が強く光った直後には、衝撃波がまだ届いていない時間帯があるということ。
その数十秒のあいだに窓へ近づけば、割れるガラスのいちばん近くに立つことになります。
明るい閃光を見たら、窓から離れる。覚えておく価値のある一手です。
414グラムの石でも、屋根は破られる
日本の記録に残る範囲では死傷者は確認できませんが、建物を突き破った例はあります。
国立科学博物館は、広島隕石について、ビルの屋根や外壁部分を突き破って建物内に落下したものだと記録しています(出典: 国立科学博物館『広島隕石』)。
同館の『日本の隕石リスト』では、広島県広島市安佐南区、2003年2月1日から3日の間、種類H5、総重量0.414キログラム、個数1。習志野隕石と同じH5タイプです。
414グラム。ペットボトル1本より軽い石でも、屋根を貫くだけの速度は残っていたわけです。
習志野隕石でも、船橋市のアパートで屋根瓦が割れているのが見つかり、瓦の破片と一緒に隕石片が回収されました。
大きなものでは、1992年12月10日に島根県松江市美保関町の民家に落下した美保関隕石があります。
『日本の隕石リスト』には、落下場所が島根県松江市、落下年月日が1992年12月10日、種類L6、総重量6.385キログラム、個数1として記載されています(出典: 国立科学博物館『日本の隕石リスト』)。
L6も球粒隕石(コンドライト)の一種ですが、H5とは化学的グループが異なります。大きさは25.2×14.1×10.6センチメートル(出典: 島根半島・宍道湖中海(国引き)ジオパーク推進協議会『美保関隕石』)。
日本の被害は建物の損傷にとどまっていますが、「軽微だから安心」と考えるのは正確ではありません。
数百グラムの石が屋根を貫通する程度のエネルギーは持っている、というのが残された記録の中身です。
プラネタリーディフェンス(隕石からの地球防衛)はここまで進んでいる
地球に近づく小惑星を見つけ、その軌道を追い、必要なら進路を変えて衝突を避ける。
この一連の取り組みをプラネタリーディフェンス(隕石からの地球防衛)と呼びます。
骨組みは「見つける」と「そらす」の2段構えです。ESAも、まず継続的に空を観測して天体の現在と将来の位置を知ることが先で、そのうえで危険な小惑星を地球からそらす方法を開発する、という順序で説明しています(出典: ESA『Asteroids and Planetary Defence』)。
ここからは、実際に落下前に見つかった例、それを支える常時監視、そして軌道を変えた実験の順に見ていきます。



ぼくが飛び立った頃は、こんな話は夢物語だったんだ。人間の目と手が、ずいぶん遠くまで届くようになったよ。
落下前に見つかった小惑星は、まだ8個
ESAは2024年1月の記事で、地球の大気に突入する前に検出された小惑星はこれまで8個だけだと記載しています。
最初の発見は2008年で、うち4個は直近2年間の検出です。
この8個目が2024 BX1でした。
2024年1月20日、天文学者クリスティアーン・シャールネツキ氏が、地球への衝突コースにある小惑星を検出します。その数時間後、ベルリンの西50キロメートルの地点で大気に突入しました。大きさはおよそ1メートル。発見は現地時間22時48分、突入は01時32分で、およそ3時間前の検出でした(出典: ESA『Asteroid 2024 BX1 spotted three hours before impact』)。
NASAのJPLも同じ事例を報告しています。Scoutという衝突ハザード評価システムが、突入の95分前に、どこにいつ落ちるかを予告していました(出典: NASA/JPL『NASA System Predicts Impact of a Very Small Asteroid Over Germany』)。
その前の7個目が2023 CX1。直径約1メートルの小惑星が2023年2月13日02時59分(UTC)頃にフランス北西部の上空で大気に突入し、発見は突入の約7時間前でした(出典: NASA CNEOS『CNEOS Predicts Another Small Asteroid Impact, This One over Northwestern France』)。
8個という数字は2024年1月時点のものです。検出の機会は年々増えているため、今はもっと多い可能性があります。
世界中の望遠鏡が小惑星を常時監視している
ESAは、太陽系に知られている小惑星が120万個以上あり、そのうち36,000個超が地球近傍天体(NEO)で、約1,700個がESAのリスクリストに載っていると記載しています。
2024年11月時点の数字です(出典: ESA『Asteroids and Planetary Defence』)。
観測の実データも公開されています。NASAのJPLは、1994年から2013年までの20年間に、小さな小惑星の突入によって火球(ボライド)が556回発生したと報告しています。
対象は約1メートルから20メートル近くまでの天体で、このサイズのほとんどは大気圏で分解し、通常は無害だと説明されています。この20年間で最大だったのが、チェリャビンスクの事例でした(出典: NASA/JPL『New Map Shows Frequency of Small Asteroid Impacts, Provides Clues on Larger Asteroid Population』)。
20年で556件は、平均すると年に約28件。2週間に1回程度の頻度で、どこかの空で火球が起きている計算です。
そのほとんどが知られずに過ぎていくのは、海の上や無人地帯で起きているからにほかなりません。
DARTは、人類が初めて天体の動きを変えた
見つけた後どうするのか。その答えを、人類はすでに一度だけ、実際に試しています。
2022年のDART(Double Asteroid Redirection Test)です。
NASAはこの結果を、人類が意図的に天体の運動を変えた初めての出来事であり、小惑星の軌道をそらす技術を実物大で実証した最初の例だと発表しました(出典: NASA『NASA Confirms DART Mission Impact Changed Asteroid’s Motion in Space』)。
何を、何にぶつけたのかを先に見ておきます。
標的は、小惑星ディディモス(直径約780メートル)を回る衛星ディモルフォスでした。直径は約160メートルです。
対するDARTは箱形の探査機で、質量は約570キログラム。衝突時の速度は時速約2万2,530キロメートル、秒速に直すと約6.3キロメートルでした(出典: NASA『NASA’s DART Mission Hits Asteroid in First-Ever Planetary Defense Test』)。
厳密には異なりますが、40階建てのビルほどの大きさがある岩に、1トンに満たない箱形の機械をひとつぶつけて、その動きをずらしたことになります。
衝突前、ディモルフォスがディディモスを1周する時間は11時間55分でした。
2022年9月26日の意図的な衝突の後、地上の望遠鏡による観測が続けられます。
結果は、探査機の衝突によってディモルフォスの公転周期が32分短くなり、11時間55分から11時間23分になったというものでした。この測定には、およそプラスマイナス2分の不確かさがあります。


注目したいのは、成功の基準です。NASAは事前に、73秒以上の周期変化を最低限の成功ラインと定めていました。実際の結果は、この基準を25倍以上、上回っています(出典: NASA『NASA Confirms DART Mission Impact Changed Asteroid’s Motion in Space』)。
32分という数字を、小さいと感じるかもしれません。
ただ、プラネタリーディフェンスで効いてくるのは、天体をどれだけ遠くへ押しやれたかではなく、その天体が地球の通り道と交わる場所に到着する時刻を、どれだけずらせたかです。
地球は太陽のまわりを秒速29.29〜30.29キロメートルで公転していて(出典: NASA『Basics of Space Flight』)、赤道での直径は約1万2,756キロメートルです(出典: NASA Science『Facts About Earth』)。
この2つを割ると、地球が自分の直径ぶんだけ位置を変えるのに、7分ほどしかかからない計算になります。


つまり、衝突コースに乗った天体でも、到着の時刻を数分ずらせれば、その交差点に地球はもういません。
分単位という変化量は、プラネタリーディフェンスでは十分になり得る大きさです。
もちろん、これを万能の対策と考えるのは早すぎます。
DARTが動かせたのは、小さな天体の公転周期を分単位で変える範囲までです。地球へ向かう天体の進路を実際にずらすには、衝突のはるか前に発見して、長い時間をかけて軌道のずれを積み上げる必要があります。
落下の数時間前に見つかる現在の検出状況と、この技術が要求する準備期間の間には、まだ大きな隔たりがあります。
衝突が残した跡を間近で確かめる番も、すでに動いています。ESAの探査機ヘラが2026年11月にディディモスへ到着し、DARTの衝突のあとに何が起きたのかを調べる予定です(出典: ESA『ESA’s Hera targets early arrival at Didymos asteroids』)。
それでも、この実験が変えたことははっきりしています。
これまで人類にできたのは、危険な小惑星を見つけて、いつどこに来るのかを計算することだけでした。
DARTは、小惑星の軌道を変えて衝突を避けられることを、人類が初めて実測で示した1回です。
プラネタリーディフェンスは、見つける技術とそらす技術の両輪で進んでいます。見つける側は年々早く正確になり、そらす側は2022年に実証の段階へ入りました。
小惑星の衝突を、避けられる可能性のある災害として語れるようになったのは、この数年のことです。
よくある質問
まとめ:毎日の現象と、稀な災害は地続きだった
毎日降りつづける塵から、数百万年に1回の衝突まで。
ニュースになる火球も、博物館に並ぶ石も、災害として語られる衝突も、大きさで段が分かれた同じひとつの現象です。
分かっていること
- 隕石のもとになる物質は毎日降っていて、NASA Science の値で1日あたり約48.5トン(44,000キログラム)
- 頻度はサイズで桁ごと変わる。年に1回ほど自動車サイズが火球になり、2,000年に1回ほど競技場サイズが地域に被害を出し、数百万年に1回ほど文明規模の衝突が起きる
- 日本の記録は、国立科学博物館のリストで2023年3月23日現在54個。最古は861年の直方隕石、直近の実例は2020年の習志野隕石
- 被害の主役は石の直撃ではなく上空の爆発と衝撃波。チェリャビンスクの負傷者1,600人超の大半は割れた窓ガラスによるもの
- プラネタリーディフェンスは「見つける」と「そらす」の2段構え。落下前の検出は2024年1月時点で8個で、DARTはディモルフォスの公転周期を32分短縮した
数字を読むときの注意
- サイズごとの落下頻度は「およそ何年に1回」という平均の目安であって、決まった周期で繰り返すわけではない
- 1日に地球へ降る量は、何をどこまで数えるかによって約48.5トンから100トン超まで幅がある
- 隕石の数え方は資料と時点で変わる。日本国内で何個目にあたるかも、参照する一覧によって異なる
- 閃光から衝撃波が届くまでの時間は、爆発の高度と気温で変わる。音速は上空ほど遅くなるため、一律の秒数には決まらない
次に夜空を横切る強い光を見たとき、それがどの階段の段にいるのか。
その見当がつくようになれば、この記事の役目は果たせています。
出典
- NASA Science『Meteors and Meteorites: Facts』
- NASA『Asteroid Fast Facts』
- NASA/JPL『New Map Shows Frequency of Small Asteroid Impacts, Provides Clues on Larger Asteroid Population』
- NASA CNEOS『Additional Details on the Large Fireball Event over Russia on Feb. 15, 2013』
- NASA『Five Years after the Chelyabinsk Meteor: NASA Leads Efforts in Planetary Defense』
- NASA『NASA Confirms DART Mission Impact Changed Asteroid’s Motion in Space』
- NASA/JPL『NASA System Predicts Impact of a Very Small Asteroid Over Germany』
- NASA CNEOS『CNEOS Predicts Another Small Asteroid Impact, This One over Northwestern France』
- ESA『Asteroids and Planetary Defence』
- ESA『Asteroid 2024 BX1 spotted three hours before impact』
- 国立天文台『私が見たものは流れ星だったのでしょうか?』
- 国立科学博物館『日本の隕石リスト』
- 国立科学博物館『広島隕石』
- 国立科学博物館『宇宙の質問箱 小惑星・彗星・流星・隕石編』
- 国立極地研究所『「習志野隕石」が国際隕石学会に登録されました』
- 国立極地研究所『南極隕石ラボラトリーで普通コンドライトの新たな分類決定手法を開発』
- 国立極地研究所 ウェブマガジン『極』「普通コンドライト(H3)|Yamato-82038」
- 国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー『隕石とは』
- 国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー『南極隕石について』
- 国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー『ラボラトリーについて』
- 島根半島・宍道湖中海(国引き)ジオパーク推進協議会『美保関隕石』
- NASA『NASA’s DART Mission Hits Asteroid in First-Ever Planetary Defense Test』
- ESA『ESA’s Hera targets early arrival at Didymos asteroids』
- NASA『Basics of Space Flight』
- NASA Science『Facts About Earth』