NASAは2026年9月17日、ガンマ線を観測する小型衛星「StarBurst(スターバースト)」を宇宙へ運ぶ打ち上げサービスの提供先として、SpaceXを選んだと発表しました。
打ち上げは2028年以降、フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地第40発射施設から、ファルコン9ロケットの相乗りミッション「Bandwagon」で行われます。
StarBurstは、中性子星どうしが合体する瞬間に放たれるガンマ線の短い閃光をとらえることを目指す衛星です。
3行で分かるポイント
- NASAは、小型のガンマ線観測衛星StarBurstの打ち上げをSpaceXに任せることを決め、ファルコン9の相乗り便で2028年以降に打ち上げます。
- 契約は、ある程度の失敗リスクを許容する小型ミッション向けに、NASAが管理の手間を減らして安く買う打ち上げ調達の枠組みを使っています。
- StarBurstは重力波の観測と組み合わせて、中性子星の合体を年10件まで観測することを目標にしています。
まず押さえたい背景
StarBurstは、NASAの「Astrophysics Pioneers(アストロフィジクス・パイオニアーズ)」計画で選ばれたミッションのひとつです。
2020年に始まったこの計画は、経費の上限を2,000万ドルに抑え、小型衛星・大気球に載せる観測装置・国際宇宙ステーションに取り付ける小さな装置といった、小さなハードウェアで天文学の成果を狙います(出典:NASA「Astrophysics Pioneers」)。
ミッションを主導するのは、アラバマ州ハンツビルにあるNASAマーシャル宇宙飛行センターで、研究代表者はDaniel Kocevski氏です。
米海軍研究所、アラバマ大学ハンツビル校、大学宇宙研究協会、UTIAS Space Flight Laboratory が参加しています。
このうち衛星本体の設計・組み立て・試験を担当するSFL(Space Flight Laboratory)は、カナダのトロントに拠点を置く衛星メーカーです。
25年以上にわたり、低コストで顧客ごとに設計した衛星の製造から打ち上げ手配・運用までを手がけてきました。
StarBurstには1辺1mの標準機体「DAUNTLESS」を使い、衛星の質量は300kgです(出典:SFL「StarBurst Gamma-Ray Astrophysics Satellite Mission」)。
衛星は2025年3月4日にマーシャル宇宙飛行センターへ運び込まれ、打ち上げの振動と宇宙の温度環境を地上で再現する試験を受けています。
ねらいは、継続時間の短いガンマ線バーストです。
ガンマ線バーストは、宇宙のどこかで突然ガンマ線(光の仲間で、エネルギーがきわめて高い電磁波)が強く輝く現象で、そのうち短いものは中性子星(重い星が一生の最後に押しつぶされてできる、非常に密度の高い天体)どうしの合体を示す電磁波のサインだとNASAは説明しています。
2017年8月17日には、重力波(激しく運動する天体が生む時空のゆがみが、波として伝わる現象)と電磁波の両方で中性子星の合体が初めて同時にとらえられました。
このように複数の種類の信号を組み合わせて同じ現象を調べる手法は、マルチメッセンジャー天文学と呼ばれます。
何が発表されたか
今回の発注は、NASAのVADR(Venture-Class Acquisition of Dedicated and Rideshare)という打ち上げ調達契約のもとで出された、固定価格のタスクオーダーです。
VADRは、注文できる期間と上限額だけをあらかじめ決めておき、実際の打ち上げは必要になったつど個別に発注する形の契約で、注文期間は10年、すべての契約を合わせた最大総額は10億ドルです(出典:NASA「NASA Awards Launch Services for StarBurst Gamma-Ray Detector」)。
SpaceXが引き受けるのは、この枠組みの中の1件です。
打ち上げは2028年以降、ケープカナベラル宇宙軍基地の第40発射施設から、ファルコン9ロケットのBandwagonミッションで行われます。
Bandwagonは、複数の衛星が1機のロケットに相乗りして打ち上げ費用を分け合う便です。
VADR契約の管理は、フロリダ州のケネディ宇宙センターにあるNASAの打ち上げサービス計画室が担当します。
観測装置には、タリウムを加えたヨウ化セシウムのシンチレーション検出器が12個並びます。
シンチレーターは、ガンマ線が当たると弱い光を出す結晶で、その光を半導体の受光素子で拾うことでガンマ線の到来を記録します。
扱えるエネルギーは30〜1,000keV(キロ電子ボルト)で、地球に遮られていない範囲の空をすべて同時に見張ります。
ガンマ線を受け止める有効面積は、フェルミ・ガンマ線バースト・モニター(GBM)の5倍を超えます。
検出器ごとに届く信号の強さが違うことを利用して、ガンマ線がどの方向から来たかを絞り込みます(出典:NASA「About StarBurst」)。
宇宙業界にとっての意味
VADRは、科学・技術のミッションが宇宙へ行きやすくなるように、打ち上げ費用を下げることをねらった契約です。
対象はキューブサットからクラスDまでの、リスクを比較的許容できるペイロードで、NASA側の監督を減らし、打ち上げの進め方を事業者の裁量に委ねる分だけ安く買えるようにしています(出典:NASA「VADR」)。
この枠組みには複数の打ち上げ事業者が選ばれており、SpaceXもそのひとつです。
経費の上限が2,000万ドルに抑えられたPioneers計画のミッションにとって、ロケットを1機まるごと借りる方式は現実的な選択肢になりにくく、相乗り便の存在が打ち上げ手段を左右します。
今回の発注は、小型の科学衛星が商業の相乗り便に乗って軌道へ届けられるという調達の形が、引き続き使われていることを示しています。
衛星側もカナダの民間メーカーが製造を担っており、NASAが主導する天文ミッションでも、機体と打ち上げの両方を民間の既製の仕組みに乗せる形が取られています。
今後の注目点
StarBurstは、低軌道に相乗りで投入されたあと、1年間の運用が予定されています(延長の可能性もあります)。
観測の価値は、重力波観測の側の進み具合と関係します。
NASAは、2027年にはLIGOの感度向上によって中性子星の合体が週1件を超える頻度で検出されると見込んでおり、StarBurst側は年に最大10件の合体の観測を目標に掲げています。
確認したい点は、打ち上げ時期がどのBandwagon便に固まるか、そして地上での試験を終えた衛星が打ち上げまでどのような状態で保管・調整されるかです。
ほしまるぼくの背中のパネルも、面の広さで拾える光の量が変わったんだ。ガンマ線を受け止める面積が広いほど、遠くのかすかな閃光まで届くんだよ。
出典
- NASA「NASA Awards Launch Services for StarBurst Gamma-Ray Detector」
- NASA Science「About StarBurst」
- NASA Science「StarBurst」
- NASA Science「Astrophysics Pioneers」
- NASA「Understanding Cosmic Explosions: StarBurst Arrives at NASA for Testing」
- SFL「StarBurst Gamma-Ray Astrophysics Satellite Mission」
- SFL「About」
- NASA「VADR (Venture-Class Acquisition of Dedicated and Rideshare) Launch Services」