北海道大樹町と米バージニア州の宇宙港が教育とまちづくりで基本合意

北海道大樹町と、同町の商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」を運営するSPACE COTAN株式会社は2026年10月21日、アメリカ・バージニア州の宇宙港を運営するVirginia Spaceport Authority(VSA)と基本合意書を結んだと発表しました。
対象はロケットの打ち上げではなく、学生や教員の交流などの教育と、宇宙港を中心にしたまちづくりです。
締結日は10月15日です(出典:sorae「北海道大樹町と米バージニア州の宇宙港が教育・まちづくりで連携へ 基本合意書を締結」)。

3行で分かるポイント

  • 北海道大樹町とSPACE COTANが、アメリカ・バージニア州で宇宙港を運営する公的機関と協力の取り決めを結んだ
  • 内容は学生や教員の行き来、講座の共同開催、宇宙港を中心にした地域づくりや観光振興
  • 打ち上げの契約ではなく、具体的な取り組みは三者でこれから検討する段階
目次

まず押さえたい背景

宇宙港(スペースポート)は、ロケットの射場や滑走路、組み立て施設などを備え、宇宙へ向かう機体を送り出す拠点です。
HOSPOは北海道広尾郡大樹町にある商業宇宙港です。
民間に開かれた宇宙港として、2021年4月に本格稼働しました(出典:北海道スペースポート ニュースリリース(2026年10月21日))。
射場、滑走路、交流施設「大樹町宇宙交流センターSORA」を持ちます。
南東に開けた打ち上げ方向と、「十勝晴れ」と呼ばれる晴天率の高さが特徴です(出典:北海道スペースポート「HOSPOについて」)。

大樹町は人口5,100人で、一次産業が中心の町です。
1984年の「北海道航空宇宙産業基地構想」で航空宇宙基地の適地とされ、それから約40年にわたり宇宙のまちづくりを進めてきました。
SPACE COTANは2021年4月に設立され、大樹町に本社を置く会社です。
宇宙港の設計・建設・管理運営と、ロケット打ち上げの支援などを事業としています。

VSAはバージニア州の公的機関です。
1995年に州議会が「Virginia Commercial Space Flight Authority」として設けました。
VSAは、バージニア州東海岸のワロップス島にあるNASAのワロップス飛行施設の敷地内で、商業宇宙港「Mid-Atlantic Regional Spaceport(MARS)」を所有・運営しています(出典:Virginia Spaceport Authority「About Us」)。
MARSは、地球を回る軌道に向けてロケットを垂直に打ち上げるための、アメリカ連邦航空局(FAA)の許可を持っています。
この許可を持つ宇宙港は、アメリカに4か所しかありません。
2023年3月には、MARSから小型ロケット「Electron」が打ち上げられました。
このロケットが運んだのは、電波を地表に当てて反射を受け取り、画像を作るSAR衛星です。
SAR衛星は雲の下や夜間でも地表を撮影できます。

何が発表されたか

基本合意書(MOU)は、正式な契約の前に、協力の方向性を確かめ合うための取り決めです。
署名したのは、大樹町の黒川豊町長、SPACE COTANの小田切義憲代表取締役社長兼CEO、VSAのRoosevelt Mercer, Jr. CEO兼事務局長です。

合意の柱は「教育」と「まちづくり」の2つです。
教育では、次のことを検討します。

  • 両地域の学生や教員を対象にした教育プログラムの企画・実施
  • ワークショップ、研修、講座の共同開催
  • 学生や教員の相互訪問・派遣と交流

まちづくりでは、次のことを検討します。

  • 宇宙港を中心にした地域発展の全体構想(グランドデザイン)づくり。基盤整備や人材育成を含みます
  • 文化・芸術・スポーツ・産業といった地域の資源を生かした観光振興

どちらの柱にも、情報や知見、成果の共有が含まれています。
三者は今後、これらの連携のあり方を検討します。

発表には三者のコメントが添えられています。
黒川町長は、同じように宇宙港とともに歩んできた地域と直接つながれることを、町にとって大きな財産だと述べています。
小田切CEOは、宇宙港の価値はロケットの打ち上げだけではなく、地域の人材育成や地域活性化を進める力にもあると述べています。
Mercer氏は、若い世代の科学・技術・工学・数学(STEM)への関心を高めることが、VSAの重要な使命のひとつだと述べています。

宇宙業界にとっての意味

今回の合意は、打ち上げの受注や技術協力ではありません。
宇宙港を持つ地域どうしが、人材育成と地域づくりで協力する取り決めです。
VSAは自らの使命に、宇宙へ行く手段の提供と並べて、航空宇宙の教育と地域経済の発展を掲げています。
HOSPO側も、小田切CEOのコメントのとおり、打ち上げ以外の役割を宇宙港の価値に挙げています。
今回の合意は、両者が掲げるこうした役割が重なる部分を対象にしたものです。

HOSPOを代表するSPACE COTANとVSAは、2024年10月13日にイタリア・ミラノで、日本・アメリカ・オーストラリア・イギリス・スウェーデン・ペルーの宇宙港関係者と覚書に署名しています。
署名者は全部で8者です。
この覚書は、宇宙港の国際的な基準づくりや情報共有を目的としています(出典:Virginia Spaceport Authority「Commercial Spaceports Sign Memorandum of Understanding to Commit to Expand International Collaboration」)。
今回は大樹町も加わった三者の合意で、教育とまちづくりに分野を絞っています。

今後の注目点

具体的なプログラムの中身、時期、費用の分担などは、三者がこれから検討する段階です。
まず注目したいのは、最初の学生・教員の相互訪問や共同講座がいつ、どのような形で実施されるかです。

HOSPOの施設整備も並行して進んでいます。
大樹町は射場「Launch Complex 1(LC1)」を整備中です。
その後は、打ち上げを高い頻度で行える射場「LC2」の整備を検討する予定です。
将来は大型ロケットや有人ロケットに対応する射場「LCX」も視野に入れています。
さらに、地球上の2地点をロケットなどで高速に結ぶ輸送(P2P)の受け入れに向けて、3,000mの滑走路を新しく造ることも見据えています。
合意で検討する全体構想(グランドデザイン)づくりや人材育成が、こうした施設の整備計画とどう結びつくかも、今後の注目点です。

出典

ほしまる
記事について、お気づきの点はありますか? 内容の誤りのご指摘、取材・掲載のご依頼をお待ちしています。
お問い合わせフォームへ →
SISTER SITE — ASTRONOTE 働く前に、恋をしよう。宇宙に。 ブラックホール、流れ星、フェルミのパラドックス。宇宙を好きになる読みものは、姉妹サイト ASTRONOTE に。
ASTRONOTE へ →